十二話
今日も中々起きないアキを見ながらそんなに安全地帯というかベッドで寝るのが寝心地が良いのかしばらく眺めていると瞼を開けてこちらを見て少し頬を赤くしながら「おはよう」と声をかけられる。
「おはようアキ」
抱きしめられていた体を解しながら窓を開けて街路の様子を見れば裏路地に魔眼で見える魔力の痕跡が見える。文字のようにも見えるそれは恐らく僕に対しての合図のようなものだろう。
「フィンはさ――」
「アキ、僕は催してきたのでちょっと行ってきます」
「え?うん、でも部屋に…えと行ってらっしゃい?」
まぁトイレは部屋にあるのは重々承知なのだけどこれは不自然であろうと早めに連絡をとらないといけないことだ。
そのまま裏路地に向かえば奥の方で霧が集まるようにして姿を見せるのはフィブラの姿。
「フィン様よく生きてましたね」
「僕もそう思うよ。勇者を過信しすぎていたこともそうだけどテトがあれほど強いなんて思わなかった…それに…」
「安心してください。勇者が死んだとしてもフィン様が死ぬ可能性はなかったでしょうから」
「そうかな…?」
初手の一撃は確実に僕の息の根を止めるほどの攻撃だった。あれを見た後ではとてもではないが信じられない。
「魔王軍四天王、古木の竜までいたけど?」
皇竜テトが居座っていた竜は間違いなく四天王の一角古木の竜だった。
「実力で言えばフィン様の方が上ですよ?」
「それでも古木の竜は普通の息吹じゃない、呪いの息吹を吐く古竜だよ?下手したら全滅だったよ」
「…そうですか…。フィン様が万魔の力を使えばその呪いは打ち消すことができるので安心していいですよ。それがたとえ人間が呪詛にまみれたとしても」
「そうなの?」
なぜか僕の能力を知ってるフィブラは平然とした顔で告げる。リビリアから聞いたのか。はたまた万魔全員周知の事実だったりするのだろうか。
むしろ知られている可能性の方が高いかもしれない。テトが物理的に殺しに来ていたのを見るに呪いでは殺しきれないと知っていてというなら納得はできる。
「まぁ、そのことは済んだことだし仕方ない。この都にいる万魔についてなんだけど広場に強力な魔力を感じたんだけれど」
「万魔については安心してください…とはいえ今のままでは危険ですが。前線都市アデルバにいる万魔はギュスターヴです。皇竜テトと知識レアラは現在リビリア様と交戦中ですので」
「それは…大丈夫なの?」
話の最中に以前もらったペンダントを僕にフィブラは手渡してくる。防護のペンダントだ。
「ギュスターヴ相手なら恐らく必須でしょうこれは。致命の一撃は避けることは叶わないでしょうしフィン様のお連れの方ももしかしたら1人亡くなられるかもしれませんね」
そういわれると僕以外が持っていた方がいいんじゃないのかと不安になるが。ギュスターヴ相手に1人の死で済むのならむしろ安いほうなのかもしれない。
「リビリアの方は大丈夫なの?」
「万魔二人が攻めたところでリビリア様が負けるはずはありません…が。時間の問題ともいえます。テトの援軍が増えれば増えるほど不利にはなるでしょうね」
竜の大群が攻めればさすがのリビリアもきついということだろう。
「それじゃあギュスターヴを早めになんとかしないといけないね…でもテトにすら軽くあしらわれた勇者がギュスターヴに勝てるかな?」
「無理でしょうね。ゴドーならともかくギュスターヴ相手は実力不足…いえ…覚悟不足といったところでしょうか」
「覚悟?」
「これは独り言なのですが…」
わざわざ独り言を急に言い始めるあたり本来教えるべきではない話ということだろうか。
「フィン様が勇者とデートをすればギュスターヴを倒す力を得るでしょうね」
「でえと?」
「それもフィン様が可愛い服を着れば…露出も多くすれば尚効力は更に増すでしょう」
い、いったいそれとなんの関係があるんだろうか?というかでえとってなんだ?
僕が反応に困ってるのを少し楽しむかのように流暢に話して、でえとのための服の店などを説明しはじめて僕にお金を手渡してきた。
「私の話を信じるかはフィン様に任せます。ただフィン様一人でギュスターヴを倒してもいいですからね」
そんなことできるわけないだろうと思いつつ。昨日の遠目から見たギュスターヴの魔力量を考えると僕の万魔が通じることは薄いと考えるべきだ。それならでえとをしてアキに本気を出してもらうしかない。
とりあえずフィブラの言っていた服屋を目指して店員の話を聞きながら露出やら服の効果などを確認して買い物を済ましていく。
実際にでえとというものがどんなものか悩ましいところではあるが。フィブラの口ぶりからアキは知っていて当然のような言い方も感じれたし、素直に服屋で買った服を着こんで宿に戻り部屋に入るとアキとダルガンが談笑していた。
ナナシだったら警戒していたがダルガンなら僕をそんなに怪しむ素振りは見せてなかったから安心したけど、今後は部屋の外でなんの会話をしているか確認くらいはした方が良いかもしれない。
僕の情報をどこかから漏洩してそれをみんなに共有されれば討伐対象が僕になってもおかしくないのだからもう少し緊張感をもっていこう。
「フィンおかえ…り?」
「フィンさん今日はなんというかかわいらしいですな!」
「ただいま。二人はそのまま話してて大丈夫だよ?」
「いえいえ、これからどうするか話し合っていたくらいなのでフィンさんが話したいことがあればそれを先にしていただいた方がよかろうと思いますぞ」
「そう、ですか?それならアキ。でえとをしよう」
「え?」
僕がそういうとダルガンは「後はごゆっくり~」と小さく言いながら部屋を出ていった。
何か変なことを言ってしまったのだろうか?人前ではあまり言わない方がいい言葉だったとか?
「えと、まってくれフィン。デートってどうしてまた?今この都市には危険な奴がいるんだろう?」
「それに関しては情報を少し仕入れてきたので大丈夫だと思う」
万魔の壁と万魔の矛は対を為すような存在でありながら、お互いにプライドがあり一度そこを守ると決めたときゴドーは一歩たりとも通すことはなく。ギュスターヴは一歩通ればその時には屍として通ることとなる。
仲は良いとは聞いたことはないが、それでもギュスターヴがわざわざ前線都市アデルバの中央広場に鎮座してるということはこの前線都市アデルバから出ることを良しとせず、まして出会えば致命の一撃を当てるという意志の元にいるはずだ。
そのことを上手くは話せないのがもどかしいけどそれとなく説明する。
「この都にいる万魔はギュスターヴ。魔王の子長男で恐らく都を離れるか、出会えば戦闘になる可能性が高いといった感じかな」
「それなら余計に危ないんじゃないのか?」
「ギュスターヴは中央広場から動かないと思うからそれ以外の場所でなら自由に動けるはずだよ」
「そ、そうか…」
まぁ僕自身確証はあるわけではないけど、資料にはそう書いてあったから鵜呑みにするならフィブラの発言も相まって大丈夫のはずだ。
「その、フィンはデートって俺と行きたいのか?ナナシさんとかダルガンさんじゃなくて」
「アキ以外と行く気はないけど?どうして?」
「そっかぁ…そうなのかぁ…」
なぜか顔を真っ赤にして下に俯いてしまっている。アキは不思議と顔をよく赤くするけど病気でもないし高温体質かなにかなのかだろうか。
「フィンが張り切ってくれるのはうれしいけど俺はそんなまともな服とか用意してないんだ」
「それならこのローブ着る?」
邪教印の黒ローブ。邪神を崇めるためのローブだが特に何の効果もなく安売りされていたので防寒対策のついでに買っておいたものだ。アキは寒がりらしいし。
「ありがとう…それならこれで行こうかな」
着替えるということもあってトイレに入って時間をつぶしてからアキのところに戻ると勇者というよりは暗殺者みたいな恰好になっている。
まぁ似合ってはいるし良いのではないだろうか。
「それでフィンはどこに行きたいんだ?」
「ん?でえとってどこかに行くの?」
「ん?デートを知らないで誘ったのか…?」
「えっと、都のお姉さんからでえとのことを教えてもらったからアキと行こうと思ったんだけど」
「そこで俺なのは嬉しいけど…そっか。まぁ買い物したり食事を一緒にしたり、あとはその手を繋いだりとかかな?」
それはほとんどやったことあるのでは?もうすでに僕たちはでえとを済ましていたということになる。
でもそれでフィブラがわざわざ言ってくるとも考えづらいし、普通の買い物とかではなくでえとと考えて行動することに意味がありそうだ。
「他には何かすることはないの?」
「それは…その…キスとか…?」
魔力供給か。ただ最近魔力操作を覚えたてのアキに魔力供給をしてどうにかなるものだろうか。
それとも僕が所持してる魔力を無駄にするより魔力をアキに渡して補給係としての役割を担うとかそういう意味が含まれているのだろうか。
ただ。大体はわかったので早速行動をしよう。
僕はアキの手を掴んで早速街路へ一緒に出る。
「アキ、あれを見て。人気の果実だよ」
「へー、美味しいの?」
「食べると下半身から石化して一週間は石化できるすごい代物なんだよ」
「毒じゃねえか!」
「魔族は人間より長生きだからね。冬眠できない代わりに石化して時間を過ごすこともあるんだよ」
「へ、へぇ…」
他になにかアキが興味ありそうなものはなんだろうか?あまり中央に寄れない分似たり寄ったりの品揃えが多いがその中でも珍しいものを探すとまた果実を見つけた。
「アキ果実があるよ」
「むしろ果実ばっかりだな」
「あの果実は食べると体内の瘴気を放出して周囲を汚染することができるんだよ」
「それは毒じゃないのか!?」
「むしろ薬かな?魔族はあれを食べて瘴気を人間に当てることで命と引き換えに共倒れするけど人間が食べるとむしろ瘴気を排出して健康になるんだよ」
「そう、なのか…それにしても果実ばかりで名前とかはないのか?」
「果実は果実だよ?トレント種の固有名詞がある意味名前なのかな?アリアドネとかは一つの実しか落とさないからアリアドネの果実とかは呼ばれたりするけどトレント種は種類が多いから」
そんな他愛のない話をしながらすっかり人間の感覚をわすれてしまっていた。人間は頻繁に食事をとらないといけないんだった。
「あ、アキはお腹すいてこない?大丈夫?」
「あぁ、まぁ空いてきたかな?とはいっても正体不明の果実を食べたいとは思わないが」
「大丈夫だよ!僕がいれば人間に無害な果実も分かるから」
「そっか。じゃあ安心だな!任せるよ!」
結局人間が食べれそうな食事といえば前回行った店くらいしか見当たらなかったが、趣向を変えてちょっと魔族が好みそうな店にあえてしてみた。
「この店はなんというか喫茶店?」
「そういえば人間国の喫茶店もこんな感じの雰囲気はあったね。でも休憩するようなところじゃなくてちゃんとした食事場だよ」
メニューを見ればアキには食べさせてはいけないものも中にはあるが。冷たく甘い飲み物があるので是非これをアキには飲んでみてもらいたい。
魔力を回復する効果もあるしとても健康的なのだ。なにより舌がしびれるような刺激も感じられてきっと新鮮さを感じてくれるだろう。
店員に飲み物と軽く食べれるパンと地獄シチューを頼んで飲み物が先に届いたのでアキが飲むのをじっと見ているといつものように顔を赤くして飲むと。固まったような顔になって涙を流していた。
「えっと…ごめん。不味かったかな?」
「いや、悪い…まさか炭酸飲料が飲めるなんて思ってなくて…それに冷たくて。美味しいよ」
「そう?それならいいんだけど」
珍しいものだから喜んでくれるかと思ったけど失敗だったかなと思っていたらアキが少しずつ話してくれた。
「故郷の味に似ててさ。ここで飲めるなんて思ってもなくて、フィンありがとう。すごく嬉しいよ」
「故郷の味…?そっか。喜んでくれたならよかった!」
故郷の味ってなんだろうか?異世界の味に近いとアキは嬉しいのか?それなら作り方をあとで店員になんとか聞いてみるのもいいかもしれない、そしたらでえとはもっと上手くいくだろう。
「アキ!ここの地獄シチューというのはね!実は魔族たちの中では大好評なんだよ、特にどの魔族も一度は食べたことがあるらしいんだけど僕も食べたことはないんだけどね。それでも食べなければ魔族ではないというくらいの人気なんだって!」
「あはは。俺たちは魔族じゃないからそんな勢いよく食べたがらなくてもいい気はするんだけどな」
僕としてはどんな味なのかぜひとも気になってはいた。肉も山羊を使っているらしいから人間が食べても問題はないはずだし年中開いているお店というのもあって素材に人間が忌避するものは含まれてないはずだ。
一口食べてみると辛くそれでいて濃厚な舌触りがあってパンをシチューに漬けて食べると尚食欲が増す。魔力回復促進効果があるというのも頷ける。魔眼を発動しようとしてなくても自然と魔眼で周囲を見渡せてしまう。
「辛い!けど美味いな!カレー食ってるみたいだ!」
「アキ!それも故郷の味というやつなのかな?美味しいんだね?」
「うん、美味いよ。本当…懐かしくなってくる味で…」
また泣き出しそうになってるアキを見て思わず頭を撫でて落ち着かせていた。
アキは不思議だ。頭を撫でると心地よさそうにする。むしろ頭なんて撫でられたら怒る魔族も中にはいるだろうに。人間とはそういう生き物なのだろうか?
食事も済み。買い物は上手くいかなかったが外を出歩くときは必ず手を繋いでいたしでえとは上出来だろう。あとは魔力供給だけどそれも問題はないだろう。
宿に戻ると僕は清浄の術式を発動して汚れを落とすとアキが不思議そうな目で見てくる。
「いつも綺麗になってるなと思ってたけど、フィンがしてくれていたのか?」
「そうだね。水場も無いところで住んでいたし、初歩的な魔術を極端に強めた結果綺麗にするくらいならできるようになったから」
アキが少し申し訳なさそうな顔をしているからそのままベッドに押し倒して優しく頭を撫でながらキスをした。




