狼とドライアード 7(ファングの話)
ファングの話:
ヒルダに言わせるとシルバーバックとオッドアイは割と気が合うらしい。あの二人は仲がいいんだよ、と言う。
俺はただ仲が悪いだけだと思うがな。今も目の前で喧嘩を始めた。暇なら見物するんだが、俺も一日山歩きで疲れていた。ディックにシルバーバックへの伝言を頼んで、隊舎に戻る事にする。
炊事担当が食事をあたため終わっていたので、他の兵と一緒に食事をしているとしばらくしてシルバーバックがやってきた。
「悪いな、ファング。軍関係の連絡はいつものだけだった。今日はイスタの町まで行って手紙や連絡をもらってきたから、急ぎでない限り軍の連絡はしばらく無いな」
俺は頷いた。
「スウィフトの隊からの連絡は無しか?」
「無しだ」
スウィフトの隊は少人数でエルンシア側の偵察に行っていた。今回はいつもより帰りが遅れている。
「哨戒で何か変わった事があったか、ファング?」
「特に何も無かったな。ただ猟師が山の奥で妙な歌声を聞いたと言っていた」
「それはもしかしてイオかもな」
「イオ?」
「さっきヒルダと一緒にいた娘だ。ドライアードだと言っていた」
ドライアード、山の奥深くに住む魔族。同じ魔族とはいえ交流はない。歌声で人を魅了するとかしないとか。
「何で一人でこんな所をうろついているんだろうな」
「さあ、明日になればヒルダに聞けばわかるだろう」
俺もシルバーバックに賛成だ。同じメンバーで退屈している所に珍客到来。時間のある女達はヒルダの部屋で夜遅くまで喋っているに違いない。
スウィフトの隊が遅れているのが気になる。明日の朝、自分でエルンシア側の偵察に行ってこよう。余計な心配だったという事なら、それに越した事はない。