狼とドライアード 5(イオの話)
イオの話:
私は、ある領主の館で育てられた。子供は私ひとりっきりで、淋しかった。家庭教師とか、世話係の人はそれなりによくしてくれた。でも音楽とか、歌とかは禁じられた。
私の血にはドライアードの血が混じっていて、歌声に魔力が籠もると思われていたから。
他の勉強は嫌いではなかったけれど、私がしたかったのは歌う事だけだったので、禁じられていて辛かった。
「いい子にして勉強していれば、そのうちいい事が起きるよ」
皆にはそう言われた。私は、いい子にしていればそのうち歌が好きなだけ歌えるのだろうと思っていた。
一通りの教育が終わると、私を育ててくれた人、そこの領主は、私に何かしたい事があるかどうか聞いた。私は正直に歌を歌いたいと答えた。領主は難しい顔をした。
「お前にドライアードの血が混ざっているのは知っているな」
私は頷いた。
「声には魔力が籠もる故にここで好きに歌わせる訳にはいかない。エルンシアに送り返す事を考えよう。むこうでなら、あるいは手だてがあるかもしれない」
エルンシアとの関係が急に悪化しなければ、そういう事になったと思う。あまり詳しい事は教えてれなかったが、私の母はエルンシアの山の中で暮らしていたドライアードで、父は向こうの貴族だったと聞いている。母はもう死んでしまったそうだけれども。
外聞をはばかる必要があった為、遠縁の親戚の所で私は育てられる事になった。以前はエルンシアとこの国は仲がよかったのだ。
私はエルンシアに行く日を待ちながら、こっそりと庭にあったトネリコの木を相手に小声で歌を歌っていた。
エルンシアに行った時の練習のために