狼とドライアード 2(オッドアイの話)
オッドアイの話:
「ファングの奴、面倒な事を押しつけやがって」
オッドアイは不機嫌にぶつぶつ言いながら、酒場に向かった。酒が切れてなければ後回しにする所だったが、無い酒は飲めない。生憎とこれは真実でね。
オッドアイは酒場に入ると、まっすぐにカウンターに向かった。
「おい、いつもの3本頼む」
「はいよ」
酒場の主人は面倒そうに応じた。
「代金はシルバーバックから取り立ててくれ」
「取り立ての代行はなしだ。自分でシルバーバックから取り立ててから払ってくれ」
俺はしょうがなく金を払った。シルバーバックには酒5本分で話をつけよう。
「ところで、あの余所者は誰が運んできた?」
酒場の主人は少し考えた。
「入って来たのは朝早くだったな。荷物と一緒に荷馬車で来たにしては早すぎる時間だ。ふむ、正直に言うとあんたがたの所の客かと思っていたんだが、違うのかね」
「多分な」
俺は隅にいる余所者の方に向かった。
「おい、そこのお前。ここには何の用で来た」
「エルンシアに用事があって・・・・・・」
ぼそぼそとそいつは答えた。答えになっていなかったが、俺は構わなかったし、詮索するつもりもなかった。事情によらず通すなって命令だったからな。
「ここの国境は封鎖中だ。完全封鎖って奴だ。何か事情があるっていうんなら、ミドルエアまで戻ってリンゼイから抜けてくれ。そっちなら一応事情を聞いてくれるっていう話だ。遠回りになるが、道は向こうの方が断然いいぜ」
俺は一応親切に説明した。そいつは困ったように俯いている。
「とりあえず、ここは駐屯地でね。余所者のいる場所じゃあないんだ。昼に荷馬車がイスタの町まで戻るから、それに乗って戻ってくれ」
返事なし。この分だと、荷馬車のところまで引っ張っていく事になるかと思ったが、昼近くになるとそいつは自主的に酒場から出ていった。俺は部屋に戻るのも面倒だったのでそのまま酒場で飲んでいたよ。
夕方になってシルバーバックが戻ってきた。と、いう事はヒルダも一緒という事だ。
シルバーバックは物好きにも昨日ファングと痴話喧嘩して駐屯地を出ていったヒルダを心配してイスタの町まで迎えに行っていたんだからな。
この三人は幼なじみで、ファングとシルバーバックは従兄弟同士だ。もっとも性格は全然似ていないがね。
「オッドアイ、何か変わったことがあったか」
「あるとも。お前さんは俺に貸しがあるぜ」
「珍しくもない」と、シルバーバックの奴はつまらなそうな顔で答えた。
俺も少し酒が回っていたらしい。言うことを間違えた。言い直しだ。
「お前さんは、俺に借りがあるぜ」
「馬鹿馬鹿しい」
シルバーバックは可愛げの欠片もなく鼻であしらった。
俺はシルバーバックの奴に説明してやった。
「朝、ファングがお前の部屋までお前を呼びに来た。俺がお前は町まで出かけていると答えたら、代わりに余所者を追い出せと言われた」
オッドアイは言葉を切って、酒を瓶からあおった。
「それで?」と、シルバーバック。
「それで?俺が余所者を追い出した。俺はお前に銀貨10枚貸しだ」
「高すぎる」と、シルバーバックはきっぱりと言った。
「それに余所者というのは、もしかしてあの人の事か?」
俺が戸口の方を見ると、朝見たのと同じ茶色のフードの奴がヒルダと一緒にちょうど入ってくる所だった。忌々しい。