狼とドライアード 21(シルバーバックの話)
シルバーバックの話:
スウィフトの隊は無事に戻ってきた。敵軍に山の上の方まで追い上げられてなかなか戻れなかったらしい。イザベラの事を聞いて肩を落としていた。
イオの事はディナン公に連絡した。しばらくして荷物と手紙が俺達の元に届いた。
「何が届いたんだい?」
ヒルダはイオの事を聞いてしばらく元気がなかったが、忙しさに紛れたらしい。そのうちいつもの調子に戻っていた。
「イオ、つまり、ミルドレッドの遺体はそちらで埋葬して欲しいと書いてある。それが埋葬料だそうだ」
俺は机の上の金貨の小さな袋を指さした。
「貴族のやり方だね」
ヒルダが軽蔑したように言った。俺も、できればイオの遺体はディナン公の方で引き取って欲しかった。イオが生まれたて育った所だしな。
「ディナン公の館では死人がでたらしい。引き取る訳にはいかないだろうぜ。いくらイオがそのつもりはなかったとしてもだ」
オッドアイは不機嫌に言った。オッドアイが不機嫌なのはイオの事を怒っているからではなく、戦闘中寝ていた奴らは働けとファングに言われて、当直やら、偵察やらの当番にずっとあたっているからだ。当然、酒も飲めない。
俺達の所では死人はでなかった。そこら辺は人間と人狼の頑丈さの違いだろうな。
「でも、誰かイオが親しかった人が来て、お別れを言うとかしてもいいじゃないか。私はそういう事を言っているんだよ」
ヒルダが抗議した。
「それで、その荷物は一体何だ?」
ファングが聞いて、俺達は箱を開けた。中には1本の枯れた若木が入っていた。
俺は手紙の続きを呼んだ。
「その若木は、イオが死んだ日に突然枯れたそうだ。イオがその木を気に入っていて、小声で歌いかけているのを館の者が見ている。イオの声の影響を受けているかもしれないから一緒に埋葬してくれ、との事だ」
「どういう事かさっぱりわからねえな」と、オッドアイ。
小さな木は根ごと掘り出されて、綺麗に洗ってあった。
「もしかしてこの木が十分に成長していれば、イオを宿す事ができたのかもしれないな」
俺が言うと、ヒルダもそうかもね、と頷いた。
そういう訳で、イオは、キサの村の墓地に他の死者と一緒に葬られた。勿論、その木と一緒に。本名は避けてくれと頼まれたので、墓碑には”イオ”と彫ってある。
春には真っ白な小さい花が咲く、落ち着いた静かな墓地だ。俺も眠れる場所を選べるならこういう場所で眠りたいものだ。