狼とドライアード 1(ファングの話)
ファングの話:
その冬、国境は完全封鎖されていた。そして、俺の人狼部隊はその封鎖を請け負っていた。
封鎖が始まりしばらくすると、警備の隙をついて国境を越えようとする奴も、賄賂で何とかしようとする奴もいなくなった。
国境が静かになるとこの仕事は退屈だ。そして退屈になってくるときまって喧嘩っ早くなる兵がいる。哨戒にでる前に俺は酒場に寄った。
酒場に寄ると非番の兵士が酒を飲んでいた。今の所喧嘩の始まる様子は無い。俺は酒場を見渡した。
フードを目深にかぶり、人目を避けるようにして座っている奴がいる。
「おい、そこのお前、こんな所で何をしている」
俺が声をかけるとそいつはフードを目深にかぶって下を向いたままくぐもった低い声で返事をした。
「その、エルンシアに用事があって・・・・・・」
「国境は封鎖されている。お偉いさん達がエルンシアと一戦交えるって話だ。誰も通れない」
そいつは黙って俯いた。
「国境が封鎖されているなんて知らなかった」
まだ知らない奴がいたとはね。そんな世間知らずにこんな所で愚図愚図されるとこちらが困る。
「誰も通れない」と、俺は繰り返した。
「余所者は歓迎されていない。わかったら帰ってくれ」
返事は帰ってこなかったが、俺は構わず席を立った。低くしているが、不自然に高い声。多分、女だ。女がらみの面倒事ははっきり言ってもう御免だ。後は非番の奴に押しつけよう。
哨戒に出る前に隊舎に寄ってシルバーバックを探した。
「おい、シルバーバッック!」
奴の部屋の前で怒鳴ると、シルバーバックの代わりに中からオッドアイが出てきた。
「気取り屋の副隊長なら、町まで出かけたぜ、隊長殿」
「お前はここで何をしている、オッドアイ」
「酒が切れたからちょっと借りようと思って探していたんだが、シルバーバックの奴、部屋に酒瓶の一つも隠していやがらねぇ」
オッドアイはぶつぶつと文句を言った。強面の古参の兵士で、右目が潰れている。
「留守なら仕方ない。オッドアイ、酒場に余所者がいる。早めに追い返せ」
「俺の仕事じゃねーな。無理を承知で頼むなら高くつくぜ」
「そういう話ならシルバーバックから取り立てろ」
オッドアイは不満そうに低く唸ったが、酒場の方に向かって行った。
俺はそのまま哨戒に出かけた。