狼とドライアード 18(ファングの話)
ファングの話:
駐屯地に戻る前に、レンシアが引き返してきた。
「隊長、駐屯地で騒ぎが」
「騒ぎ?」
「ベアードが、呼集をかけに酒場に行ったら、酒場で仲間同士が殺し合いをしていると」
「殺し合い?」
「止めに入るとこちらに本気で斬りかかってくるので止められない、どうすればいいか、との事です」
自分の目でみない事にはとても信じられない。
「ベアードに、酒場の様子は俺が見に行くから、動かせる兵だけでエルンシアの攻勢に備えろと、伝えてくれ」
駐屯地に戻ると、酒場に急いだ。一体何が起こっているんだ?
ベアードとレンシアは酒場の前で待っていた。
「ベアード、一体何の騒ぎなんだ?」
「それが、さっぱり」
ベアードは気分が悪そうだった。自分で入って様子を見よう。
「呼んだら来てくれ」
「隊長、気をつけて」
ベアードが落ち着かない様子で言った。
俺は酒場の中に入った。
ベアードの言う通り、中では仲間達が戦斧を抜いて斬りあっていた。信じられない。一体原因は何なのか。俺は酒場を見渡した。
一人、殺し合いに参加していない者がいる。イオだ。俺はそちらに近づいた。
イオの前ではシルバーバックとオッドアイが斬りあっていた。心配だが、止めるとこちらに斬りかかってくると聞いている。俺はなるべく目立たないように移動した。
「イオ」
呼びかけると、イオはビクッとした。
「事情を知っているか」
イオは躊躇った後、小さいがはっきりした声で答えた。
「私がやりました」
俺はすぐにはイオの答えを理解できなかった。
「もしかして、ドライアードの呪歌か?」
「そう、です。でも私は本当に知らなかった・・・」
「すぐに呪いを解け」
「解き方がわからないのです」
俺は唸った。では術者を殺すしかないだろう。俺が戦斧を抜くと、狼に変化したヒルダが俺に飛びかかってきた。