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小説家になろうラジオ大賞5

コスモス、ゆれる

作者: 尾手メシ

「コスモスってね、秋の桜って書くのよ」

 そう私に教えてくれたの母だった。小学校で出された、漢字の宿題をしていたときのことである。私の肩越しに覗き込んで、耳元でそっと囁いた母の声を、ふと思い出した。

 桜の木の下には屍体が埋まっている、とはよく聞く言い回しである。屍体から精気を吸い上げて、あの美しい花を咲かせるのだそうだ。日中の太陽の下で見る桜には、そんな怪しさは感じられないが、夜、月光の向こうにぼうっと浮かび上がる薄紅を目にすると、たんなる戯言と言い捨てられないものがある。

 桜の木の下に屍体が埋まっているのなら、秋の桜であるコスモスの下にも屍体が埋まっていてしかるべきではないのだろうか。

 地中の種が発芽する。天へ向かって芽が伸びて、地の底へ向かって根が伸びる。天へ伸びた芽は陽の光を燦々と浴び、地の底へ伸びた根は屍体へと喰らいつく。そうして天と地、生と死を一緒くたに結びつけて、あの薄紅色の美しい花を咲かせるのだ。

 そうだ、母の眠るその場所に、コスモスの種をまこう。我ながら、なんと素晴らしい思いつきだろうか。なにせ、母が教えてくれたのだ、コスモスは秋の桜なのだと。きっと母も喜ぶはずだ。

 次の秋には、庭にきれいなコスモスが揺れていることだろう。

 母が咲かせた薄紅色が、風にそよいでいることだろう。

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