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夢枕

作者: 石澤 季佳

  今、君はどうしてる?


   

眠っている? 笑ってる? 怒ってる?

私は・・・今、。


人は今おかれている状況や景色、目に見えているもの全てなんかを現実と錯覚するのかもしれない。


朝、6時決まって目を覚ます、カーテンから差し込む「朝日」は始まりの「あ」。

「いい気持ち」も「嫌な地持ち」も何もない始まりは「い」。

「浮かぶのは」今日もまた繰り返すという一人の「鬱」。

「選び直せるなら」私は。。。

   「え・・・?」

「お」


 「終わりなき育児」

私はどこにでもいる38歳、鳴海飛鳥。

名前のわりにはちっとも飛べないでいる。

普通に高校を出て就職して、遊んでお洒落して時々ハメを外したり、どこにでもいる女だった、27歳の時、知り合いの紹介で今の主人(鳴海和也)と出会った、よくある話でその後は子供を授かり結婚

ひと昔前はデキちゃった婚、今は授かり婚とかいうらしい、ものは言いようだ。実にくだらない、初めての子育てに〃あたふた〃しながら親のサポートもあり何とか育てている和也はマメで優しく家事や料理はしないものの掃除の仕方や料理の味に文句は一切言わないので良かった。ただ一つ不満は毎週飲みに行き、帰宅は早くても深夜2時、朝帰りもしばしばだった。家計は裕福でも苦しくもないが息子の孝太が3歳を機に将来子供の大学資金や家族旅行か何かの足しにと週に2回ほどコンビニエンスストアでアルバイトをしている、


「あなたの職業は?・・」


この項目は役所に提出する部類のものからくだらないアンケート、病院の来院時までこの質問がある。

専業主婦の項目はない。

専業主婦=「無職」なのである。飛鳥はこの時いつも自分が何もしていない社会から取り残されたような無力な気持ちになった、週に2回のアルバイトは兼業主婦と胸を張れて言えない

「私はこの世界や社会に必要とされているのだろうか・・・」

母親というカテゴリーはいつも暗黙のルールの塊だ。

髪はいつもおばさん縛り、薄化粧、スカートなんかいつから履いて無いだろう・・肩は痛いし毎日なんだか漠然と疲れていた。

朝起きてお弁当作りと朝食を作り、孝太は子供番組を見ながら5分事に

「お母さん見て?」 

「お母さんおしっこ」

「お母さんお腹すいた」

「お母さん早く一緒に遊ぼうよ」

「お母さんお水こぼしちゃった」

「お母さん、お母さん、お母さん・・・」  どんな些細な事でも私と共有したのだろう、その度に「待ってね、なぁに? すごいね、待ってね」

私はいつも何かに追われている

だからは心はいつも〝誰か助けて・・もう一人自分がいたらいいのに〟と毎日思っていた、バタバタしているうちに和也は仕事に間に合う時間ギリギリに起き、淡々と支度を済ませ玄関を出る。

「いってらっしゃい・・」

何だろうこの気持ちは。

孝太は窓のガラスに鼻をつけて朝ごはんのついた小さな手をいっぱいに振っている

「いってらっさーい」と大きな声で、孝太が眠るころ帰宅する夫、孝太にとってお父さんは朝見送る人である。

夫が休みの日は前日にお酒を呑んでいるので昼頃まで寝ている、沢山言いたい事もあるが険悪になるのも言い合いになるのも目に見えていたので話すのをやめた。

私はいつからかこう思うようになった


〝私にも稼ぎがあれば夜出かけたり、飲みに行ってもいいのかな・・少しでいいから自由になりたい、でも子供はどうすの?〟

ほら無理だと漠然と繰り返した。

和也は目を覚まし子煩悩ではあるので孝太が夜、眠りに着くまでたっぷりと相手をしてくれる、私はその間は育児疲れのせいかベッドで横になると1〜2時間眠りについてしまうのだ。「ごめんなさい」と涙が溢れた。

私は眠りにつくと夢を見た。

夢の中の私はまだ独身で仕事もバリバリこなして仕事終わりにはフィットネスクラブで汗を流して週末は友人と遊びに行くのを楽しみにしているようだ、鏡に映る自分の笑顔の向こうで誰かの声がし、ハッとし目が覚めた「夢か・・後少しだけ見ていたかったな」

「お母さん、おーきーて」孝太の顔を見て現実に帰ってきた。

「ごめん、ごめん、お母さん眠ってたね、寝かせてくれてありがとうね。」

孝太は満面の笑みで夫と公園で採った虫の話やヒーローごっこし悪をやっつけた!と

余程楽しかったのか話が止まらない、汚れた服は愛情という感情で満たされていた。

お風呂に入り、家族3人で夕食を食べどこにでもある幸せな日常にこれでいいんだ、幸せなんだと心に言い聞かせた。

その日の夜、ふと昼間見た夢の続きが見たくなった、夢の中の私はキラキラして何だか楽しそうだった、そんなことを思いながら孝太と夫が眠りにつくとネット通販で枕を検索した、子供を産んでから肩が痛く自分に合う枕を探していたのだ

〝枕 人気 ぐっすり〟

と検索するとお手頃なのから高級品までさまざまだ、その時ふとさっき心によぎったまま検索をした


〝見たい夢 見れる 枕〟

そんな訳ないのに沢山の商品は出てくる

「ふふっ、」思わず鼻で笑ってしまった

その中に一つ気になる枕を見つけた

〃電磁波マイクロチップ内蔵枕〃

「何これ・?」価格は¥6660円、あと残り1個お買い求めはお早めに

「残り一個かぁ・・」

価格は予定より高めだけど、どうしよう自分へのご褒美にいいかな・・残り一個だし

と、勢いと残り一個につられて、枕を購入してしまった。 

数日が経ち夕方家のチャイムがなった

〝きたきた〟インターフォンをとり、よそゆき声で少し浮かれた気持ちで大きな包みを受け取った。

「ママなーに、これ、なーに?」

中身が枕だと知らない孝太は私よりも嬉しそうだった、早速包みを開封し、思っていたよりも小さく手触りは柔らかく新品の香りがした、枕とは別にアダプターがあり、どうやら充電式枕みたいだ

孝太は中身がオモチャでも食べ物でもない自分に全く興味がないものなので、すぐに背を向けブロック遊びに夢中になっていた。

今日は金曜日、和也は真夜中まで帰らない孝太が寝付く頃には充電も丁度終わる頃だろうと夜が楽しみになった、夕食を済ませ風呂に入りドライヤーをかけながら孝太はすでにうとうとしている、布団に入り3冊、絵本を読む頃には孝太は愛くるしい顔で眠っていた、そっと布団から出て枕の説明書片手に充電が終わっている事を確かめ、またそっと布団に戻る、枕横の小さなボタンを押して柔らかな枕に頭をのせた、が特に何も感じられない

素敵な音が流れるでもなく、マッサージ機能がついている訳でもないらいし、リラックス効果がある低周波でも出ているのか…今のところは〝ただの枕である〝

「こんなものよね…」

少し笑いながら次の日の朝の目覚めの良さに期待した。


ランニングマシンで息を切らし走る、

〝このフィットネスジム見覚えがある〟その直後、〝これは夢だわ、この間見た夢の中に出てきたジムだ!〟と確信した、ふと自分の左手を見ると薬指に指輪をしていない

〝私、独身だわ〟その時ランニングマシンが終わる合図音と共にまるで何度も来ていた事があるかのようにシャワー室に向かい汗を流す、鏡の中の自分は輝いて見えた、ロッカールームで着替えいるとスマホが鳴った友人の〝アオイ〟からだった

アオイ 『もしもし?アスカ?今夜の飲み会六時に本社前で大丈夫?』

アスカ 『問題ないよ、楽しみにしてる』

ありふれた会話に心が躍り楽しい気持ちだ

お洒落をして友人とお酒を飲みながらカラオケに女子トークに花が咲く

アオイは『彼とはどう?』と少し酔いながら汗のかいたコップ片手にワクワク顔で聞いてくる

〝彼って誰だろう…〟と思いながら

アスカは『どうって事ないよ』と当たり障りのない返事をした、アオイはつまんないと言わんばかりに唇を尖らせたその顔を見て自然とお互いに笑い合った、もう今日はお開きという事でほろ酔い気分のアオイをタクシーに乗せアスカは酔い覚ましに家路まで歩いていた、するとスマホが鳴った〝リョウ〟誰かはわからないまま通話を押した

『もしもし?俺だけど今どこ?』その声を聞いてすぐに彼氏だと確信した、アオイと女子会をしていて帰宅中だと伝えると迎えに来てくれるという。〝どんな人かしら?〟とドキドキしながら彼をまっていると、遠くの方で声がする、

「ママ、ママ!」

孝太の声で目覚めた私はあまりにリアルな夢に一瞬戸惑ったが現実に帰ってきたと孝太を抱きしめた。

すぐに孝太をトイレに連れて行き、ご飯支度、掃除、1日は忙しなく始まる、隣の部屋では夜中に帰宅したであろう夫がいびきをかいて眠っていた、そっとため息と一緒にドアを閉めた、

だけど夢のおかげで少し幸せな気持ちだ。孝太を公園に連れて行ったり買い物を済ませたりと、ただただいつもと同じ毎日をこなす、1日はすぐに過ぎ孝太はまた絵本3冊読み終わる頃には可愛い寝顔で眠っている、「枕買った?」と風呂上がりの和也に聞かれ、少し申し訳なさそうに頷いた

「いい枕だといいね」

和也は心からそう言ってくれたのがわかった

優しい言葉。

「うん、ありがとう、今日はなんだか疲れたからもう寝るね、おやすみなさい」と飛鳥の心は複雑だった

夢の続きが気になって早々に孝太の隣で横になった、〝私バカみたい、夢の続きなんて見れるわけがない、昨日のは〝たまたまよね〟

そう思いながら枕のスイッチを入れた


あれ?ここは昨日と同じ場所…まさかね

と立っていると一台の車が目の前に止まった。スーッと助手席の窓が開く運転席から少し体をこちらに乗り出して

『お待たせ』

丁寧で優しい口調で話す声は昨日電話越しに聞いた声だった、暗くて顔がよく見えない

『リョウくん?』

ただその場で立ち尽くす私をおかしく思ったのか、車からリョウは降りこちらへ駆け寄った

初めて会う夢の中の恋人を見て一目で恋に落ちた。目は少し切長で鼻筋が綺麗に通っている、口元は微かに口角が上がった柔らかな感じ。背が高くて細身 綺麗な黒髪 淡い紺のシャツに黒のパンツ。ポケットに入れてた彼の右手が私の頭に優しくおかれる

『どうした?酔ってるの?』

彼は慣れたように私に触った瞬間、頭の中に映像が凄い勢いで流れてくる、リョウとの出会いから思い出のデートの場所、彼の好きな物、買い物している光景など、データがアップデートされたように。

私はもう戸惑う事もなく彼の胸に身を寄せた、リョウは優しく背中をさすると私の手を引いて助手席のドアを開けた。

『かなり飲んだ見たいだから家まで送るよ』

優しい眼差しでリョウが言う。

『私…帰りたくない』

うつむき加減でポツリというと右腕を強く誰かに引かれた

〝あっ目が覚めちゃう…〟と確信した

「おかあさん、起きてシーシ…」と孝太が夜中目覚めたのだ

「何で、起こすの!もう、一人で行ってよ!」と強い口調で現実に嫌気がさした

「ごめんなさい…だって僕、こわいから」

飛鳥の中で何かが始まっていた。

トイレを済ませ雑に孝太の手を握りすぐに横になったが全く眠れない、腹立たしい気持ちで枕のスイッチを強く押す、がボタンのランプが赤、つまりは充電切れだ、昼間家事に追われて充電するのをすっかり忘れていたのだった。

「最悪、何なの!」

飛鳥はこれまで心に溜まっていた物を吐き出すかのように拳で布団を叩いた。

いつもと変わらぬ現実の朝、孝太はいつもより少しいい子だ、きっと昨夜の事を気にしているのだろう、それをよそに飛鳥は早く昼寝がしたいと考えていた


〝現実つまんない〟


心の声に支配され、あのもう一つの世界、思い通りの世界に帰りたかった、せっかくの日曜日だというのに嫌気した、旦那と子どもが一日中いるじゃない、飛鳥と孝太に遅れて起きた夫が隣の部屋から出てくるなり飛鳥のイライラは止まらなかった

「私具合が悪いの、だから今日は1日孝太を見て」

機嫌が悪く言い放つ態度に和也は何も言わず頷き

「今日はお父さんと遊ぼう、お母さんは疲れてるから」

と孝太の背中をさすった。飛鳥は寝室に入りすぐに横になる


〝夜まで待てないのよ〟


今度は充電を差したまま途中で目が覚めないようにと。


…ここは…知らないベッドにいる自分、服は何も着ていない隣にはリョウが眠っている少しだけ背中に触れると車で送ってもらいそのままリョウの家で彼に抱かれる光景が頭に流れ込んでくる

〝どうしてここからなの…私はあっちの世界にどのくらい起きてたの?この間はちゃんと続きからだったのに、電源が切れたせいで時間軸に歪みがあったのかしら、もうこのまま起きたくないこっちの世界がいい〟飛鳥はそのままリョウの背中に絡みそのまま…


現実では孝太と和也はなかなか起きない飛鳥を心配し何度も声をかけたが反応はなく、寝返りは打っているので本当に疲れているんだとしばらく外で過ごすことに

「今日はお父さんと釣りに行こう」

孝太は目を輝かせその場で飛び跳ねた。


「すっかり遅くなったな」

遠出をしてしまいうっかり遅くなり急いで家に帰宅する、部屋の電気はついていない

「まだ寝ているのか…まさか…」そっと寝室を覗くとぐっすり眠る飛鳥の姿が

「本当に疲れていたんだな」と眠そうな孝太を自分のベッドに寝かせ、そっと飛鳥の様子を見に行った、息はしている…幸せそうな寝顔を見て起こす気になれず、孝太と眠ることにした。

翌朝

「お父さん、起きて遅刻しちゃうよ」孝太に起こされ

「お母さんは?」と孝太に聞くが首を横にふる、慌てて寝室の飛鳥に声をかける

「飛鳥、おーい、飛鳥」

ぐったり眠っている息をしているのを確認し様子がおかしいと思い救急車を呼ぶ、孝太は慌てる父親を見て動揺し泣き出す、すぐに救急隊員が来て脈を測りそっと担架に乗せあっという間にサイレンの音が鳴り響いた、ご近所は騒然としている、すると救急車の中で目を覚ます飛鳥

「何これ…」

とはっきりとした声でいう飛鳥の手を握り

「病院へ行こう」と言う和也に対し

「帰して、早く帰して」と暴れる姿は異常だった孝太は小さく震えていた、気がふれたような姿に救急車の車内は異様な空気に包まれた

病室のベッドに横になる飛鳥、和也と息子を見ようともしない、そこへ先生が

「旦那さんですか?こちらへ」

別室にと部屋を移動した

小さな丸椅子に腰を掛け、孝太は看護師に見てもらい医者は静かで優しい口調で淡々と語りかけた

「今回はどのような経緯でここへ来たのかは先ほど看護師を通して聞きました、検査をしましたが特に異常は見られないのですが、かなり興奮状態でしたので1日入院して明日落ち着いたら本人と話をして家へ帰るという事にいましょうか、…それと奥様は抗うつ剤などの服用はないですか?」


医師の質問に頭を抱える和也、医師は飛鳥が心を病んでいるのでは?と遠回しに聞いているようだった


「すいません、わかりません…」


一番救い用のない言葉しか出でこない、扉越しの孝太の声にハッとし医師に頭を下げ、飛鳥の病室に向かった、背を向けたままの姿にかける言葉が出てこない


「枕、取ってきて…」


飛鳥が震える声で言う、

〝どうしてこうなった…〟和也は魂のない声で「帰ろう…」と呟くと


「ま・く・ら!」


見たこともない形相と声を和也に向けた飛鳥はまるで知らない人のようだった。

「持ってくる…」その言葉に安心したのか奇妙に笑う飛鳥に和也は背を向けた。


飛鳥は自分の状況を利用しこのまま病院でしばらく眠り続けることを計画した

〝枕さえあれば最高の場所じゃない、育児に家事、パート全てしなくていい、栄養の点滴で生きていれば死ぬまで理想の世界で暮らせるわ、〟

飛鳥は自分のスマホを探しリョウに連絡を取ろうと思い辺りを見回す、不意に病室の鏡に映る自分の姿に違和感を覚える

「あなた、誰?」

夢の世界では見た目も全て理想の自分になれる為、現実の自分がわからなくなり始めていた


〝これは夢かしら…〟


飛鳥は夢と現実の区別がつかなくなってきていた、そこへ枕を届けに来た和也と孝太

孝太は我慢できずに飛鳥の腰元にしがみつくと同時に酷い頭痛に襲われる飛鳥、そのまま口から泡を吹いて白目を剥く、異変に気がついた看護師が大きな声で呼びかける、その光景はまるでスローモーションで和也には何も聞こえない、震えて父親にしがみつく孝太そこからはもう…

原因がわらぬまま1週間が過ぎようとしていた頃、病院から電話があり疲れた足取りで和也は病院へ向かった、医師から飛鳥の症状を説明される


「原因は分かりませんが、脳の一部に萎縮が見られます、このまま眠り続ける事はないと思いますが、なぜ眠り続けるのか正直分かりません」

医師の言葉に茫然とする和也


「例えば妻が仮に起きとして妻はその…」


怖くて言葉が出てこない…唾を飲み

「妻には障害が残りますか?」

医師はさらりと

「その可能性を心に止めておいてください」と。


和也は管に繋がれた飛鳥の手を握り謝り声を掛けた

「飛鳥、ごめんな、僕は君の気持ちに何一つ気が付いていなかった…育児は本当に大変だよ、本当にごめん…」

強く握られた手に涙の雨が降った。

和也は家に帰り慣れない育児と家事、孝太がいる為仕事を家に持ち帰り精神はぎりぎりだった、孝太を寝かしつけ、洗濯物をしまおうとタンスを開けると上から箱が落ちてきた、ため息まじりで箱を手に取る

〝低周波 夢枕…〟

和也は飛鳥がこの枕に執着していたのを思い出し中の説明書を読む

注意書きを見て和也は目を疑った

〝死なない夢の世界は現実との境界線が不明になる恐れがあります〟

「何だこれ…」 和也はすぐに製造元を調べたが、いくら検索しても出てこない、眠れないまま朝を迎え、すぐに孝太と病院へ向かい飛鳥の枕を見た、

「これだ…」でも電源は入ってない…半信半疑で枕を取り家に帰宅し、和也は孝太に一つお願いをした

「孝太?明日お父さんは寝坊するかもしれない、お父さんが寝てたら大きな声で起こしてくれないか?」

孝太は涙を流しながら

「お父さんもずっと起きなくなる?」

その表情は不安でいっぱいだ

「お父さんは絶対に起きるよ、夢の中のお母さんを助けたいんだ」二人は固く抱き合い約束した。

その日の夜、和也は孝太を強く抱いて、夢枕のスイッチを入れ眠りについた

孝太は父親に強く抱かれ少し苦しかったのか、もしかしたら父親さえも眠ったまま起きないのではないかと不安に思い眠れずにいた、慣れない育児でぐっすり眠る和也を孝太がじっと見つめる

〝お父さんの枕、お母さんもしてた…僕も使いたい〟

孝太は枕を力いっぱい引っ張り枕の匂いをかぐ

「お母さんの匂いだ!!」

孝太は嬉しくてそのまま枕に頭を預け眠りにつく


『あっ!おかあさん!』孝太は母親に飛びつく、優しく微笑み返し、ぎゅーっと抱きしめてくれる母親に今までの不安が溢れ出す

『おかあさん、どこにも行かないで』

孝太はこれが夢だと分かっていたが母親に会えた喜びで胸がいっぱいだった

『急にどうしたの?どこにも行かなよ』


優しい言葉と自分だけをを見てくれてる母親に安心し、ふと父親との約束を思い出した

『おとうさんに電話して?早く3人で帰ろうよ、僕はおとうさんを起こさないといけないんだ、スマホかして!』

孝太の焦った表情に

『スマホ?スマホってなぁに?』

飛鳥はスマホが分からない様子だった

『何言ってるの、おかあさん毎日触ってるやつだよ!』

飛鳥はただ優しく孝太の頬を撫でながら

『家に帰ろうね』と微笑む

『こんなのおかあさんじゃない!違うよ』 孝太は夢の中の母親に違和感を感じた、すると突然飛鳥は真顔で


『だって、スマホなんか無ければいいって思っていたでしょう?スマホが無ければ、もっともっと僕を見てくれるってずーっと・ずーっと思ってたでしょう!』


孝太はその場から走り逃げようとする、

〝おとうさん、助けて!〟

「孝太!孝太!」うなされる息子に呼びかける和也、すると孝太の目が開き、二人は強く抱き合う

「おとうさん、僕、夢でおかあさんに…」

夢の中の話を泣きそうになりながら話す息子に和也は確信をした、


〝全てはこの枕だ!〟


和也も昨晩眠りについてすぐに夢を見たのだ、夢だと分かりながらも何もかもが理想の世界、飛鳥はここから抜け出せないでいるに違いない、和也は箱に書かれた製造元の住所を確認した、すぐにパソコンを開き住所を入れ場所と位置検索したが、出てこない、つまりは存在しないデタラメの住所だった…疑念は益々確信に変わり、和也は一つの方法を考えた、強い信念と今一番望む気持ちのままこの枕を使うこと

〝飛鳥を取り戻す〟ただ、この一択〟

でも、もし自分まで現実に戻れなくなったら孝太はどうする…ふと気持ちが揺れる和也

正直に誰かに話しても信じてもらえないだろう…目を強く瞑り大きく息を吐くと和也は決心を決めた。

翌日、和也は孝太と実家に来た。

今夜、夢枕を使い飛鳥に会う事を決めた、会える確信はない実家の母親は幼い孝太を見て涙ぐむ

「お母さんは必ず起きて孝ちゃんを…を。ね? それまでお婆ちゃんと一緒にいようね…」

涙を抑えながら続ける

「和也、いつでも頼りなさい」

母の言葉に和也は「ありがとう」と心から言葉が出た


「母さんに一つ頼みたいんだけど…今夜は少し早く寝たいんだ、朝起こしてほしい、声を掛けても起きない時は枕の電源を切って揺すって起こしてくれない?」

真剣な息子の表情に和也の母親は優しく強く

「分かったわ」と。

「電源付きの枕なんてあるのね」と少し驚いていた。

そして薄暗くなり始めた七時頃、和也はかつての自分の部屋で横になる事にした。

電源を入れる手は僅かに震えていた

強く飛鳥を思い、頭を枕に預ける


…ここは家だ、そしてこれは〝夢だ〟

夢だ、夢だと自分に言い聞かせながら飛鳥を探す

『飛鳥、飛鳥、』と姿を探す、寝室の方から泣き声がする、扉を開けると飛鳥の姿が、和也はすぐさま駆け寄り飛鳥を抱きしめる

『帰ろう…』手を取り、引く、和也はその手に違和感を感じた


〝本当に飛鳥か?〟


これは思い通りになる夢だ

『飛鳥…お前は誰だ?』手を思わず離す


『あなたの奥さんじゃない』と微笑む


『違うお前は俺が抱く理想の飛鳥なんだろう、返せ、飛鳥を返せ!』すると目の前の飛鳥が真顔になり、


『これでいいでしょう、夢の中なら貴方の思い通りよ』


一瞬だが迷う和也、その時部屋に置かれた孝太のおもちゃを見て我に帰る

『俺は現実がいいんだ!』

強く言い返すと目の前の飛鳥の体が歪み始めた、苦しみながら横たわる、思わず歩み寄る和也

『こ、う、た に会いたい…』

その言葉に和也は飛鳥だと確信した

『ごめんなさい、私先月、結婚してしたの』和也は飛鳥を抱き寄せ

『全ては夢だ、帰ろう』と必死にいう

飛鳥は苦しみながら続ける

『彼に子どもがほしいと言ったら契約違反の思念だと怒鳴られて…ある時から鏡に映る自分が変わっていて気が付いたらここに』

和也は昨日病院でこの枕を飛鳥から取った事で飛鳥が自身を戻りつつあると気が付いた

『ところで貴方は…誰か分からないけど大切な人、こうた?』飛鳥は記憶にズレが生じている、自分を忘れてしまっている事に和也は落胆しそうになるが

『これは夢だ帰ろう』と飛鳥に言う

『〝帰りたい〟その言葉じゃダメみたい、私何度も声に出して行ったわ』

これは夢だと心で言い聞かせていた和也はハッとする、

『飛鳥、これは夢だ、夢なんだ、だからこう言えばいい、起きたいと』その瞬間、警報音が鳴る


『違反あり、違反あり、』

機械仕掛けの声がこだまする、

和也と飛鳥は手を取り合い


『起きたい』と声を出しだ


和也は汗をぐっしょりかきながら目覚めるると実家に電話の音がなる、すると慌てた母親が部屋の扉を開ける

「飛鳥ちゃんが目を覚ましたそうよ」

和也は拳を強く握り部屋を飛び出す、

「孝ちゃんは支度をしたら私が後で連れて行くわ」

大粒の涙を流す母。

病院につくと目を開けベッドに座る飛鳥の姿が

「おかえり!!」和也の言葉に

「ただいま」としっかり言う、少し遅れて孝太が病室に入り、祖母の手を離し飛鳥に飛びつき、家族はしっかりと抱き合った

しばらくし、飛鳥の記憶も戻り、心配していた脳の萎縮の症状も嘘のように無くなり無事に退院の日が来た

和也は先生と看護師に頭を下げ荷物を車へ飛鳥も先生と看護師に挨拶をした

最後に飛鳥は心に引っかかる物を感じだ

「先生、あの…先生の下のお名前は

〝リョウ〟と言いませんか?」医師は微笑みながら

「そうですよ、よく気が付きましたね」と

手には夢枕を持ち

「それでは、お大事に」と去って行った



         


           — 完 —



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