第9話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
あれから、早くも4ヶ月経った。朝から掃除、手合わせ、掃除を繰り返して、漸く午後から授業に行けるようになったのだが。当然の如くシノダ先輩に一緒について行ったが、なんというか。自習と手合わせのせいか学ぶことが無い。テスト対策に聞き流す程度で、もうそれ出来るよ知っているよと言わずに居るが、これでは時間の無駄だとさえ思ってしまう。シノダ先輩もそうで、座学を4回、実技を3回受けた後は掃除に精を出し始めた。そうね、それがいいかもね。
という訳で、ワイズマッド先生の課題が無ければ掃除、手合わせ、掃除、自習、掃除、手合わせのループを午後までやる日々が続いた。
おかげでシノダ先輩は大分レベルアップして、今じゃ56。手合わせの時も自分のみの力で魔剣を創り出せるようになったし、動きも格段に良くなった。魔術をイメージってこういう事か、と最近はコツを掴んだようである。
「なぁ、マオ〜。今度さ、マオの実技に連れてってくれない?」
窓を磨きながらふとこぼれた言葉に床を磨いてた手が止まる。え?私の?……まぁ、私はいつも課題がある訳では無いし逆はよくやるからいいのか?と思う。とりあえずで簡易で危険なもの以外なら良いだろうと判断する。
いいけど、薬草採取とか、簡単なものならねと言葉を連ねる。流石に討伐系は不味いのでは、と思慮した結果だ。
「うん、全然いいんだけど、なんつーか、外の世界を見たいって言うの?なんかそんな感じ」
なるほど、学園に飽きたと。確かに図書室の本はほぼ読んだし、今読んでる本のほとんどは私が外で買ってきたものを貸している状態だし、今のままでは学校では学べる事がかなり少ないと気づいたようだ。レベルアップに繋がることは全部私からの伝授だしなぁ、と同感する。ちなみに私はレベルが先日107になった。99でカンストかと思ってたので3度見したくらいだ。効果もかなり増えてたみたいだし、1度開いたetcを開く気にはもうなれない。スクロールしてもしても終わらないくらいにはあったと明言しておこう。着実に最強の魔王に近づいて行ってる事には目を逸らすしかない。
私の話は置いといて、床を磨きながら考える。薬草採取と言ってもメインは討伐系が多い。どこそこ行って魔物を倒してこい、ついでに薬草採ってきて、という内容が殆どである。私は転移でサクッと行って帰ってきてるが本来なら数日かけて行う事だ。やっぱり方法としては一度魔物を倒し終わった後に先輩を呼びに来て、もう一度転移して採取、かなぁと思案する。ちなみに私は地図とかあればどこでも転移できるが、先輩は一度行ったところでないと転移出来ない。普通はシノダ先輩方式であるし、無陣転移はレベルが70以上必要であるとわかっているので、先輩は陣を書いた紙を何枚か持ち歩いている。
この日も掃除と手合わせと自習に精を出し、一日を終えた。最近だと同じベッドで寝てるくらいには仲良くなった。マットレスに拘ってふかふかのものを選んだらダブルサイズ以上だったので先輩と話し合ってダブルサイズを購入したのだ。おかげで睡眠の質は上がって最初はハイタッチしたくらいだ。日本人、拘りが強い。
翌日、早速ワイズマッド先生に課題はないか聞きに行くとちょうど切らしていた薬草……いや、依頼されていた魔物討伐を思い出して頼まれる。薬草はついで、ね。と念を押され早速準備に取り掛かる。と言っても皮袋を持つくらいだが。
先輩に課題が出たことを伝え、魔物討伐が終わったら呼びに来るといい、行ってらっしゃいと笑顔で送り出された。
サクッと魔物を倒して早くシノダ先輩を迎えに行こう、と気分よく転移した私は、ここが学園であるということをうっかり忘れていたのだ。
シノダ先輩を連れて薬草を採取し、ついでに本屋へ寄り新しい魔導書を見つけホクホクしながら学園に戻ってきたあと、先輩と掃除の続きをしていた時だった。バタバタと複数の急ぎ足の音の後突然開かれた扉に目を丸くする。学園長だ。
「ヒデキ=シノダ!無事かね?!」
「はい?無事ですが……何かありましたか?」
「何かとは、自覚が無いのかね?!Bクラスであるはずの君がSクラスの課題に加担するとは、前代未聞であるぞ!」
「……あ、ダメでしたか。いやー、薬草採取くらいなら危険がないと思い無理言ってついてってしまい……すみませんでした」
「……薬草、採取だと?」
「はい。ルルティエ国南部の草原地帯に生えているクルツサの葉を数枚採取し、移動はマオ=スズキの転移魔法で行いました。」
「……マオ=スズキ、この話は本当かね?」
「……はい。同時に魔物討伐を依頼されましたが、そちらが終わったあと危険がないことを確認し、薬草採取くらいなら、とヒデキ=シノダを連れていきました。軽はずみの行動ですみませんでした」
「……どうやら、行き違いがあったようだ。薬草採取についてはワイズマッド先生に問うことにして、諸君らの行動は今回のみ罰しないこととする。が、次は無いと思いなさい」
「「はい」」
ヒデキ=シノダは引き続き掃除を続けよ、と言われ、私だけ廊下に呼び出された。何を言われるんだろうと言われた通りに廊下に出ると申し訳なさそうに尋ねられた。
「……報告は聞いていたが、本当に掃除を手伝っているようだな」
「はい。勿論、Sクラスで課題がない時に限ってますが」
「普段はどうしている?」
「朝に課題が無いかワイズマッド先生に聞いて、特になければ一日フリーなので、掃除を手伝っています。」
「……他にはなにか無いかね」
「……シノダ先輩に自習の手伝いを少し。と言っても、学校にない問題集や辞書などの書物を貸したりする程度ですが」
「そうか……。いや、すまない。ブラン=アンツツから突然、二人で課外任務に出かけて行ったと聞いてな。内容は一部除いて違ったようで本当に良かった。クルツサの葉の採取については……?」
「はい、実践の方が覚えやすいかと、採取に適した葉の見分け方をその場で話した程度で、その後直ぐに転移で戻ってきました。」
「なるほど……いや、気にするでない。確かに実践で覚える方が良いという者も居るしな。説明も適したもののようだし」
それでは、くれぐれも危険な行動は控えるように、と言われそのまま学園長は帰って行った。一応責任者として観察保護の義務責任みたいなのはあるらしい。と言うか、ブランの奴チクリやがって、本当に呪ってやろうかとブツブツ言いながら室内に戻り掃除の手伝いを続ける。シノダ先輩に何があった?と聞かれたがブランがチクったみたいとだけ返して察してくれたのか再び手を動かした。それにしても本屋に行ったことや手合わせのことがバレたんじゃなくてよかった、罰もないし、と一安心しながら掃除をする。
すると、途端にキョロキョロと周りを見回し手で近づくよう指示され耳を貸すとそっと言われた。
「マオ、オレ、学校やめようと思うんだ」
え、なにを、
「今回みたいに、誰かに監視されたままじゃオレはもう強くなんてなれない。今でも強くなるにはマオに教わるのが一番だし、それにもっと外の世界を見たいしな。」
確かに、この学園ではもう2番目に強いのがシノダ先輩だ。Bクラスに留まる理由もない。
それなら、と口をそっと開く。
「……先輩、私はついて行きますよ。」
「え?!いや、そりゃあ嬉しいけどよ……いいのか?」
「はい。もっと世界を見に行きましょう。先輩の実力ならギルドも引く手数多です」
そうして、先輩の罰である残り2ヶ月を準備期間として時間さえあれば荷物を纏めて計画を練り始めた。今回のことを踏まえ、私の部屋(Sクラスの方)でひっそりと。
そうして地道にコツコツ準備を進め、時間が過ぎ、半年に一回のテストでシノダ先輩は引き続きBクラス(手を抜いたらしい)、私は卒業となった。
「それじゃあ、いいですね?」
「おう!迷惑かけると思うが、よろしくな!マオ!」
先輩の手には退学届けに必要な書類たち。それを空っぽの自室の机の上に置き、部屋を出る。
こうして、私ことマオ=スズキとヒデキ=シノダは学園を後にした。
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