第8話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
あれから3週間経った。シノダ先輩と私は逃げるが勝ち!と言わんばかりにブランが現れた瞬間転移を続けた結果、やっと諦めたようだ。部屋(Sクラスの方)には居ないし、Dクラスは調べようがないみたいで(先生達がブロックしてたらしい)これ幸いとシノダ先輩の部屋と図書室、食堂、教室を転移しまくった。たまにワイズマッド先生の所へ行くが研究が大詰めらしい。本気で転職を進めておいた。それに今では常にどちらかの裾や腕を掴んでたり、肩組んだり、手を繋いだりしていつでも緊急回避できるように周り同様馴染んでいた。
それともうひとつ嬉しいことが。なんと、以前進めた本を読んだ先輩がレベルアップしていた。それからはこれを読んであれも読んでとぽんぽん渡し、部屋に引き篭ってるのも幸いして先輩と読書に耽った結果、今では21レベルに。
本を読むだけと侮るなかれ、お互いに分からないところは先生に聞きに行ったり、私が分かるところは説明したりで、シノダ先輩は今じゃDクラストップを突き走っている。近々クラスアップも夢じゃないと先輩も喜んでいた。
そこから、Dクラスでは読書がブームに。みんなで教えあったりする日もあれば、こっそりおすすめは何か無いか聞いてきたりする程で。職業に当てた本はまず外れないと思いアドバイスをしつつ、Dクラスに私もだいぶ溶け込んできた。
が、やはり問題は起こるもので。
問題行動を起こし続けたブラン=アンツツがBクラスにクラスダウンし、シノダ先輩が半年に一度のテストで受かってBクラスにクラスアップし、知らなかった両生徒は対面した瞬間、殴り合いに発展した。らしい。
私はその時、偶然にもSクラスとしての課題(という名のワイズマッド先生のお使い、薬草採取など)をこなしていた為不在だった。
課題が終わって即引き篭る先生を見届けて、シノダ先輩の所へ転移したら初見の保健室で。混乱した私は人生初(前世含む)大絶叫したぐらいだ。何があったか詳しく聞くと腰を抜かしてしまいその場にへこたれた。
「ま、マオ〜!オレは大丈夫だから、なっ?立てるか?」
「おい貴様!ノワールに何をした?!」
「黙ってろストーカー野郎!マオ、大丈夫か?」
いがみ合う二人の顔は大きな痣ができているし、袖口や襟からはガーゼや包帯も見える。本当にどんな喧嘩したんだ、これだから男子は、となんとも言えない気持ちになった。
しばらくして、保健室に保健医と学園長が戻ってきて処罰を言い渡された。
「ヒデキ=シノダは半年の学園清掃。
ブラン=アンツツはCクラスにクラスダウン。
また、ブランから被害を受けていたにも関わらず自身や周りの士気、成績を高めたマオ=スズキは褒賞を授与する。後で窓口に問い合わせよ。」
「俺がCクラス……?ていうか、まおって……?」
「はい学園長、授業への参加は清掃後なら可能でしょうか」
「うむ。良しとする。他にはなにか無いかね?」
誰も何も言わないのでお開きとなった。突然の褒賞に影でガッツポーズをしていたら、シノダ先輩がブランに声をかけた。
「そういう事だから、もうオレにもマオにも近づくなよ」
「まお……?」
埒が明かないと、改めて自己紹介をする。私の名前とノワールは周りが勝手に呼んでいた渾名だと言う説明付きで。ここまでして漸く納得が行ったのか青ざめながら小さくすまないと返された。
「まぁ、オレも突然殴りかかったし、お相子ってことで。これからはきちんとしろよ。」
シノダ先輩がかっこいい!全肯定先輩は周りにも肯定的なのだ。
薬が効いてきたのか、もう動けるようになったらしくシノダ先輩は立ち上がると何処から掃除すっかな〜と歩き出した。勿論私も続く。保健室を出る際に軽くお辞儀をして、先輩に手伝いますと伝える。Sクラスは相変わらずぼっちな上先生が先生だから暇なのである。それを知ってるからこそ、じゃあ少しだけ、と頼んでくれるのだ。
それから、シノダ先輩にくっついている時間が長くなった。元より長いが、自由時間が増えたとでも言おう。今日は空き教室の掃除なので、前から試したかったことをする絶好のタイミングだと思い先輩に提案してみた。
「手合わせ?マオと?」
そう、手合わせ。清掃の合間の時間つぶしにとどうかと問う。ルールは簡単、先輩に合わせ剣での一騎打ちで魔術は基本禁止だが、剣は魔術で作ること、軽い打ち合いのようなものだと。本来なら手合わせ自体先生たちに禁止されている事だが今なら目が無い。見つかった時ように剣を魔術で作っておけば一瞬で胡散させる事ができるし、何よりレベルアップに繋がる。
「……内緒だからな?」
ニヤリとお互いに笑い合い、それじゃあ早速、と手のひらに集中して魔術で剣を作る。が。
さすがにシノダ先輩もすんなりとはできなくて最初から躓いてしまった。ので、とりあえず今日は私がもう一本作ってそれで打ち合いをした。30分程で先輩の息が切れたので休憩に。
「っは〜!つっかれた……マオ、オレどうだった?」
「正直に言いますと、荒削り、でしょうか。もう少し魔術に集中して流すイメージを持った方が良いかと……。」
「あ〜だよなぁ〜。魔術、ねぇ。うーん」
「……続けていけば、確実にコツは掴めるかと。」
「それはなんとなくわかる。にしてもマオは強ぇーな。魔術師なのに、一本もとれなかったし、汗ひとつかいてねぇし。なんで?」
なんででしょうね〜と誤魔化す。レベル差なんて今は言えないし。でも単調な掃除で凝り固まった体を動かしたからか、どこかスッキリした顔つきの先輩に回復薬を仕込んだお茶を飲ませる。疑うこと無くごくごくと喉を鳴らして一滴残らず飲み干したら、さぁ再開だ、と掃除に戻って行った。私も戻ろう。
放課後への鐘の音が響く頃にやっと空き教室の掃除が終わり、新しい自室へと足を運ぶ。こっちでの荷解きもせねばならないことを思い出したので少し駆け足だ。結局二人かがりでやって当然のように私は居座った。ちゃんと先生には報告してあるので問題は無い。報告したのが研究中のワイズマッド先生だっただけで、多分あの人のことだから忘れていると思うが。ネラッテナイヨ。
この後は軽くシャワーを浴びて夕飯までは自習、夕飯後は読書とルーティーンが決まりつつある。私は読書の合間に思いついた実験などをするが、先生の気質が移ったのではないかと心配されていることを知ってるので、あまりやらない。こんな日が続くなら最高だな!と小さく笑った。
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