第5話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
「……であるからして、非常に優秀な……」
ひとつだけ言いたい。
「……以上をもって、マオ=スズキのSクラス昇進をここに認める!」
どうしてこうなった──────!!
ふと気づいたのは、授業に慣れ始め、支給という小遣いも手に入り自分のノートや筆記用具を揃えられるようになった頃だ。
すれ違う人や先生、シノダ先輩、クラスメイト。その誰もがステータス表示されていることに気がついたのは。そして、それが見えるのは今のところ私だけであるという事も。気づいた時に悩みに悩んであれこれ調べて見たが、多分私の効果【鑑定】が原因かと思われる。まぁ、相手のステータスが見えたことで何かが変わるわけじゃないし、と油断してたのもある。
最初はクラスメイトのステータスを見て名前を覚えようとしてた時に気づいた。平均してレベルが低いのだ。シノダ先輩は流石のLv12。対して他の人は8~10程で、私は32。初めが25だったはずなのにいつの間にか上がっていた。
つまり、最初から文字通りレベルが違うのだ。このことに気付いてから図書室通いを増やして原因解明に精を出したが、上記の通り【鑑定】が原因ではないか、という可能性しか得られなかった。そして知識を増やしたせいかまたレベルが上がっていた。
授業を受け、知識を蓄え、実技で優秀だと評価され。シノダ先輩に褒められるということもあり勉学に励むということにのめり込んで行ったのも悪かったんだろう。今朝起きたらレベルが68になっていた。嘘だろ、と零しながらなんでもないふうに装ってシノダ先輩について行く日々を繰り返そうとしたら何やら朝会のようなもので学生全員がホールに緊急で集められたと思ったらコレだ。何も聞いてない。
周りはざわめき、どんな話なのか噂を流すようヒソヒソとこちらを値踏みするかのような視線と憧れ、嫉妬、異物を見るような、様々な目で見られた。流石のシノダ先輩も驚いて固まってる。だよね、固まるよね。と心の中で頷いておいた。どうしてこうなった。
やはり探求したのが悪かったのか、授業を真面目に受けたのがダメだったのか、実技で本気を出したのがいけなかったのか。
頭の中でぐるぐる回る。そりゃ、先生たちにも及ばない程レベルが段違いだが、だからって急すぎるでしょ。せめてテスト後とかになんで言わないの。合格もまだ3つしか貰えてないはずなのに。学園史上初とか何とか噂が聞こえ、耳を塞ぎたくなった。そんなこと、望んでない。
何やら壮大な拍手に囲まれ、朝会(?)は終わった。これからどうしたらいいの。Sクラスって教室何処だろう、シノダ先輩もSクラスになんないかな、と現実逃避しながら他の学生と同じようにシノダ先輩とホールを後にしようとしていたら突然先生に声をかけられた。
「マオ=スズキ!Sクラス昇進おめでとう、貴殿を担当するワイズマッドだ、今日からは私に着いて来い!」
え、嫌ですけど?
つい出そうになった言葉を慌てて飲み込み、何とか平素を繕い言葉を選ぶ。
「……ワイズマッド先生、失礼ながら、私はまだまだかと。Sクラスなんて恐れ多い」
辞退します、を遠回しに言ったんだけど、伝わるかな
「何を!心配することなど何も無い!さぁ行くぞ、貴殿に覚えてもらうことは山ほどある!」
ダメだったかー。伝わらなかった。
嫌だよ、シノダ先輩と離れたくない。が、肝心のシノダ先輩はキラキラとした少年のような目で「良かったな!」と善意100%で言ってくれるから断るに断れなくなった。うぅ、嫌だ、なんでこうなった。
渋々、先輩に行ってきますとボソリと呟いて、頭を撫でて貰ってから先生の元へ小走りで向かい、先輩と別れた。
しばらく歩いて、着いたところは教室ではなく、どこか教員室のような所だった。
途中、何度か話しかけられたが総無視させて頂いた。別にシノダ先輩と別々にされた仕返しとかそんなんじゃないよ。チガウヨ。
本棚から溢れ積み重なっている本にはホコリが溜まり、何かの実験中なのかコポコポと静かに音を立てるのは熱されているビーカー。
謎の乾燥中らしき花々が天井を飾り、正に科学者の部屋って感じだ。
先生は乱雑に唯一の机の上から書類の束を退かしスペースを作り振り返る。
「さぁ!ようこそ我が研究室へ!」
研究室なのか。そうか。帰っていいですか?と目線で言うも言葉にしない。
「何から始めるか、貴殿は何に興味がある?魔術師と言うからやはり魔術の成り立ちか?それとも魔道士の道もあるな、ああ、時間が足りない、何から始めようか……」
「……。」
「薬学に魔法史に魔法生物、魔物学、使役術に魔道具開発もあるな、どれから手をつけるか、」
先生、それ全部、図書室で学びました。とは言わない。代わりに代案を提示する。
「……そういえば、北の森にサラマンダーの巣が出来たとか。実技に興味があります。」
「おお!そうかそうか!それでは、このローブを着て早速実技に向かうとしよう!」
大興奮なままの先生に押し付けられたローブをこっそり鑑定すると、あらゆる魔法攻撃の耐性がついていた。これ、シノダ先輩にあげよ。私既に耐性あるし、と思いながら袖を通す。
転移魔法の陣を教わりながら先生が書き終えるのを待ち、さぁ行くぞ、と張り切りすぎてる先生と転移する。一瞬で森の入口に来たことに腕は確かなようだ、と感心しながら着いてい行く。
だってワイズマッド先生、レベルが26なんだもん。ほかの先生は40そこそこなのに。ちなみに最低値は学園長の18だ。下から数えた方が早い。
「……という事例も少なくない、マオ、貴殿ならどう対処するかね?」
「……私なら、原因の元を断つでしょう。また、複数人のパーティに所属した場合はまずギルドへ情報提供が優先かと」
「正に教科書通りだな!貴殿が進んで元を断つとは、これからの働きにかかってくるがね。では、今回のサラマンダーに対して……」
この人、よく話が続くなぁ。知識はかなり豊富だが、息切れを起こし掛けてるし体力が無いのかもしれない。このままじゃ帰りまで持つかどうか。ちょっと失礼しますと声掛けて、片手で抱き上げる。
「おお?!貴殿、何を?!」
「失礼ながら、体力が無いとお見えしますので抱えた迄です。対サラマンダー戦にして体力は温存した方が宜しいかと。」
「なるほど、気を使わせたようだが、助かる!このままでよろしい!さて、先程の続きだが……」
あ、続けるんだ。最早総無視しても続く談義にワイズマッド先生を抱えたまま森を散策して行く。本当によく喋るなぁ、軽いし、大丈夫かこの先生しか感想が出てこない。ああ、シノダ先輩、今頃何してんのかな。早く帰りたい。
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「それにしても、本当にすげーよな、ノワール様」
「Dクラスから飛び級なんて初じゃね?」
「そもそもテスト無しでSクラスが初めてっぽいじゃん」
「やっぱ天才っているもんだな〜。授業でもついて行けねぇ談義ばっかしてたもんな」
「実技は避けてたっぽいし、それでも合格3つも貰ってたよな」
「やっぱ天才には敵わないって事か」
「なぁ、ヒデキはどう思うー?いっつも一緒だったろ?」
「確かに。会話もほとんどヒデキを通してだったもんな」
なんだ、コイツらは。マオがどれだけ図書室通いで勉強したと思ってる。どれだけ努力を重ねたか、なぜ分からない。天才?確かにそうだろう。けれど、それだけじゃないってなぜ分からない。お前たちが遊んだりしてる合間に、隙あらばと勉強に励み、この世界の仕組みを理解しようと必死に食らいついて来たのか。マオは正しく天才だ、それでも努力を怠った事は一度もない。最初の引きこもってた時期でさえ、文字が読み書きできるように必死に勉強していた。まだ高一になったばかりの15歳の子供が、だ。
普通なら、この世界を否定して、勉強どころではないのに。オレだってそうだった。否定して、嘆いて、助けてくれと投げ出した。けどマオは、それをせず受け入れようと必死になった。その努力をオレは知っている。何度も何度も同じ本を借りてた事。実技に向けて部屋で魔術の練習をしていた事。食事すら忘れて復習を重ねていたこと。ひたすら毎日を全力で生きてたこと。オレだけは知っている。マオは努力の塊だということを。だから、オレはいつだって味方でいようと思ったこと。
「マオは、すげーやつだよ」
せめて、いつだって「おかえり」って言える立場に、オレはなりたい。
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