第44話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
ルルティエ国より海を渡った西側諸国に行ったから今度は東へ、とりあえず隣国であるサシャルドル王国にという話は前々からしていて、王都では王女が度々城下町に出没するとセバスチャンさんから聞いたのでそれ以外、話し合いの結果少し離れた南側の町ルクティスに行こうとは言ったものの、目立つことはあまり得意では無いしむしろ苦手としているので先ずは行商人に紛れて旅人を装って宿屋で一部屋借りるか、という話の流れだったのだが、予想外というものは憑き物らしくここでも問題が発生してしまった。
「天使さま!どうか我が子にも慈悲を!」
「天使さま、私の子をお助け下さい!」
「天使さま!母を、母をどうかお願いします!」
「「天使さま!」」
「マオ……すまねぇ」
「いえ、先輩は悪くないです」
どうしてこうなった。
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最初は本当に些細なことだった。行商人に馬車に乗せてもらったお礼として荷卸を手伝っていた時に現れたこの街の領主の態度がカンに障り、うっかりで首を跳ねたりしないようシノダ先輩とこっそり隠れた路地裏で見つけたのは家無しの痩せ細った孤児たちで、シノダ先輩も可哀想だと言うのでこっそり他の大人たちには内緒ですよと果物と栄養素の高い卵サンドを渡したのだ。みんなに行き渡ったのを確認し、少しの路銀を年長の子に渡して領主がいないことを確認してから荷降ろしの続きをしてその場を去った。ここまでは良い、いや、あまり良くないのかもしれないがとりあえず良いとしよう。次に宿屋で一部屋貸し切って荷物整理をしてると、私が魔術師というのを何処からか聞きつけとある子爵の患者を見て欲しいと言われ、シノダ先輩が対応してくれその子を診ることになり必要なものを持って館へと向かい、診断結果、小児ガンの子にモノは試しだと新薬の解毒剤アレンジを飲ませたところみるみる治っていき、様子見でお茶してる間に起き上がれるほど回復し、その後の数時間経過観察しても再発もガンの転移もなく健康幼児に限りなく近くなったことを確認してから館を後にし、何も無く宿屋で一泊してからのことである。
朝起きてから何やら外が騒がしいなとそっと窓から除くと人集りで、何事かと思い慌てて宿主に問えば天使さまが助けに現れたと大騒ぎ。不治の病の子を治した、貴重な食料を浮浪者に分け隔てなく配った。きっと神様の使いだ、天使さまだと息巻く街のものに宿主もなんと説明するか迷ってる間に新しい患者を抱えて一人の母が立ち上がり、どうか私の子を助けてください、と願った。この街、いや国で流行っているらしい病を抱えた子に、金銭と交換で仕方なく治してやると次々と話が広まり我先にと押しかけられるようになり、宿にも他の客にも迷惑だろうと慌てて荷造りして出ていき広場まで何とかきた所で、とうとう囲まれたのだ。最初は同情で、次は仕事を兼ねた実験、最後は仕方なく交換条件でやっただけなのだが、シノダ先輩が浮かない顔で断ればよかったな、と気まずそうに言うのだが、別に責めているわけでもなければ悪気がなかったのも頷けるくらいだし、こうなると予想出来なかった私の落ち度であると思っているから謝らなくていいと伝える。
(どうする、マオ。帰るか?)
(どうしましょうか。帰ってもいいですが、先輩はどうしたいですか?)
(……正直、病気の子は治してやりたい。マオ頼りになっちまうが)
(いいですよ。先輩がしたいようにやりましょう。)
(本当に、いいのか?)
(ええ。では、私も先輩に頼ります。私は病気を治すのでその呼び掛けと浮浪者に食事をお願いしますね)
「……ありがとう、皆の者、よぉく聞け!病の者は『黒猫』が治す!順番に診るから彼の前に並べ、動けないものは午後に診て回る!それから家がなく食事に困っているものに食べ物を振る舞う!それはこのオレ、『紅獅子』がやる!わかったか!」
隣で声が響くよう胸を張って言う先輩に痺れながら早速目の前にいた人の抱えている子供に手をかざし病を治すと、シノダ先輩の声掛け通りに順番待ちに並び始める街の人々。隣で寸胴にシチューを作っている先輩の方には浮浪者がそろそろと出てきては時々涙を流しながらお礼を言われていた。無言で治していくのを気味悪がられるかと思ったが、そんなことも無く元気になった子や親を連れて笑顔で礼の言の葉を尽くすものばかりで、それはそれで困る。時折シノダ先輩に声をかけてもらいながら病人を治していき、昼になると宣言通りに家を訪ね伏せっている患者や動けない者を診て回った。夕方には町を隅から隅まで歩き終え、広場に戻り再び病の子を連れた人たちの回復をさせていく。シノダ先輩は笑顔でシチューを配っていたし、何事も無かったようだ。
全ての希望者を治し終わる頃には月が真上に来ており、やっと終わったと息をついていると横からシチューの入った器を渡される。お礼を伝えながら有難く頂いていると慌ただしい馬車の音が近づいてきて、それまで居た町の人は蜘蛛の子を散らすように私たちから離れ、ある者は家へ、ある者は路地裏へ消えていった。何事だと思えば目の前に馬車が来て止まり、荒ただしく扉が開かれ、今朝のカンに障る領主が出てきて第一声に罵声を吐かれその後も何を言いたいのか分からないが怒声が響く。私は元から無言を貫き、シノダ先輩は鍋底が焦げないようゆっくりシチューをかき混ぜている。
(……マオ、コイツ殺しちゃダメだよな?)
(流石に今はまずいですねぇ。遅効性の毒でも盛りますか?)
(……流行病にかからせることは?それがダメなら毒だな)
(できますよ。せいぜい苦しめばいいと思います……やりました、数時間後には発症するはずです)
(サンキュ、ちなみにどんな症状だ?)
(重めのインフルみたいなものです。高熱吐き気目眩に咳、くしゃみ鼻水頭痛に耳鳴り。)
(インフルか。まぁ流行病はそんなもんだよな)
顔を真っ赤にして怒鳴り続ける領主に周りの護衛や逃げ遅れた人達がオロオロとしだすがこっちは完全に馬耳東風である。何も反応しないせいか、そのまま怒って馬車に戻り扉を壊すのではないかと思うほどの力で閉めてどこかへ去っていった。そのまましばらく二人で食事を取りながら鍋をみていると恐る恐るまた人集りが出来てきて、浮浪者におかわりをあげていく。ついでに洗浄魔法で身綺麗にしてあげて、病にかかり気味な子や老人を治してあげていき、生まれつきなのか事故なのか手足のかけている人には木でできた義手や義足を取り付けていく。歩き回ったり両手を確認しては泣き崩れる人達にシノダ先輩が声をかけながらシチューを配る。お礼に何も返せない、恩を返せない自分たちが許せないと言う人達にでは情報をくれ、と交換条件をだす。先程の領主の事から見晴らしの良い丘、裏で出回ってる困った薬の元出から最近念願の子供ができた八百屋の奥さんの事。特に領主の事は沢山教えてくれ、黒い噂が絶えなかった。
「兄ちゃん、おれ達が言うのもなんだが、本当にいいのか?こんな雑談や噂だけがお礼なんて」
「ああ!情報は時に金なり、ってな。」
「情ほう、なんだって?」
「情報は時に金なり、あー、その情報はお金にも等しい程の貴重さが時にはあるっつー意味だ。おかげで色々聞けたよ」
「……兄ちゃん達がそう言うならいいけどよ。本当にあの領主には気をつけろよ」
「ああ、ありがとうな、シチューもう一杯食うか?」
「……おう、こっちこそありがとう」
ゆっくりとした時間が戻ってきてみんなそれぞれ塒に帰り、私達も後片付けをしてから宿へと向かう。心配してくれていたらしい宿主に一室用意していたと言われ有難く借りて料金を支払いながら部屋へ向かう。ベッドに寝転がりながらそろそろ発症した頃だろうと話しながら眠りについた。
翌日、朝早くに目覚めた私たちはまた広場に向かい炊き出しをしていく。今日は根菜たっぷりの豚汁だ。鍋を掻き回す先輩の隣でおにぎりを大量生産する私に昨日の噂が広まったのか浮浪者もそうでない者もみんな一様に並んで食事を与えていき、浮浪者からは情報を、そうでない者からはほんの少しの銀貨を頂きながら私達も食事をとる。特にやっかみなどは起きることも無く、いい人達が集まっては食事を共にしたからか、何方も見下す事はなく良き隣人として接して居た。
「なぁ、兄ちゃん達は何処から来たんだ?」
「隣の国からだぞ」
「……この国は4つの国に囲まれてるって知らねーのか?」
「知りたかったら情報を集めな!ほら、おかわりついでやるから器を寄越しな」
「……チッ、ダメかー。みんな噂してたぜ?本当に天使さまじゃねーかとかさ」
「ははは!じゃあそういう事にしとくか!ほら、やけどに気をつけろよ?」
まだ湯気がたつ器を返してあげながら歪なお礼と共に去っていく人を見て視線をめぐらす。均等に行き渡ったようで一息つけそうだ、と言う時に一人慌ててこっちへ向かってきた。何事かと思いながら落ち着かせるために水を渡すと即飲み干され、何があったとシノダ先輩が聞いてくれた。
その人曰く、領主が私達のことを探しているのだという。しかも見つけ次第徴収するように私兵を散らばせて何がなんでも連れてこい、という状態らしく先程情報を吐かせるために宿主が連れていかれたと言われた途端、シノダ先輩の顔が変わった。あ、怒らせたな、と思いながら鍋の火の始末をする。残っていた豚汁を器にわけきり、鍋を洗浄しつつ豚汁と残ったおにぎりを配りきって荷物をまとめ鞄に仕舞いながら先輩の荷物を差し出すと無言で受け取ってくれたのでまだ理性が勝っているなと思いながら手を引く。何とか真顔を作ってる先輩の手を引いてその人に何処に行けばいいか問いただし、言われた近くの私兵の場所へと歩き出す。
昨日からのことが伝わっているのか街中で視線と噂が飛び交い、巻き込まれないようそっと遠巻きにされるが、正しい判断だと思う。教えてくれた通りに巡回していた兵士に話しかけ、自分たちが探し回ってる人物で間違いないと確認してもらい、派遣された馬車で揺られること20分、大きな3階建ての屋敷に着き馬車から降ろされる。そのまま中へ案内され、そこから更に別の使用人へと案内が変わり奥へと連れていかれてある一室の前で止められる。使用人が軽くノックをしてからドアを開けてくれ、中に促されたのでシノダ先輩の手を引っ張って中に入ると昨日の領主がベッドに伏せっていた。隣に細身であるがしっかりとした人が立っており、その身なりから領主の家族だろうと当たりをつけ言葉を待つ。
「……急に呼び出して済まない、私はルクティス領の領主、こやつの兄のノーウィットだ。自己紹介は後で、要件は弟の病を診て欲しくてな。」
「……。」
「報酬は言い値で構わん。診るだけでもいいんだ、な?」
「……では、失礼ながら、診させていただきます」
何が起きてもいいように先輩の効き手を繋いだまま私から声を発して領主に近づく。そっと首元を触れ脈を測り体温を確認、同時に鑑定して無事に流行り病である不治の病にかかっている事を確認した。
「……これは、すぐに治療とは行きませんね。新種のウイルスにやられています。緩和するにしても抗体を考えるとあまりお勧めしません、それでも症状を緩和させますか?」
「……成程、ありがとうございます黒猫様。弟よ、とにかく今は休みなさい。御二方は客室へ、報酬のお話をさせてください。」
ふむ、このお兄さんは弟はどうでも良く、とにかく私に診せるという事をしたかっただけのようだ。シノダ先輩の手を引いてゆっくりついて行くと2階の談話室へと通された。香りのいい紅茶を差し出されながらソファに腰掛けると改めて自己紹介をされながら人払いをされ、ここだけの話、とひっそり話し出したことはこの領主が領民に対して暴挙ばかりで辞めさせたいとの話しだ。これを機にお兄さんが領地及び権利を引き継いで無駄に高い横領しまくりの税金を下げて地域活性化に力を入れたいとのこと。どこまでが本音か疑いながら静かに聞き役に徹して長々と時間を過ごし、すっかり冷めた紅茶を頂いてからお兄さんに向き合い話を遮る。そろそろ帰りたいので仕方ない。
「……お話中失礼、私たちに報酬は要らないので帰らせてもらいますね。あと、私には毒が効かないので。次がもしあるならその時はその命、掛けてもらいますから」
さ、行きましょう、と先輩を立たせて部屋を出る。何か喚いていたが兄弟揃ってカンに障る奴らだ。権利とか税金の使い方とか、好きにすればいい、私たちを巻き込むなと苛立ちながら面倒なので廊下で立ち止まりシノダ先輩を連れて帰城する。セバスチャンさんが出迎えてくれてようやく息をつき、シノダ先輩に大丈夫かと問おとしたところで突然腕を引かれ抱きしめられた。なにごと?と動かずにいると静かにシノダ先輩が頭の上で口を動かす。
「……薬、大丈夫だったか?」
「はい。睡眠薬のようでしたがその類は自作のやつ以外だと効かないので」
「……オレ、間違ったかな」
「いいえ、シノダ先輩は何も間違ってないですよ。間違ってるのはあいつらです」
「……マオ、オレはどうすれば良かったんだ?」
「そうですねぇ。好きなようにしていいんじゃないですか?どうせ結果は変わらないんですし」
「……結果、変わらないのか?本当に?」
「ええ、だって先輩は困ってる人がいたら届く範囲内で手を差し伸べますし、それ以外でしたらそういう運命だって諦めますでしょう?」
「……そう、だな。」
「今回も、そういう運命だったんですよ。遅かれ早かれ、あの町は一度潰れます」
「……。」
「次に領主になる人はいい人だと良いんですがね。復興に手を貸しますか?」
「……いや、なるようになる、だろ?」
ええ、そうですね。と返しながらこちらからも手を背中に回して軽く背中を一定のリズムで叩く。段々と落ち着いてきたのか少ししてからサンキュ、という言葉と共に離れていくのでこちらも腕を離して手を繋ぎ直してから荷物を置きに行き、身軽になったところで庭先に出てセバスチャンさんの紅茶をいただく。あぁ、やはり紅茶はこうでなくちゃ。シノダ先輩も満足そうに飲んでいるし、ある程度落ち着いたんだろう。
「……はー、マオが居なかったら本当にヤバかった。助かった」
「こちらこそ。危うく街が地図から消えるところでしたよ」
「今回はハズレだったな……サシャルドル、ある意味トラウマになりそう」
「薬も病も流行ってるしどの道消えてたかもしれませんね。次回に期待」
そうだなぁと会話になってないズレた言葉のキャッチボールをする。これは脳を空っぽにできるので度々行っていて、はたから見たらおかしく写っても私たちのルールには沿っているので温かく見守って欲しい。セバスチャンさんみたいに。
ここまでお読み頂きありがとうございます




