第43話
合言葉はファンタジーだから。
※無断転載禁止
※改変投稿禁止
誤字脱字はそっと直します。
「黒猫様ー!魔術教えてー!」
「新しいの教えてくれるって言ったー!」
「くろねこさまー!僕も!僕もー!」
「はい、では前回は水だったので今回は風魔法を教えましょう。」
準備は良いですか?と聞くと素直に返事をしてくれる子供たちに囲まれ、なるべく分かりやすく説明しながらお手本を見せて教えていく。少し離れたところで大人たちも真似していて、何人かは早くも成功していた。手本通りにやろうとしてもまだ上手くいかない子供たち一人一人に手を取って魔力の流れを整えてあげながら、アドバイスしつつコツを掴ませる。1人でもできるようになると早速風魔法を使って遊び出した子に、人に向けてはいけませんよと注意した。この魔法のいい所は洗濯物や髪を乾かしたりできるが、悪い所は人を傷つけるところだと真面目に注意する。どの魔術でも魔法でもそうだが、人を傷つけるのはやってはいけないこと、と子供たちの頭を撫でながら言い聞かせて、目を合わせながら言う。
「いいですか、私が教えるのはもしもの為です。お母さんやお父さん、弟や妹、お友達が悪い人たちに襲われたりさらわれた時に身を守るため、その為に教えています。遊び半分で人を傷つける為に教えている訳ではありません。」
しっかりと目を見て頷く子供たちに、簡単な遊びを教えてこれなら大丈夫ですと伝える。早速練習を兼ねた遊びに夢中になる子供たちに微笑みながらシノダ先輩を探すと、先輩は先輩で何かを教えてたらしく丸太を担いで何かを村人に囲まれていた。何故丸太?と思いながら足をそちらに向ける。
「……れで、そしたら……」
「……なら、……で、こう……」
「なるほ……こう……」
かなり集中しているらしいのでそっとしておこうと近くでシチューを受け取りその場で食べ始める。セバスチャンさんの具だくさんシチューもいいが、エルフの山菜シチューも美味いんだよなぁと平らげておかわりを貰う。とても美味しい。シチューを頂いてるとリリアンナさんがこちらへ来て笑顔で楽しんでるか?と聞いてきた。
「ええ、勿論。子供たちなんかは簡単なものですがもう風魔法を覚えて遊んでますよ。」
「ほんに、ありがとう。この国には学校など無いからなぁ。大人が教えるのも限りがあるから助かっておる」
「大人でも何人かは覚えてましたね、生活に役立てるといいんですが……」
「風魔法はエルフと相性が良いとされておるからな、使いこなせる物が多数いるのじゃろう。書物でもそうじゃが、真に理解しておらんと魔法や魔術は使えんからなぁ」
「はい。あとは慣れと感覚ですね。とりあえずこれで簡単なものとはいえ火、水、風は覚えたのであとは子供たちの特技や職業にそって応用ですね。上手く導いてあげてください」
「勿論じゃ。じゃが、最近は黒猫殿の授業じゃないとつまらんという子が多くてな……」
「それは申し訳ないです、すみません」
「ははは!責めてはおらなんだ、ところで、シノダ殿は丸太で何を?」
さぁ?何してるんでしょうね、と声を漏らす。視線に気づいたのか丸太を村人に手渡し私たちの方へ近づいてきた。何してたんですか?と問えば村の警備についてちょっとなと返された。え?丸太で?
「……なんだよ、丸太は汎用性が高いんだぞ」
「いや、そうでしょうが何故担いでたんです?」
「筋トレ」
「シノダ先輩はこれ以上ムキムキになりません」
「もしかしたらなるかもしれねーじゃん!シュワちゃんみたいに!」
「あの人大会連覇してる猛者ですからね?!」
軽率に根っからのボディビルダーを目指さないで欲しい。この話は置いといて、もう少し村の警備を強めた方がいいのは確かだ。何が起きるかわからないしね、備えあれば憂いなしである。それとたまたま近くを通ったサオリくんを呼び止めて手招きする。他の子達だけに教えるのもアレだし、と3冊の本を渡す。あっ、とシノダ先輩の声が降ってきたがどうやら覚えていたらしい。
「これを。この本はシノダ先輩が強くなった本の一部です。きっとサオリくんも強くなれるでしょう。難しいところは遠慮なく聞いてくださいね」
「懐かしー、てかマオそれ新しいの買ったの?」
「そりゃあそうですよ。先輩のはマーカーだらけでしたし」
「あっ、そういやそうだった。いやー懐かしいな、マオの突発テスト。先生のよりむずくてめちゃくちゃ勉強したなぁ」
「紅獅子様も、これでお勉強を?」
「おう、これは読むだけでも強くなれっから、しっかり読むんだぞ!」
「……! はい!」
「ほれ、サオリ。たまには子供たちと思いっきり遊んでおいで。今日の仕事はここまでじゃ」
わかりました!と元気にかけてくサオリくんを見送り、私たちもそろそろ行くかと視線を巡らす。シノダ先輩には伝わったようで、リリアンナさんに今日はこの辺で、と話している。子供たちに気づかれないようにそっと腕を組んでリリアンナさんだけに挨拶して転移する。大人たちには流石に気づかれていたがそっとしておいてくれたので助かる。子供たちの涙にはまだ弱いのだ。
ギルドの裏手に飛んできた私たちはフードをかぶりまっすぐ受付へ向かう。いつものようにギルドマスターに話があると繋いでもらい、少し待ってから奥へと案内される。執務中だったギルドマスターに早速本題に入り、箱を取り出す。
「なんだ?それ」
「黒猫印のハイポーションです」
「! それがか?!普通のと比べられないほど飲みやすいと噂の!色は黄色いな、効果はどれくらいだ?」
「瀕死なら7割回復ってところだ、試しに飲んでも大丈夫だぞ。」
「なら遠慮なく……ほう、少し甘いがこの程度なら確かに子供でも飲みやすいな、これを一体?」
「寄付しようかと。在庫整理で余ったからな」
「いいのか!?いや、ありがてーんだが、コレあれだろ?特許取ったやつだろ?大丈夫なのか?」
「むしろ貰ってくれないと困るんだ。オレたちは使わねーし、そのまま置いといても腐るだけだしな」
「……わかった、俺がしっかり貰い受けよう。数はどのくらいだ?」
「ざっと700くらいだ」
「…………ななひゃく」
「ギルドマスター?」
「……大丈夫だ、ちょっと、いや大分想像を越えられただけだ。気にすんな。……本当に本気で言ってるのか?」
「ああ、在庫整理だと言ったろう。効果は保証する」
「……ウン、もういいか。貰えるなら有難く貰うさ。」
「……まさかとは思うが転売「しねぇよ!」ならよし。どこに置いたらいい?」
「あー、廊下に出て二つ右隣の部屋が倉庫になってる。そこに入り切らなかったら廊下に出しといてくれ」
わかった、と立ち上がり部屋をでる。ギルドマスターは今日も頭を抱えていたが、気にしないことにした。二つ隣の扉を念の為軽くノックしてから入る。本当に物置というか倉庫となっていて物が乱雑に置かれていた。とりあえず奥から箱を取り出して置いていく。シノダ先輩くらいまで上に積み重ねて固定して回復薬のタワーを何本も立てて、奥にあった物を手前に置いていきなんとかギリギリ全部入った。そのままギルドを後にして帰城する。多分物音が無くなったから帰ったと気づくだろうと思いながら、セバスチャンさんに挨拶してお風呂に入る。しっかりめに汗を洗い流し湯に浸かりほっと一息つく。
「あーーー、疲れたぁ……」
「疲れましたねぇ。でもサオリくん達は元気そうでよかったです」
「そうだなぁ、シチューも美味かったしなぁ」
「セバスチャンさんの具だくさんシチューもいいですがリリアンナさんのとこの山菜シチューも美味しいんですよね」
「わかる、エルフの味は優しい」
「素材が生かされてます」
「いい意味で素朴な美味しさ。」
「……お腹すいてきました」
「……オレも。今日の夕飯なんだろ」
「なんでも美味しいから好きです……あ、魚買いに行くの忘れました」
「あ、風呂入っちまったな。魚は明日だなー」
まったりのんびり湯に浸かって、満足気にお風呂を上がる。食堂からはいい香りがしていて足早に進む。今日は洋食の香りがする、と扉を開けるとセバスチャンさんが料理を丁度運んできたところで、メインはロールキャベツだった。ご飯かパンか迷うやつ!とシノダ先輩と顔を合わせる。
「米?!パン?!」
「ほほほ、どちらも用意しております」
「あー!トマトソース!トマトソースのロールキャベツ!ゔー、私……パンにする!」
「じゃあオレも!あ、セバスチャンさん、ワイン残ってる?」
「はい、ございます。お出し致しますね」
「やったー!セバスチャンさんのワインがどのお店よりも飛び抜けて美味しいんですよね!」
「光栄でございます」
ワインをついで一礼して下がるセバスチャンさんにお礼を言いながらシノダ先輩とグラスをそっと近づける。当てると割ってしまいそうなのでお互いギリギリで止めて、乾杯と笑い合い、濃厚なトマトソースのロールキャベツを頬張りワインをいただく。キャベツの甘さと濃厚なトマトソースがワインとも良くあってお酒が進み、今夜は二人で一本空けてしまった。いい感じに酔い互いを支えにして寝室へ行き寝巻きに着替えてベッドにダイブする。きゃらきゃらと笑い合いくっついて布団を引き上げ、すぐに寝静まった。何となく、いい夢を見た気がする。
次の日、昼前に起き出して身支度を整える。シノダ先輩に髪が跳ねてると強めに撫でられて、髪を慣らしてくれたあと櫛を手に取られたので大人しく梳かれる。髪も整え終わり、シノダ先輩と庭先でティータイムにする。今日の紅茶のお供はレアチーズタルトだ。シノダ先輩は嬉しそうに1ピース毎かぶりついて幸せそうに頬張っている。サクサクのバター風味の生地に滑らかな舌触りのレアチーズクリームが合わさってとても美味しい。お店の味だと揃ってセバスチャンさんを褒め称える。勿論紅茶にも合わないはずがなく、二人でワンホール食べきってしまった。追加で作ったらしいクッキーもデザインもよし、味もよし、紅茶にも合う甘さ控えめな代物で、私はアイスボックスクッキーが、シノダ先輩はローズジャムクッキーがお気に入りになった瞬間だった。
腹も心も満たされ、背中にいつものカゴを背負いこんで向かうのはララニエル国の漁師さんの所。最近は学会で見つけた安心安全天然素材の玩具を貢いでいたからか、おじさんも奥さんも一緒に遊べて育児を楽しんでいるようだ。今日の土産は無着色の積み木だ。角も全て丸くなっておりこれなら長く遊べるだろうと購入したもの。喜んでくれるだろうかと先輩と魚屋へ突撃する。
「おじさーん!お土産持ってきましたよー!」
「まぁたか!そろそろやめねーと魚無料にするぞ!」
「安心しろよおっさん!今回もきっちり払うからよ!今日の土産はこれ、積み木だ!」
「積み木ぃ?……こりゃあ職人のところのか?角が丸くて……ああ、これなら息子も長く使えそうだ……って違う!」
「はい、こちらは紅茶の追加です!そろそろ無くなる頃かと思って用意しました!」
「ああ、そうそう。もうじきなくなる頃でよ……って違うんだって!」
「ユウキ、この間つかまり立ちしたんだって?」
「おうよ、今もだんだん活動場が増えてよ、ハイハイも上手になってなぁ。昨日なんかパーパ、パーパってよ」
「時の流れが早く感じるわー、また会わせてくれよ」
「おう……騙されねーぞ、何が望みだ?」
「ククク……焼き1の生が2、勿論3人前だ」
「毎度ありがとよ!もういいわ、坊主どもも早く嫁さん貰ってこい、仕返ししてやるから!」
「嫁です」
「夫でーす」
「「二人合わせて夫婦でーす」」
「だぁっはっはっはー!声ひっく!」
「おっさんこのネタ好きだよなー」
爆笑しながら膝を叩くおじさんに遠目になる。このネタ何回やっても爆笑してくれるのだ。とりあえず笑いを堪えながらお土産たちを店の奥にしまいに行き、戻ってくる時は奥さんもユウキくんも一緒に出てきた。
「はー、笑った……ほらユウキー、兄ちゃんどもだぞー」
「ユウキ、お兄ちゃんよ」
「にちゃ!」
シノダ先輩と可愛い可愛いとはしゃぐ。持ってきていた除菌シートでしっかり手をふいて、アルコールジェルでさらに除菌してから恐る恐るほっぺをつつく。ふにゃっとした感触に感動する。柔らかい。あ、先輩の指がはたかれた。そのままギュッと握られワーワー言ってる。赤ちゃんの可愛さの前に語彙力も型なしだ。
「そういえば奥さん、紅茶は大丈夫でしたか?香りとか、効能とか。」
「ええ、すっごく楽になったわ、ありがとう。ああいうお茶が増えるといいのだけど、中々見かけなくてねぇ。他の紅茶は飲めないのだけれど、あなた達が持ってきてくれる紅茶だけは大丈夫なのよ。本当、大助かり!」
「それは良かった!私たちじゃ月のものとかは分かりませんから。疲労回復ぐらいならわかるんですけどねぇ」
「ふふふ、そのうち彼女さんにもプレゼントするといいわ、保証してあげる」
「奥さんの保証付きなら安心ですね、あとは彼女を作るだけです」
ふふふ、と笑い合うのをシノダ先輩とおじさんが不思議そうに見てくる。女子会( )はここまでのようだ。またユウキくんの頬を軽くつついているとおじさんが魚の下処理を済ませてくれ、背中のカゴへ入れてくれたので、少しだけ多めにしたお代を渡しユウキくんに後ろ髪を物理的にひかれつつまた来ますと魚屋を後にする。セバスチャンさんにカゴを預け、夕方までに帰ることを告げて今度はギルドへと飛ぶ。
フードをかぶり裏手から出てギルドの中へ入り、まっすぐに受付嬢に話しかけに行く。Sランクの依頼もボードに出してくれたらいいのにと思わなくもないがそもそも私たちだけなので場所をとる訳にもいかないかと思う。シノダ先輩が話しかけ、適当に受け付けをする。今回はヤマモモイの討伐だ。山中に巣を張る20cmくらいの大きな毬栗のような魔物だが、体のトゲだけではなくサメのような鋭い牙が特徴で肉食である為非常に危険と言われている。ちなみに食べられなくは無いが食べても不味いらしい。
目的の山まで転移すると早速襲われる。どうやら餌がなく飢えていたらしく、聞いていた話よりとても獰猛だ。が、特に問題は無い。なるべく自然破壊しない方が余程難しく感じる位で、シノダ先輩は両手剣を、私は短剣を使い一匹一匹確実に仕留めていく。討伐が終わる頃には時間も丁度良く、そのままギルドへ戻り報告して報酬を頂き城へと帰り、真っ直ぐにお風呂へ向かう。いつもより汗をかいたためさっぱり洗い流し湯に浸かり一日の終わりを感じる。
「いやぁー頑張りましたねぇ」
「頑張りましたなぁ。自然破壊しない戦い方って難しいんだなー」
「あれ、先輩まだ慣れてない感じですか?」
「ああ、ずっとそういう細かいのはマオに任せてたろ?改めてマオの凄さを実感してる」
「あー、まぁ、そのうち慣れますよ」
「んー……オレはこう、ドカーンとスッキリする戦い方が好きかなぁ。それかマオとの撃ち合いとか手合わせとか一騎打ちとか」
「私相手ばっかですね。それより先輩は基本大剣使いですから、次は大きい的を相手取りますか」
ドラゴンとか、と続けながら伸びをして肩までしっかりお湯に浸かりながら旅行の準備もしないとなと考える。しっかり温まったあとセバスチャンさんお手製の和食をいただいてホクホクしながらベッドで転がり、重くなる瞼に逆らわずそのままゆっくり意識を手放した。
ここまでお読み頂きありがとうございます