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魔王様は引きこもりたい  作者: 黒駒
39/45

第39話

合言葉はファンタジーだから。


※無断転載禁止

※改変投稿禁止


誤字脱字はそっと直します。





私たちは今、少しだけ後悔している。


「次の方!お待たせしました、ご希望をどうぞ」


「200gをふたつ、それとナッツクッキーひと袋」


「ありがとうございます、お会計、銀貨25枚です!」


「ちょうどで」


「こちら商品になります、ありがとうございました、次の方!お待たせしました、ご希望をどうぞ!」


長蛇の列は捌いても捌いても無くならず、どうしてこうなったと言いたい。知り合いにしか言ってないと言うのに、何処かから情報が盛れたとしか言いようのない客足にとうとう私も回復薬でも使うか、と思うほどだ。

何をしているかって?教師たちに好評だったブレンドティーの茶葉の販売だ。ついでにクッキー数種類も置いてはいるが、基本紅茶一本。茶葉の量り売りとティーパック1箱12個入りの2種類。試飲は開始20分で単純に手が足らなくなり止めた。


以前ワイズマッド先生に紹介された学会から再び紹介状が届き、ブレンドティーの販売でもしてみるか、好評ならそのまま学園に売りに行こう、と言う話になり、改良をして疲労回復、精神安定に加え女性にも嬉しい生理痛軽減や悪阻軽減を追加したカモミールティーのティーパックを午前の部で発表し、午後から販売開始としたら予想外の嬉しい悲鳴でてんてこ舞いだ。時折、学園の先生が混ざって買いに来てくれ軽く挨拶もした。売りに行く前に買いに来るとは、情報が早過ぎないか?と思いながら手を動かす。最初はティーパックだけの販売予定だったのを、是非量り売りで欲しいと言う客があまりにも多かったので急遽量り売りを追加したのだ。ワイズマッド先生にもそうした方が良いとアドバイス頂いたのを真に受けるんじゃなかったと後悔している。


「次の方、お待たせしました!ご希望をどうぞ」


「やぁ紅獅子くん、茶葉を500gくださいな」


「先生!ご来店ありがとうございます、銀貨50枚になります」


「すごい売れているね、応援してるよ。はい、銀貨」


「ありがとうございます、こちら商品になります」


あ、また先生が来た。これで6人目だぞ、さてはワイズマッド先生が漏らしたな???と疑心を強めながら茶葉を筒に測り入れてく。とりあえずで上限は500gで量り売りは100g毎とさせて頂いてる。何処かから情報が漏れたのか時々回復薬は売ってないか聞いてくるお客さんもいたが、何故製作者だと知っている、とそのお客さんは警備隊さんを呼んでおかえり頂いた。本当、情報規制どうなってやがる。あ、残りが70ℓのポリバケツ一杯になった、これはまずい。


(先輩、残りバケツ1です)


(嘘だろもうかよ)


(ベル鳴らしてください、仕方ないです)


徐にハンドベルをカランカランと鳴らし、シノダ先輩が大声で繰り返し宣伝する。


「大変申し訳ありませんが、残り僅かですので只今より量り売りを中止、ティーパックのみの販売とさせて頂きます!代わりに個数制限をおひとり様5つまでとさせて頂きます!繰り返させて頂きます、量り売りを中止、ティーパックのみの販売とさせて頂きます!」


なるべく全員に行き渡るように今度はせっせとティーパックを作る。一つ当たり12gなのでさくさく茶葉を袋にと詰めて平にし、それを12個ずつ箱に詰めて行く作業に切替える。箱に詰める作業だけは魔術でオートだ。手が足りないので大目に見て欲しい。どんどん作り上げていき、お客さんに銀貨と交換で受け渡されていくのを横目に瞬時に補給もしていく。

販売開始からたったの3時間半で2トンの茶葉が売り切れたと言えばどれだけ人気か分かってくれるだろうか。やっと最後尾が見れるようになった所で茶葉の底がつき、今いるお客さんで終了とさせて頂いた。最後のお客さんまで笑顔で接客してくれたシノダ先輩には頭が上がらない。店仕舞いのベルを鳴らし、速攻で回復薬を手渡した。本日4本目だが無かったら喉が死んでいただろう。後片付けをまったりしているとワイズマッド先生が笑顔でやってきて、やはりと言うべきかしっかり学園に一報入れておいたぞ!あと布教もしておいた!と言うので殺意が湧いた。


「凄かったな!やはりあのハイポーションの作り手の新作と言えば宣伝効果がうなぎ登りだと思ったんだ!間違いはなかった!」


「間違いだらけっすね、もう茶葉の予備ないっすよ、再販までどれだけかかることやら……」


「そ、そうか?だがしかし、売上には貢献しただろう……?」


「そこはお礼しますが、初心者2人では捌くのがきつかったです。特に私は接客は出来ないですし、あ、これワイズマッド先生の分です。」


「なんと、取っといてくれたのか!ありがたい、その、なんだ。少し宣伝しすぎたな。すまなかった」


「……いーっすよ。ついでにクッキーいかがっすか?」


「もちろん、買わせて貰おう。ジンジャークッキーは残っているかね?あの独特の風味が好きなんだ」


「そう言うと思って取っといてありますよ、どうぞ」


「どこまでも見通されているような気分だ……」


対価である銀貨を頂き、売上を計算して確認していく。アルバイトで培ったレジの操作を覚えていてよかったとこれほどまでに思ったことは無い。はたから見たら謎の機会だろうがお手製なので仕方ない。まぁ、向こうの世界よりかなり単純な造りとなっているが、ないよりはマシだと思って作ってきてよかった。この機械もアレンジを加えて受注生産でもするか、とひっそり考えながら銀貨を数え終わり、計算とピッタリで不明金も出なかった事だしひと休みするか、とお金だけは懐に仕舞いこんで先輩と売り残ったクッキーをいただく。思ったより美味しくできてる、とサクサクと食べ進める。


「そういや、ワイズマッド先生は何を出店してたんすか?」


「私は肩こりや腰痛に効く入浴剤の販売だ。まるで草原にいるような青い香りがするのがこだわりでな、ひとつどうだ?」


「良いもの作りましたね、有難くひとつ頂きます。マオ、」


「はい、いくらですか?」


売上とは別の袋を取りだし、銀貨と交換で入浴剤を手に入れる。粉末タイプの入浴剤で、少し黄緑っぽい色味をしていた。カバンの中へ大事に仕舞い、ついでに森の香りも所望しておく。森林浴はマイナスイオンでリラックス効果があると前世の知識が顔出した。


「森、か。なるほど。いい案だ!早速取り掛かってみよう、助言、感謝する!」


では!と走り去るワイズマッド先生に元気だなーとシノダ先輩がこぼす。本当に生き生きとしてますね、と答えておく。しばらく休んで、ある程度回復したら店を完全に片付ける。机に折りたたみの椅子を乗せて布をかぶせ初期状態にしてから少し辺りをぶらつく。たまに買い食いをして疲れたので今日は寄り道もせずに帰城することにした。少しふらつきながらセバスチャンさんにただいまと挨拶すると察してくれたのかお疲れ様ですと一礼してくれ、私たちはそのまま荷物を置いて入浴剤を手にお風呂へ向かう。汗を流し、サラサラと入浴剤を混ぜてみると本当に草原にいるような香りがして流石だと先輩と言い合った。ゆっくり湯に浸かり疲れを癒していき、軽く伸びたりストレッチもしておく。すっかり体も温まり気分も晴れたところでお風呂から上がり食堂へ向かう。用意された和食に舌鼓を打ちつつセバスチャンさんに感謝をする。

その後はぐっすりと眠り翌日の昼頃スッキリとした目覚めに残しておいた茶葉をリリアンナさんとおじさんの所へ渡しに行く。両方とも喜んで受け取ってくれ、特におじさんは私たちの正体を知らないので反応も大喜びだった。


「こりゃまた有名なやつを仕入れたな!良く買えたなー、女子供にも良いって噂の茶だろ?坊主どもはすげーな!」


「そんなに有名なんですか?とりあえず奥さん用にってティーパックを用意しましたが……」


「これならお湯注ぐだけだしな。後片付けも楽だろ」


「なんでぇ、知らねーで買ったのか?この国じゃあっちこっちで噂してるぜ、『黒猫』の新しい回復薬だーって。誰でも飲みやすい、新しい、少量生産って噂のポーションを作った奴の新作だって、本当に知らねーのか?」


「そんなに噂になるほどでしたか……」


「そりゃああんなに並ぶわけだな」


「もう既に次回生産も難しいって言われてるぞ。お茶のことはよくわかんねーが、疲れも取れるんだろう?それだけでもすげぇのにほかの効能までついてるとなりゃ、誰でも欲しがるさ」


「今回は女性にも嬉しい効果付きですからねぇ」


「おっさんも奥さんと飲んでみろよ、たまにはそういう時間も大切だぜ」


「そうだな、たまには一緒にゆっくりしねーとな。いつも家事を任せっきりだしなぁ」


その後はユウキくんのことを少し聞き出したりして魚を買って帰る。セバスチャンさんに有名になってるとその事を話すと、茶畑を所望された。


「? え、作れるんですか?茶畑」


「はい。いつもは霧がかってる所がこの城の境目ですが、城主の意向により拡大はいくらでも可能なのです。なので、マオ様がよろしければ田畑も作り放題、という訳です。まぁ、魔力量にもよりますがマオ様ならざっと山の一つや二つは楽々でしょう」


「……とりあえず、セバスチャンさんがお手入れできる範囲でお願いしてもいいですか?私たちは茶畑の手入れなど知らないので……」


「オレ茶葉の作り方すら知らねぇ、木に生えてるんじゃねーの?」


「確か、生垣みたいなところの新芽を摘み取り発酵させ乾燥させたものだったはず……」


「概ねマオ様の仰る通りでございます。今はダージリン、レディグレイ、アールグレイ、オレンジペコ、イングリッシュブレックファスト、カモミール、ローズの蕪をひとつずつ所持しており、季節ごとに完成させ、その後複製魔法で増やしております。」


「あ、そういう感じだったんですね。もう庭とか本当、セバスチャンさんの好きにしていいですよ。突然ストーンガーデンにしても良いですし桜を植えても良いです。」


「ほほほ、ではお任せくださいませ。」


今の洋風な庭も城に合ってて好きだが手入れを任せてる時点でセバスチャンさんのものと言うイメージが強く、好きに開拓してもらうことにした。

私たちの作ったブレンドティーはセバスチャンさんのカモミールティーに薬草や回復薬を混ぜ味と香りを整えたものであるので、セバスチャンさんが居なければ始まらないのだ。一応複製はしてあるが、それも実験用に少量なので量産は今回限りで、残りは知り合いに配る用で大量に作っても半分以上は残す手筈だったのだが見事に空になり、どうしようかと思っていたのだ。あまり複製を重ねると味は落ちるし苦味や雑味も増える事が実験でわかったので大量生産は本当に難儀したのだ。業者では無いから余計に。


「そろそろセバスチャンさんに給料を渡すべきでしょうか?」


「一応食費は払ってるけど、それ以外にも任せっきりだしなぁ。正式に毎月出すのも良いんじゃねぇか?」


「相場っていくら位でしょうか……」


「城の管理費だからなぁ……」


「月額金貨50枚でも少ない気がします」


「オレたち今は稼いでるもんな。けどこの先はどうなるか分からねーからなぁ」


「……マオ様、ヒデキ様、これは私の趣味でございますので、給与など恐れ多いです」


「あ、セバスチャンさん。でも色々やって頂いてますし……」


「代わりに衣食住と身の安全を確保して頂いてます。吸血鬼族は狩られる側ですから、何よりもありがたい事なのですよ。外出もさせて頂いてますし、本当にこの上ない生活で満足なのです。ですから給与は頂けませんよ」


「そこまで言うなら……そういうもんなんかな。まぁでも、何かしら使う羽目になったら金庫から使っていいからな」


「ですです。今の所高給取りなので、遠慮なくどうぞ」


「ほほほ、ありがとうございます」


本人がこう言ってるなら押し付ける訳には行かない。使う時になったら使えばそれでいいだろうとセバスチャンさんの紅茶を頂く。やはり美味しいこれに、まだまだ改善の余地があるなと思いながら喉を潤す。今日も美味しいです、と素直に伝えると嬉しそうに微笑んでくれた。シノダ先輩もおかわりを頂いていて笑顔が止まらないみたいで、こちらも嬉しくなる。

この日もまったりとし、翌日からまた回復薬の改良と言うより魔改造を作り始めた。ポーション、紅茶と来て、持続性回復薬があったらいいな、という事で試しに作ってみるが中々上手くいかない。5秒に少量、それが40秒と言う微妙な物が完成した。これを改良出来ないか数日かけてシノダ先輩と実験を繰り返し2週間かけてできたのは回復率約38~40%毎5秒×40秒の品物だ。味はスポーツドリンクに近い味に拘り、とても飲みやすいのでは無いかとシノダ先輩と頷きあい、早速ワイズマッド先生にひとつ送った。とりあえずあの人に送れば勝手に特許を取ってくるという謎の公式が定着しつつある。


そして予想通り特許を取得しポーションと共に少量生産を開始する。レベルが4桁を超えたあたりで無視するようにもなり、シノダ先輩も何かを悟ったのかビーカーの破壊数を数えるのをやめていた。お互い大変ですね、と視線で言い合い黙々と回復薬作りに精を出し、予備もこれだけあれば安心、という所で今度は連日ギルドで討伐依頼や駆除を受けていき報酬金を集めながら素材も集めていく。ギルドマスターにどうした?と聞かれたが、最近篭ってたから動きたくてとシノダ先輩が返してくれたので、それを貫き通した。


問題が露見したのはそのギルドに通っているときだった。


「なぁおい黒猫よ、お前のポーション買わせてくれねーか?」


「どうせ持ってんだろ?少し分けてくれるだけでいいんだ」


「金貨3枚でどうだ?」


「ならこっちは5枚だす、だから分けてくれ!」


「ずりぃぞ!なら、俺はこの秘伝の武器と交換でどうだ?」


「……悪いが、黒猫は売らないと言っている、諦めてくれ」


「はぁ?!紅獅子には聞いてねーよ!」


「黒猫の人見知りは今に始まったことじゃねーだろ、回復薬もちゃんと正規の店で買ってくれ」


「! うるせぇ!あんたはいつでも譲ってもらえるだろーが、俺たちゃそうはいかねーんだよ!」


「そうだそうだ!どうせパーティだからって優先してもらえんだろ!」


その一言でブチ切れた私の周りが物理的に凍る。


「……はぁ?」


地獄の底から這うように低い声で威嚇をする。シノダ先輩は自分で作った分しか基本使わない。あんなに失敗を繰り返して、夜通し練習を重ねて何とか作り出した分だけと決めて、在庫管理をしながら使っている。それを、好きなだけ私から貰ってると勘違いする馬鹿共に、頭が来た。


「紅獅子は、何度も何度も何度も何度も繰り返し失敗してようやく成功したやつしか使ってませんが?私の作ったものを飲む事など試薬以外はありませんが?どれだけ私の薬の方が効くかわかっていても失敗作に近いものでも己で作ったものしか使わない紅獅子に、今なんて言いました?」


「ひ、ひぃ……!」


「譲ってもらえる?優先してもらえる?ねぇ、それは誰に言ったんですか?誰しもが諦めるような努力をひたすらに重ねる紅獅子ですか?それとも楽して手に入れようとしたあなた達ですか?」


「そ、それは、」


「ねぇ、どちらがずるいんですか?ねぇ?」


「……あーあ、だから黒猫は売らないっつったのに。おら、黒猫、帰るぞー。」


「こいつらを細切れにしてから帰ります。」


「ハイハイどーどー。おい、お前ら、死にたくなかったらさっさと謝りな。んで、回復薬はちゃんと正規の店で、な?」


「ご、ごめんなさい!」


「許しません」


「はいはい行くぞー」


「許しませんから!」


「そーだなー」


半ば引きずられる形でギルドを後にする。あいつらに災あれ、と呪詛を吐きながら自分の足で歩き出すが手は繋いだままだ。絶対許さないとブツブツ止まらない私の頭をわしゃわしゃとシノダ先輩が撫でる。最終的には唸りながら先輩に抱きついて城の中を抱えて貰いながら歩き回った。


「ゔーーー、先輩ぃ」


「おー。先輩だぞー」


「先輩はちゃんと自己管理してるもん!騙さない限り飲まないもん!」


「おー。そーだぜー」


「そう言うなら作ってから言えよぉぉぉ!」


「そーだなー」


「ほほほ、マオ様はヒデキ様の事に関すると型なしですねぇ」


「オレも似たようなとこあるんでお互い様って感じかな」


「ゔーーー、先輩の努力を認めろぉ!」




こういう事があるから、他人は嫌なんです。





ここまでお読み頂きありがとうございます

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