第38話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
ピピピとなる電子音につい破壊しそうな勢いで叩きつけるように腕を伸ばす。何度目かでスイッチを押し、電子音を止め起き上がるとシノダ先輩も起き上がった。
「んぅ……あさ……」
「おはよう、ございます……」
「ひさしぶりだな……はやおき」
「ですねぇ……」
時計が指す時刻は4時半少し前。教師はやることが多いので早起きなのだ。もそもそと立ち上がり顔を洗って着替える。昨日シャワー浴びた時についでに洗浄して乾燥させておいたシワひとつないスリーピーススーツに腕を通して交代で寝間着と下着を洗浄し、着替え終わったシノダ先輩が朝ごはんを作ってくれている横で私は紅茶を用意する。沸騰したお湯でカップを温めながら茶葉がお湯に舞うのを見て、カップのお湯を捨てる頃には色も落ち着いて香りも出てくるのでゆっくりポットを2、3回巡して少し置いてからカップに注ぐ。ふたつのカップに入れ終わったら冷蔵庫に入れて置いたはちみつレモンのスライスレモンを1枚入れてなんちゃってホットレモンティーの出来上がりだ。食事用のテーブルに出来上がった食事とともに並べていき、全部並べ終わる頃にはシノダ先輩が洗い物を終えて席に着くので同時に挨拶をしていただく。今日はスクランブルエッグのホットサンドと海藻と玉ねぎのサラダ、チキンステーキにプチトマトが添えられていた。
「おいひぃです」
「サンキュ。今日は復習次第で全体実技だっけ」
「ん、そうです。Aクラスは12人居るのでちょうど6ペアになりますし、撃ち合いをしましょう」
「撃ち合いかぁ。確かに強くなれるけど……まぁいいか。強くなれば学園長も文句言わねーだろ」
さくさくと食べ終わり、ゆっくりと食後のティータイムを取る。5時少し前には片付けもして、今日必要なものを再チェックして仮面を付ける。スタンドミラーで最終チェックして部屋を出て鍵を閉めて職員室へ向かい、挨拶しながら職員室の扉をくぐる。3人の先生に挨拶を返され、そのまま用意された席に着いて早速仕事を始める。日誌のチェック、書類制作、授業で使う物のチェックに場所の確保、職員室の壁にある黒板に時間割を見て被らない所にマグネットを動かして置く。ちらほら先生が集まってきたところでお茶の用意をする。昨日好評だったカモミールティーのブレンドを温めて置き、人数分のカップを用意してるとシノダ先輩が端から注いでくれたのでお盆に乗せていく。全部入れ終わる頃には先生も粗方集まっていたのでお茶を配っていき、職員会議が始まるのを待った。
「……皆さんおはようございます、それでは職員会議を始めます。本日は……」
報告を上げて予定を連ねていく先生の話を聞きながら、今日の巡回当番が割り振られていく。私たちは昨日同様昼の巡回、ただし今回は午後だけとなったので頭の中で予定を組み替えていく。報告の順番が来たのでシノダ先輩が立ち上がり淡々としていく。問題なく終わり紅茶を差し出してそれを飲むシノダ先輩に微笑みながら他の先生の報告を聞きて、一周したところで職員会議も終え、各自書類などを持ち職員室を後にする。
私たちも職員室を後にして誰もいないAクラスの教室に入り、早速掃除を始めた。高いところはシノダ先輩が、手の届く範囲で高いところから私も掃除していく。黒板もピカピカにし、花瓶の水も交換して、机や椅子を拭き、床掃除を終えて空気の交換に開けていた窓を閉じていき、掃除用具を洗って乾燥させてロッカーに仕舞い、教卓に色々準備をしていると早くも時計が8時を指しており登校してくる子達が教室に入ってくる。シノダ先輩が挨拶をしているのを伺いながらこっそりレベルチェックをしていく。昨日より上がっている子と、上がってはいないが効果が増えている子に今の所別れており、ちゃんと復習したのだなと分かる。
全員揃い少ししたら鐘が鳴ったので遅刻者居らず、また復習してない子もいないので予定通り実技練習となった。
「……おはようございます、それでは、本日の授業を始めます。皆さんちゃんと復習してきたようなので本日は全員実技練習となる。まずは2人1組になってくれ。今回の実技はペアで行う」
ぞろぞろと立ち上がり無事6組のペアとなりそこから教室を移動する。校庭に出るとジャージに着替えた生徒たちが集まり、とりあえずひとまとまりでシノダ先輩の話を聞く。
「皆集まったな、じゃあ説明していくぞ。まずはペアで先行と後行に別れる。先行は攻撃、後行は防御で撃ち合ってもらう。ただし、後行の防御壁が出来るまで先行は攻撃してはいけない。まずは見本だ。ゆっくりやってみるからな、いくぞ黒猫」
パァンと破裂音がなり「こんな感じだ!」と笑顔で言うシノダ先輩に恐る恐る手をあげる生徒が一人。なんだろうかと名前を呼ぶ。
「……あの、み、見えませんでしたので、もう一度、お願いします……」
消え入りそうな声で、そんなに早かったか?と首を傾げながらもう一度な!と笑顔で言うシノダ先輩に構えた。再び破裂音がなり響き、また静まり返る。
「どうだ?わかったか?」
「……あ、あの、見えなかったのはオレだけでしょうか……?」
「ん?……早すぎたか?かなりゆっくりやったんだが……」
「ええ、あの、はい……」
「んー、じゃあ交代するか、黒猫、やってくれ」
シノダ先輩が防御壁を作り出したのを確認し、みんながちゃんと視認してからゆーっくり術を発動する。イメージは水飴が垂れる速度だ。
(? マオ、どうした?)
(いや、このレベルじゃないと視認できないのかと)
(まじか、オレ達ってそんな早かったのか?)
(多分……?)
それから小さな火の玉を作り出し、シノダ先輩の防御壁へと当てる。バシュウっと当たり火の粉すら残さず消えて恐る恐る生徒たちを見る。
「……見えたか?」
「あ、はい!見えました!」
「なるほどなー、この速度な、悪ぃな!よし、説明続けるぞ。今みたいに先行は攻撃をする、後行は防御する、そうしたら先行が防御壁をだし、今度は後行が攻撃をする。この繰り返しだ!いいか、あくまでも訓練のため怪我しないようにな。さて、始めっ!」
号令後に短く笛を吹きバラける生徒たちを見守る。早速防御壁を作り出す子もいれば少し手間取っている子もいて、その子たちに向けてアドバイスをしていく。
「防御壁は水が氷になるイメージだ!冷え固めて作れ!そこ、早いが薄い、もっと分厚くしろ、実践だと怪我じゃ済まないぞ!君、上手だぞ、その調子!防御は踏ん張れ!攻撃は集中!」
ゆっくりと行ったり来たりして全体を見回しながらアドバイスをしていくシノダ先輩。私はメモを取りながら時計で時間を測る。10分やったら5分休憩で、3セットやらせたところでノロノロと手をあげる生徒が。なんだろうかと名前を呼ぶ。
「あの、先生達のワンセットが見てみたいです」
「オレ達の?手本なら最初に見せたが……」
「そうじゃなくて、本気の、やつです」
「本気かぁ。どうする?」
「まぁ、生徒の休憩の間なら良いでしょう。少しだけですからね」
今度は目を輝かせて全員が食いつくように集まってきた。少し生徒たちから離れてシノダ先輩と向き合いそれじゃあ、と始める。打って防御、打って防御を繰り返し30秒で止めて、生徒たちを見てどうだったと先輩が聞く。私は地面がえぐれてたのて足で埋め直す。
「……えと、見えなかったです」
「音が凄かった」
「地面のえぐれ方えぐい」
「んー?まぁ、3割ならこんなもんだろ?」
「3割?!3割って言ったよこの人!」
「マジモンじゃん!SSSランクすげぇ!」
「黒猫様微動だにしなかったよね?!」
「先生ってなんだ?先生ってなんだ?!」
「なんか凄すぎて表現出来ない!」
「怖い……凄すぎて怖い……」
「人間辞めてる」
「あっははー!そんな褒めてもなんにも出ないぞー!さ、休憩終わりだ、ほらみんな立てー!」
「え?!この流れでオレ達やるの?!嘘でしょ?!」
「やらない奴は減点すっぞー」
おっしゃあ!やってやるぜ、皆立てよ!とあちこちから声が上がり立てない者は隣の者が支えて立たせていた。全員立った所で始めの合図の笛を吹きまた攻撃と防御を繰り返しさせる。また3セットやらせたところでエネルギー切れなのか、段々と遅くなる子がちらほら見えてきたので笛を鳴らし今日はここまでと先輩が言うと途端に座り込むものが8人、残り4人は完全に沈んでいた。
次の授業に遅れるなよーと声をかけて着替えに促すが、友達同士で何とか立ち上がるものもいればシノダ先輩が手を貸す人もいる中、私は完全に沈んだ子を起き上がらせて浮遊魔術を応用して保健室へ運ぶ。ずるいとか聞こえたけどこの子達の意識は遠く彼方なので仕方ないのだ。この子達は病欠扱いだな、と思いながら保健室の扉を開けて搬入すると、保健医が驚き何事かと聞いてきた。ただのエネルギー切れだと説明して軽く身体チェックして納得してから簡易ベッドへと促されたので一人一人運んで寝かせていき、後のことはお願いして私も教室へと戻りシノダ先輩と合流する。
お互いお疲れ様と言い合い、着替えた生徒たちがぞろぞろと入ってきては机に突っ伏していて、少しだけ次の授業を担当する先生に申し訳無くなった。引き継ぎノートに授業内容を示し故に病欠4人と書き足しておき、鐘が鳴ったので授業を終える。
「今回はここまで、次は座学だから心配すんなよー。」
元気に挨拶するシノダ先輩に続いて私は廊下に出て職員室へ向かう。中に入ると授業を見ていたのか、突然何人かの先生に囲まれ驚く。なんだなんだと聞いてみるとやはり授業でしたお手本のことで、見ていなかった先生も音は聞こえたと混ざってきた。
「アレは何をしていたんだね?!」
「生徒たちは無事か?!」
「あんな方法があるとは……」
「アレでレベルが上がるのか?」
「もはや軍人では?」
「軽率に人間を辞めないで頂きたい」
「え、えっと……オレたちが編み出した練習方法というか……軽いスパーリング的なのでして……」
「アレで?!アレで軽い?!」
「実力の3割しか出してないので、軽く身体を動かした程度ですね。実践に役立ちますよ?攻撃と防御の基礎練なので」
「嘘だ……」
「流石SSSランク……」
「軽率に人間を辞めないで頂きたい」
「この人達呼んだの間違ってないか?」
「……失礼!紅獅子と黒猫が生徒を病室送りにしたと聞いたが何事かね?!」
「あ、学園長、ただのエネルギー切れなので大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なのかね?!前代未聞だぞ!」
「えー……オレたちのやり方に不満があるならどうぞ、帰らせてもらうんで!」
「嬉しそうに言うことでは無い!」
引き継ぎの先生にノートを渡し、先輩を他所に報告書を書き出す。文句言ってくれた方が、じゃ!帰るんで!って言えるのにな〜と思いながら騒ぎの収拾をシノダ先輩に任せ今度はお茶を入れる。朝作り置きしておいた分も無くなっていたので余程このブレンドが気に入ったんだな、と思いながら多めに作る。確かに、着任初日で一人生徒を追放処分し2日目で4人病室送りと聞けば問題視されても文句は言えな……言うな。普通に言っちゃうな。事が事だから言っちゃうな、なんて思いながら茶葉がいい感じに降りたのでクルクルと回してまた落とし、ゆっくりカップに入れていく。両手に持って先輩のところに戻るとまだ言い合いをしていたので合間に紅茶を渡す。それに対しても怒られた。解せぬ。
「……であるからし、て、紅茶を飲むな!話を聞いとるのか!」
「……で?聞いてますが?」
「史上にもないことをするなと言ってるのだ!だいたい……」
「……。ズズ」
「……生徒を思えば……であるから……」
(マオ、クッキーか何かない?小腹すいた)
(カップケーキならありますよ)
(おっ、それちょーだい)
「……! 何を食しとるか!ちゃんと聞いとるのか!?」
「聞いてますって。」
「ええい、食べる手を止めろ!黒猫も紅茶を渡すな!バカにしとるのか?!」
馬鹿にしてません。相手にしてないだけです。影で笑われてるのにも気づかず怒鳴り続ける学園長と馬耳東風な私たちはさぞ面白く映るのでしょう。そしてとうとう聞きたい言葉を聞けた。
「ええい、君らはもう良い!明日からは来なくていい!臨時教師はクビだ!」
「えっ?!本当ですか!やったぁ!じゃあオレらやる事あるんで、失礼しまーす!」
「何を喜んでおる!どこに行くつもりだ、まだ話しは終わってないぞ!」
学園長の怒鳴り声が響く中、廊下に出た瞬間寮室へ転移して早速荷物を纏め、Aクラスの一人一人に手紙をしたためる。個人に合った練習方法、オススメの本、軽いアドバイス。一人1枚ずつ書いていき丁寧に封筒へと入れ閉じる。しっかり蝋を垂らし印を押して宛名を書いて1枚1枚作業の用に素早く作り、蝋を乾かしている間に掃除をしていく。掃除が終わる頃にはベッドマット以外は空にしてピカピカになり、お昼はシノダ先輩が転移で素早く2人分のお弁当を頂いてきたのでそれを食べ、午後の巡回に向けて準備をしてまったりティータイムをとったあと鐘が鳴り響いたので時計を確認しながらそのまま部屋を出て鍵を閉め巡回へ向かう。
特に変わりはなくサボっている生徒も見つからず、修復する所もなく空き部屋も屋上も確認し時計を見計らって一周を終え最後に保健室へと向かう。ちょうど入れ違いで生徒を帰したようでガランとしていた。保健医に何か変わったことは無かったか聞いても、健康体そのものだったと笑顔で断言していただいたので、こっそり安心しながらお世話になりましたと告げ後にする。まったり歩きながら職員室へと入り、普通にお疲れ様ですと挨拶と引き継ぎをしてすぐに部屋へ戻った。お互い交代で軽くシャワーを浴びた後ベッドに入りくっついて仮眠を取る。
夜中に起き出してマットも仕舞い、忘れ物が無いか確認したあと鍵を外のドアノブにかけてそっとAクラスの寮へと向かい、ドアポストに手紙を入れてゆく。やり忘れたことは無いか静かに確認して学園を去った。もはやプロの犯行である。
「セバスチャンさんただいまー!」
「おや、おかえりなさいませ。マオ様、ヒデキ様」
「クビになったから帰ってきたぜ!」
「おやおや、ほほほ。随分とお早いもので」
「学園長を怒らせたら一発だった!それより夜食とかないか?」
「おにぎりならすぐにお作りできますよ」
「やったぁ!塩むすびが食べたいです!」
「オレ鮭!鮭がいい!」
「はい、ではすぐにお作りになりますね」
騒がしく中に入っていき、一旦私たちは着替えに寝室へ行き荷物も置いて食堂へといそいそと足を運ぶ。セバスチャンさんお手製のおにぎりとお吸い物とたくあんが並んでいて時間も気にせず元気にいただく。あーコレコレ!美味しい!と言いながら次から次へと口に運び、セバスチャンさんも笑みが絶えない。お腹いっぱいになったあとはお風呂へ行って軽く体を流したあとお湯に浸かる。じんわりと温まりながら息をつき、しっかりと体を温めて解した後寝室へと向かい、ベッドへダイブする。そうそうこの広さよ、と思いながらも真ん中でくっつきながら眠りについた。
これで臨時教師はおしまい。ギルドも平和になるだろう。
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