第36話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
シノダ先輩とセバスチャンさんに仕立てて貰った黒いスリーピースのスーツは私直々にエンチャントを施し無敵の鎧と化した物となり、それを先輩とお揃いで着込み、私は髪を束ねる。姿見で崩れていないことをチェックしながら手袋を嵌めて、ネクタイの位置を調節する。バッチリ着込んだことを確認し合い、最後にエンチャント付きの狐の半面を目元につけて頷き合う。同胞の仇は晴らさせてもらう、その一心で城を後にする。
「行ってらっしゃいませ、マオ様、ヒデキ様」
「行ってきます、セバスチャンさん。留守の間はお任せします」
「行ってくるぜ、セバスチャンさん。体に気をつけてくれよ!」
「……どうか、ご無事で」
深く一礼するセバスチャンさんに笑顔で答える。この先は、私たちにとっては戦場も同義。心が高まるのを覆い隠して転移する。今は懐かしきルルティエ学園へと。
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絢爛豪華な調度品に囲まれた学園長室の奥で座るのはこの学園の長である者。しかしその威厳は無さそうで焦りが目立つ。職員の半数以上が集まるこの学園長室で、その時は今かと全員が落ち着こうと必死に抗っていた。
「……学園長、失礼ながらもう一度仰って頂けますか?」
「っだから、あの『紅獅子』と『黒猫』が臨時教師として本日より3ヶ月!滞在する!彼らの言うことは絶対とし、如何なる理由でも遂行せよ!」
「ありがとうございます、どうやら聞き間違いではないようで安心致しました。」
「……ところで、今学園で起こっていることは彼らはご存知で?」
「わからん!私は、私にはわからん、何を知っていて、何を知らないのか、わからないのだ」
「……なるほど、そうでしたか。」
慌ただしく叩かれた扉に全員が振り向く。焦燥、敵意、安堵。それぞれが抱きながらその扉が開かれ、話題に出たばかりの2人が到着したと報告がされた途端、学園長はとうとう顔を沈めた。まるで、断罪されたかのように。
ほんの数分後、案内係に着いて来た2人はおかしな面を付けていたこと以外、突飛してはいなかった。
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「……お久しぶりです、学園長。此度は臨時教師としてお呼び頂きありがとうございます。改めまして、『紅獅子』と、彼が『黒猫』です。教師の皆様方、どうぞ未熟者ですがよろしくお願いします」
シノダ先輩に則って深く一礼し、先生方には少しだけ浅く礼をする。厳粛な空気の中で真っ先に声を上げたのは学園長ではなく、以前Dクラスでお世話になった先生だった。
「……お久しぶりです、シノダ君、スズキ君。何か困った事があれば遠慮なく何時でも相談ください」
「はい、早速で申し訳ありませんが、自分たちは基本二人一組として動かせて頂きます。理由は学園長には既にお伝えしたので、質問等があれば学園長か自分にお願い致します。」
「……そうですか、わかりました。教鞭は基本的に紅獅子くんが取り補佐の形で黒猫くんを傍に居るよう計らいましょう。学園での決まりは覚えておいでですか?」
「ありがとうございます。規則は復習してきましたが、変更されている部分もあるかもしれませんので後ほど確認します。」
「では、まずは職員会議と行きましょう。皆さん質問があれば手をあげてください。では……」
粛々と進められていく会議に対し、私は他のことに集中する。学園内に流れる魔力の流れを沿って内側から重ねられている防御壁や建物の解析、鑑定、一部変更に強化を重ね、無断で私たちの居やすいように魔改造していく。気づいたのはこの中でもたったの二人、だが、その先生達も黙って見過ごすようだ。学園長が裏で何か言ったな、とアタリをつけつつ何も言われないのならと改造を進める。ある程度予定していた魔改造も終わり、隅まで防御壁の強化をしっかりと再確認してから議論へ耳を向けた。
「……については以上です。続いて、今特に問題視されているとある生徒ですが。これ以上授業を真面目に受けない場合は処罰対象とし……」
(何か想定外のことはありましたか?)
(いや、今んとこ学園長がオレらについてある程度の自由を許可したかも程度のことだけだ)
(了解。こちらも二人には気づかれはしましたが何もアクションを起こさなかったのでかなり自由に動けるようです)
(サンキュ、まずは第一門突破ってとこかな)
「……以上で、会議を終わりたいと思います。なにか質問は?」
「ハイ、いいですか?」
「紅獅子くん、何かね」
「出来ればなんですが、Sクラスの寮室を仮住まいとして一室貸して頂きたいのですが可能ですか?」
「……ふむ、学園長、如何ですか?生徒の守りもより強固になるかと」
「……確かに、今は使われておらんしな。構わないだろう。紅獅子、黒猫、両名にSクラスの寮室使用を許可する」
「ありがとうございます。質問は以上です」
「では、他に無いようであればこのまま解散とする……本日もよろしくお願いします」
よろしくお願いしますと木霊し、次々と学園長室を出ていく。私達は最後まで残り、学園長に一礼してからゆっくり扉を閉めた。無言でシノダ先輩の後を着いて行き、懐かしの寮室へと向かい部屋へ入る。掃除はされていたようだが家具が動かされてない為私以来Sクラスは出てないようだ。軽く洗浄呪文を掛けて荷解きをしていく。内ポケットから色々取り出して各々使いやすいように置いてゆきベッドマットレスもいつも使ってるメーカーのものと交換する。家(城)と比べるとサイズが半分くらいだが、結局くっついて寝るしいいかと話し合い済だ。セバスチャンさんとお揃いの銀時計を開き、時間を確認してそろそろかと授業に必要なものと護身用のものを隠し持ち、先輩と確認し合い部屋を出て鍵をかける。コツコツと靴を鳴らし担当するAクラスの教室へと向かう。途中、通り過ぎる生徒に挨拶をしたり、手を振りながら歩き、Aクラスの扉に手をかけようとした時、早速とばかりに例の生徒が近づきながらカナギリ声をあげた。
「きゃ〜〜〜!もしかしてぇ、新しい臨時の先生ですかぁ?!わたしぃ、ハルナって言いますぅ〜!よろしくお願いしまぁ〜す!」
「……こんにちは、新しくAクラスを臨時担当する者だ。君はAクラスか?」
「えっとぉ、ハルナはBクラスでぇ〜……」
「なら早く教室へ行きなさい。授業が始まってしまうぞ」
「えっ、ちょっ」
何か言いかけたようだが無視してAクラスの扉をガラリと開ける。と同時に懐かしい鐘が鳴り響いてスゥと空気を短く吸う。中に入ると同時に扉を即座に閉めながらハルナとかいう問題児を鑑定した。なるほど、後でシノダ先輩と対策を変えねばと思いながら教卓に着く。
「……皆さん席について、授業の前に自己紹介から始めようと思う。オレはギルドSSSランクの通称紅獅子。こっちがJランクの黒猫だ。何か質問があれば手を挙げて」
笑顔で紹介された時に軽く会釈をする。質問は特になさそうなので早速授業にとりかかることにした。ざっと見た感じ、プライドが高そうなのばかりがこのクラスには集まっているようで、これも解決しなければいけない問題なのかとため息を吐きたくなった。
「では、授業を始める。まず君たちに覚えて欲しいことは三つ、一つ目、怪我の応急処置、二つ目、トリアージ、三つ目回復術だ。」
シノダ先輩の言葉に合わせて黒板に書いてゆく。説明を真剣に聞くもの、とりあえず板書しているもの、胡散臭そうに見ているもの、既に眠っているもの。多種多様だと言えば聞こえはいいが学級崩壊寸前とも言える。ちゃんと聞いてるものには加点を、眠っていたり別の勉強をしているものには減点をメモしておく事も忘れない。シノダ先輩はスルーして応急処置やトリアージの重要性、的確な指示を教えている。これも前日に話し合って決めたことで卒業してから一番必要だと思った経験からなる授業だ。そしてその授業に着いてくるものと来ないものを篩にかけ、着いてくる者には後々実践を、来なかったものには単単としたテストを受けてもらう。もちろん、赤点続きだとクラスダウンだ。
「……という場合、怪我を優先するより状況の把握を……」
カツカツと黒板に文字を連ねながら外を警戒する。どうやら彼女はサボって扉の近くに座り込んでいて、取り巻きが3人、チヤホヤしてるみたいだ。授業に乱入してこないだけマシだろうかと思いながら白いチョークを削ってゆく。鐘がなる頃にシノダ先輩の説明も纏まり、使った教本を閉じながら号令のように一声で解散を促す。
「……以上、今回はここまで。何か分からない所や質問があれば遠慮なく言ってくれ。それでは」
(先輩、教室前に注意です)
(了解)
私は一礼してからシノダ先輩の後に続いて教室から出る。まだ鐘の音の余韻が響く中、すぐにハルナが寄ってきた。
「! 先生、あのぉ」
「……君、授業はどうした?」
「えっとぉ、ハルナにはヨユーすぎてつまんないから、先生と勉強したくてぇ。それにハルナはぁ、聖女だからぁ」
「……成程、留意しておこう。それでは」
「! ちょっ、待ってくださいよぉ!」
「まだ何か?」
「何かって、ハルナは聖女なんですよぉ?一緒に勉強したいのに、どこ行っちゃうんですか?!」
「……生憎、予定は詰まっていてね。こう見えて忙しいんだ。どうしてもと言うなら他の先生に掛け合ってくれ」
これ以上は関わりたくないとばかりにさっさと歩き出す。何やら自己主張しながら着いてくるが相槌もせず完全に無視しながら職員室まで行くが、流石に中までは着いてこなかった。扉を閉め終わった瞬間についため息をこぼす先輩に、中にいた教師陣に同情の笑みをされその中の一人に早速絡まれましたかと言われ頷く。
「まさか1限目からサボるとは思ってもいませんでしたが、減点でしょうか。それとも処罰になりますか?」
「彼女、また出なかったんですか。」
「ええ、それに授業に着いていけてないようでつまらないと言ってましたのでクラスダウンした方が彼女のためでは?」
「……確かに。学園長に掛け合いましょう。他に何かありますか?」
(先輩、同じくBクラスのキョウヘイ=サヤマ、エドガー=シェルマ、エニール=ソラリアがサボりです)
「同じくBクラスのキョウヘイ=サヤマ、エドガー=シェルマ、エニール=ソラリアがサボりでしたので減点をおすすめします」
「! わかりました、授業はどうでしたか?」
「やる気のあるものと無いものの二分でしたのであるものには実践を、無いものにはテストをしようかと。」
「……なるほど、努力しているものとそう出ないものを分けた授業ですか。先程のもそうでしたがどう判断を?」
「黒猫は鑑定持ちなので見れば解るそうです。判断は彼に一任しています。」
「! なるほど、鑑定なら外れようがないですね。ありがとうございます。」
すぐに学園長に掛け合います、と言われ先生が奥へと去っていった。次は午後まで時間が空くので早速テスト作りに入る。問題はシノダ先輩が考え、それを私が書出し、所によっては書き足したりして完成したら複製を人数分行い、答案用紙も同じく作りさっさと終わらせたら他の先生方の手伝いに入った。最初は驚かれたが、人手不足なのは知っていたのでこういうところは手伝った方が負担が少なくなるでしょうからと言えばお礼とともに手を動かした。遠慮なく頼んでくれていいと返せば、他からも出席表やテスト作り、授業で使うデコイの精製や図面などを頼まれその場で作っていく。ついでとばかりに老朽化した道具を廃棄して新しいものを作り出し先生方に配ると何度もお礼を言われた。技術職人に頼むと長期納品な上予算オーバーで悩んでいたらしい。こういう所こそ金の使い所だろうと答えればその通りなんだがなと苦笑いが返ってきて申請が通りにくいのかと思った。シノダ先輩が愚痴とも言える話を聞いている間にこっそり回復薬を仕込んだお茶を入れて先生方に配る。日頃の疲れを吹っ飛ばす紅茶は美味しいと好評で、授業へ向かう先生方には一言だがエールを送り、残った先生には引き続き書類制作などへの応援をし、私たちは学園内の巡回へと職員室を後にした。
流石にハルナは居らず、一安心しながらゆっくり学園内を見回っていく。途中で水道の水質検査や壁の修理などを手掛けていき、懐かしの図書室では持ってきた大量の図書を寄付してお世話になっていた司書さんに大喜びされた。ここ数年は寄付など一切無かったらしく、これで図書室通いの子たちも喜ぶと嬉しそうに語ってくれた。気分であちこち行くからその都度気になった本やよく使う図鑑などを多岐に渡って集めているので、ジャンル分けしても棚2つ分もの書籍を司書さんと詰めていく。また集まったら寄付しに来ると伝え図書室を後にし、巡回へ戻る。その後は特に何も無く一周し終わり職員室へ戻り報告書を制作するシノダ先輩の隣で私は次の授業の準備をした。私はテストの監視員、シノダ先輩は実技の指導員。前もって決めていたのでさくさくと準備を進める。何度目かの鐘が鳴り響いてお昼の時間になり、何人か先生が戻ってきてから報告を聞き合う。問題児のハルナは無事クラスダウンされ、取り巻きの子達も減点されたそうだ。
「もし、また絡まれるような事があればあしらって構いません。その場合随時教えてください。」
「わかりました。それとコレをどうぞ。先程新調した道具類なんですが先生はいらっしゃらなかったので」
「! これは有難い。早速午後から使わせて頂きます。こう言ってはなんですが、古かったからですねぇ、時々不備なんかもありまして」
「お聞きしました。こういう所こそ予算をつぎ込むべきだとオレは思いますがね。」
「分かってくれるとは本当に有難い。」
目を細めて色んな角度から道具を見ては嬉しそうに微笑んでくれたので、喜んでもらえたなら何よりだ。他にも消耗品である紙やペン先、インク、チョークの在庫補充もしっかりしたと伝え、そこに現れた司書さんからも寄付をしたことが広まり、いろんな所からお礼を言われ少し照れる。
「他の臨時教師はこうは行きませんでしたからねぇ。経験の差と言えど、こうも違うと驚きです」
「確かに。何を教えたらいいか聞きに来る子が多いこと。」
「そうなんですか。オレたちは経験からこうしようと話し合って決めて来ましたから……」
「後続を育てるのも難しいのは分かりますがねぇ……」
笑顔で話し合うシノダ先輩たちに職員用のお弁当が届き、話し合いながらそれを頂いた。
「ところで、黒猫と紅獅子は仮面を付けてはいなかったと思うが、何故仮面を?」
「これはエンチャント付きの仮面でして、お守りのようなものですね。何があるか分からないので装備は万端にしてきました」
「なるほど。そういえばワイズマッド先生にあったとか。」
「ああ、学会で。研究職についたとかで楽しそうにしてましたよ」
「あの人は学園にいた頃から研究や実験がお好きな方でしたからなぁ」
「目に浮かびますなぁ。巡回では何かありましたか?」
「特に何も。西棟の壁が割れていたので修復したくらいで」
「ああ、あのヒビか。何をしたら壁を割ることになるのか、学生とは難しいものですねぇ」
「Cクラスはどうでしたか?」
「例の生徒は納得が行かないような態度で渋々受けていましたよ。他の生徒が不憫でしたね」
「Bクラスでも何人か抗議してきましたね。何故何もしてないのにと。何もしてないからこそのクラスダウンだと言うのに」
「まぁまだ子供の言うことですしねぇ。教師の辛いところです」
成程、問題はまだまだありそうですね。これは骨が折れそうです。
ここまでお読み頂きありがとうございます




