第35話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
俺はルルティエ支部のギルドマスター、名をアルゼンという。俺には目下悩み事が多数ある。そのどれもが我がギルドに所属するSSSランクとJランクの二人組、通称紅獅子と黒猫に関するものだ。
一つ目、奴隷解放の巧者としてお礼という名の押し掛けが止まないこと。
二つ目、国中のお偉いさん方からの釣書が山になっていて、紅獅子に相談したら笑顔で燃やされたので相談も出来ずにいること。
三つ目、問題の二人が一切を断りギルドに寄り付かず、数ヶ月も顔すら見てないこと。
四つめ、先々週行われた学会でどうやら黒猫が発明したらしいハイポーションが認められ特許を取得、少数限定生産をしているということ。
五つ目、ハイポーションの事を知ったルルティエ学園の学園長が大変お怒りで連絡が止まないこと。
黒猫や紅獅子に連絡を取ろうにも彼らは住所不定。今も何処にいるかは分からない。何せ国を跨いで活動しているらしく、受理する依頼も金や難易度よりも近所迷惑な魔物討伐や駆除を率先して受けていた。特にマシュキンプの駆除は定期的に受けていて評判が良いのが売りなくらいで、他国、特にエルフォンド国の防衛なども非定期に行っていると報告があるし、国の復興の前科もある。
鳥を使ってどうにか顔合わせられないか尋ねても、帰ってくるのは拒否の言葉だけ。しかも理由もちゃんとしたものを用意されているし、どうにもならない。だが、彼らにしか問題は解決できないときた。どうしろってんだ。もう数えるのも面倒なほどのため息を吐き、コーヒーを啜る。本当に頭が痛い。だが、お礼も釣書もハイポーションの件も学園長のことも待ってくれやしない。
「本当、どうすりゃいいんだ……」
「ギルドマスター、お疲れ様です。」
「ああ、リーシャか。お疲れ、今日もアレか?」
「……はい、釣書の追加です。あとお礼の品が次々と。ポーションの問い合わせも14件あります」
「……釣書は念の為保管庫に。お礼の品は気持ちだけにしてもらえ、ポーションは個人情報だと断れ」
「かしこまりました。では、失礼します」
忙しなく動くリーシャの後ろ姿を見ながらまたため息を吐く。引き出しから一枚の紙を取り出し、少し悩んだあとペンを走らせる。結局、俺に出来ることは彼らに宛てて手紙を書くことだけ。後は臨機応変に対応するしかないのだ。
「……俺は、保護者じゃなくてギルドマスターなだけなんだがなぁ」
何故こんな板挟みに合わなければならないんだ?
・・・
・・
・
「……今日も来たのか」
「先輩、どうかしたんですか?」
「いや、鳥が来たなって。ほら」
そういうシノダ先輩の腕には少し大きめの青い鳥が。器用に手紙を咥えていて、手紙を手に取ると嘴から離してくれる賢い子だ。確か、この鳥はギルドマスターの鳥だったはずと記憶している。
「……何処かからポーションの事が漏れたらしい。学園長が怒ってるってさ」
「? え、学園長が?関係ないですよね?」
「知らねーけど、あの人の事だ。学園でそれを教えろとか言うんじゃねーか?臨時教師の事まだ諦めてねーみてーだし」
「しつこいですね……特許を取ったのが失敗でしたかね。それとも限定生産?」
「或いはどっちもか?……釣書もまだ来てるらしいし、お礼の品やポーションの問い合わせが止まらないらしいな。よし、まだ引きこもろう」
「引きこもるのは賛成ですが、ギルドマスターは大丈夫なんでしょうか。主に胃とか」
「……確か胃薬作ってたよな、マオ」
「……二週間分だけお裾分けしときましょうか」
「サンキュ。……これで返事はよし、薬も……これで落ちないな、そら、ギルドマスターのところに帰りな!」
勢いよく飛び立つ鳥を眺めながら紅茶を頂く。空より少し濃い青が小さくなり見えなくなる頃には私達の興味は失せていた。今日はセバスチャンさんが木苺のパウンドケーキを焼いてくれたので紅茶と共にする。程よい酸味が生地の甘みと相まってとても美味しい。シノダ先輩も美味しそうに頬張っていて、セバスチャンさんも嬉しそうだ。木苺はエルフォンド国でエンチャント付きのガラス玉のお礼として頂いたもので、まだ沢山残っているからラズベリージャムやソース、フルーツティーにしても良さそうだし、セバスチャンさんも時折何か思いついたのかメモを取っていてとても楽しそうでなによりのこと。ゆっくりとお茶しながら話すのは漁師のおじさんの息子くんのことであったり、サオリのことであったり、とりとめないことばかりだ。
「ユウキもこの前健康診断の結果が出てさ。特に病気とかなく健康な乳児としてすくすく育ってるみたいだし、サオリは低体重が治ったことくらいかな、目立った外傷も病気も無しだな」
「どちらも良い報告ですね。子供は笑顔で元気に育つのが一番です」
「そうだな。あ、あとセバスチャンさんに情報集めてもらったんだが、アスティオ国の洞窟荒らしの件、一時はアスベルのせいになったんだが実力が伴ってない事が発覚して原因不明で止まってるぞ」
「おや、私達とはかすりもしなかったんですか?」
「ああ、表上は行ったことないとなっているからな」
「なるほど、ならこのままお蔵入りさせて頂きましょう」
「同意だな。このまましばらく引きこもるとして、どうすっかなー。回復薬の材料の予備もたんまりあるし、練習するかなぁ。」
「本当に苦手ですよね。手先は器用なのになんででしょうか?」
「んー……多分、魔力の操作が苦手だからだと思うなぁ。何となくでしかわかってないからな」
「あー、なるほど。学生時代から魔力操作系は躓いてましたもんね。わからないまま至った感じですか?」
「そうそう。マオはどうして出来るんだ?」
「なんとなくですね。イメージは水でしょうか、垂らしたり、蒔いたり、流れるような事を感覚でしてます。攻撃の時は水蒸気で瞬時に爆発的なのを、防御の時は氷で固めるイメージですね」
「なるほど、水かぁ。それならわかりやすいかも」
試してみるか、とカップを空にするシノダ先輩に合わせて私も飲みきり、ティータイムを終える。片付けるセバスチャンさんにお礼を伝えて早速実験室へと材料を持って引き篭った。何度かお手本に作り途中で今はこんなイメージですと伝えながら完成させて、真似るシノダ先輩にエールを送る。気づけば日が傾くまで繰り返しており、その頃には3回に1回は成功するようになっていた。片付けながらご機嫌な先輩にこちらも嬉しく思いながら隣で器具を洗っていく。
「やりましたね、大きな一歩ですよ」
「いやぁ、マオのおかげだな!アドバイスありがとう」
「いえいえ、これで練習も重ねたら何時でも作れるようになりますよ」
「昨日までは7回に1回成功すればいい方だったからなぁ」
「これで何かあっても外で作れますね」
「そうだな、3回に1回は嬉しい!」
歌でも歌い出しそうな先輩と片付け終わり、成功した回復薬を倉庫へと運び、そのままお風呂へと移動した。身体を洗い流して湯に浸かり、しっかりと温まる。お風呂を上がると食堂からいい香りがしてきて、心を躍らせながら向かう。セバスチャンさんの料理が並ぶ前に座り、セバスチャンさんにいただきますと声を上げて夕飯を頂く。キノコと貝のクラムチャウダー、シャキシャキのシーザーサラダに、サクサクのクラッカーのカナッペ、トマトソースのペンネに、メインの鹿肉のソテー。手作りのワインに合わないわけがなく、今日は洋食の日だと喜びとともに料理を噛み締める。どれも美味しくて、セバスチャンさんに感想をシノダ先輩と伝え合う。ほろ酔い気分で食事を終えて、歯磨きと着替えをしてベッドに飛び込む。すぐに眠気が襲ってきて先輩とくっつき合いゆっくりと眠りに落ちた。
翌日からもゆっくりとした日常を楽しみ、時々手合わせや回復薬の精製に、庭の手入れをしているセバスチャンさんのお手伝いなどをしながら日々を過ごしていると、週に1回だったギルドマスターからの手紙が3日に1回、2日に1回と増えてきて、今では毎朝飛んでくる。たまに機嫌の悪いシノダ先輩が返事も書かずそのまま返したりして、毎回は返事をしなくなったあたりで察したのか手紙ではなく1~3文だけの小さな報告メモを寄越すようになった。それでも返事はまちまちだが、返す時は返しているので無反応よりはマシだろう。ただ、ルルティエ国に寄り付かないだけでエルフォンド国やララニエル国には定期的に行ってるので完全に引き篭もりという訳でもない。そうして、実に半年もの間一切ギルドに寄り付かず時が過ぎ、ようやく重い腰を上げてルルティエ国に足を踏み入れた。どうも気になる情報を渡されたからだ、仕方ないとばかりに朝から重装備(見た目はそのまま)でギルドの扉を開けた。
「……ギルドマスターに紅獅子と黒猫が来たと伝えてもらえるか?」
「は、はい!直ちに!少々お待ちください!」
慌てて奥へと走る受付嬢に、ざわつく周りの空気を無視してその場で待つ。少しして戻って来た受付嬢に案内されてギルドマスターの執務室へと連れてかれる。受付嬢が一礼して下がるのを見計らい、驚きで固まってるギルドマスターに早速とばかりに話しかける。
「……お久しぶりです、ギルドマスター」
「……はっ!夢じゃねぇよな?!紅獅子と黒猫だよな?!やっと来てくれたか!」
「ああ、おまたせしてすみません。他に方法が思いつかなかったので」
「いや!あれだけしつこくされたらそりゃ仕方ねぇとも言えるしな。それより、本当によく来てくれた!もう二度と来ないかと何度思ったか……」
「流石に、無断でそれはしないと手紙で送ったと思うが……。まぁ、それは置いといて、本題なんですが」
「本題?」
「『ルルティエ学園にて不振な動きアリ』、『学園長だけではなく教師陣からも嘆願アリ』、このふたつについて詳しく聞きたい。何が起きたか知っているか?」
「ああ、その件か。最初はいつもの学園長による『臨時教師』の件かと思っていたんだがな、よくよく調べて見たら聖女と名乗る女子生徒が現れてから学園内部が二分されて困っている、助けの手立てが欲しい、というものだ。一つは聖女を特別視して祀りあげる聖女派、もう一つは反対や中立を望む学園派の二つらしい。」
「……そんなんで授業や試験はどうなっている?」
「……聖女サマが居る時は授業にもなんないそうだ」
「なるほど。……助けというのは具体的には何か言われているか?」
「これを機に臨時教師をして欲しい、ってのと学園からソイツを追い出せるならなんでもいい、ってことは断言する」
「……どうする?黒猫」
「……いいでしょう。ただし今回のみに限定します」
「! ありがたい、いつから大丈夫だ?」
「……明日から取り掛かろう。手紙をこっちからも出しとくが念の為ギルドマスターもお願いします。それと、溜まっている釣書は燃やしておいてくれ」
「……随分急だな、何かあったか?」
「少し気になることが、な。知らない方がいい事もあるぜ」
「……わかった、手紙は今日中には出しておく。釣書も本当に燃やすからな」
「ああ、それじゃ、何か依頼を受けて帰る。他に問題があれば遠慮なく言ってくれ。」
ギルドマスターに一礼してから部屋をでる。廊下を突き進み、受付嬢に声をかけて久しぶりに依頼を受けてギルドを後にする。私達は久しぶりに怒っていた。
セバスチャンさんが集めた情報が正しければ、学園に臨時教師として派遣された元クラスメイトの全員が不審死を遂げている、という事はギルドマスターも知らないようだ。
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