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魔王様は引きこもりたい  作者: 黒駒
34/45

第34話

合言葉はファンタジーだから。


※無断転載禁止

※改変投稿禁止


誤字脱字はそっと直します。







「おや、珍しいですね。私宛の手紙だなんて」


私が目覚めてから早2ヶ月。リリアンナさんからの要請以外は週一で通ってる漁師のおじさんの所を除いて全てシノダ先輩が断り城に引き篭っていた。朝食代わりにセバスチャンさん特性のスコーンと紅茶を頂きながらまったりしていた時にその鳥は飛んできて、セバスチャンさんが手紙を受け取ると私に渡してきて驚き、珍しいこともあるものだ、と飲んでいたティーカップをソーサー毎テーブルに置き、手紙を開く。


“拝啓 マオ=スズキ殿

突然の手紙で驚かせたならすまない。学生時代、貴殿を担当したワイズマッドだ。私は貴殿が卒業してから研究職に変えて思う存分研究に精を出している、あの時の助言感謝する。貴殿が学生時代に作った高回復のフルポーション、アレは抽出率が98.2%と界隈を騒がすものだったのを昨日のように覚えているぞ。私もアレを調べ、同じものを作れないかと日夜研究を重ねたができたものはハイポーション、77.5%が限界だった。そこで出来れば今度開かれる学会で作り方を是非披露して欲しい。勿論学会では情報規制が敷かれいつ誰がどのようにして発見、または作ったかは秘匿される。もし嫌ならば同じものを作って私の鳥を使って送り返して欲しい。勿論、研究のために使わせてもらうが全ての情報を秘匿しよう。貴殿が訳あって暇してると小耳に挟んだのでな、せっかくの機会だと思ったまでだ。学会への参加チケットを同封しておくがいらなければ破棄して構わん。色良い返事を期待する


敬具 ワイズマッド”


「……そう来ましたか」


「? そんなに嫌な内容なのか?」


「いえ……見てください」


「どれ……あー、なるほど。そう来たか」


「どう返事しましょうか……先輩、学会に興味は?」


「無いとは言いきれないが……回復薬、めちゃくちゃ作ってるけど流出はマズくないか?」


「流石に、ですねぇ。セバスチャンさんはどう思います?」


「そうですね、秘匿されるとありますから見に行ってから決めるのも手だとは思います。」


「なるほど……。まぁ、暇つぶし程度にはなるんじゃね?マオ、行ってみるか?」


「なら、返事を書きましょう。……ついでに新しい回復薬をつけておきますか。参加は未定、常備してるポーションも研究にどうぞっと。ワイズマッド先生によろしくお願いしますね」


鳥の頭を一撫ですると空高く飛んで行った。まだ湯気のたっている紅茶を再び口へと運び、ゆっくりと香りを楽しみながら喉を潤す。今日もセバスチャンさんの紅茶は美味しい。


「ワイズマッド先生かー。なんだかんだ会う機会少なかったから、遠目でしか知らねぇな」


「ほとんど自室に篭って何かしてましたからねぇ。部屋は凄かったですよ、まさに魔法薬学室って感じでよく分からない実験器具とか薬草とかが乱雑してて」


「生粋の科学者って感じか?」


「そうです、まぁほぼ中に入ったことないんですが……課題が課題だったので……。」


「ああ、課題な……。今もたまに思うが、あれは教育者としてどうなんだ?」


「普通にアウトでしょうね。私だったからよかったものの、他の生徒にやらせたら死にますよ」


「その頃からマオは桁違いに強かったんだろうな……」


まぁ、そうですねと苦笑しながらスコーンを頂く。今日はジャムの気分。これまたセバスチャンさんお手製のローズジャムは紅茶に入れてもいいくらいハマっていて、甘すぎず香りもほのかに香る程度でちょうどいいのだ。スコーンにかぶりつきながら脳内スケジュールにチケットに書いてある日程を書き足しておく。日付けは来週の金曜日、10日後である。

今日もその後はだらだらと過ごし、軽く手合わせをして汗をかきお風呂で汗を流してからセバスチャンさんの料理を頂いて寝室に篭もった。

何も問題無く日にちが過ぎ去って誘われた学会の日になり、軽く荷物の準備をしていた。念の為いつも使っている器具に材料、完成してる回復薬、予め書いておいた手順の紙束を整えてファイリングし、縮小魔法をかけて全て内側のポケットにいれる。忘れ物がないかお互いでチェックしあい、外に出ながらフードを深く被り、見送りにでてきたセバスチャンさんに挨拶をして集合地であるルルティエの隣街ギザニアへと飛んだ。そこそこ活気だっている街並みに感心しながら会場である市民館へとパンフレットを見ながら足を運ぶ。受付と書かれたテントを見つけ、スタッフだと分かりやすいタスキをかけた人に話しかける。


「すみません、今日の学会への参加なんだが。これ、チケットです」


「ああ、はい。確かに。こちら、入館証になります。無くさないよう首から提げてお持ちください」


「発表って途中からでも参加出来ますか?」


「勿論です。参加希望の方はあちらのボードにお名前と職業を記入してください。匿名や代理でも構いませんが、その場合賞金などは出ないのでご注意をお願いします」


「ありがとうございます」


案内用に貼られたテープを見ながら順番に並ぶ。賞金とか出るんだな、と先輩と話しながら中に入ると凄かった。さすがに広さもあってか様々な展覧会となっており、方や天井に届きそうな程の植物が並べられていると思えば向かいでは青い炎が揺らめいていて、研究とあればなんでもありと思えるようなごった返しで、シノダ先輩は子供のように目を輝かせている。


「すげー!なんでもありか?!うわー、小学生の頃思い出すなー、レクリエーションで祭りとかやったわー。あ、あそこなんか浮いてる!」


「本当、お祭りみたいですねー」


「あっちにデーモンコアみたいなのあるぞ!体験型みてぇだな、マオ並ぶか?!」


「先輩並んでみたらどうです?私はワイズマッド先生を探さないとなので……」


「あー……そっかー。先生に挨拶とお礼だけして並ぶか……」


あ、並ぶんだ。と思いはしながら口には出さない。男子って大体こういうの好きだよね、偏見だけど。辺りを忙しなく見渡す先輩の腕をはぐれないよう掴みながら私も先生を探す。しばらく歩いて、端まであと少しと言うところで声がかかった。振り返るとワイズマッド先生で、とても嬉しいことがあったようでいい笑顔だった。心做しか、前より痩せた気がするが、気のせいだろうか。


「マオ!マオ=スズキだね?!久しぶりだ、よく来てくれた!そちらは……ヒデキか?Dクラスだったヒデキ=シノダ?」


「お久しぶりです、先生。よく覚えててくれましたね」


「あんなに毎回爆発させる生徒はそんなに居ないからな!」


「うっ、そりゃあ……まぁ……」


「なんだ?今でも爆発させているのか?」


「流石に爆発はしないですが、成功率は低いですね……」


「代わりに裁縫はダントツだったのになぁ。変わった生徒だと印象深かったんだ、失敗の一つや二つ気にするな。それより、あのポーションはなんだ?!抽出率がハイポーション並なのにとても飲みやすくできたあれは!」


「あ、私作の回復薬です。疲労や睡眠不足にも効きますので今回のお礼にと思いまして。単体で飲むもよし、お茶やコーヒーに混ぜてもよしの品物です」


「やはり貴殿かマオ!アレは特許を取るべきものだと私は思うのだがどうかね?!是非発表していかないか?!」


「アレはシノダ先輩でも作れますよ」


「たまにな。失敗率のが高ぇよ」


「そんなに簡単に作れるのかね?!」


「あ、作り方をまとめてきましたので良かったらどうぞ。私達はもう頭に入ってますので」


「なんと!」


薄いファイルを手渡した途端読み始めるワイズマッド先生の周りに先程まで先生と話していたと思わしき人達が集まってくる。そんなの関係ないとばかりにブツブツと何かを呟きながら必死に読み漁り、周りも同調していく。時折、こうした方が効率が上がるのでは、とか、まさかこんな方法で、とか声が上がり、なんか居た堪れなくなりながらその場をやり過ごす。シノダ先輩の後ろに隠れながらやり取りをしていたら何人目かの人に本当に発表しないのかと聞かれた。


「……これ、本当に発表しないのか?」


「すみません、マオは目立つのがかなり苦手でして……」


「だがしかし、これは世紀の大発見に近いぞ?本当の本当にしないのか?」


「もしよろしければ代役として匿名発表してもいいですよ」


「「「本当か?!」」」


「なら是非私が!私は薬草の百科を作ってましてな、」


「いやいや私が!私は対人用効率強化薬の研究をしておりますし」


「それならワシがやろう!回復薬を売って50年は伊達じゃないわい」


「……あー、ワイズマッド先生はどうです?」


「……はっ!何かあったかね?!」


「匿名発表、代わりにしてくれないかなって話です」


「なんだと?!いいのか?!」


「はい。マオはこの通り、人前に出るのすら苦手としてますから……オレがやっても失敗すると思うので……良かったら是非」


「ならその代役、このワイズマッドが受け持とう!」


途端に周りから羨ましいだのずるいだのと声が上がるが、心底悔しそうにしている訳では無い。歳など関係ないと元気にあれこれアレンジをしてみようと言う人も居れば商談の話しに持っていく人もいる。流石に商談はシノダ先輩を通して私に持ちかけられたが、詳しいことは分からないのでワイズマッド先生に丸投げした。なんとかなるでしょ。ついでに材料を先生に託して私達は他を見て回ると言い、その場からさっさと離れた。途端に囲まれる先生に心の中で頑張れとエールを送っといたが届いただろうか、少し離れたところで振り返ると楽しそうに話をしていたので多分エールがなくても大丈夫なんだろう。

そして真っ先にデーモンコア(仮)の所まで戻り早速シノダ先輩が体験し、その後も目に入ったものからフラフラと立ち寄り見て回る。昼に屋台で売っていた物を齧りながら歩き回り、午後に差し掛かったところで発表のアナウンスが流れたのでせっかくだし、と観客の後ろの方で立ち見する事にした。結構人気なのか、私達の他にも立ち見客で溢れてたので目立つことなく安心する。

番号順に順次発表がされていく。新種の植物の効果、解毒法、魔鉱石の加工や民芸品、複雑な作りの自動マリオネット。中でも人気だったのは魔術と化学の融合体である簡易爆弾だ。安全に考慮を重ねており、間違っても軍事運用されない程度の威力でどちらかと言うと花火のようなものだった。エンターテインメント性の高いものだったので汎用までが楽しみである。


「次は匿名で代理発表、ハイポーションの簡易アレンジ版だそうです!さぁご注目ください!」


「私は以前、とある学園で教師をしておりました。その時の生徒が開発したハイポーションを是非発表したく、代理としてここに立っていることを先に名言しておく。万が一でも製作者の詮索はよして欲しい。では、まず用意するのはツルクサの葉と……」


「……こう見るとワイズマッド先生ってしっかりしてるんですよね」


「やっぱ教職についてただけはあるんだなぁ。」


「学園にいた頃より生き生きしてますね」


「ああいうのがしょうに合ってるんだろうな」


「おい兄ちゃん達、あの人の関係者か?」


「? そうだとしたら?」


「じゃあ今作ってるヤツの製作者を知ってるか?!」


「静かに、詮索は禁止だぞ」


「ああ、すまない、注意もされてたのに……とにかく、あの人は今は科学者か?それとも薬学者か?スポンサーは募集しているか知ってるか?」


「……さぁ、その辺のことは何も聞いてない。教職を辞めたとは知っているがそれ以上のことは何も。結構浅い付き合いなんでね」


「ならば本人に聞くしかないのか、ああ悔しい、もっと早く彼に会いたかった。是非ともスポンサーになりたいものだ!アレは特許を取ってもいい、ものすごく売れるぞ!」


「……そういうあんたは商人か?」


「ああ、このギザニアの西の方で商売してる者だ。こう見えて中々の腕前と評されているんだぞ。兄ちゃんもギザニア西部で何かあればマグノア商会をよろしく」


「……マグノア商会……ああ、ガラス玉の加工品を売ってたところか。土産用に買ったぞ」


「なんと有難い、アレは一つ一つが手作りでな」


会話中、そっと私を視線から外すよう誘導しながら静かに会話を重ねるシノダ先輩に頭が上がらない。突然声をかけられただけでビビり散らして転移するとこだった、危ない。視線をワイズマッド先生に戻すと実験の実演中だった。かなり注目されている中でよく集中してできるものだと感心していると薬が出来上がり、試しにアナウンサーに渡していて、覚悟を決めたように飲みこむアナウンサーに会場が集中する。


「……! これは、本当にとても飲みやすい!ハイポーション独特の苦味や臭みが消えて、さっぱりとした味付けにほんのり残る甘み、先程仰っていたように疲労回復も私が証明いたしましょう!これなら老若男女問わず使いやすいですね!」


「そうとも!実演を見ていた方なら分かるだろうが作り方も非常に簡単な上、材料もそれほど困難な物は一切無い!こんなお手軽な方法で作りやすく飲みやすいハイポーションは今までにないと私は思う!」


「まさにその通り!これは世紀の大発見と言っても過言ではありません、是非商品化をおすすめします!」


「だがしかし、製作者は表に出ることを苦手とし、発表も私という代理が居なければしなかっただろうと思えるほどだ。なので、商品化に関しては本人の許可が出次第スポンサーを吟味した上で少量から始めようと思う。それまでは北ブースあ-6bで私ができる限り制作はしよう。また、いくら簡易とはいえ薬学に精通していない者は安易にやろうとすると失敗するのでマネはしないように。以上、ハイポーションの簡易アレンジでした」


その瞬間、会場が湧き上がりスタンディングオベーションが巻き起こり、空気を読んで拍手を送る。隣で先輩が確かに飲みやすいよなーと言いながら拍手しており、マグノア商会の人はワイズマッド先生のブースへ行かなければ!と早速足を向けていた。行動が早いのも腕がいい証拠でもあるのだろう。この後の先生のブースは人集りで大変なことになるだろうと思い手紙を書くことにした。大変だろうけど頑張ってください、量産はお勧めしません、売上の30%は孤児院へ寄付をお願いします、私達のことは内密に、後はお任せしますと簡易に書いた紙をそっと会場から出て先生のブースへ飛び、店番の人に預けてから直ぐに会場へと戻りシノダ先輩に寄り添う。既に次の人の発表が始まっており、何となく眺めていく。


「……あんなに評価されるなら警戒もしなくちゃな。ブースはどうだった?」


「ブースは今のところ大丈夫でした。多分会えなくなると思うので手紙を預けてきましたし、警戒も先生ならわかっているでしょう」


「そういや、研究職についてるんだっけ。なら大丈夫か。」


そうですね、と返しながらステージを見つめる。天然水を使った子供向け玩具の発表に、ユウキくんに良いかもしれない、購入はできるのか後で確認しようと頬が緩み拍手を送る。その後も何個か発表を見て昼の部は終わり、買い物を済ませると時間もそこそこなので帰ることにする。帰り際にワイズマッド先生の所へ寄ってみたが人気すぎてごった返していたので挨拶を諦め、そのまま会場を後にした。

まずはとエルフォンドへ飛び、リリアンナさんにマグノア商会で購入した大量のガラス玉のストラップを渡す。追加で防御のエンチャントをかけておいたので、村人に配ってくれると嬉しいと伝える。とんぼ玉のように一つ一つ色味が違うこともエルフにはとても似合っていて、リリアンナさんも喜んでくれた。偶然居合わせたサオリは真っ先に黒色のをひとつ手に取り短剣の柄へ括りつけ、笑顔でお礼を言われこちらも嬉しくなる。名残惜しく思いつつ少しお話してから国を後にし、次はララニエル国のおじさんの所へと飛ぶ。お土産の天然水の玩具を渡しながら今夜の魚を見繕って貰い、帰城する。

出迎えてくれたセバスチャンさんに魚の入ったカゴとエンチャント付きのガラス玉を手渡し、お風呂へと向かう。汗を流ししっかり湯に浸かり、身体を温めてから上がり食事を頂いて、寝室のベッドへダイブした。


「あー、つっかれた。楽しかったけど、慣れねーと疲れるなぁ」


「ですねぇ。でもお土産も喜んでもらえたし、先生も元気そうでしたし、良かったですね」


「なー。それにしても回復薬凄かったなー。」


「あそこまで評価されるとは思いませんでした。てっきり既に類似品があると思ってましたもん」


「だよな。特に味なんてはちみつとレモンのシロップだぞ?日本人なら誰でも作れそうだけどなぁ」


「食に関しては他の随を許さない偏食国家日本の生まれなら、既にしてそうだと思ってたんですけどねぇ。本当、まさかですよ」


「学生の頃から地道に開発してた甲斐があったな」


「そうで……気づいてたんですか」


「やっぱりか、お茶に混ぜてたろ。通りでいつもより元気になると思った」


「いやあのですね、それには訳が……」


「別に怒ってねーよ。マオが倒れてる間に飲んだ時既視感あるなと思っただけだ」


「やっぱり飲んだんですね。在庫が異常に少ないと思いました」


「いや、これには訳が……」


「怒ってませんよ。フフ」


あははと笑い合い、床に落ち無いようベッドの上で転がり合う。一頻り笑い合ったら、中央にもそもそと這いずり寝る準備をする。まだ少し笑い合いながらおやすみなさいと言い合い、電気を消してゆっくりと目を閉じていった。










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