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魔王様は引きこもりたい  作者: 黒駒
33/45

第33話

合言葉はファンタジーだから。


※無断転載禁止

※改変投稿禁止


誤字脱字はそっと直します。










前に記憶したエルフォンド国の森へ飛んだのが間違いだったのか、突然現れた私たちに村人が手や足を止めてこちらをいっせいに見てきた。ヒソヒソと何かを話し合い人はどんどん増えてきて、ついには囲まれてしまい、どうすることも無くリリアンナさんが来るだろうとシノダ先輩に寄り添いながら突っ立っていると、予想通りリリアンナさんが急いで現れた。


「黒猫殿、シノダ殿!お待たせ致した!」


「よぉリリアンナ、元気だったか?」


「勿論じゃ!主らが解放してくれた者達も自由を謳歌しておるぞ、さぁこちらへ、積もる話もある!」


道中も目線が刺さり少し気まずかったが、気にしたら負けだと意気込んでリリアンナさんについて行く。シノダ先輩は奇異の目に慣れているのか普通であったため、フードを深く被り直す振りをして平静を保っていた。

案内されたリリアンナさんの家で人払いをされ、護衛であろう人達も外に出てようやく息をつけた。窓からは子供たちがこっそり覗いてるが、子供たちなので仕方ないと大目に見る。


「改めて、礼を言わせてくれ。同胞の件、ほんに感謝する」


「……別に構わねーよ、元気でいるんだろう?ならそれでいいさ」


「……そうか。して、何用でここへ?ルルティエ国での復興がまだだと聞いておるのだが……」


「ある程度は復興したから大丈夫かと思ってよ。今日はサオリに会いに来たんだ。黒猫は無事な姿を見てねーからな、それだけだ」


「なるほど、そういう事ならゆっくりしてゆくが良い。今呼びに行かせるからの、ちぃと待たれよ」


そう言うと柏手を二度すると入口から先程の護衛のひとりが顔を出した。サオリをここへ、とだけ告ぐと一礼だけして去っていくのと同時に、女のエルフが入ってきてお茶を入れてくれた。暖かくてほろ苦いお茶を頂きつつシノダ先輩と待つ。


「……つかぬところを伺うが、黒猫殿は今まで何をされてたんじゃ?情報がまったく上がってこなくて、これでも心配しておったのだが」


「心配してくれてありがとうよ、黒猫はちょっと伏せっていてな。今はこのとおりピンピンしてるから大丈夫だ」


「そうだったのか!それなら納得じゃ。噂ではルルティエ国を敵に回しただのと言われておったからなぁ」


「ただの勘違いなんだけどなぁ、殆ど眠ってたからこっちの意見なんか全然届かなくてよ。そのせいで好き勝手言われてるだけなんだが、ギルドにも民衆が押し寄せてなぁ」


「なんと、暴徒か?」


「近いけど意味は逆だな、お礼とかそういうのだ」


「なるほど……大変じゃろうに……」


「まぁ、そのうち時間が解決するさ」


「そうだといいが……。そうだ、最近魔物の波が穏やかになっての、それで……」


「そうか、それなら前に言った……」


近況報告に入った二人に耳を傾けながら窓を見やって子供たちに向かってこっそり手を振る。元気に振り返してくる子もいれば隠れちゃう子もいて微笑ましく思っていると、入口の方が何やら騒がしくなった。シノダ先輩達も話し合いを止めてなんだろうとそちらを見入る。どうやら何か問題が起きたようだ。


「……何事だ!」


「失礼します!族長、サオリを筆頭に子供たちが数人、北のサラマンダーの巣に足を踏み入れたようで、今急いで討伐隊を向かわせました!」


「何をバカなことを!救護班を集めよ、集会所に一時避難所を作り村の警護も固めるのじゃ!出払ってるものを全員呼び戻し北門以外を封鎖せよ!」


「……リリアンナ、手を貸そうか?」


「……! いや、サラマンダーの討伐はCランク、我々でどうにかしなければ。せっかくの願い出、申し訳ない。しかしいつまでも貴殿らに頼りっぱなしではダメなのじゃ」


「……なら、救護の方に回ろう。何もしないのは出来ないから、怪我人の相手に手を出しても構わないか?」


「……それなら、有難く受け取ろう。衛兵、シノダ殿と黒猫殿を集会所へ案内を。救護班の指揮は彼らに一存する!」


なら早速と立ち上がり、衛兵と呼ばれた彼に着いていく。村のあちこちで情報が周り、リリアンナさんが言った指示通りに皆が協力し統率が取れていた。サオリくんは大丈夫だろうか、大体何故サラマンダーの巣なんかに?と疑問は尽きないが今は黙ってシノダ先輩について行く。ちょうど村の中心地に近いところに集会所は出来ており、着いた時には床にシートが敷かれており、清潔な水やらタオルが準備されていた。念の為、私達も解毒薬と回復薬を懐から出して準備していると担架に担がれて大人のエルフが運ばれてきた。接敵で子供を庇ったらしく、少しだけ深手をおっていたのですかさずタオルで止血しながら回復薬をゆっくり飲ませる。みるみる怪我口が塞がり顔色も戻ったところで奥から順に寝かせていく。他の救護班に献血を頼み、次から次へ運ばれてくる患者に治癒を施しながらシノダ先輩が指示を出していく。私は無言で回復薬と術を見極めて使いながら一人動いた。シノダ先輩の為どう動いたらいいか自然と分かるから、次から次へと怪我した討伐隊を癒してゆく。


「次!点滴と輸血!服はぬがせとけ、雑菌が入る!次!こいつは大丈夫だ、気がついたら自力で水を飲ませろ!次!……」


傷が浅い者は回復薬で傷を、深手の者は回復術で身体そのものを癒してはシノダ先輩に流してその後の処置を任せる。30人程の小隊規模が運ばれてきたところで外にも寝かせるようになり、治癒を終える頃には40人程の怪我人を寝かせていた。逐一体調もチェックしていき、中には目が覚めて既に動き回ってる者も居て、不具合が無いか聞いて回っているとリリアンナさんがこちらへ向かってきた。


「シノダ殿!黒猫殿、少しよろしいか?」


「ああ、今行く。救護班、バイタルチェックを欠かさずに、少しでも何か不具合があれば声をかけてくれ!マオ、いいか?」


うなづいてチェック表を近くの救護班に渡し、シノダ先輩に駆け寄る。そのままリリアンナさんに着いて家まで行くと中には子供たちにが4人、気まずそうに正座していた。


「! サオリ!」


「シノダ様、」


「……此度の騒ぎはこやつらじゃ。何人怪我したか、何人が命の危険に晒されたか、そして何人救って頂いたか……わかっとるか?」


「……はい、リリアンナ様」


「……サオリ、お主は外の危険性をようくわかっておる。なのに何故こんな事をした?」


「……それは、」


「サオリだけでは無い。ノーマン、ユイグ、アーズ、お前たちには何度も外の危険性を語ったはずじゃ。大人でも十分危険な所に、何故主らだけで向かった?」


「……」


「……此度はな、シノダ殿や黒猫殿が居たからこそ死者は出なかった。だが、いつも助けて貰えるとは思うな。子供だからと許されると思うな。……わしはな、何もやめろとは言っておらなんだ。いつかは戦わねばならぬ時がくる。だがそれは今遊び半分でやるべき事では無い。……わかるか、のう?」


「……リリアンナ様、シノダ様、黒猫様、大変申し訳ありませんでした」


「それは何についてじゃ?サオリ」


「此度のことについて、です。僕がもっとしっかりしていれば、このような事は……」


「傲慢じゃな。サオリ、それは違うぞ。サオリだけがしっかりしていても他がしっかりせねば守れるものも守れん。……良いか、子供たちよ。外は楽しいことばかりでは無い。何も外へ出るなとは言っておらん、危険もある事を頭に考えよと言っておるのじゃ」


「……はい」


「……」


「……サオリは残りなさい、3人は父や母にこってり絞られることだな。行きなさい」


子供たちはそろそろと立ち上がりリリアンナさんに一礼してから部屋を後にした。教育とは、こういうものか、と見ていたが、これは真似してもいいのだろうかと思う。やらかし前提とはこれ如何に。


「サオリ、顔をあげなさい。」


恐る恐ると顔を上げ、やっと翡翠と目が合う。あの時、セバスチャンさんの食事時に見た同じ翡翠と。そうして見開かれ、みるみる涙が溜まっていく。


「ま、マオさま!」


「はい、こんにちは。……サオリくん、よく頑張りましたね」


「いえ、ぼくは、僕は!」


「友だちを庇うのはここまでです。大人が向かうまでよく守りました。いい子ですね」


他の子達は擦り傷や土汚れはあれど致命傷はなかった。サラマンダー相手にレベル一桁の子供たちだけでは到底有り得ない状況だが、その子供に混ざってギリギリ二桁のサオリくんがいたからこそ、皆無事だったのだろう。みんなの盾役として、剣として、立派に守りきったのだ。

泣き出したサオリくんをリリアンナさんが撫でて落ち着かせる。リリアンナさんもわかっていたようで、ようやった、流石だと褒めちぎっていた。シノダ先輩もタオルで目を拭ってやり、リリアンナさんと交互に撫でている。


「……お守りが無くなってますね、少し待ってください」


腕だけに巻かれた紐だけになったそれを見て私の右腕に着けていた飾りを取る。これも同じく危険な目に合えば防御壁が出る仕掛けで、サオリくんに歩み寄り、そっと右腕を取るとつけてあげる。カチリとサイズ調整してつけてあげれば、金の装飾がその細腕でもきらりと輝いた。


「私からのご褒美です。よく似合っていますよ」


最後に髪をひとなでして回復術をかけてやる。身綺麗になったサオリくんは、またしても涙し、それからシノダ先輩からは短剣を1つ贈られ、魔鋼塊で作られたそれにリリアンナさんもお礼を述べサオリくんを抱きしめた。


「良いか、大事に、大切にするんじゃぞ」


「はい、はい!」


「ほらほら、そんな泣くなって。……そろそろ帰らないとな。男見せろよサオリ!」


「うぅ、マオ様、」


「? はい、なんでしょう」


「僕は、強く、なります、シノダ様くらい、強く!なので、その時は、」


「その時は?」


「その時は、僕をお傍に置いてください!」


「……ええと、それはどういう?」


「側仕えとして、です!」


「……ああ、そういう。良いですよ。セバスチャンさんくらいになれば迎えに来ましょう」


「……良いのか、黒猫殿」


「ええ、勿論。彼は立派な剣士ですから」


強くなりますよ、と微笑みながら言うと、絶対なってみせます!と涙を零しながらサオリくんは笑った。リリアンナさんもどこか嬉しそうで、涙を拭ってやっていた。

それじゃあ、とシノダ先輩が少し離れたので私も離れシノダ先輩と腕を組む。また来るから!次は土産持ってな!と一言言って帰城した。すぐ出迎えてくれたセバスチャンさんにただいまと挨拶をして恒例のお風呂へ向かう。空は晴れやかなオレンジ色だった。


「……セバスチャンさんくらいかー。」


「……何かありました?」


「いや、基準が高ぇな、って思ってよ」


「? 基準はシノダ先輩ですよ?」


「え、俺の方が上なの?」


はい。と答えつつ湯に浸かる。


「それはアレ?強さ的な基準?」


「人間性ですね」


「人間性かぁ……まって、人間性オレが基準ってどういうこと?」


「そのままです。シノダ先輩こそ至高」


「あ、いつものやつか……」


過激派ですから、と笑う。

その後はだらだらとしつつしっかり温まり、少しのぼせ気味になりながら上がり、食堂へ行く。美味しい料理を頂いた後は歯をしっかり磨き寝室へ。着替えてベッドに倒れ込むと先輩も隣に倒れ込んできた。ふかふかのベッドに枕を寄せて、そのまま寝る体勢に入る。


「……あー、しばらく城に引きこもるのもアリだな」


「ギルド、そんなに酷かったんですか?」


「……おう、しばらく行きたくねー」


「じゃあ、明日からはまったりしましょう。新しい国に足を運ぶのもアリですね」


「そういや最近散策してねーな。でももうちょい引きこもりたい」


「私は何時でも引きこもりたいです。先輩とならいつまでも。」


「マオって時々……引きこもりになるよな」


「なんですか今の間は。というか元々引きこもりでしたからね」


元々かー、根が深いなと言われながら眠りにつく先輩に、仕方ないと布団を引き摺り上げて肩までかけてあげる。もそもそとちょうどいい位置を探って私も眠りにつく。



引きこもりたいなら引きこもりましょう。








ここまでお読み頂きありがとうございます

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