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魔王様は引きこもりたい  作者: 黒駒
30/45

第30話

合言葉はファンタジーだから。


※無断転載禁止

※改変投稿禁止


誤字脱字はそっと直します。








この3ヶ月は問題なく過ごせていた。討伐依頼を受けたら道すがら薬草や素材を集め、駆除依頼を受けたら街により食料を調達し、コツコツと備蓄を貯めては空いた日に調合や加工をしていく日々を送っている。今はこの前の討伐依頼で手に入った魔鉱塊を加工しシノダ先輩用の仕込み槍、セバスチャンさん用の調理包丁、漁師のおじさん用にモリを作っていた。


「……出来ました、先輩!使い心地を後で教えてください、セバスチャンさーん!」


「おう、サンキュ!こっちも回復薬の調合終わったぜ!」


「おや、お呼びでしょうか、マオ様」


「こちら、魔鉱塊で作った包丁になります。今までより軽く丈夫で、こっちがブッチャーナイフ、こっちが出刃包丁をモデルにしてますから動きが格段に良くなるかと。どうぞ役立ててください」


「……そんな、本当に頂いてよろしいのですか?」


「これはもうセバスチャンさんの物ですから。夕飯、楽しみにしてますね」


「ありがとうございます、大切に使わせて頂きます」


「マオ、いい感じに手に馴染んだぞ。これなら中距離寄りの接近戦も安心だな……お、包丁か。セバスチャンさんにピッタリだな!」


「はい!シノダ先輩も手に馴染んだなら良しです」


最後の品はこれから届けに行きましょう、と先輩を誘う。朝から昼過ぎの今まで篭っていたのでそろそろ体を動かしたい気持ちもあり、丁度いいと返事は即答であった。今まで使っていたものを片し、シノダ先輩の作っていた回復薬を倉庫へ置き身だしなみを整えて準備をする。いつものカゴを背負いセバスチャンさんに挨拶をしてララニエル国へと飛ぶ。お客さんの波もはけており、早速おじさんへ話しかけに行く。


「おっさん!ちょっといいか?」


「おう、どうし、坊主どもか!なんだぁ、大荷物でよ」


「これ、おじさんに是非使って欲しくて、持ってきました!私からはこれ、モリです!」


「オレからはこれ、漁の網な!どっちもいい素材使ってるから丈夫だぞ!」


「い、良いのか?!確かに、そろそろ買い替えなきゃとは思ってたがよぉ……ああ、これならピッタリだ、重石もいい感じだし、モリも丁度いい長さなのに軽いし硬い……まさか、また手作りとか言うんじゃねーだろーな?」


「そのまさかだ」


「嘘だろ、坊主どもはなんだったら出来ねぇんだ?」


「えー、色々ありますよ。今回はたまたまいい素材が手に入ったので丁度良かったんです」


「そうそう、おっさんは運がいいんだな。ホントに偶然手に入ったからなー。」


「かっー!そんな事ねぇだろ、これは有難く使わせてもらうぜ!カゴも持ってきたとなりゃ夕飯用か?今処理してやんよ」


「いつもありがとうな!」


「こっちのセリフでぇ!」


いつもよりスムーズに受け取ってくれたとなれば本当に必要としていたのだろう、神様は見ているとでも言うのか、タイミングが丁度良かったらしい。いつもの如く3人前の魚をエラと内蔵を処理してもらい、干物を数個購入。カゴに入れてもらいながらそういえば、と話し出す。


「坊主どもは確か城に住んでる術士と剣士だったな、最近やけに魔物が増殖してるけど仕事の方は上手くいってんのか?」


「あー、それが最前線に居るんだが、後続を育てろって上がうるさくてな」


「そりゃあ困ったな、噂じゃルルティエ国ですっげー2人組が居るらしいぞ。そっちを頼ってみたらどうだ?なんでも、気まぐれな性分らしいから引き受けてくれるかは分からねーが」


「それがどうしてもオレ達にって。本当に困ったもんだよ。おっさんはどうだ?漁に支障は出てないか?」


「頭が硬ぇ上だなぁ。オレん所はまだ大丈夫だが、八百屋なんかはどこも高騰してるらしいぜ。畑に魔物が途絶えないんだと」


「それは農家の方も大変ですね、おじさんも気をつけてくださいよ」


「おう、坊主どもも無理すんじゃねーぞ!」


少し多めにお金を渡し、確認される前にそれじゃあ!と元気よく離れた。金額に気づいたおじさんの声が聞こえたが、もう慣れたもので。角を曲がり帰城し、セバスチャンさんに魚を渡してから装備を整えてギルドへ向かった。夕飯まで少し時間があるのでマシュキンプの駆除でも行くかとシノダ先輩から声がかかったのでその通りにする。ギルドで受付嬢に声をかけるとやはりマシュキンプの駆除依頼が出ておりすぐに受けた。今日は南の街からの依頼で、南西から来ているらしい。転移して早速駆除をしていく。

途中でレア素材を手に入れ少しテンションも上がり、シノダ先輩も仕込み槍を使ってはしゃいでいた。粗方片付け終わり、時間も余っており余力も十分あったので少しだけ森の方へ足を向けたら、まだマシュキンプが居たのでそこでも駆除をして行く。巣窟になりかけていた所を重点的に駆除したからか、周りは静かなものになりコレで一安心だな、と顔を合わせていたら、何やら気配を感じてそちらへ視線を向ける。敵意は感じないが、パーティのはぐれか?と近づくと、そこには怪我をした幼いエルフが居た。ルルティエ国では見かけないエルフがなぜ、と思ったのも一瞬で。首にごつい鉄の輪が嵌められておりすぐに人攫いかと納得いく。怪我のせいか、顔色も悪く気を失っているようで、シノダ先輩と再び顔を合わせて、仕方ないとその子を持ち帰ることにした。

ギルドの裏手へ転移してシノダ先輩だけが報告へ。私はその間にエルフへ回復術を掛けてやり、様子を伺う。顔色がだんだん良くなってきたところで先輩も戻ってきたので帰城する。出迎えてくれたセバスチャンさんはすぐに現状を察してくれ、一言お任せ下さいと言うので任せることに。そっと手渡して私たちは荷解きしてお風呂へ。いつも通り汚れを落とした後湯に浸かり少し話す。


「……リリアンナに渡せばいいか?」


「そうですね……」


「……アレって確か無理やり外すと爆発するんだよな?」


「授業では、そうでしたね。でも、先に爆薬だけ凍らせるなりしてからなら大丈夫かと」


「……結構荒業だな」


「……見た感じ原始的な物だったので」


「なら大丈夫か。……親、居るかな」


「アスベルの件がありましたからね……」


だよなぁ、と言われてから沈黙が続く。親がいないのであれば、それを知らない方があの子のためになるのでは、と思うが、知らなかったらそれはそれで絶望的だろう。シノダ先輩も今回は参ってるのか眉間のシワが取れない。逆上せる前に風呂から上がり、食堂へ向かうと幼い泣き声が聞こえてきた。どうやら目は覚めて泣くほどの元気は取り戻したらしい。ゆっくり扉を開けると、綺麗な翡翠色の目と合った。


「……こんにちは、どこか痛いところは無いですか?」


「お、元気に飯食ってるな!よしよし、よく噛んで食えよ、喉に詰まらせるんじゃねーぞ」


その子は大粒の涙を目に貯めながらセバスチャンさんが作ったであろうパン粥を必死に食いついていた。スプーンでさえ歪な持ち方に相当長い間捕まっていたと予想する。なるべく怖くないように笑顔で接したおかげか、シノダ先輩が頭を撫でても怯えはしなかった。


「ほほほ、おかわりもございますから、慌てなくても大丈夫ですよ。そちらがこの城主、マオ様とヒデキ様でございます」


「?! じょ、じょうしゅさま、こ、こんにちは……」


「はい、こんにちは。挨拶が出来て偉いですね。セバスチャンさん、この子におかわりを」


「はい、ただいま。少し冷ましてきます」


「えっと……」


「私の名前はマオと言います。あなたのお名前は?」


「ゆ、U-116です……」


「……そうですか。ちょっと首を触りますが、痛いことはしません。少しだけ我慢できますか?」


「は、はい……!」


「良い子ですね、ちょっとだけ触りますよ、すぐ終わりますからね」


パキン、と割れるような音がして首輪が崩れ落ちる。残骸を取り除きにっこりと笑って頭を撫でると、驚きのあまり固まっていた。


「……これでもう大丈夫ですね」


「おう、もう大丈夫だからなー。良い子に出来て偉いぞ、U-116。」


良い子、良い子と撫でつつければ、再び大泣きしながら抱きついてきた。その軽すぎる身を抱き抱えながらトントンと背中を叩きながらあやしてるとセバスチャンさんが戻ってきてくれ、この光景に微笑みながら頼んだおかわりをテーブルに置いてくれた。その後は私達のいつもの食事を用意してくれ、泣き止んだのを境に椅子へと戻し、またパン粥を食べ始める子に目を細めながら私達もと隣に座り食事を始める。しばらくして静かになったと思ったら食事中に寝落ちしたらしく、スプーンを咥えながらすやすやと眠っていた。セバスチャンさんがそっと抱きかかえ、静かに一礼して部屋を出る。多分客室のどこかに寝かせに行ったのだろう。少しして戻ってきたセバスチャンさんにありがとうと声を掛けながら食事を再開する。


「……あの子、どんな感じでした?」


「怯えた様子はありませんでしたから、逃げ出したと言うよりは捨てられた可能性の方が高いでしょう。」


「……名前、番号みたいだったが?」


「残念ながら、業者ではよくあることです。親という概念がなかったようなので、奴隷商で産まれたかと」


「……後日エルフォンド国へ連れてこうかと思うが、大丈夫か?」


「……きっと喜ばれますよ」


少しだけ、いつもより味噌汁がしょっぱい気がした。


食後、あの子のためにと服を作り出した先輩に寄り添い、私もアクセサリーを作る。ただの装飾品ではなく身に危険が迫ると自動で防御壁が飛び出る仕組みの特性モノだ。シノダ先輩も作り終わると、珍しくエンチャントの付与を頼んできたので笑顔で返す。ある程度防御に特化した服ができあがり、夜も遅かったがセバスチャンさんにあの子へと伝言付きで渡した。それから私達も寝巻きに着替えてベッドへ入る。


「こうゆうの、オレは好きじゃねーな」


「私もです、無くなればいいのにと思います」


「明日、起きたら鳥飛ばそーぜ。迎え入れるにも準備あるだろうし」


そうですね、と静かに返して目を瞑る。確かに授業でも取り扱っていたが、どこか遠い話だとずっと思っていた。こんなにも身近に感じることとは思いもしなく、思っていたよりずっとショックだった。

翌朝、いくらかスッキリした目覚めを味わい、着替えながら魔術で鳥を生み出す。今回はいつもと違う鳥で、往復させるために魔力量を少しだけ多めに持った鳥だ。昨日拾った子の事を書き記し、返信用の紙とまとめて丸め小筒に入れて窓から飛ばす。その頃にはシノダ先輩も起き上がっており、身支度をしていた。


「あー、今日の調達は無しにするか?」


「うーん、午後だけにしますか」


「……そうだな、休む訳にはいかねーしな」


「ギルドの方はどうします?」


「そっちは休んでも文句はねーだろ、元々不定期だしな」


「では今日は山の方へ行きますか。山菜を探しましょう」


「おう、口に合うといいんだがな」


「セバスチャンさんならなんでも美味しくしてくれますよ」


それもそうか、と返事しながら身支度を終えたシノダ先輩が立ち上がる。部屋から出ると庭先から声が聞こえ、そちらに目をやるとどうやらセバスチャンさんがあの子と何かをしているようだった。椅子の上にあの子を縛り付け、椅子の下に紙を敷き何やら魔法陣を描いてるその姿に目を剥く。昨日までのやり取りからは想像出来ない現場にシノダ先輩も口を開けっ放しだ。急いで階段を飛び降り外に出てセバスチャンさんに声をかける。一体何があったというのか。


「セバスチャンさん!」


「おや、おはようございます。マオ様、ヒデキ様」


「おはようございます、何してるんですか?!」


「ああ、今から解呪の法を施そうかと思いまして」


「解呪?!え、何なに?!何があった?!」


「落ち着いてくださいませ、ヒデキ様。これはこの子の意思でございます。」


「はぁ?!」


詳しく聞くと、この子はある程度衰弱したら囮として放たれ、生き延びたら助けたものにご主人様が言いがかりをつけて高額を払わせ、奴隷である自分も回収されるというようなことを繰り返されていたそうだ。それで、それが嫌になって反抗した所また捨てられて私たちに拾われたが、居場所を知らしめるGPSのような呪いがかかっているため今朝慌てて解呪を願い出た、という事らしい。そして、調べた結果その解呪の法は激痛を伴うことが発覚し、決意を固め縛ることもこの子が言い出したことだという。


「……勘違いで良かったぁ、いやでも、それマオなら何とかなるんじゃね?」


「こ、この程度の事!城主様のお手を煩わせる事などございません!」


「この通り、なかなかに頑固でしてねぇ」


「……そうでしたか。邪魔をしてしまってすみません、続けてください」


「マオ?!」


「ありがとうございます、マオ様。U-116くん、もう少しで書き終わりますからね」


「ちょっ、おいマオ?!」


グイグイと先輩を引っ張り離れたいつもの席まで来るとぎゅっとその腕を掴む。


「おいマオ、どうした?つか、止めなくていーのか?」


「……私、笑えてましたか?声は震えてませんでしたか?」


「マオ?」


「あの子は強い子です。【職業】を変えることがどれだけの痛みを伴うか、わかってて願い出たんです。あんなに小さいのに、なんて強さでしょうか」


「……それって」


「私には出来ません。セバスチャンさんも苦渋の決断でしたでしょう。【奴隷】を解放するなど、どれほどの痛みか、それをあんな小さな子に。想像でも足りませんよ」


「……マオ、オレが悪かった、理解が足りなくて悪かった。大丈夫だ、あの子は強い。他でもないマオがそういうならあの子を信じよう。」


「ゔぅ〜」


「大丈夫だ。大丈夫、あの子はすぐに自由になれる」


職業を変えること。それは誰しもができることでは無い。その後の人生すら大きく左右する転職は激しい激痛を伴うもの。痛みなんて可愛いものじゃない、まるで血液が沸騰するような痛みと内側からの崩壊と再生の繰り返しで、死亡例も少なくない。大の大人でそれなのに痛みに敏感な子供がそれを理解してでも頼み込む、それがどれほどの覚悟か嫌でもわかってしまったから。だからこそセバスチャンさんに任せてしまったのだ。私には出来ない、確実に途中で辞めてしまうだろうから。

少しして力限りの絶叫が耳に響いてきた。塞ぎたくなるそれを目を瞑り記憶に残す。あの子の決意を忘れてはダメだ、とシノダ先輩に抱きつきながら必死にやり過ごす。泣きたいのはあの子の方なのに涙が溢れて止まない。それをわかってか、シノダ先輩が抱き返しながら頭を撫でてくれる。その優しさがまた涙を増やした。








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