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魔王様は引きこもりたい  作者: 黒駒
29/45

第29話

合言葉はファンタジーだから。


※無断転載禁止

※改変投稿禁止


誤字脱字はそっと直します。








ある日の事、討伐報酬を受け取っているとギルドマスターに呼ばれたので素直について行くと応接室へと連れていかれ、そこにいた人に素直に殺意が湧いた。


「──────という訳で、どうかね?学園に来る気は無いか?」


「無いですね。お断りします」


長ったらしい演説のように説明を上機嫌で続け、喜んで受け入れられる事しか想定していないのだろう態度に、昔からそうだったわ、と自分を心の中で落ち着かせようと必死になる。殺しちゃダメだ、落ち着け、とひたすらに耐える。


「理由を聞いても?」


「オレ達はやることがあるので」


「これ以上の事かね?」


「はい。この世界の命運を掛けたものなので」


「……何故そう拒む?ルルティエ学園の臨時とはいえ講師になれるというのに」


ミシリ、と先輩と繋いでいた手が悲鳴をあげるが、すぐに治るので無問題。それより、この無礼な髭は懐かしきルルティエ学園の学園長である。突然やってきたと思えば学園の講師になれと言われ、脊髄反射で断っていた。この髭への恨み辛みは忘れていない。何度消し炭にしてやろうかと思ったことか、こちらの意を全くの無視して己の都合に合わせようと必死である。


「ですから、そう仰られてもこればかりは譲れませんので。お断りします」


「たったの3ヶ月だぞ?そのくらいなら、」


「SSSランクの二人で行っている事に代わりは居ません。お断りします」


「……なら、どちらかでも」


「尚更お断りします。」


「……では、週に一度で」


「お断りします」


「……」


「お断りします」


何がなんでもお断りしますと連呼して断固拒否を貫くシノダ先輩。私は口を開いたら呪い殺しそうなので黙ったままだ。横で見ていたギルドマスターはしかめっ面をしていて、戦力の大幅ダウンを考えると断って欲しいのが半分、後続育成のためを思えば、が残り半分と言ったところか。


「……仕方ない、もう一度考える時間を与えようぞ。それなら気が」


「変わりません。お断りします」


「……いい加減に」


「お断りしますと何度も申し上げています。これ以上続けるならその首切り落としますよ」


あら、先輩がとうとう怒った。けど一撃で死なすなんて優しいな。私なら殺してくれと懇願するまで生き地獄を見せてやるのに、と先輩の手を握り返す。空いてる右手を大剣の柄へ回したところでギルドマスターからストップがかかる。が、なんのその。本気で殺気を込めながら学園長を睨み刀を少し浮かせた。いつでも切りかかれる、という所でやっとどちらが優位かわかったのか、口を塞ぎ汗を垂らす学園長とギルドマスターに静かに声を張る。


「オレ達より適任は居ますでしょう。ブランとか。オレ達はオレ達にしか出来ない事をやらねばならぬと決意して取り組んでいるのです。たとえこの国が滅んででもいい、国より大事だと言うのならどうぞ続けてください。そんな薄情者になる気は一切ありませんが、学園に映像を送れば意識改革位は起こるでしょう」


「……」


「……お話がお済みであれば失礼します」


それでは、と柄から手を離し部屋を後にして、廊下に出て扉を閉めた途端に帰城する。庭先の花の手入れをしていたセバスチャンさんに挨拶をして手が空いてからでいいから、と紅茶を頼み部屋へ篭った。


「あー!むしゃくしゃする!なんだあの態度!」


「うっかり殺しそうでした。危なかったですね」


「オレ達の同期はみんなBランクあるんだからそっちに声かけろよ!なんでオレ達なんだ!代わりが居ねーってのに!」


「仮に受けていたとして、それまでの定期的な駆除や高ランクの討伐はどうする気だったんでしょうね」


「全部やれって事だろ?!ふざけんな!オレ達は万能じゃねーんだよ!大体、マオはともかくオレは中途退学したはずだぞ!そんな奴に教育者の素質がある?な訳ねーだろ!」


「どこまでも自己中心的で上から目線で殺意しか湧きません。レベル18のくせに!」


「はぁ?!雑魚じゃねーか!ただの見掛け倒しかよ!」


「学園にいた頃から何一つ変わってないですね、うっかり殺してしまいそうに何度なったか。ワイズマッド先生の方が強いです」


「……一発ぶん殴っとけばよかったと思ったけど、それでも死にそうだな。危なかった」


「軽いデコピンくらいなら死なないのでは?」


「……マオなら殺れそう」


「……ここまでレベル差が悔しいと思ったことがないです」


「それな。あー、ちょっと落ち着いた」


ちょうどいいタイミングでセバスチャンさんが紅茶をいれてきてくれた。シノダ先輩と一緒に半分ほど飲み干せば、気分も晴れやかになる。素早く追加を入れてくれ、今度はちゃんと香りを楽しみながら口に運んだ。気分を安らげる為のカモミールティーをアレンジしたものと思われる。少しオレンジの香りもして、スッキリとした味わいと香りに心が癒される。


「……今更だけど、マオの分まで断って良かったか?」


「はい。先輩と行っても無言を貫く所存ですし、一人で行くなんて考えられません。講師なんて無理ですよ」


「だよなぁ。オレも人に何かを教えるって出来ねーもん」


「エルフォンド国ではやってたじゃないですか、効率のいい狩りの仕方や自然を生かした鍛錬方法など」


「あれは別だろ。マオだって子供たちに遊びながら覚えられる簡単な術教えてたじゃねーか」


「あれは別です。元々素質があって意欲があり覚えも早く順応性が高いから出来たことです」


「同じだ同じ。学園のは素質があっても意欲はまちまち、下手すりゃ拒否反応で一生を棒に振る危険思考達の巣窟だぞ。懇切丁寧に教えても無理なものは無理って感じじゃねーか」


「確かに、精神科医が常駐してないのが不思議でしたもんね。私も最初は暴走しましたし、何よりまず精神の安定を計らないと日本人は受け入れ難いと思います」


「そういや、マオは噂になったなー。懐かしー。」


シノダ先輩だけが心の頼りでした、とカップをソーサーに置く。まだこの世界に来て2年半とは思えない密度で、色々あった。とりあえず、この話は終わりにして今後の方針を話し合う。なんて言ったってあと半年で魔物のピークが来るのだから。ここ最近は駆除や討伐依頼がどんどん増えている。やはりセバスチャンさんの助言も頂きつつ、前もって準備をしていたからかSランク以上の依頼はそんなに変わらないが、Aランク以下が慌ただしくなってきている。大切なものを守るためなら手は出さないと決めたが考え直すのも一つの手だ。


「……やはり、依頼受理をAランクまで下げるべきですかね」


「うーん、そうすっと今までより忙しくなるな、素材集めや食料調達を維持するなら下げる訳にはいかないな」


「今の活動、調達が7割ですもんね。セバスチャンさんはどう思います?」


「やはり、ここは大人しくしているべきかと。歯がゆいかもしれませぬがあまり手の内を見せすぎると破綻してしまいます。実力を隠すべきかと」


「そうですか、それもそうですね。Sランク以上は維持できてますし、下手に手出ししては最悪違反になりますし……」


「文字通りオレ達はレベルが違うからなー。強すぎるってのは時に毒でもあるってな。あんまり気にすんなよ、マオ」


はい、と小さく返しながら紅茶を飲みながら頭の中で整理しておく。第一にララニエル国のおじさんのところ、これはセバスチャンさんにも情報収集を頼んである。第二にルルティエ国、一応所属国家なので。第三にエルフォンド国、リリアンナさんにはルルティエ国所属を伝えてあるのでピーク時に重なったら優先出来ないこともあると伝えてはいる。物事によっては優先するが。例えば今みたいに個人的に動いてる最中なら良いが、ギルドに登録されたSSSランク専用クエスト(国家の危機回避など)中などは無理だ。今のところ私たちの代で発注された事は無いが、何があるか分からないからね。それだけ魔物の波は危険視しているのだ。過去に魔物のピークで滅んだ国は授業でも取り上げられる程例がいくつもあった。何も教科書が全てとは言わないが、どの国でも教わっている事となれば自然とある程度覚えているもので。まぁ忘れても教科書が上の階にあるのでいつでも読み直せるが。

空になったカップにまたおかわりを注いでもらい、ついでに用意されていたマフィンを頂く。木の実が入っていて美味しい。シノダ先輩も頬に詰めながら次の物へと手を伸ばしていた。


「……というか、今更ですが魔王の定義ってなんでしょう?」


「……魔物を統べるモノの王、で魔王なんじゃねーの?」


「使役術はできますが使ってないし統べて無いですよね?」


「あー……そりゃあそうだが……」


「魔王って言われると悪の頂点、みたいな印象ですが……私、悪の頂点に見えます?」


「オレには見えねーな。となると、別の意義が?」


「セバスチャンさん、歴代の魔王ってどんな感じでした?」


「……そうですね、非道の限りを尽くす者もいれば、ひたすらに城にこもり穏やかに生を終えた者まで多種多様ですね。先代様はマオ様よりは魔物側でしたかね」


「へぇ〜。異世界産の魔王ってのはマオ以外にも居たか?」


「私の記憶の限り、殆どがこの世界産でした。マオ様は4人目の異世界産魔王様でございます」


「過去にも居たんですね、その方たちは?」


「共通点は少ないですが、皆様、元の世界に帰ろうとしておりました。方法は見つからず終いでしたが……マオ様は、お帰りになりたいと思わないのですか?」


「うーん、帰りたい気持ちがない訳では無いですが人間やめてしまったし、今の生活に不満はないですし……セバスチャンさんもシノダ先輩も居ますしね。今は別にいいかな」


「……ほほほ、そうでしたか。」


「にしても、セバスチャンさん長生きだなぁ。何年くらい生きてんの?」


「4桁を越えたあたりから数えていませんねぇ」


「おっと、セバスチャンさん人間じゃなかったのか」


「一応、吸血鬼族になります。人とのハーフですが、血は吸血鬼寄りですので長生きなのです。アンデッドという効果もありますので不死に近いですね」


「何それカッケェー!」


「かっこいいですね!それじゃあこの先も長く一緒に居られますね!」


「セバスチャンさんと一緒か!安心だわー!オレもうここが実家でいいって思ってたから、セバスチャンさん居ないと困ってたんだよなぁ」


「わかります!特に料理!もうセバスチャンさん居ないと餓死を危惧するレベルです!」


「外の料理も不味くはないんだが、日本料理が無いと多分飢え死ぬと思うわ」


「料理は異世界産魔王様方から教わりました。特に2代目様が顕著で、出汁の取り方から調味料の黄金比、調理の仕方や外の国の料理まで幅広く手ほどきしていただき、それからはもう毎日が楽しくて。あの時の努力が今、日々こうして報われております。ほほほ」


セバスチャンさんが楽しいのなら何よりだ。今では食材を見ただけでどのように調理するか考えを巡らすのが趣味になりつつあるという。また、いつも反応をしていたおかげか、レシピが本になるほど分厚くなってきたらしい。そこで私は学生時代に乱用していた白紙のノートというハードカバーサイズの分厚い本をいくつか手渡した。これならインクも染みないし、好きに書けるので重宝してくれるだろう。シノダ先輩が開発した万年筆と共に送ると「歳をとると涙腺が弱まりますね」と喜んでくれた。無くなったりペンが壊れたりしたらまた作るので!と遠慮なく使ってくれと二人で励ます。料理が趣味なら次のプレゼントは包丁だな、と心の中でメモをしておく。

マフィンも食べ終わり、日が傾いてきたのでお風呂を頂いてそのまま今日は寝室へ。あまり動かなかったのでマフィンでお腹が膨れたし、とセバスチャンさんも先読みしていたのかお風呂上がりにシャーベットを用意してくれただけで料理はなかった。ひんやりとしたシャーベットは火照った体に丁度よく、ペロリと平らげる頃には眠気が来ていた。明日に備えて今日も早めに寝ることとする。



魔物のピークまであと6ヶ月。頑張ります!









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