第23話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
それは、今の生活にだいぶ慣れ始めた頃の話だ。時々エルフォンド国に行っては魔物討伐をして、気まぐれにSランク以上のクエストを受けては素材を集め、まったりする日もあれば新しい武器や防具の試作に挑戦したりする日々を過ごしていた時。ギルドマスター直々にとある依頼を受けて欲しいと打診してきた。
ランクはCランク以上で報酬は金貨35枚。内容は、要人の護衛とだけ書かれていた。
「……ここだけの話、相手は隣国のサシャルドル王国の王女様の護衛だ。お忍びでルルティエ国に視察に来るという。なるべく高ランクのものを、とご指名付きだ」
「サシャルドル王国の、っすか。失礼ながら申し上げると他にも適役はいると思いますが?」
「言いたい事はわかっている。だが……向こうさんは顔で選んでる」
「顔、ですか。それこそオレ達は隠してますし……。」
「だから良いんだ。最初から見られなければ抗議のしようもあるまい。な、このとおり、何とか引き受けてくれねーか?ほんの数時間だからよ」
ギルドマスターが本当に申し訳なさそうに言いながら何とか受けてくれと頼んでくる。金や権力を振りかざさない所は好感触ではあるが、先輩と意思伝達で念話する。
(マオ、どうする?)
(……本っ当に嫌ですが、今回だけ受けましょう。何かあれば“気まぐれ”を使えばよろしいかと)
(わかった、護衛だけ引き受けて、あとは知らんと放置すればいいしな)
「……本当に護衛だけで良いのなら、お受けします。ただし、何か気に入らないことがあれば即時離脱の許可を」
「ああ、引き受けてくれるだけでも有難い。向こうにも伝えておくから、個人の判断で離脱を許可をする」
「ありがとうございます」
「期間は二週間後の木曜日、午前の11時から午後の2時までの3時間だ。落ち合う場所は北東の街リットビトンのホテル、グランドリトル前だ。」
グランツ王国の時みたいな、しつこいストーカーでは無いといいのだけれど、と思いながら脳内スケジュールに記憶した。
面談は終わり、さっさとギルドを後にする。念の為の予防線を張るためだ。何かあった時用に隠しカメラなどを仕込ませてもらおう、と足早に帰城する。こういう目立たない物は手作りが一番、とばかりに加工に力を入れる。黙々と二人で作りあい、納得がいく物ができたのは8日も過ぎていた。やはり1から作るとなると日数がかかる、とどちらもため息をついた。
残りは精神的回復を主にしながら、まったり過ごした。日がな一日ベッドでゴロゴロして、お風呂と食事、エルフォンド国の要請時以外はベッドに住み着いた。
そうして当日を迎えた。あまり食の進まない朝食を後に、できる限りの準備をしてシノダ先輩と腕を絡める。セバスチャンさんに行ってきます、と挨拶をして静かにリットビトンへと飛んだ。
路地から出た私たちは事前に買っておいた地図を片手にグランドリトルホテルをさがす。観光地として賑わっており、ホテルも大きいところだった。ホテル前の案内係に待ち合わせを伝え、邪魔にならないところの壁際に身を寄せる。雑踏に紛れ込み、フードごしからも賑わいに目を輝かせた。仕事が終わったら行くか、と示し合わせて時計を見る。ちょうど5分前にホテルの入口が動いて、確認する。あまり派手ではないが見るものが見れば分かる高い服を来た少女と言える人物と、明らかに護衛だと思われるごつい体の男が3人のグループが出てきて、シノダ先輩と顔を合わせ護衛らしき人物に声をかけた。
「すまないが、サシャルドル王国のものだろうか。」
「……何者だ」
「護衛依頼を受けてギルドルルティエ支部から派遣されたものだ。証明書はコレだ、こっちがオレで、彼のはこっちだ」
「『紅獅子』に『黒猫』だと……!確かに高ランクを、と伝えたが……ああ、だから、個人の判断で離脱許可が欲しいと言ってきたのか。噂は兼ね兼ね、お忙しい中ありがとうございます。本日はどうぞよろしくお願いします」
ひっそりとやり取りを済ましていると王女様が早速とばかりに顔を出して騒ぎはじめた。今までのやり取りが無駄になるでは無いかと腹が立ったが表に出さないよう無言を貫く。
「……ちょっと!あんた達フードを取りなさいよ!顔が見れないじゃない!なんの為に顔採用にしたと思っているの?!」
「……失礼ながら、本日は顔は隠させて頂きます。どうしても、とおっしゃるのであればランクは下がりますが他のものへ収集を掛け合ってみましょう」
「! い、いや!大丈夫です!王女様、どうかこのもの達に護衛を」
「なによ!まったく。使えないんだから!仕方ないから護衛に入れてあげるけど、フードの男なんて嫌よ!あなた達は離れて護衛しなさい!」
「……王女様がそうおっしゃるのなら意は唱えません。視界に入らないよう護衛のみに努めます」
それでは、離れたところにいるので何かあればすぐ駆けつけます。と伝えて近くの高い建物の屋上へ転移する。護衛の男たちは辺りを見渡すが勿論視界に入らず、慌てて王女様を馬車に送り込んだ。馬車のみを注視して共に移動を開始する。屋根から屋根へ、走り飛びながら目で追っていく。
「……思ったより我儘でしたが、歳を考えれば仕方の無いことなんでしょう。先輩は大丈夫そうですか?」
「うーん。まぁ、仕事じゃなきゃ近づきたくない人種ではあるな。何事もなく終わればいいんだが。」
「そのための私たちです。」
そうだな、と返ってきてからはしばらく無言で馬車を追う。
街中を走っていた馬車はどんどん田舎の方へと走り、森の中へと足を踏み入れた。地図と照らし合わせて見ると森を突っ切って行くのが最短ルートである隣町へ向かっていると予想し、離れたところを走っていたが森に入ると音もなく木の上へ飛び移り、今度は木から木へ飛ぶ作業に入った。しばらくすると分かれ道の手前で馬車が止まり、何かあったかと臨戦体制へと移行しながら木から下りる。すぐさま馬車から降りてきた護衛の一人に話を聞くと、本当に着いてきていたとは、と驚かれる。隠密は得意な方です。
「……で、何かあったか?」
「いえ、その……少し休憩を、と王女様が。」
「……そうか。地図を見ていたが、隣町へ行くので間違いないか?」
「は、はい。よくお分かりで。」
その時、王女が隙を見て馬車から飛び降りた。他の護衛に気づかれないようそーっと抜け出す王女様に着いていくが念の為、シノダ先輩に伝える。
(……王女が離脱、北北西に向かってます。後を追いますので話が済み次第合流を)
(! わかった、先に行っててくれ)
木の上を飛び移りながら王女を追いかける。まだまだ遊びたい盛りなのは分かるが、それは護衛任務が終わってからにして欲しい。時間的にも隣町に着いたら解散なのだから。辺りを索敵しながらついて行くが、なんの生体反応もなく今のところ会敵はしなさそうだ。何が楽しいのか一人で上品に笑いながら森を突き進む王女。そろそろ馬車に戻って欲しいので、疲れたのか辺りを見渡しながら木陰に座る王女の前に飛び出す。
「きゃあ?!」
「……失礼ながら王女様、そろそろ馬車にお戻りください」
「な、なんでバレたのよ?!誰も気づいてないはずだったのに!」
むしろなんでバレないと思った、レベル差を考えろ、とでも言いたいが相手は王女、何も言わないのが吉だ。
何を言っても無言を貫く私に痺れを切らしたのか、戻ればいいんでしょ!と立ち上がる。が、そこから一歩も動かずに顔を青ざめる。……もしかして、と思いながら王女に再び尋ねる。
「……王女様、帰り道はこちらですが、大丈夫でしょうか?」
「わ、わかってるわよ!馬鹿にしないでちょうだい!」
あ、ダメだこれ。わかってないやつだ。本当はここを左ではなく右だ。
忙しなく目線をあちこちに向けて恐る恐る進む。こんなんじゃ、馬車に辿り着くまでに日が暮れてしまう、と判断し、王女に話しかける。
「……王女様、僭越ながら、道案内させていただきます。もしもの時の為に。私に着いてきてください」
「! 仕方ないわね、そこまで言うなら着いてってあげないこともないわ!」
これじゃ護衛任務ではなく子供のお守りだ。帰ったら訂正させよう。それからは足並みを揃えてゆっくり進む。やっと意志伝達の範囲内に入ったのでシノダ先輩に情報を送る。
(こちらマオ、王女の捕獲完了。現在馬車まで誘導中)
(こちらヒデキ、護衛が今さっき王女の行方不明に気づいた所。現在宥めている。動きは特に無し)
(了解、15分後に合流予定。馬車で待たれよ)
了解、と先輩の声が頭に響き、王女の様子を見ながら歩き続ける。薮を切り倒して少々ショートカットしたり色々してるせいか本当に着いてきて良かったのかと疑心暗鬼の目で見てくる。よく知りもしない人は疑う、それは正解に近いが表面に出てる時点で減点だ。王女たるもの、もう少し教養を身につけることをおすすめしとこう。今は何も言わないが。
そうして報告通りピッタリ15分後に馬車へと戻ってきた。王女は何故か涙目だったし、護衛の人達もやっと一安心できたみたいだ。
それからはちゃんと隣町まで大人しく馬車に揺られて、延長した分報酬を上げると言われ隣町で解散となった。これでこちらも一安心、と帰るための確認をいくつかして、シノダ先輩と腕を組んだところで王女に話しかけられた。まだ何かあるのか、と思いながら聞いてみると森でのことについての謝罪とお礼だった。気にしないで、それが仕事だから。だから早く解放しろ、という言葉をシノダ先輩がコットンに包んでやんわりと断る。それを気づかずさらに言葉を連ねるが、総無視を決める。王女の後ろの方で護衛達が慌ててるが、無視だ。
「……そうよ、あなた達なら信頼出来るわ!腕に自信があるなら護衛くらいにならなってもいいわ!だからそのフードを取って!部下にしてあげる!」
「……大変貴重な申し出ですが、お断りさせていただきます」
「なんでよ?!この私が良いって言ってるのよ?!さ、ほら、フードを取って!」
「お断りします、と再三申し上げております。」
いい加減にしろ、と怒気を少し含んで言うシノダ先輩に、やっと気付いたのか、でも、とまだ言葉を重ねる。護衛にもどうかそのくらいで、とか彼らは仕事が終わりましたから、とか言いながら何とか引き離そうとしてくれている。まだ何か言いかけていた王女の言葉を遮り、失礼します、と無理やり切り上げて転移する。
ギルドの裏手で周りを確認してから座り込む先輩は、もう二度とやらねぇ!と叫んだ。激しく同意だ。そのままギルドマスターに報告し、同情されながらちゃんと多めにされた報酬を受け取りさっさと城に帰ってきた。むしゃくしゃしたままお風呂へ直行する私たちにセバスチャンさんも察してくれたのか、一礼するだけだった。
「ギルドマスターからの依頼なんて良いもんなんか無ぇじゃねーか!」
「もう二度と引き受けません。嫌です」
「何が護衛任務だ!ただの子守りだろ!」
「森で迷子になった時は本気で殺意が湧きましたね」
「よく殺さなかった!オレだったら殴ってた!」
「上から目線がムカつきます。まぁ実際偉いんでしょうが、関係ないじゃないですか。何度あの首跳ねてやろうかと思ったか」
「性にあわないことはもう全部断ろう!オレも気まぐれになる!」
文句は言いつつしっかり風呂に浸かり疲れを癒していく。暴言でもなんでもアウトプットしていかないとやってらんない。この日はやさぐれにグレて夕食の席で酒を多めに飲んでしまった。飲まなきゃやってられなかったのだ。その後は少し早かったがそのままお気に入りのベッドへ沈み、泥のように眠った。嫌なことは酒飲んで寝て忘れるに限る。大人たちが酒を辞められない理由が少しわかった気がした。
そうだ、しばらく引きこもろう。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
またちらちら投稿していきます