表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様は引きこもりたい  作者: 黒駒
20/45

第20話

合言葉はファンタジーだから。


※無断転載禁止

※改変投稿禁止


誤字脱字はそっと直します。








風を切って横に振られた大剣を開脚して避ける。そのまま足を払おうと体を捻じれば見透かしたようにジャンプされ避けられた。そのまま今度は縦に大剣を振り落とされそれを少し横に避けると近づいて首元に持っていた棒を押し付ける。


「はい、一本です」


「〜っはぁ、マオってほんと強ぇよなー。まだ勝てねー」


「もう一回やりますか?」


「いや、それより武器増やしたい」


「? この前の片手剣は気に入りませんでした?」


「いや、セバスチャンさんにも太鼓判押されたけど、手なんてもっとあった方が良いだろ」


「確かに。撹乱できますものね。ですが、肝心の本番で使えないような戦い方はしないでくださいよ」


「言うじゃねーか!やっぱもっかいだ!もう一回!」


「では、始めましょう!」


また手合わせを始める。


あれから、本当にココから出ていない。

情報をたまに仕入れつつ、もっぱらこうして手合わせか新しい武器の戦い方の取得か、気ままにダラダラと過ごすかの3つである。ごく稀に実験もするが、基本回復薬を作ること以外あまりしていない。

ヒョイヒョイを攻撃を避けつつ思考は続ける。魔術師は思考が命だとも言える職業なのだ。まぁ私は魔王だが。15秒経ったら反撃開始、最近追加されたルールだ。攻撃を避けながら短剣に見立てた棒で大剣をいなしながら、一瞬の隙をついて左胸にトン、と軽く当てる。また私の勝ち。


「はい、一本です。」


「〜あああ!はえーよ!見えなかったぞ一瞬!」


「レベル差ですね」


「そりゃあな!100以上離れてたらな!」


「だいぶ動けるようになってるとは思います。ただ、大振りな攻撃が多いのでどうしても隙が生まれやすくなってますね。防具で強化するか武器を軽くして素早さをあげるか、悩みどころです。」


「これ以上軽くしたら折りそうなんだよな〜。防具、なんか材料余ってたっけ?」


「ドラゴンの皮なら少し、要所に縫い付けますか?」


「そうすっかな。にしても、そろそろ一本くらい取りてー」


「まぁでもレベルは上がってますし、そのうちできますよ。今先輩は152です」


「152か〜。マオは?」


「……294です」


「あ!また回復薬作ったろ!これ以上差を開くつもりか?!」


「アー、ほら、先輩、ドラゴンの皮取りに行きましょ!」


誤魔化すな!と少し怒られつつ、これは戯れに過ぎないので反省はしない。本気で怒ったシノダ先輩はまず口より手が出るのだ。ブランしかり、どこぞの侯爵の息子しかり。

こう考えると本気で喧嘩したことないな、とも思う。仲が良いのは自負しているが、言い争うことも無いというレベルの親友はそうそう世の中で作れるものじゃないと思っている。きっと前世を哀れんだ神様がプレゼントしてくれたのだろう。突然異世界に呼んだことは今でも許せないが、シノダ先輩に会えただけでも儲けものだと考えを改めるのも些かではない。

いつもの庭のティーテーブルでセバスチャンさんが淹れてくれた紅茶で一息つく。向かい側で先輩は裁縫道具を広げている。

心臓の場所は二枚重ねて、少し大きめに肺や肋骨を守るよう前後に囲って、アトラスタラテクトと呼ばれる巨大な大蜘蛛のこの世界で一番丈夫と言われる糸を使って手縫いでつけてゆく。

3mm幅でしっかり縫い付けた後に試しに着込んで立ち上がり動作確認をしている。見た目は先程と全く変わらないが、違和感を慣らすために飛んだり型を取ったりして何度か慣らしていく。ようやく馴染んだのか満足気にうなづいて席に戻ってきた。そこへすかさずセバスチャンさんが紅茶を淹れてくれ、礼を言いながらカップに口をつける。


「……シノダ先輩っていつから紅茶派に?外ではコーヒーでしたよね?」


「あー、元々どっちも飲めたけど、美味いのを一度飲むと他が飲めなくなってな。セバスチャンさんのは美味いだろ?コレを基準にしちまったら他のが、な。」


「確かに、セバスチャンさんの紅茶は絶品ですからね」


「ほほほ、ありがとうございます。名誉につきます。マオ様、こちらをどうぞ」


「あ、いつもありがとうございます。」


そう言って受け取ったのは今の世の中の様子を簡易に纏めたもの。椅子を動かして先輩と共に見る。さて、どうなったかな。


「……やはり、戦争を仕掛けるみたいですね。ランクを下げてまでまだ募集してるなんて」


「『裏切りの勇者』か、オレ勇者だなんて名乗った事ねーのに」


「こっちも面白いですよ、『黒猫は飼い主を裏切ったか』って。私に飼い主なんて居ないのに」


「飼う側だもんな、マオは。」


「シノダ先輩だけで十分です。……ルルティエ側は比べるもなく静かですね、まぁ徹底的に戦う意思はありそうですが」


「……確かに。オレたちの世代はみんなBランク以上を出したからなぁ、心強いっちゃあ強いな。ブランも今はAランクに戻ったんだろ?」


「そうみたいですね、さすが勇者」


「比べてグエンツ王国は酷いな、Dランクまで招集してとにかく数で押し切ろうってのがバレバレだな。科学の力は屈しないって……なんじゃそりゃ」


「科学兵器を心配してましたがその形跡は無し、核もサリンも銃も無いようで安心しましたね」


「元被爆国民としては、一生出来ないで欲しいがな」


「できることなら科学と魔法の融合未来を望みますね。平和が一番」


「魔王とは思えない性格だよなぁ本当。ま、何事なく終わるのが1番だが、この調子じゃグエンツ王国の敗北で終わるだろ。」


「そうですね……あ、漁師のおじさんの事も調べてくださったんですね。無事みたいで良かったです」


「本当だ。一家で隣国へ国外逃亡か、無難だな。ありがとうセバスチャンさん」


「いえいえ、この程度。随分と愛用なされてましたから」


「いつか漁を生目で見てみたいですね」


「ああ、プロの技っての?すごいよなぁ技術職人は」


紅茶を飲みながら書類を確認していく。一通り頭に入れたらその場で燃やして灰すら残さない。万が一の為の情報漏洩防止と証拠隠滅だ。これでこのことを把握しているのはここにいる3人だけとなった。


「仮にグエンツ王国が敗北したとして、どうなると思う?」


「王の極刑は免れないでしょうね」


「だよな。あとは領地を植民地化するか、と」


「捕虜をどうするか、ですね」


「あとルルティエ側に何かあって敗北した場合」


「王国では無いので賠償金でしょうか。こちらは逆にグエンツ王国の戦力拡大につながりますね。そうなると世界一はまず間違いないかと」


「勝っても負けても死者が出ることは必須。戦争なんていい事ないなぁ」


「私たちが乱入して両成敗、という手もありますが、今回は見送った方が良いですね。」


「それに尽きるな」


世の中ってままならない事ばかりだ。異世界でもそこは同じらしい。


「あー、ギルドの事忘れてた。どうする?戦争が終わったとして、どこか新しい場所で登録し直すか?」


「ああ。完全に忘れてましたね。どっちの国に行っても非難されそう。いっその事100年単位で引き篭もります?」


「その手は無いだろ、さすがに。……そうだ!おっさんの所へ行こうぜ!」


「おじさんの、と言うとララニエル国ですか?」


あまりいい思い出がない国に、また行くのか、と思うと気が乗らない。


「あの国は確かに嫌だが、周り海だしおっさんも重宝されるだろ。金貨はまだ沢山あるし、何よりおっさんならオレたちを裏切らないと思うからな」


「確かに、おじさんは裏切るくらいなら怒鳴って出ていけ!とか言いそうですね。」


それなら一度くらいなら行ってもいいかもしれない。

あと、そうだ、と話題を取り出す。


「そうだ、私もそろそろ不老薬飲もうかと思うですがどうですか?」


「え?!あんなに身長伸ばすって張り切ってたのにどうしたんだよ?」


「いや、よく考えたら見た目を魔術で変えることって出来るんですよね。なら、早めに飲んだ方が安心かと。」


「……そういや、変身術習ったなぁ。つっても、髪の色変える程度だけど」


「その間に性転換レベルまで私は覚えましたよ」


「まじか!ちょっと見てみたい!」


嫌ですと速攻で返して、どこぞの侯爵を思い出すと続ければ納得してくれた。今は男なので女扱いはやめて欲しいものだ。それじゃあ早速とばかりにしまっておいた不老薬を取りだし蓋を開ける。


「スズキマオ、いっきまーす!」


ゴックンと喉を鳴らし飲み込む。特に痛みとかは何もない。せり帰ってくることも無い。


「どうだ?変わったか?」


「ちょっと待ってくださいね、確かめてみます」


飲んでいたティーカップの縁に指を素早く擦り、小さな切り傷を作り出す。が、血が出ずに傷が治ったので成功だと喜ぶ。


「治りました!成功です!」


「やったなマオ!」


キャッキャと喜びあっていればセバスチャンさんを思い出し、今夜は、と胸がワクワクする。

予想通り、今夜はマオ様のお好きなものをお作り致しますと一礼され、さらに喜ぶ。

人間を辞めた事に今更なにか思うことも無く(魔王だったので)、むしろシノダ先輩とお揃い!それにご馳走!と嬉しくなるほどだった。

戦争が始まるか否か世論が忙しくなる中、正真正銘最強の魔王への大きな一歩は、誰一人気づかなかった。










ここまでお読み頂きありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ