第19話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
エルフの国、エルフォンド国にて。
「何かあったのか?」
「すまぬ!緊急じゃからと呼び出してもうて……」
「只事じゃなさそうだな、何があった?」
「ああ、どうやらグエンツ王国が王命で貴殿らを捕らえようとしていると情報が入った」
「?! グエンツ王国で?」
「信憑性はかなり高い。目的はまだはっきりしないが、前に一度聞いたとき港町に良く行くと言ってたであろう?そこの領主は王の臣下でもあり、そこから貴殿らの情報が流れたとみている」
「……それで?」
「近々、戦争でも起こすのでは、ともっぱらの噂じゃ。兵士として収集されとるのかもしれん。実際、ギルドからは引き抜きが始まっておる。どこかに身を隠せる場所がなければうちに匿うことも些かではないと呼んだまでじゃ」
「……そうか、情報提供助かる。しばらく身を隠そうと思う。その間依頼を受けることが出来なくなるが、大丈夫か?」
「あ、ああ。わしらは何とか。しかし貴殿らこそ大丈夫か?家はグエンツ付近だと言っておったでは無いか」
「大丈夫だ、グエンツに近いがそうではないからな。しばらくは引きこもるさ」
「う、うむ、大丈夫と言うなら信じよう。それと、念の為この笛を返そう。やむ無く強制される可能性も無くはないからな。決して、家から出るでないぞ!」
「ああ、確かに。……帰ろう、マオ」
こくりと頷きその場で城へ飛ぶ。セバスチャンさんも違和感を感じたようで随分とお早いお帰りで、と出迎えてくれた。
「セバスチャンさん、何やらグエンツ国の王命で私たちの捜索があったみたいで……」
「マオ様とヒデキ様が、ですか?」
「はい。ギルドからも引き抜きが始まってて、戦争でもするんじゃないかって噂まで広がってるらしいんすよ。だから、しばらく城に引きこもろうかと」
「……異常事態なのはわかりました、こちらでも調べると致しましょう。本日はもう休まれますか?」
顔を見合わせてお風呂だけ頂くことにした。
風呂上がりには軽食を用意して欲しいと頼んで、城の中へ入る。顔の割れている私やシノダ先輩より、セバスチャンさんの方がかなり情報を手にできるだろうと一安心しながら湯に浸かる。
「……マオはどう思う?」
「そうですね、グエンツ王国はルルティエ国より魔術師やギルドを軍事力、人ではなくモノとして見る傾向がありますから、戦争のために集められているという可能性は高いでしょう。」
「『選ばれしモノは人にあらず』、か」
「……懐かしいですね、世界史でしたっけ」
「そーそー。テストで何回も引っかかってたんだよなぁ。オレたちは人だっつーのってな」
「まぁ、魔術や剣士は才能でどうにかなるものでもないですし、一理ありますよね。特に私なんて職業魔王ですし」
「オレも今じゃ不老不死だしなぁ。レベルもそうとう上がったし。あ、今いくつだ?」
「先輩は144ですね。私は278です」
「うえ、なんでそんな上がってんだよ」
「禁術を二度も成功させましたから。」
「なるほど。まぁとりあえず、ひきこもりますかぁ」
「そうですね」
たっぷり長湯してあっという間に午後が過ぎた。ちょうどおやつの時間に風呂をあがり、セバスチャンさんお手製のフルーツタルトと紅茶を頂き優雅に過ごす。いつもはそばに控えているセバスチャンさんも、今日は一礼してどこかへ消えてった。きっと情報収集に向かってくれたんだろう。
夕日に照らされる頃に帰ってきたセバスチャンさんはすぐにお夕飯をお出ししますね、と声をかけてくれた。いつも通り筆舌に尽くし難いほど美味しい料理に舌鼓を打ち、食器をかたされると代わり書類を一枚提出された。なになにと先輩にも見えるよう傾けながら文字を追って目を丸める。
「……これ、なにかの冗談ですか?」
「いえ、できる限り私がこの目と耳でしっかり確認させていただいたことです。」
「……え、マジなのか、これ?」
「……セバスチャンさんの冗談ではない、と。」
──────ギルドグエンツ支部所属Sランクヒデキ=シノダを勇者とし、同所属『黒猫』をパーティーメンバーとして、勇者を騙るギルドルルティエ支部所属ブラン=アンツツを討伐する猛者を集めている。また、グエンツ王国の王命でルルティエ国との戦争宣言をされた。グエンツ王国はルルティエ国を滅ぼすつもりである。
世界戦争、勃発である。
「……これ、無視したらどうなるんだろう。私たち、ギルドはグエンツ支部所属だけど、あくまで派遣要員だし。本籍はルルティエに残したままですよ」
「……そういや派遣要員だったわ、オレたち。無視、してみるか。折を見てルルティエに帰るのも手だよな」
「まぁ、とりあえず引き篭もりましょう。セバスチャンさん、出来れば時折でいいので世論を調べてください。」
「かしこまりました、マオ様。」
こうして、引き篭もり生活が始まったのである。
・・・
・・
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グエンツ王国王宮にて。その会議は意見が飛び合い騒がしいものとなっていた。
「新しい勇者と『黒猫』はまだ見つからないのか?!」
「どうするつもりです?!王よ!」
「まさかもう既に国を出たのでは?!」
「アレらは我が国に忠誠を誓っては居なかったのか?!」
「アレらはルルティエから来た剣士と魔術師!特に魔術師の方の実力は間違いなく国家一のものぞ?!」
「既に宣戦布告をしたのだから戦力を貯えねば!」
「募集はどうなった?!万が一、アレらが寝返っても勝てるのか?!」
「ルルティエを滅ぼすまたとないチャンスだぞ?!」
「国民にはなんて説明するのじゃ?!」
「静まれぃ!」
王の一喝で会議室には静寂が訪れる。
「……新しい勇者も『黒猫』もすぐに見つかるであろう。小賢しく隠れているだけよ。既に国境には規制線を巡らしとる。時間次第じゃ。それまでは戦力の底上げとBランク以上のハンターを募集し続けたまえ。……これは聖戦である、我が国家に勝利は既に確定されたものぞ!」
「……何を持って、勝利を確信したと?」
「フン!魔術やら魔法やらはただのインチキだ、そんなものに我が国家が負けるわけが無い!」
自信満々に言い切る王に戸惑いを隠せない臣下達。魔術も魔法も実在するというのに、何を言っておられるのだと小さくざわめく。
「……我が国家は科学力で戦ってきた!それはどの国にも劣らぬ力だ!今回もそうであるだけの事よ!なぜ分からぬ?!」
それは、あまりにも愚考で傲慢すぎる言葉であった。
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