第18話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
それは、リリアンナからの要請でハーピーの群れを討伐して羽を毟りアイテムをごっそり採取していた時だった。
「マオっ!マオ、これ!」
喜色にまみれ急いで駆け寄るシノダ先輩に何かな?とこちらも作業の手を止めて伺う。虫か何か小さなものを包むように両手で手を丸めて近づいてきて、覗き込むようにするとそっと片手を開けるように退かす。
そこには青白く薄く輝く羽が2枚。これは!とすぐ鑑定し間違いないと頷く。
「……天使の羽根ですね、間違いないです。これで不老薬の材料が揃いました!」
「やっぱりか!これだけうっすら色違うし輝いてるからそうかと思ったんだ!」
よっしゃあ!とガッツポーズを決めるシノダ先輩に、別の皮袋を開いて見せればその中にそっと羽根をしまう。
龍の鬣、人魚の鱗、天女の恵水、天使の羽根。これらを調合してできるものが禁術不老の外法の薬。少しだけ時間がかかったが、エルフォンド国に来て2ヶ月ということを考えれば短い方なのだろう。この2ヶ月はリリアンナの依頼を受けては材料探しに精を出していた。薬は早めに作っといて、時が来たら使おうと話し合っていたのだ。これで暫く依頼がなければ引き込もれる。
早速とばかりに大袋3つに大量のハーピーの羽を詰めたものと一緒にリリアンナの所へ転移する。こちらもようやくなれたようで、突然現れた私達を見て歓迎する。
「! シノダ殿、黒猫殿、お疲れ様じゃ。いつも助かったとるぞ。して、今回も金貨以外は受け取らぬ気か?」
「ああ、俺達には間に合ってるからな。必要になれば個人的に狩りに出かけるさ。これは今回のハーピーの羽だ、売るなり加工するなり好きにしな、ここに置いといていいか?」
「ああ、ありがとう。後で村のものを呼び寄せる。ほれ、今回の報酬じゃ」
「こちらこそ。またのご贔屓を」
金貨を受け取りながらそう言って腕を組み城へ帰る。水撒きをしていたセバスチャンさんにただいま!と告げ、今から実験するねと言い放ち城の中へ忙しなく入ってゆく。セバスチャンさんは慣れた様子で後で紅茶をお淹れしますねと笑っていた。すっかり実験室になった客間のひとつに飛び込む。
「不老の材料は右の棚にしまってたんだっけ?」
「はい、手前のがそうです。龍の鬣、人魚の鱗、天女の恵水、今回の羽根……すり鉢とビーカーとスポイトと固形燃料と……。」
切って刻んで摩って熱して混ぜて。一つ一つを慎重に少しずつ二人で進める。
「あー、魔術って言うより科学の実験って感じだなぁ」
「わかります、液体窒素とか好きでした」
「液体窒素いいよな。楽しい。あとプレパラートは毎回割ってたなぁ、オレ」
「アレを割らないでいる先生の方が異端でしたね」
「わかる。それで変なあだ名つけたりとかな」
「うちはキムチャッカ先生って呼ばれてましたね」
「オレんとこはハゲちゃびんだったぞ」
お互いどうしてそうなったと聞きたいあだ名の酷さに笑い転げる。中学から高校生のネーミングセンスは問わないことが無難だ。
魔法薬の精製に一段落着いたところでセバスチャンさんがお茶を淹れてくれた。焼き菓子も焼いてくれたようで有難くいただく。サクサクホロホロ食感の甘さ控えめクッキーは紅茶と良くあった。
お昼のティータイムに休みつつ製作中の薬の様子は欠かさず見ていた。次の手順を何度も読み直しながら、確実に作ってゆく。薬が完成したのは月が出始める頃だった。完成した2人分の不老薬に喜んで遅めの夜ご飯を食べ、軽くシャワーを済ませて熟睡。翌日は昼過ぎまで寝て、リリアンナから依頼が無いか確認し二度寝をした。起きたのはすっかり夕陽に照らされる頃で、セバスチャンさんの食事を食べたあとお風呂に浸かりまたベッドへ戻った。ほぼ一日寝てたが、それでも日課だからか夜にベッドに入ると自然と睡魔に襲われるようになった。
翌朝、スッキリとした目覚めに思ったより疲れていたんだなぁと考える。あとは不老薬を飲むタイミングだ。先輩はもう飲んでもいいと言っていたが私はもう少しあとでもいいかな、と考えていた。起きてセバスチャンさんの朝食を共にしつつ、少しだけ話し合って、先輩だけ飲むことになった。
「よし、じゃあシノダヒデキ、いっきまーす!」
ゴクリと飲みほしたそれに、特に違和感も変化もなく、サッと本に目を通す。特に見た目とかの変化は数年経たないと分からないので何かほかに変化は特記してないか見ると「再生力の向上」と書かれていたので、試しにと指先をほんの少し切ってみる。スーッと血が出ずに傷が治ったので、成功だ!と二人ではしゃいだ。
「やりましたよ!これで先輩は不老不死です!」
「おう!サンキュ!マオも同い年ぐらいになったら飲んだ方がいいぜ、コレ!」
「絶対先輩の身長を越えてから飲みます!」
「今すぐ飲んでも変わんねぇじゃねぇかなそれ」
「第二次成長期にかけます!」
「そっか……。まぁ、でかくなろうが変わらなかろうがマオはマオだしな!」
先輩に撫でられながらいつか超えてやると思いながら甘受する。先輩の撫でテクはかなりのものだ。学生時代から変わらず気持ちいい。
最後にぽすぽすと軽く撫で叩かれてセバスチャンさんに言いに行く。やはり第三者に報告できることはいいことだ。セバスチャンさんもおめでとうございます、今夜は豪華にしましょうとほほほと朗らかに笑いながら言ってくれたので、ちょうど第4火曜日ということもあり海鮮を買いに出かけた。豪華なのも嬉しいが舌に馴染んだ味も恋しくなっていたのだ。
「おーい!おっさーん!ナナカガイあるー?!」
「おお?!坊主どもか、なんだ、案外短い別れだったな!貝ならあるぜ!」
「やりぃ!今日めでたいことあってなぁ!ちょうどいいからって来ちまった!」
「お久しぶりです、おじさん!魚も3種くださいな!」
「あいよ!毎度あり!なんでぇ、恋人でもできたか?」
「いやぁ、やっと目標を達成出来た、みたいな?彼女とかはまだいいかな」
「大きな節目ですね、大成功したのでお祝いなんです!私も恋人はいいかなぁ」
「わけぇのに持ったいねぇな坊主ども。ほら、カゴよこしな!たっぷり詰めてやるよ!」
「「お願いしまーす!」」
「そういや、今度祭りがあるって知ってるか?領主サマんとこの坊っちゃんの誕生パーティーなんだが、この辺りは毎年祭りをやってよ」
「へぇ?知らなかったや。いつやるの?」
「来週の土曜日だ」
「なら、急用がない限りは来てみましょうか。おじさんも店出すの?」
「あたりめーよ!前に坊主どもが言ってた磯辺焼きや海鮮丼が繁盛してな。今じゃナナカガイ目的の漁があるぐれーだぞ!」
「へぇー!磯辺焼き美味いもんなぁ!」
「うちでも必ず磯辺焼きは作ってもらってますもんねぇ。」
「おかげで顧客が増えたってもんだよ。だから金貨はよせよ」
「わかってますよ」
「わかってるわかってる」
「信用ならねーな、はいよ。ナナカガイと魚3種3人前、合わせて」
「「金貨3枚ですよね」」
「だから!多いっつってんだよ!あ、コラ!待ちやがれ!」
「じゃーなー!また来週!」
「ありがとうございましたー!」
「まてガキども!金の使い方がなってねぇぞ!」
破産しても知らねぇからなぁ!と新たに聞こえ笑い合う。貯蓄は数え切れないくらいあるので大丈夫だ。城に戻りまた良い魚介が手に入ったとホクホクしながらセバスチャンさんにカゴを渡す。すぐに理解してくれて海鮮丼と磯辺焼きですね、とにっこり微笑んでくれた。ブンブンと首を縦に振りお風呂入ってきます!と浴室へ向かう。きれいさっぱりしたら海鮮丼!とウキウキでお風呂に入る。少し長湯してから上がるといい香りが。やっぱこれだよこれ!と食堂へ向かう。テーブルには先輩の好きなものばかりが乗っていた。
有難くいただきますと頬に詰め込み噛み締める。
「あ〜!これこれ!美味しい〜!」
「たったの2ヶ月ですけど、これなんですよねぇ。やっぱり海鮮は定期的に買いに行きます?」
「うーん……月イチか2ヶ月に一回は買いに行きてぇよなぁ。おっさんにも会いてーし」
「ですねぇ。ああ、美味しい!」
この日は大いに盛り上がり、満足行くまでたらふく食べた。食べたあとは歯を磨いてベッドへダイブ。幸せを感じながらぐっすり眠った。
そして翌日からはまた時々リリアンナに依頼を受け討伐しつつレアアイテム集めもして、依頼がない日はまったり過ごして、土曜日が来た。この日は事前に連絡が取れにくくなるとリリアンナに伝えていたのでそうとう急用でなければ依頼してこないだろうと当たりをつけ、念の為共鳴鈴を持ち、セバスチャンさんに夕飯はいらないことを朝から伝えてグエンツ王国に飛んだ。
いつもの路地裏は賑わっているだろうからと少し奥ばったところに出て、一つ角を曲がるとやはり休んでる人がちらほら見かけてその横を通り表に出る。始めてきた時以来の賑わいに、はぐれないようしっかり手を繋ぐ。市場はいつもより活気たっていて出店が隙間なく立てられていた。真っ先に人の合間を縫っておじさんの所へ行くと、行列ができており、ちゃんと順番に並んで列を待った。
「……へい、次の方、お待ち!って、坊主どもか!」
「おうおっさん!真っ先に来たぜ、繁盛してんなぁ!」
「へっ!だぁから言っただろ!2つでいいのか?」
「いや、4つで!こないだの魚も貝も美味かったぜ!一晩でペロリだ!」
「もうおじさんの所じゃないと魚は食べられませんよ〜!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!おっと、金貨はよせよ、最近、領主の坊っちゃんに目ェつけられてんだ」
「そうなんですか……」
「あからさまに落ち込むな!ほら磯辺焼き4つ、銀貨12枚だ」
「銀貨あったっけ……」
「あっ、私ありますよ、はい12枚」
「毎度ありっ!次からちゃんと銀貨持ち歩けよぉ!」
さぁ次の方、と元気な声を後ろに早速歩きながらかぶりつく。美味い、少し味付けが違うのがまた良い。セバスチャンさんのは完全に磯辺焼きだがおじさんのはつぼ焼きに近い。身は切り離してあり一口で食べやすいサイズに下処理されている。貝柱のみで貝ひもはないがこれはこれで美味しいのだ。2つ目に口をつけながら端を歩く。ふと視線に気づいて食べ終わった貝殻を通りのゴミ箱へ捨てて裏路地へ入る瞬間に屋根の上へ転移する。
後をつけてきたのはがっちり鎧を着た警備隊の人で、何かしたかと先輩と顔合わせる。警備隊は下の方で慌てており数人は奥へ、残りはどこかに散っていった。またなにか厄介事だろうかと眉間に皺が寄る。と同時に共鳴鈴が反応したのでお祭りを後にするしか無くなった。名残惜しいが、仕方ないと先輩に腕を絡めて転移した。その後のやり取りさえ見ていれば、未来は変わったのかもしれない。
「クソっ、気づかれたか?!『黒猫』は何処だ?!新しい情報は無いのか?!」
「現時点、港の方で目撃があったこと以外情報は入っておりません!」
「たかが魔術師一人なぜ捕まえられん!剣士の方はどうだ?!」
「はっ!剣士も同様、『黒猫』と共にいた事は確認済みですがそれ以上のものは……。」
「クソ、もう日が無いのだぞ?!何としても絶対に見つけ出せ!これは王命でもある!」
「「「はっ!」」」
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