第17話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
ギルドランクがSランクに上がったシノダ先輩に、突然切り出された。
「……そろそろ、別の場所に行きたい」
「それもそうですね、次何処行きます?」
「……止めないのか?」
「え、止めて欲しかったんですか?」
世界を見ようと言ったじゃないですか、と返せば、それもそうだな、と納得がいったようだ。だが、小国過ぎるとララニエル国を思い出すし、発展途上国も大国に慣れてしまえばイマイチだった。どこにするか、あーでもないこーでもないと言い合いながらいつもの漁師の所へ向かう。今日が多分最後になるだろうから、と金貨を少しだけ多めに持ってきた。すっかり馴染んだおじさんに、実は転勤が決まって、と嘘とも言えるようななんとも言えないことを言い今日が最後だと大量のナナカガイと魚を買って海鮮づくしにするのだと伝える。
「なんでぇ。寂しくなるなぁ。だからと言って金貨はよせよ」
「そんなまさか!というわけでいつものください。あとおすすめの魚を3人前4種!」
「あいよ。今日は二人揃ってんだなぁ。最近はどっちかしか来ねぇから飽きられたかとヒヤヒヤしてたぜ」
「飽きたら来なくなりますって!おっさんのとこの月に2回の海鮮づくしはオレたちの楽しみなんだからよ!だから今日は2倍だ!最後までしっかり味わうからな!」
「嬉しーこと言ってくれるじゃねぇか!褒めても金貨は受け取らねーぞ!」
「次のところも美味しい物があるといいんですが……寂しくなったら買いに来ますね!」
「そういや坊主は魔術師だったな、あの、ビューンってやつ使えるか?」
「転移魔法の事ですかね?それなら使えますよ」
「そうそう、テンイマホーってやつだ、あれなら何処でも行き来できるって聞いたぞ」
「(オレは)何処でもは無理っすよ、何度か訪れた場所のみで、せいぜい小国内ぐらいが限度だな」
「はー、魔術の事はよくわかんねーがそう言うならそうなんだろうな。おら、いつものナナカガイに魚4種3人前な、お代はいらねぇよ、門出の祝いだ!」
「いやいや最後までしっかり払わせていただきますって!」
「金貨を渡そーとしてるな?!いらねぇつってんだガキども!」
「いやいや!どうぞどうぞ!お世話になった代金です!」
「何だこの重み!ぜってぇ要らねぇ!ほら帰った帰った!あっ、金は置いてくな!」
「それじゃおじさん、ありがとうございました!」
「おっさん元気でなー!」
「まぁてガキどもー!金の使い方がなってねぇぞー!」
「「アハハハハハ!!」」
共に高笑いしながらしっかり代金を置いてきて満足気に帰城する。こういう変わらない日常も明日からは無くなるのだ。まだ行先は決まってないが、この際だ、あみだくじででも決めようと笑い合いセバスチャンさんの海鮮料理に舌鼓を打つ。何を作ってもらっても絶品だ。またあれも食べてこれも食べて美味しい美味しいと褒め合い、満足気に寝室へ行った。
「……よし、出来ましたよ、先輩!」
「おし、運は悪くねー方だと思うから、任せろ!……んー、これだ!」
あみだくじで選んだ線を辿る。突き当たった場所は「エルフォンド国」。セバスチャンさん曰くエルフが務める小国だそうだ。エルフ!と明日が楽しみになった。
「エルフと言えば、アレだよな、ファンタジー系鉄則の自然をこよなく愛する耳長族」
「私、腹黒系ばっかり読んでましたねぇ」
「あー、よくあるよな、真逆なのにな。なんでだろ?」
「ギャップ萌えってやつじゃないですか?」
なるほどなー。とどうでもよさげに返された。それよりもう寝るか、と言う先輩に答えいそいそと定位置に収まる。明日からはエルフの国、ギルドの噂が広まってるといいんだが、と思いながら眠りについた。
そして、日が登って軽く朝食を済ませた後、シノダ先輩に腕を取られてアイコンタクトをする。準備は万端。ローブを互いに着込んで、転移する。瞬きをしたら森の中だった。
「……へー、やっぱり鉄則か?」
「腹黒系じゃないといいんですがね」
「どっちにしろ、行ってみるか」
そうですね、と踏み出したその足元に風を切るように矢が放たれた。素早くシノダ先輩が魔剣を作り出し、皮切りのように降り注ぐ矢を全て切り落とした。怪我がないことを確認し合い、弓矢の方角を逆算して適当に魔術を放つ。炎系はまずいから水系で。鞭のように靱やかに絡みつき相手の顔を沈め数人を残して全て意識を刈り取る。
さて、腹黒系じゃないといいんだが。
「……オレたちは別にあんた達に危害を加える気はない。今のは先にそっちが仕掛けてきたから意識を刈り取っただけだ。」
「……、なんの、ようだ」
「信じてもらえるかは微妙だが、オレたちは旅人だ。たまたまこの国にきたに過ぎない」
「……何者だ、どこから来た」
「ギルドグエンツ王国支部所属、Sランクのシノダだ。こっちはマオ、『黒猫』だ。」
「?! グエンツの黒猫だと?!」
あ、よかった、二つ名がちゃんと浸透していて。SSSランクは大体が通り名でまかり通るからな。途端にヒソヒソと話し合うエルフ達にこちらも話し合う。
(マオ、どうする?とりあえず意識刈り取ったヤツらへ謝罪でもするか?)
(いや、もう少し様子見ましょう。それから全員、はダメですね、1人か2人残して他も刈り取りましょう)
(今日のマオ過激だな?)
(シノダ先輩を攻撃したので)
(あっ、いつものか。仕方ねぇな)
過激派が顔を表した。隠す気はゼロ、分かりやすく不機嫌な私に、視線を感じながらヒソヒソと話される。なんかムカついたので右側にいた2人の意識を刈り取った。残るはあと5人。
「な!何を!」
「いや、会話する気無いみてーだから意識を刈り取っただけだって。悪いけど、今の『黒猫』は機嫌が悪いんだ、死なないだけマシだろ?」
な?と明るく言うセリフではないが、心の中では頷いておいた。私の機嫌は悪いのは確かだ。殺さないだけ有難く思いたまへ。
「それとも何か?森ごと消滅させられるのがお望みか?」
そう続けた先輩の横でマイクロブラックホール的なのを作り出す。ごうごうと風が吹きざらし、分かりやすく顔を青ざめるエルフ達ににじり寄る。さぁどうする?というところで、森の奥から待ったの声がかかった。
「すまぬ『黒猫』殿!わしらが悪かった!それをどうか鎮めくだされ!」
幼いその姿と声に、捕まっていたエルフ達から族長様!と声が上がる。ロリばば、ゲフンゲフン、そう来たか、と思いながら渋々握りつぶし魔術を収める。ついでにどこかほっとした様子のエルフ達を解放してあげる。
「ほんに悪かった!言い訳では無いが、今この国は破滅の危機で、些細なことでも敏感なのじゃ」
「……そうですか。内情を知らないとはいえ、こちらもすみませんでした。」
「いや、先に攻撃をしかけたわしらが悪かった。
改めて、エルフォンド国を収める族長のリリアンナと申す。」
「……シノダと申します、今は『黒猫』と二人旅の途中でたまたまここに立ち寄らせていただきました」
「これはご丁寧に、シノダ殿、黒猫殿」
誰かがゴクリと喉を鳴らした。ピリピリとした緊張の中、一進一退で会話を重ねるのがわかる。破滅の危機なんて、どこかで聞いたセリフだ。
「……破滅の危機と伺いましたが、何か大きな災いでも?」
「……それが、どうやら魔王が生まれたらしく、魔物が活性化して、な」
(? マオ、心当たりある?)
(いや欠片もないです。今度セバスチャンさんに聞いてみましょう)
(だよなぁ、セバスチャンさんなら何か知ってるかもな)
「……そうでしたか。魔王の誕生は確かに厄介ですね。黒猫の噂はご存知かとお見受け致しますが?」
「あ、ああ。気まぐれの強者程度には」
「噂通り、気まぐれに魔物討伐をしております。黒猫は魔術師なので転移魔法であちこちフラフラとしており、今回もその旅の一端です」
「……まことに、そんな事をこの時世に。腕は確かなようであるしな」
「……もし、よろしければお力添えできるかもしれません。代わりに給金を頂きたく思いますが」
「! あ、有難い!あまり大金は出せないが、国の危機にはかなうまい。是非、そのお話を詰めていきたい!」
村に案内しよう!と言われやっと息をする者たちに、安堵は早いぞ、と心の中で囁く。これからが議論なのに安心してんじゃねぇ、が本音だが。断られるという事を想定してないみたいだし、大丈夫かこの国、と思わなくもない。
大人しく村の警護達を素通りしリリアンナについて行く。しばらく道沿いに歩いて出たのは木の上に家が並ぶ集落が。あまりいい思い出ではないことを思い出しながら無言でついて行く。道すがら、リリアンナ様!族長様!と声をかけられては手を振るリリアンナ。そうして、1番奥の少し立派な建築物に案内された。
両者向かい合うように座り、改めて挨拶をしてから早速とばかりに本題へ入る。
「……それでは、条件をお聞きしたい。」
「まず、オレと黒猫は必ず二人一組で動きます。討伐に関しては手助けも無用です。」
「そ、れなりの実力があるのか。あいわかった、討伐に関しては幾らが目安だ?」
「グエンツ王国ではひと仕事につき金貨20枚を頂いてました。ですが、一度の討伐に対し金貨3枚で受け持とうかと。」
「有難い話だが、ほんに、良いのか?」
「はい、その代わり、常駐はできません。」
「と言うと?」
「拠点がグエンツ王国付近なので、派遣という形になります。魔物に手を取られる場合のみ、その都度呼び出しを受け討伐に当たる、という形を望みます」
「なるほど、グエンツ王国での討伐と相成った場合は?」
「半年の長期休暇を伝えてありますので今はないかと。復帰後も以前同様で、定期的に受けている訳では無いので、余程のことがなければこちらを優先致します。」
「……どのクラスなら呼び出し可能じゃ?」
「とりあえず、Bランク以上は呼び出し可能と考えてよろしいかと。」
「……ううむ。こちらとしては是非もない話じゃ。……して、黒猫殿はどうお考えで?先程から一言も声をお聞きしてないのじゃが」
「彼は人見知りですので」
「……そうか、あとから同意していない、というようなことは避けたい。同意ということでよろしいかの?」
「この件に関しては一任されておりますので、ご安心を。不満があればとうに伝えられております。」
それじゃあ、と。誓約書を取り出す。魔術師の誓約書は絶対であるのでサラサラと先程の条件を書出し先輩に渡す。一通り目を通したあとリリアンナにも確認してもらい、サインを頂く。ちゃんとサインされているのを確認したあと、魔術でしまい込む。これで契約完了だ。
では早速とばかりに依頼を受け、地図を拝借してそっとコピーして返す。まずはここより少し西側でオオカミ型の魔物をとその場で言われ、討伐をしに行くことにした。
荷物を軽くチェックして転移で群れの上空にピンポイントで飛び、シノダ先輩はお気に入りの大剣を作り出し振り下ろす。ランクはA、と言ったところだろう。先輩なら楽勝だな、と思いながらこっちはこっちで魔物の皮を剥いでく。肉は食料、皮は防具や衣服、爪や牙は武器に使用されるので部分ごとに刻んでゆく。
掃討が終わったらしく短剣に持ち替えた先輩も慣れた手つきで皮を剥いでく。大量の獲物たちを手にリリアンナの元へ戻る。わずか5分足らずの事だった。
自分たちの分はしっかり貰い受けつつ、残りは全てエルフ達に渡すと歓喜された。今夜は宴だと誘われるも家に帰るのでと断りその場を後にする。
「また何かあればお声がけ下さい。この笛吹けばこちらの鈴と共鳴しますのでコレを合図に来ます。何かあれば遠慮なく吹いてください」
それでは、と帰城する。少し大きめのオオカミ型の魔物を丸々一頭抱えてセバスチャンさんに美味しく調理してもらう。どんな料理になるか楽しみだな、とウキウキしながらいつものようにしっかりとお風呂で疲れを癒す。香味野菜の包み焼きにされたお肉は頬がゆるゆるになるほど美味しかった。食後に、そういえば、と庭の手入れ中のセバスチャンさんに質問しに行く。
「セバスチャンさん!魔王の誕生で魔物が活性化してるって聞いたんですけど、何かご存知ですか?」
「今エルフォンド国で派遣討伐受けててさ。そんな理由を言われたけどマオもオレも心当たりなくて……」
「ああ、それなら昔からよく言われます。因果か何かまでは存じませんが、魔物が一時的に活性化する波がございまして、数十年に一度ピークを迎えます。再来年辺りが次のピークだと計算しておりますよ。それに合わせて魔王様が現れやすい、と言うだけでイコールではないのですが、人は勘違いしやすい生き物ですからね。」
少しでもお役に立てれば、とつらつらとそんなことを言われる。セバスチャンさんって歳いくつなんだろ。聞かない方がいいような気がする、と疑問は無かったことにして、ありがとうございました!とお礼を告げる。お仕事の邪魔にならないよう少し離れたいつもの庭先のティーテーブルで話し合う。
「つまり、マオは関係ないってことか?」
「どうでしょう、実際私(魔王)が現れてますし、因果と言われればそれまでなんですが」
「まぁでも、不死身だしな。長く生きてりゃそういうこともあるだろ。とりあえず次の魔王が現れないことを祈るしかねぇな」
「そこは大丈夫です、魔王とか勇者とか要となる職業は一人しか存在しない仕組みみたいですので。図書室通いの時に文献見つけました。」
「マジか。じゃあこの先魔王は生まれないとして、問題はブランか」
「? 何故ブラン?」
「え?あいつ勇者じゃん。」
「え?!そうなんですか?!」
「また記憶から落ちてるな?初対面の時言ってたぞ」
「えー……初対面、初対面……ああ、ご飯美味しいしか考えてなかった時か……うわぁ、私、あいつと戦わなきゃなんです?嫌だなぁ」
「もうちょいマシなこと考えてて欲しかったな。嫌なのは分かるがそのうち突撃してきそうだよなぁ」
「あと300年位は会いたくないです。生理的に無理」
「……なんとなく分かるが、それじゃ老衰で死ぬほうが早いんじゃね?」
「みんな安楽死したらいいのに」
「それ名案だな」
いつの間にか紅茶を入れてくれたセバスチャンさんにお礼を告げて頂く。寝る前なのでホットミルクティーだ。紅茶は少なめの、はちみつたっぷりのミルクティーは最高で、体が温まる。一杯飲み終わる頃には寝るか、という雰囲気になっていたのでそのまま寝室に直行した。これから問題がたくさん出てきそうだと思いながら眠りについた。
ここまでお読み頂きありがとうございます