第15話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
「う〜ん、強くなりてぇ」
「……ククク、力が欲しいか」
「それ悪役のセリフ……じゃなくて、こう、強くなりたいってゆーか」
私的にはセリフ合ってるんですけどね。言わないけど。とりあえずシノダ先輩の言いたいことは分かる。あなたカンストしちゃってるのよ。
ここで突然だが紹介しよう!効果【鑑定】ちゃんくんです!この【鑑定】ちゃんくんが居ればなんでもお見通し!……少しふざけすぎましたね。これ書いてるの深夜なので見逃してください。とにかく、【鑑定】で見たけど少し前からシノダ先輩のレベルが99で止まっているのだ。それまでレベルが上がるごとに感じていた「強くなる」という感じがぱったり止んで違和感を覚えているのだろう。だから私が言えるのはひとつ。
「……まぁ、先輩カンストしましたしね。」
「そうなんだよなぁ。カンストって聞くと本当、ゲームみたいだよなぁこの世界。マオはまだ上がってるんだろ?今いくつ?」
「さぁ?測ってないので知りません」
嘘ではない。自分でみれるからと測ったことは無いので。チラリと見ると211の数字はとうとう200代です。これでカンスト3桁じゃなければ私はいじける。盛大に拗ねてやろう。
セバスチャンさんお手製のスコーンにジャムをたっぷりつけて齧る。うん、今日もセバスチャンさんの料理が美味しい。シノダ先輩はクロテッドクリームをつけて食べている。私も次のはクリームにしようともそもそ食べ進める。一口飲み込んだところで紅茶を啜る。うん、今日もいい香りだなぁ。
「うーん、なんか、強くなりてぇなぁ」
「……そういえば、レベルの枷を外す禁術がありましたね。Dクラスで最初の方の時に習ったやつ、覚えてます?」
「……ああー!あったあった!「世界の禁術」ってやつだろ!うわ、なつかしー!人体錬成とか不死の外法とか!」
「それです。確か枷を外す禁術があったはずです。後で教科書見直してみましょう」
「え?外す気なの?」
「だって強くなりたいんでしょう?」
沈黙が降りる。え?違うのかな?と先輩を見るとどちらかと言うと「その手があったか……」みたいな顔してますけど、違うんでしょうか。とりあえずスコーンを食べ、二つ目を手に取る。今度はクリームたっぷりつけて。うん、クリームも美味しい。
「……てか、マオはもう外れてる感じ?」
「どうでしょう。測ったことないので」
「じゃあ測りに行こうぜ」
「行きません。必要ありません」
えー!気になんないのかよ!と言われても、常に視界の端っこにいるから気になりませんねとしか言えない。目線をずらせば見えるからね。それより、と本気で枷を外す禁術について調べないといけません。久々に研究魂が燃えてきました。ついでに不死の外法も調べよっと。ある程度歳をとったら不老不死の方が良いですもんね。まぁ私は16、先輩は20歳ですしまだまだこれからって感じですし、あと5~6年は自然の流れに身を任せましょう。
お昼ご飯を兼ねたティータイムも終わりにして、早速書庫に二人でやってきた。元々あった本棚を横目に、比較的新しい本棚へまっすぐ向かう。えーと、世界の禁術は魔法史だったはず。魔法史、魔法史……あった、これだ。
手に取り最初のページを開き、世界の禁術という項目に合わせてペラペラと捲っていく。あった、このページだ。えーと、なになに?
『この世界では、いくつか禁術と定められていることがある。詳しくは※図録17掲載。その中でも練度の枷を外す禁術や不死の外法、人体錬成、金の精製が頻繁に行われる事がある。決して行ってはいけないため禁術指定されているという事を伝えるためあえて示す。』
これだけか。図録はーと。あ、先輩が見てる。視線を移すと私にも見えるように本を下げてくれた。
えーと、図録17、図録17……あった、これか。
なんだこれ、禁術一覧て。一応隅まで呼んでみたがさすがに方法までは書いてなかった。本当に禁術の一部のリストって感じだ。そりゃそうか、教科書だもんな。
うーん。隣の古文書を漁るかぁ、と伸びをした時に、小さくノックをされ振り向くとセバスチャンさんが。
いつもの朗らかな笑みを携えて「こちらが禁術に関する書物です」とかなり古そうな本を3冊渡された。その場に座り込み、先輩と一緒に早速読み始める。
金の作り方、黄泉がえりの薬、若返りの薬、翼の生やし方、死者蘇生、不死の外法、練度上限解放
あった。これだ!とそのページを開く
『練度上限解放の禁術
材料:龍の鱗、人魚の涙、ツキサラシ、聖水、髪や爪など
作り方:龍の鱗とツキサラシは粉状にし、人魚の涙と聖水を混ぜ合わせ一晩38℃で煮詰める。煮詰めたものに髪または爪などを混ぜ合わせたら完成。飲み込む時は聖水で行うこと。
※髪や爪の持ち主が主人となり、主人が死なない限り死ねなくなるので要注意。』
「……全部あるな……」
「……ね、あるね……」
「……マオ、髪を切りたがっていたな?」
「……うん、良いよ。好きなだけあげる」
セバスチャンさんを呼んで、散髪セットを用意してもらう。庭に出て椅子に座り、タオルを巻いて、スプレーで少し髪を湿らせて。腰まで伸ばしていた髪を肩下までバッサリと行く。
これで材料は全て揃った。
その間にシノダ先輩は龍の鱗とツキサラシを粉々にすり鉢で摩っていた。その横でビーカーをセットし、聖水に人魚の涙を混ぜ合わせ、温度計をつけて固形燃料を下にセットする。
切り終わった髪も喉につまらないよう細かく刻んでおいたら、準備は万端。最後に本当に私でいいのか聞いて、マオ以外に居ないと言われて禁術を実行する。
サラサラと砕いた砂状のものがビーカーに入り、固形燃料に火をつける。温度計をみて38℃で火力を調整したバーナーに切替える。そのまま温度を一定に保ち、あとは24時間後には完成だ。
その間、私はさっきの本の不死の外法の禁術を見ていた。色々材料とか作り方とかあるが、副作用のところだけ集中した。
『練度上限が外れていること、18歳未満であることが必須条件である』
あれ?これ私効果にあるんじゃね?
必死にステータスをスクロールしていって2時間弱、ようやく見つけた。やっぱりあった不死の外法。ていうかどんだけあるんだよ効果。まだ1/5も見れてないぞ、2時間弱かかったのに。これ完全にチートですわ。そりゃそうか、最強の魔王だもんな。
「マオ〜?そろそろオレは寝るけど、マオは?」
「私も寝ます。ビーカーは?」
「セバスチャンさんが見てくれてる。その間に仮眠しようかと」
「そっか、後でお礼言わないとですね」
うん、と返事が返ってきて部屋から出る。寝室に向かい、寝巻きに着替えて抱きついておやすみ。直ぐに意識が遠のいた。
翌日、ちょうど23時間55分がたった頃にもう一度聞く本当にいいのかと。良いよ、どうせこれからも一緒にいるんだしなんも変わんねーって!と笑顔で言ってくれることになんとも言えない嬉しさが込み上げてきて、これが終わったら全部話してもいいんじゃないか、と思えてきた。
そして、ちょうど24時間たった瞬間、ビーカーを取り上げて細かく切った私の髪の毛を混ぜる。
それを戸惑いなく一気に飲み干した。
「……うえ。喉に違和感」
「聖水!ほら聖水飲みな!」
「……んん、流れたっぽいな、どうだ?」
「ん?」
「何か変わったか?」
「いや、私に聞かれても」
「マオ、ステータスが見えてんだろ?」
「え」
「【鑑定】だっけ?持ってんだろ、その能力。いつからかは知らねーけど、最近気づいたから」
「え、ど、え、え」
「おーおー落ち着け」
くしゃくしゃに頭を撫でられて混乱したまま、あ、いつもの先輩の撫で方だ、と思う反面どうしてと思う。
「昨日必死に何か見てるなーって思ってよ。そういやギルドでも『黒猫は全てを知っている』って噂もあったし、そうじゃねーかな、と」
「……その通り、です、」
「……別に、気にしねーよ。こんなので俺たちの絆が切れるわけねーだろ」
そういう顔はいつもの明るい笑顔で。
「……実は、他にもあって」
「ほか?」
「じ、実は私、魔王なの」
「……へぇ。じゃあオレ魔王の配下その一ってことか!ほかは?まだ言ってないことあるのか?」
「ふ、不死の外法、元からあるっぽくて、だから私死ねなくて、せ、先輩もだから」
「おー、昨日調べてたのはそれだな?」
「あとは先輩に不老の外法をさせようとしてました!すみません!」
バッと頭を下げて先輩の言葉を待つ。なんて言われるだろう、さすがに怒ったかな、どこか行っちゃったらどうしよう、嫌な思考がぐるぐる頭の中を回る。それなのに。先輩は頭を撫でてくれた。
「そっか。いいぜ!不老不死になってやろうじゃねーか!それでさ、二人で世界最強になって世界を見ようぜ!な!マオ!」
「シ︎︎ ︎︎゛︎︎ノ︎︎ ︎︎゛ ︎︎タ︎︎ ︎゛ ︎︎先輩!!!」
「うわ、泣くなって、ほらほらー」
積が外れたように泣きじゃくる先輩に抱きついて泣き止むまで背中をさすってもらった。
初めて出来た友達、初めて優しくしてくれた人、初めて手を引いてくれた人、初めて努力を認めてくれた人、初めて、初めての大切な人。
歪だけど、お互い様で。きっと神様が私のために送ってくれた最高のプレゼントなんだろう。1人は寂しいと思ったら、必ずそばに居てくれる。人間をやめてまでそばに居てくれる。なんて言ったらいいんだろうか。言葉が見つからない。無理やりはめるとしたら多分これが「愛」というものなんだろう。
「ゔぅ〜、せ、せんぱ、ひゃ、107、レベルです、おめ、おめでとうございます」
「おー!100の壁超えたか!で、マオは?」
「ぐす、にひゃくじゅうはち……」
「200?!そりゃ強ぇわけだ。あー、スッキリした。」
「セバスチャンさんは82〜」
「おうおう、もういいぜ。そら泣きやめ〜」
この世界で、初めてこんなに泣いたかもしれない。先輩は根強く私が泣き終えるまで背中をぽんぽん一定のリズムで叩いてくれた。絶対、強くなろう。強くなって、先輩も守ろう。先輩はきっと私を守ってくれるから。泣きながらそう決意した。
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