第13話
合言葉はファンタジーだから。
※無断転載禁止
※改変投稿禁止
誤字脱字はそっと直します。
「おら、いつものナナカガイだ。一人当たり銀貨1枚な」
「わかりました!金貨3枚ですね!あ、あとおすすめの青魚3人前ください」
「銀貨つったんだよ!ぎ・ん・か!毎度毎度たけー金払いやがって、ガキなのに何してんだってんだよ……おら、魚も入れて銀貨9枚だ」
「あれ?言ってませんでしたっけ?城に住んでる魔術師ですよ、私。いつもの相方は剣士です」
「はぁ?!その年でか?!まだガキじゃねーかよ!っか〜!国の考えることってわっかんねーな」
「おーい!マオ〜!」
「あ、はーい!じゃあおじさん、また今度!いつもありがとうございます」
「そりゃこっちのセリフだっつーの……ってまた金貨!!3枚も置いていきやったな!!待てコラガキども!!」
金の使い方がなってねぇぞ!!という怒鳴り声ももう聞きなれた。
城に着いてから半年、私はシノダ先輩とセバスチャンさんと3人の生活に大満足していた。
あれから毎日自由に暮らしてる。日がな寝てる日もあれば一日中稽古する日もあり、こうして時々買い物に出かけては新規地を発見する奔放な日々を大切に過ごしている。特にシノダ先輩はセバスチャンさん(レベル82)や私(レベル146)と手合わせ稽古をしているので、今じゃセバスチャンさんに並ぶ81レベルだ。無詠唱転移が可能になった先輩と、派遣ギルドに登録し月に数度クエストを受けてはかなりの高収入を得ていた。
(魔王)城に住んでいて(派遣ギルドで収入を得てる)魔術師と剣士。何も嘘は言っていない。
今日もいいお魚が手に入ったとシノダ先輩に報告し、セバスチャンさんに何作ってもらうか談義しながら裏路地へスっと入る。と同時に地面を蹴り、建物の屋上へ跳ぶ。生魚があるから早く帰りたいが、誰かに付きまとわれていれば帰るに帰れない。せめてどこの誰かを把握しないと、とシノダ先輩を見ると微妙な顔をしていた。
下を見ると金髪の胸を寄せあげたお姉さんが金切り声を上げていた。そのまま数人の男を連れてどこかに走っていくのを見届けてからシノダ先輩に尋ねる
「……あれって」
「あー……なんだ、パーティにどうかって言われてよ。オレはマオ以外とは組みたくねーから断ってんだがなぁ。しつこくてよ。その、わりぃ」
つまりハニトラですね。たまにある。私は無いけど。私からシノダ先輩を奪おうとはあの女許さないわ!と心のお嬢様が大暴れしつつ、表面は無。だって靡かないって知ってるもの。
「仕方ないですね、とりあえず帰りましょう。今日は海の日(海鮮づくしの意味)ですから」
「ああ、また迷惑かける」
「お互い様です」
こうして屋上の隅から帰城して、お風呂を共にし身も心もさっぱりした後海の幸に舌鼓を打ち寝室へ。寝巻きに着替えてベッドでゴロゴロしながら今日のことから今後の事を考える。
「ん〜、やっぱり私が『どきなさいよこの泥棒猫!シノダ先輩は私のモノよ!』って言うのが早い気がします」
「その裏声だとまんま女だな。マオって多才〜」
「最近髪切ってないせいか女性に間違われることが多くて……あ、そういえば私もナンパ受けたんだった」
「は?!聞いてねぇぞ?!どんな奴だ?!」
「なんか……ブランみたいな……金髪。金髪流行ってるんですかね?」
「おい金髪率高くね?この前も金髪って言ってたじゃねーか。同じ奴か?」
「覚えてない……シノダ先輩しか勝たん」
「マオってたまにオレに激甘になるよな」
「先輩もね」
今日はここまで!もう寝ようというスタイルに入ったので大人しく腕の中に収まる。必ずっていい程朝起きると抱かれているので最近は最初から抱かれに行ってる。
「ハッ!『毎晩私を抱くのに貴方なんて入る隙は無いわよ!』もアリですかね?」
「そんな事な……そういえばそうだな。アリだわ」
翌朝になってから却下された。いいと思ったのに。
そんなこんなで派遣ギルドに足を運んだ別の日、Sランクのクエストを受けていると後ろからシノダ先輩の助け声が聞こえてきた。なんだ?と振り返るとこの前のお姉さんが。
「マオっ!助けてくれ!!」
「やぁだぁ♡私より凄いって聞いてたから期待したのに〜♡こんなどこにでもいる陰気臭い女より、私の方が良いでしょ〜♡」
「マオっ!!」
「……何かと思えば、どこぞのアバズレを引き連れてどうしたんですか先輩」
「なっ?!ひ、ひっどーい!聞きましたぁ〜今のぉ」
「さっさとシノダ先輩から離れろ雑魚が。先輩が香水臭くなる」
「マオっ、マオっ!心の声が漏れてる!」
「あえて漏らしてます。さ、先輩こっちに。消臭除菌の魔術使います」
「サンキュっ!もうオレ吐きそうで……って、あ、女性に吐きそうは良くないか、えーと、時と場所と場面を考えた方がいいぞ……か?」
「先輩ナイスですもっとやれ」
マオはもう少し猫かぶれ、と言われながらも掴んだ手はずっと震えていて。女性恐怖症にでもなったらどう落とし前付けるんだと小一時間問い詰めたい。とりあえず消臭除菌してあげて顔色が少し良くなったあと、お姉さんは私を睨みつけるだけつけてどこかへ消えてった。もう二度と来るなよ!と声掛けたが届いただろうか、と思いながら手元を見る。そうだ、クエスト受けたんだった。
「先輩、今から討伐クエスト行きますが来ますか?」
「行く行く!超ありがたい!オレまだBランクしか受けれねぇんだよ、助かる〜!」
「あと何回でしたっけ?」
ギルドでランクをあげるには同等のクエストを20回クリア後昇進試験か、上のクエスト同伴を10回クリア後昇進試験かのほぼ二択である。たまに例外でギルドマスター公認試験での飛び級等があるがほとんど無い。上手く行けば今月で上がると言っていたのを思い出した。
「あと3回。今日マオと行くの合わせるとあと2回だな」
「じゃあサクッとやっちゃいますか」
「おう!よろしくな、マオ!」
今日のクエストはドラゴン狩りですよと言いながらギルドを後にする。途端にグラスが割れる音をあちこちから聴こえたがどうでもいい。シノダ先輩を傷つけないように、尚且つレベルが上がるように調整しつつ戦うのは以外と楽しいのだ。加減の練習にもなるしな。ついでにレアアイテム(鱗や爪)ゲットすれば臨時収入だ。腕がなる。
ピッタリ30分後、大量のドラゴンの鱗や爪と牙を持ち込み、臨時収入をがっぽり手に入れた私達はほくほくしながら帰路に着いた。
あと8日後に昇進試験があるのでそれまでに2回受ければいいや、と話しながら裏路地へ入り、そのまま直ぐに城へと飛んだ。
「……セーフ?」
「……だといいんですがね。念の為ギリギリまで引き篭もりましょう」
「そうだな、また絡まれちゃ敵わない」
「今から弱気だとAランクになれませんよ」
それもそうだな、と何故か撫でられて城へ入っていく。今日もセバスチャンさんのご飯が美味しい。
その7日後の夜にこっそりと2件受けて、二人でクリアし誰にもつけられていないことを確認し、帰城。朝早起きしてギリギリの時間にギルドへ顔を出した。あと2分、というところで顔を出したのでお姉さんは居たが、声をかける隙は与えなかったためそのまま会場へと向かうシノダ先輩を見送った。
すると、お姉さんが声をかけてきた。
「フン、何よ貴方。私を雑魚呼ばわりしといてBランク以下なんて。私はAランクなのよ?」
「えっ、Aランクって賄賂でもなれるんですか?!」
「はぁ?!な、何よ賄賂って!してないわよそんなこと!」
「えっ、だってお姉さん、レベルかなり低いじゃないですか。31って、ふふ、冗談がお上手ですね」
「な、なんで知って、ち、違うわよ!!デタラメを言わないでよ!」
「すみませんねぇ、【鑑定】持ちでつい、“みて”しまうんですよ。ねぇ、『ミアリー=スタシア』さん」
「?!」
なぜ名前を、とか、言いたいんだろう。
「貴方のように、彼に近づく人は多いんですよ。でも、みんな最後は消えていきます。なぜだと思いますか?」
顔を青ざめ、ガタガタと震え出した。
「ああ!それと、聞いたことありません?『黒猫を怒らすな』と言う噂」
がくりと膝が耐えきれずその場に座り込む彼女に被さるようにその顔を見つめる。
「いたずらに猫に手を出すと、引っかかれちゃいますよ?」
にゃあ、なんて。と言うと彼女は失神してしまった。無理もない。ランクSSSの本気の殺意なんて、食らったらそれどころじゃないもんな。魔王、舐めんなよ。と無表情に見下してると、シノダ先輩が戻ってきた。
「マオ〜!無事Aランクに上がれたぞ〜!ってあれ?そいつ……」
「猫に威嚇されたみたいですよ」
「ふーん。ま、いいや。どうでも。マオ、なんか食ってくか?」
「セバスチャンさんがガッカリしちゃいますよ」
「そこは加減してだな……」
みなさんも、どうかお忘れなく。と残してギルドを去る。
気まぐれの黒猫にはご注意を。
ここまでお読み頂きありがとうございます