第12話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
二人で相談しあった結果、別の地域の港町へ行くことにした。セバスチャンさんの意見も貰って安全なところを教えてもらい、隣国のグエンツ王国の港町へ行くことにした。グエンツ王国はルルティエ国と競えるほどの大国である。こちらは魔術ではなく技術が発展しており、機関車もあると言う。
「機関車だって!何年ぶりだろ、そういや走ってるのは見た事ねーかも!」
「私もないですね、機関車。時間が余ったら見に行きましょうか」
「賛成ー!」
「それじゃあセバスチャンさん、行ってきます」
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃいませ。マオ様、ヒデキ様」
魔力を込めればポゥと眩い光に包まれて瞬きをすればどこかの路地裏のようだった。明るい道へ数歩進んだだけで潮の香りがして先輩と目を合わせる。先輩の瞳に映る私の目も輝いてみえた。
「行くぞマオー!」
「はい!」
そこからはただひたすらに楽しんだ。
見たことも無い魚、野菜、果物、ガラス細工に謎のお土産屋。日本の夏祭りを思い出す雰囲気だ。
「あ!イカ焼き!イカ焼きある!」
「先輩!焼きとうもろこしもありますよ!」
「ばっかお前港町つったら海鮮だろ!」
「あ!りんご飴!!」
「聞け!」
・・・
・・
・
「いや〜食べた。海鮮美味すぎだろ、ここまた来よーぜ」
「食べましたねぇ。でもセバスチャンさんのご飯が待ってると思うともう少し胃に余裕が欲しいですね」
それな、と一言で返された。今は目に付いたカフェでお茶を楽しんでいた。先輩はコーヒー、私は紅茶。どちらもモドキではあるが学生なんてそんな味にこだわりはない。日本国民は偏食家ではあるが。美味しければいいみたいな所はある。
そんなふうにお茶を飲んでいたら何やら騒がしくなってきた。どうやら、外で呑んだくれてた人が入ってきたようだ。カウンターに流れ込んできては酒をよこせ!と騒ぎ始め、つい、入る店間違えたかと先輩を見る。先輩も同じようなことを考えてたらしいので、巻き込まれないよう目立たないのがこういう時は鉄則だよなと合図を送られたので小さく頷いておいた。先輩はそっとローブのフードをかぶり、私は外套の襟を立たせ顔をそれなりに隠した。やっぱり私もローブ買うか、と悩んでたら酒飲みの酔っぱらいがまた騒ぎ始めた。
「くっそ!くそ!くそ!足元見やがって!」
騒ぐなら他所でやってくれと思いながらもステータスチェックは欠かさない。レベル18、漁師か。これなら先輩だけでも楽勝だな。
「おいマスター!もう一杯寄越せぇ!」
「はいただいま。お客様、飲み過ぎには注意ですよ」
「うるせぇよ!お前はいっつもいっつも、やれ食事はちゃんと取ってるのかだの酒は飲みすぎるなだの!」
あ、旧知のお客さんなんだ。そしてマスターいいひと。争う気は無いのか、おかわりを注いでスっと離れるマスターの強かさは見習いたい。
「それで、今日はどうなさったんです?」
「あんの領主のお坊っちゃんがよぉ、俺ん所の魚は品質が悪いだのなんだのケチつけやがって、終いにゃ人魚の乱獲でもしてみろっていいやがってよぉ!海の神様になんてこと言うんだってんだよバァカ!」
「それはそれは、漁師なら聞き捨てなりませんなぁ。そもそも人魚は保護対象だと言うのに。さぁ、お水を飲んで」
「酒をよこせ!ったく、どいつもこいつも……」
くだを巻く酔っぱらいにシノダ先輩がふと気づいた顔をしたと思ったら指さして大声で話しかけた。
「ああ!おっさん、港付近で貝焼いてたおっさんだろ?!」
「……あぁ、あの七色の!」
「あぁ?なんだガキども、お前らも俺をバカに……」
「あれめちゃくちゃ美味しかったんだよ!土産に買おうと思ったんだけどなかなか見つけられなくて、おっさんに聞こうとしてももう居なくて諦めてたんだよなぁ〜!」
「あれってここら辺じゃないと取れない貝なんですか?私達別の国から来たばかりで見たことも無くて」
「えっ、いや、あれは、ここら辺で取れるっつーか、」
「七色と言うとナナカガイですね。あれは駆除対象です。漁師の船の船底などによく溜まるんですよ」
「「へぇ〜」」
「でもアレめっちゃ美味しかったよなぁ」
「はい、アレを海鮮丼にしたら絶対いいと思います」
「海鮮丼かぁ!王道の中の王道!でもそこがいいんだよなぁ!」
「ですです!王道はやはり通る道かと!」
「かいせんどん?ってなんだ?」
「ああ、こちらの人には文化がないのですね。米と言う稲を炊いたものに醤油……こちらだとせうゆソース?になりますかね、ソースをかけてガっと食べるものですよ!」
「刺身っていう切り身にすると酒とも合うし、おっさんがやってた磯辺焼きももちろん美味いし」
「あとは天ぷらですよ!小麦粉まぶして油で揚げたものですね!」
「あー!やっぱもう一個買っとくべきだったなぁ!なぁおっさん!まだ残ってねーの?!」
「……え、あ、いや、あるにはあるが……」
「ならぜひ買い取らせてください!あ、もちろんおじさんの分は分けといてくださいよ?」
「いくらだ?金貨20枚ならあるな」
「えっ?!」
「私もあと35枚ならあります」
「はっ?!ちょ、ちょっと待ってくれ。坊主共何もんだ?!そんな大金、普通の坊ちゃんでも持たねぇだろ!」
「「ただの旅人です」」
「な訳ねぇだろうが!!」
突然のコントのような自然な流れで店内に笑顔を咲かせた。何人かおじさんと同じことを言ってたし、入店時の空気はもうどこにも無い。
「ったく、あの貝はタダ同然だ。そんなに要らねぇよ」
「じゃあ金貨5枚で」
「要らねぇつってんだろ!」
「じゃあ3枚!」
「なんでそんなに払いたがる?!あほか?!」
「どん!ハンマープライス、3枚です!」
「よっしゃ!はいおっさん、金貨3枚。貝くれ、貝」
「ナナカガイください」
「冗談も休み休み言えガキども!たく、どこから来たんだが知らねーが、これだからガキどもは……わかったわかったよ!無言で金貨押し付けるんじゃねぇ!貝をやりゃあいんだろ!」
ニッコリ笑顔でガッツポーズする。その後すぐにお騒がせしました、と店内に謝罪をする。
構わないというお客さんばかりで申し訳ないので、全員にドリンク一杯サービスさせてもらった。これにはマスターもニッコリ。おじさんも酒をもう一杯だけ飲んで、おら着いてこいって言うのでそのままもう一度店内にお辞儀をして後にする。ドリンク代はテーブルに置いといた。
「おぉー!いっぱいある!」
「カラフルですねぇ」
「……なんで俺が……まぁ、買うつってんならいいけどよ……」
おじさんはまだブツブツと文句を言っていたがそこは聞き流しておいた。ついて行った港の船にはごっそりと大きなカゴに3〜4杯分のナナカガイが乱雑に置かれていた。本当に駆除対象なのだろう。美味しい食材にしか見えていないが。
「おら、このカゴなら坊主共でも背負えんだろ、このカゴに入れやるからさっさと持ち帰りな」
「ありがとーございまーす!」
「へいへい、次からはこんな呑んだくれに引っかかるんじゃねーぞ」
「じゃあ次は素面の時に買いに来ますね!」
「……月に2回、第2と第4の火曜日、ここでやってるから迷うんじゃねーぞ」
はい、ではまた!お金ここに置いときますね〜!と伝えて逃げるように走り去る。後ろから「はぁ?!?!金額跳ね上がってんじゃねーか!!」と怒鳴り声が聞こえてきた。カゴいっぱいに美味しい貝を恵んでくれたのだ。あれぐらい普通だろう(私達は特殊な環境で育ちました)。笑いあってペンダントを手に腕を組んで魔力を込める。すると一瞬でお城の前へ。先輩と笑いながらセバスチャンさんを呼ぶ。直ぐに出てきてくれたセバスチャンさんに背中を見せつける。
「セバスチャンさん!これ、ナナカガイって言うんですけど!知ってます?!めちゃくちゃ美味しかったんだよ!」
「セバスチャンさんの食事には負けますが、中々のものでした!漁師さんから直接買取ったんで新鮮ですよ!」
「「セバスチャンさん!これで料理を!」」
「おや、ほほほ。これまた珍しい貝ですねぇ。どう料理しましょうか?ご希望などはございますか?」
「海鮮丼!」
「天ぷら!」
「「磯辺焼き!」」
「おやおや。ではお作りしますので少々お時間を頂きたく。その間、お風呂でもどうぞ、本日は疲労回復の入浴剤を混ぜておきました。」
やったぁ!と再び声が重なりカゴを食堂隣のキッチンへ置いてさっさとお風呂へ向かう。お風呂で十分疲れを癒し、ホカホカしながら食堂へまっすぐ向かう。既に磯辺焼きのいい香りが漂っていた。
その夜は本当に夢のようだった。芸術のような活け造りに小ぶりの丼、輝きを放っているかのような天ぷら、磯のいい香りの磯辺焼き、どれもこれも美味しくて、セバスチャンさんにも食べて食べてと強請りあれこれ互いにも食べさせ合い本当に満足な夕飯だった。
そのまま寝室向かうとベッドが新調されていて気分は最高潮になった。ふたりして小さな子供のように飛び跳ねて遊んで、疲れて眠りについた。次の日も昼頃に起きたことは明記しておこう。喉はガラガラで、少し痛むがセバスチャンさん特製レモネードで回復し、昼過ぎまで庭先でゆるりとお茶会を楽しんだ。
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