第11話
合言葉はファンタジーだから。
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誤字脱字はそっと直します。
「……ォ、マオ、マオ!」
ハッと一気に目が覚める。敵襲か?!とシノダ先輩を見ると慌てているが敵襲では無いらしい。
「マオ!起きたか?!起きてるよな?!何があった?!」
え、ちょ、何があった?何かあったの?!私の寝てる間に?!と勢いよく起き上がると防壁を解除してブービートラップを見る。変化は昨夜同様無し。あれ?と首を傾げながら先輩のいるベッドへ戻るとそれ!と指さした。
「起きたらマオの防壁だし窓にブービートラップだし!何があったんだ?!」
ああ、これか。と昨夜のことを先輩に話す。許せないよね、という気持ちを込めて。そうすると、ああ、だの、うう、だの頭抱えだして悩み始めてしまったので先輩は悪くないですよと追加しておいた。そうだけどそうじゃないって言われた。そっか。
とりあえずカバンからパン(縮小、時間停止魔法済)を取り出して解呪、ふっくらパンになったら昨夜のシチューを温め直して器に盛り付けて野菜をちぎりサラダにして朝ごはんの準備を整えた。どこか遠い目をしてぼーっとしてる先輩に朝ごはん出来ましたよ、と声掛けて正気に戻す。
ありがとうと撫でられたので多分もう大丈夫だ。そのまま机がないのでベッドの上でご飯を食べる。行儀が悪いとか言ってらんないのだ。仕方ない。
食事を食べたあとは洗い物、歯磨きをして、昨日から入ってなかったのでシャワーを浴びた。風魔法で服同様髪を乾燥させていると先輩が交代でシャワーを浴びに行ったので今のうちにとブービートラップを回収する。部品ごとに分けて再び使えるように仕舞っているとシノダ先輩がシャワーから上がったのでついでとばかりにドライヤー代わりに風魔法を起こす。一瞬で乾いたので髪を適当に流して櫛を通しいつもの髪型へ。
それから堂々と外に出た。ら、驚愕した。
私達がいる家以外何も無くなっていたのだ。
「嘘だろ……。」
「え、夢ですかね?それとも寝ぼけてうっかり……?」
夢かと思ってしまったので先輩に頬を抓られた。痛い。その後はオレのも、と差し出されたので遠慮なく抓った。痛いと言われた。という訳で夢じゃないことは確定だ。次。寝ぼけてうっかりやってしまっていた場合、魔術を使えばその跡があるはず、と探してみても何も無い。最初から何も無かったかのように本当に何も無かった。ここまで何も無いのはありえないのでうっかりも無くなったと考えられる。とするとあとは最初から仕組まれたことだったとか、そういうのになる。確かに遊牧民族みたいな家の作りだとは思っていたがここまで何も残さないものなのかと逆にすごいと思えてくる。うん、拍手。とりあえず、部屋に戻り家具を縮小魔法かけて荷造りする。ついでに家具もちゃっかりしとこう。がらんどうになった家の中を見回して忘れ物がないかチェックして、何事なかったかのように昨日はあったはずの集落、今ではただの広場を後にする。とりあえず森を進んでいく。
時々上空に転移して位置情報を把握してまた歩いてを繰り返した。森にいるせいか、今すごく人という生き物を信じられなくなっていた。ジャングル、目を離したものから、クワレル。
いや、流石にそこまで野生味はないが近いものがある。なるべく人の通ってない道を突き進む。と、舗装された道に出た。
上から見た時はこんなのなかったよな、うん、そのはず、と目線だけで会話する。
警戒レベルをマックスまで引き上げて何かあった時のためにシノダ先輩の腕を掴んでソロリソロリと歩いていく。蛇が出るか否か疑心暗鬼になりながら歩いていくと城に出た。
もう一度言う。
城に出た。
「……大きいですね、先輩」
「……そうだな。でけぇな」
「……お城、ですね」
「……城だなぁ」
これ間違えて転移しちゃったか?レベルで放心していると、中から人が出てきたので慌てて木陰に隠れる。
「……取って食べたりしないので御安心ください、魔王様」
え?!と驚きを隠せないでいる。魔王って言ったよね今?マオ様ではなく魔王様、いやマオ様でも嫌なんだけどそうじゃない。
シノダ先輩に バ レ る !
(大変恐縮ですが、私魔王であることを隠しておりまして……マオと申します、そちらでお呼びください)
(あ、それは失礼致しました)
(通じた?!)
「……オホン!マオ様、御安心下さい」
「……マオ、知り合いか?」
「えっ、知らない」
「ええ、私マオ様とは初対面です。」
「……行くぞマオ、逃げた方がいいってオレの第六感が囁いてる」
「ソリャタイヘンダ。行きましょう今すぐに!」
(何方か存じませんが話合わせて下さりありがとうございましたそれではさようなら!)
「あっ!ちょっと!」
・・・
・・
・
「……ゼー、な、なんで、ハー……」
「お城から離れられないんでしょうね……?」
「……ゼー、それ、ハー……」
「先輩一旦休憩にしましょ、はいお茶どうぞ」
「ゼー、さん、きゅ、ハー」
ゴッゴッと喉を鳴らしがぶ飲みする先輩を横目に、先程の人が気まずく立っていた。
(……あの〜、大変申し訳ないのですが、何故か離れなられなくて……)
(そういう魔法がかかっておりますから……)
(解除とか……)
(申し訳ありませんが私は出来ません)
(えっじゃあどうすれば)
「……ここは、かつて魔王と呼ばれたモノの住処にございます。よろしければお客様、少し休まれて行かれては?」
「ゔーーー……」
先輩が唸った!すごく嫌そう!でも離れられないなら仕方ないとなだめて庭先にお邪魔することに。しばらくしたら息も整って落ち着いてきたのか顔色も戻り、一息ついた。
「……それで、ココ、なんです?」
「今は私が管理させていただいております、廃墟のようなものですね」
「離れられないのは?」
「そういう魔法がかかっておられますので」
「解除とかは」
「申し訳ありませんが私は出来ません」
「じゃあオレ達ずっとここに……?」
それはありません!と意気込む。そこからは昔語りになりますが、と一言いって続けた。
かつて、魔王と呼ばれたその人は人間を忌み嫌い人里離れた場所に住んでいたそうだが、それでも月に数回人が紛れ込むため、事故でも入らないよう空間魔法を駆使して作られたのがこの城の周りの魔術らしい。本当に必要なモノだけが入り込めるように、と。それからは何代か代替わりしつつも利用されてきたので一般的に魔王城とここは呼ばれるようになったとか。
「つまり、ここは次代の魔王様かそれに準ずるモノだけが入れる時空の裂け目の城にございます」
「なるほど」
「えっ、マオはその一言で済ませちゃうの?」
だって魔王ですもの、とは言えないのでまぁ、人生そんなこともあるよね、と誤魔化した。
確かに異世界に転移とか転生してるもんな、オレたち。と納得して頂いた模様。
「じゃあ、中見ても大丈夫ですか?」
「ここは既にマオ様の物にございます。ご自由にどうぞ」
「? なんでマオのものなんだ?」
「城の結界がそう決めたので」
ほほほと笑う品のいいおじさんにこっそり親指を立てる。ウィンクで返されたので伝わったのだろう。頭使いすぎていたい……と零す先輩の腕を引いて、今日から「俺ん家?城だけど?」ってドヤ顔できますよ!と中へ進む。それどうなの?と言われたが人生楽しんだ者勝ちって言うじゃないですかと適当に返した。勝者は私だ!くらいのメンタルじゃないとやっていけない。
玄関ホールから既に漂う高価な感じ。あのツボいくらするのかな、と邪な考えを塞ぎ込んで見渡す。外側はボロボロだったけど中はピッカピカだ。中世の、美○と野獣の城みたい。喋る食器は居ないけど。
「なんか童話に出てきそう」
「デ○ずにー感」
「それだ。行ったことないけど」
「え?通過儀礼では無いのですか?」
「え、マオの所、通過儀礼なの?!」
「修学旅行で行きました」
「オレ沖縄だったわ」
「あー、地域差ですかね?」
「かもなー」
みんな違ってみんないい。みすずさんがそう言ってたからそうなんだろう。同じ日本でも地域差ってすごいからね。特に北海道と沖縄。別の国かな?って思う習性あるくらいだし。まぁこの話は置いといて。
安心出来る寝所を確保出来てほくほくの私達は一階から順に見ていった。玄関ホール、廊下、大広間、キッチン、中庭、テラス、食堂、トイレ、バスルーム、2階に行って書庫、執務室、会議室、バスルーム(2個目)、トイレ(2個目)、寝室、客室が3つ、3階に行って客室が2つ、セバスチャンさんの部屋、バスルーム(3個目)、トイレ、物置が2つ。
一つ一つの部屋が大きいせいか数はそんなにない。と言うかこれでも多い。
そしてセバスチャンさんは同時に決まった。黒い執事と言えばセバスチャンさんだよなってことで。陰ながらセバスチャンさん(仮)と呼んでいたら返事してくれたのでセバスチャンさんに決定した。あくまで執事さんなのか……?と戸惑っているのをほほほと笑ってらっしゃったので多分違う。次困った時に真似してみようと思うマオであった。
ちなみに1番テンションが上がったのがバスルームだ。湯船(大)がある!温泉だ!とはしゃぎ通した。温泉ではないけどこの広さは温泉だ(?)この世界に来て1番テンション上がったかもしれない。魔王城最高かよ!と先輩も仰ってたので間違いない。
寝室のベッドはふた周りくらいでかかったけどマットレスが好みの硬さじゃなかったので廃棄してもらい、ダブルサイズのを乗せておいた。後日同じ品質のものを取り寄せてくれるとセバスチャンさんが言っていた。やったね。どうやるのかちょっと気になったのはここだけの話。
「は〜、今日からここ住めるって超ありがたい。野宿は嫌だけどまた人に騙されると思うと村とかも嫌だったからなぁ。マオ、ありがとう」
「……まぁ、私は何もしてないんですけどね。」
「そういうなって!さ、風呂行こーぜ風呂!あの広さだから二人でも行けんだろ!」
荷物はとりあえず寝室に置きっぱなしにして、早速風呂に入る準備する。セバスチャンさん曰く何時でも入れるよう自動浄化魔法がかけられているらしい。この世界で初お風呂だ。女子としては嬉しいが今は男子。と言うか男子の方がインパクト強すぎてもはや何も感じない。男同士だし、同じベッドで寝る仲だし?風呂?余裕ですがなにか?シノダ先輩以外は帰れ!となりますが。過激派こういうとこに現れます。
ということでかぽーん。いやぁお風呂っていいね。疲れが吹っ飛ぶ……。ホカホカしながらお風呂を出て廊下を歩いているとセバスチャンさんが手招き。なにかな?とついてってみると食堂にご馳走が。とりあえず毒の有無を確かめてから恐る恐る一口、二口、三口。ぱくぱくもぐもぐ。
いやすみませんね。朝以降何も食べてなかったし割と体力使ったし、お風呂入ったしでお腹ペッコペコだったんすよ。セバスチャンさん料理うめぇなおい!揚出し豆腐が美味しかった。シノダ先輩はローストビーフが気に入ったようだ。たれも手作りらしくてとても美味しい。
すっかりご馳走になり、今度は眠気が。念の為セバスチャンさんに聞くと寝室は内側から鍵がかけられるそうなので鍵を拝借して瞼が落ちそうになるのを耐えて寝巻きに着替えてからベッドへダイブする。先輩も倒れ込んできた。もう面倒臭いのでそのまま熟睡を決め込んだ。
翌朝、押しつぶされるような感覚に目を覚ますと先輩に抱きつかれていた。危ねぇ!あと少し腕が下がっていたら首締められてた!と、危機感を覚えふと時計を見ると午前11時を指していた。もうお昼じゃん、こんなに寝たのいつぶりかなぁと思いに耽っているとシノダ先輩も起床したらしい。
「……んぁ〜、マオぉ、いまなんじ」
「11時ですよ」
「じゅういちじ……11時?!遅刻っ!!」
「ここ学園じゃないですよ」
「えっ?! あっ、そうだ、城だ」
「城です」
いや〜よく寝たぁと背伸びする先輩の隣で私も腕を伸ばす。本当によく寝たなぁ。外着に着替えて鍵を開けて再び一階に向かうと食堂前でセバスチャンさんが手招き。警戒することなく向かうと美味しそうなご飯が。有難く頂く。食後にあれが美味しかったこれが美味しかったご馳走様ですと伝えると嬉しそうに笑ってくださった。その後、クリスタルがトップになったペンダントを頂き、これがあれば好きな時に外の世界と城を行き来出来ると教えてもらった。昨日は作っていなかったから今朝作ったらしい。頭が下がる。数は無いので無くさないようしっかりつけて、先輩と頷き合う。ありがとうございます!と勢いよくお礼をして大事に使おうと服の上からぎゅっと握りしめた。
ここまでお読み頂きありがとうございます