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魔王様は引きこもりたい  作者: 黒駒
10/45

第10話

合言葉はファンタジーだから。


※無断転載禁止

※改変投稿禁止


誤字脱字はそっと直します。








まずは国境越えから、そう言い出したのはシノダ先輩。

ルルティエ国から西へ出ようと答えたのは私。

目指すは二つ隣を空けさらに海に囲まれた島国、ララニエル国だ。世界地図を見た時に日本みたいだ、とどちらかが零し流れるように最初はここにしようと決まった。

問題なく国境を越えて、馬車に揺られること5日、乗り換えて3日、そして船へのり3日かけてララニエル国へと足を踏み入れた。


「お、お〜……。」


たどり着いたのは森に囲まれた小さな町。いや、集落と言った方がわかりやすいだろう。立ちすくむ先輩と私によそ者だと直ぐに伝わり警備係だろう人が話しかけてきた。


「……貴殿らは、何用でここに?」


「旅行です。オレら二人で旅してて」


「ふむ、悪いが身分証などはお持ちか?」


「ああ、はい。これ。こっちがオレで、こっちがマオ、隣のヤツのです。」


「?! ルルティエ国から?!しかもSクラスの卒業生?!偽物じゃ、無さそうだな、本当に?」


「やっぱ見えないですよね〜。ちゃんと本物です。」


ぺこりと頭を軽く下げ挨拶をするが、言葉は発しない。無言無表情を貫く。久々のコミュ障発症だ。近くにいた村人が慌ててどこかに駆け込もうとするのを横目に、ザワザワと人が集まってくる。ローブでも買えばよかったかなぁと遠目になりつつ会話は先輩に一任する。


「ふむ……なるほど、確認が取れた。滞在を許可するとのことだ。だが、条件がある」


「なんですか?」


「その……最近、魔物が活性でな、村の警護に協力願いたい。どうだ?」


一度振り向いてくれる先輩にこくりと頷き、了承を伝える。


「マオ、は大丈夫そうだな。オレは実戦経験が無いので力になれるか解りませんが、それでも良ければ。」


「ありがたい!この村は若者が殆ど居ないので助かる!さぁどうぞ、こちらへ!村長が挨拶をしたいと!」


隣から急に生えてきたおじさんに少しだけ驚きつつ、身分証を返してもらいシノダ先輩と共について行く。警護係の人には敬礼された。道中ジロジロと見られたが先輩の裾を掴んで無心で歩く。私は空気、私は空気。少しだけ周りの建物より立派な住居へ入るとおじいちゃんが。この人が村長だろう。村長は今にも倒れそうなほどプルプルと小刻みに震えていた。大丈夫か?この村。


「……はぁ、はじめまして、わ、私がこの村の村長を務める者でございまする。」


「はじめまして、シノダと申します」


「こ、此度は、警護、の、御協力頂くと、ありがたき存じます」


「はい。できる範囲で、御協力させて頂きます」


「い、今やこの村は崩壊寸前、」


え、と声が重なる。聞いてないぞ。


「わ、私も若い頃は活気づいていた、こ、この村も、魔物の群れのせいで」


「……なんの魔物ですか?」


「サラ、マンダーです、大型のが、大量発生しておりますれば」


「……マオ、」


はい、と小さく返してこの村の上空に転移する。周りを見渡し、南南東で争いが起きていた。直ぐにシノダ先輩に加勢して来ますと伝えてまた転移する。その間にお話よろしくとぶん投げたが、ぐっと親指だけ立てて任せろとウィンクまでしてくれた。さすが先輩!頼りになる!

転移先では血の匂いに溢れていたし、突然現れた私を警戒して、剣を向けてきた。


「だ、誰だ?!何者だ?!」


それには返事もせずに聖剣を作り出し大型のサラマンダーに食われそうになっている奴の元へ急ぎサラマンダーを切り捨てた。


「な、なんだ?!か、加勢してくれるのか?」


そのまま一撃で切り捨てていき、サラマンダーを狩る私にポカンと立ちすくむ人達。

一通り倒して、残党は居ないか確認したあと、怪我人へ近ずいた。


「ま、待て!貴様何者だ!」


ああ、会話が出来ない。無言のまま、怪我人に近づき、怪我している部分に回復魔法をかけてやる。首元に剣を当ててきたが無視だ。


「貴様、仲間に何を、……って魔術、か?」


次だ次。と言わんばかりに片っ端から回復魔法をかけていく。全回復する仲間たちに漸く敵ではないと思ったのか、首元の剣を降ろされた。


「通りすがりか何か知らないが助かった、礼を言う」


「……。ここより、北北西、村」


「えっ、……ああ、俺たちの村があるな、それが?」


「……滞在の代わり、警護。よろしく」


コミュ障は初めての人と会話ができません!会話出来る人もいるけどね!さてと、ひと仕事終わったのでさっさと拠点へ帰ろうと転移しようとすると腕を掴まれた。


「なるほど、先程は剣を向けてすまなかった。どうか、仲間たちを助けてくれた礼をさせてくれ!」


お礼は好きにしたらいいから腕話してくれないかな。ちょっとイラッとして腕を上下に振るう。離れない。離さない。いや離せよ。しまいには掴まれていない手でぐいぐいと押し伸ばして離すよう訴える。いや離せよ!


「あんた名は?どこから来たんだ?仲間はいるのか?」


あああああああ無理無理無理!こういうタイプ本当に無理!押しが強いの本当に無理!もうヤダ!なんで離してくれないの?!もういいや、シノダ先輩の所に帰ろう、とお構い無しに転移した。掴まれていた腕の手袋を残して。そのうち持って帰ってくるだろうと思って。まぁ戻れば予備があるからいいんだが。片腕だけ素手で戻ってきた私に先輩は少しだけ眉を下げて察してくれたらしい。小さくおかえり、と言ってくれたのでただいまと返し頭を撫でてもらう。

どうやら村長とは話がついたみたいでお茶を飲んでいた。私の分もススっと出されたので有難く頂く。

暖かいお茶にふんわり花の香りが漂ってきてすぐに気に入る。緑茶なのも良い。まったりお茶を飲んでいると慌てて一人がなだれ込んできた。


「っ村長!ここより南南東で!サラマンダーと接敵が!」


「あ、それなら彼がもう処理したはずです」


「へ?だ、誰だ貴様、余所者が何を」


「なんと!先程のやり取りはそれかのぅ!」


「え、え?村長?」


「若いのに凄いもんだ、見直したわい」


「それより、あんたも怪我してるな、マオ」


「な、何をする!って、え、魔術?」


鶴の一声ならず先輩の一声で惜しげも無く回復魔法をかけてやる。完全に傷がふさがったことに驚いてる奴にシノダ先輩が説明する。

ルルティエ国から来たこと、私はSクラス出身な事、先程サラマンダーを倒してきたこと、しばらくここに滞在する代わりに警護に協力すること。

説明していくうちに段々と疑惑から尊敬への眼差しに変わる。遠く離れたこの国でもルルティエ学園のSクラスは周知のことらしい。ネームバリュー凄い。

そうこうしてるうちに討伐隊が戻ってきたらしく外が騒がしくなった。村長も杖をつきながら立ち上がりソロリソロリと歩いて外に出る。私もシノダ先輩も続いて外に出ると先程のヤツらが居た。あーーー!と指さしながら叫ばれ、躾のなっていない、と不快に思うがシノダ先輩が半歩前に出て背に隠してくれたので良しとした。


「あんた、さっきの!どうやって戻ってきたんだ?!」


「……はじめまして、シノダと申します。彼は魔術師なので転移魔法で行き来ができます。」


「へっ?転移魔法って、地面になんか書かないと出来ねぇやつだろ?」


「彼はルルティエ国Sクラス出身の魔術師なので」


「はぁ?!そんなチビッ子が?!」


チビで悪かったな!!てか173cmは平均だろ!!この世界がおかしいんだよ!!


「見目は関係ありません。」


そうだ!シノダ先輩の言う通りだ!言うて先輩も189あるの知ってるけどな!もうほぼ2mじゃん。ずるい。同じ量のご飯食べてるはずなのに!


「ああ、いや、悪い。つい……ってそうだ、俺達そいつに助けられたんだ!礼をさせてくれ!」


「そういうのであれば、好意に甘えさせていただきます。しばらく滞在予定ですので住居をお貸しいただければ、と。」


「それならば、あの空き家を使うのがよろしいかと。家具は揃ってます故、どうぞお好きに」


「ありがとうございます村長さん」


「え、いや、ちょっと待てよ!」


「まだ何か?」


「いや、それだけじゃ俺の気がすまねぇっていうか、なんていうか」


はぁ?いや、そういうのいらないんで。ちらりと見てきた先輩だけにわかるように首を振ると一つため息をついてにこりと笑顔で対応してくれた。


「……では、もう一つだけ、お願いしてもよろしいでしょうか?」


「あ、ああ!俺に出来ることならなんでも!」


「では、もうオレたちになるべく関わらないようにしてください。」


「……へ?」


「関わるな、と言ったのです。それでは、よろしくお願いしますね?」


ひゃあ怖い。堪えきれずくすくす笑うのを止められずに居たら肘でつつかれた。仕方ないじゃん、とつつき返す。そんな気安いやり取りをしながら村長が示した家へ入ってみる。後ろから視線が辛いが気にしない。ブランの二の舞はお断りなんだ。

さて、と。学校から持ってきたふかふかダブルベッドを置いたら、もうほぼ何も置けなくなった。縮小魔法かけてあるからいいんだが。とりあえずシノダ先輩は服を詰めていき、私はキッチンへ。確かに道具が一通り揃っていたので新調しなくて済むようだ。調味料や材料を慣れた手つきで置いてゆき、早速鍋に火をかけ具材を切り落としてゆく。今夜はシチューだ。一度完成したら少し時間を置くのがポイントなので早めに作り始める。人参、たまねぎ、お肉、じゃがいも、牛乳、小麦粉。ひと煮立ちしたら蓋をする。

先輩の方はどうかな、と部屋へ戻るとベッドにダイブしていた。おお、ぐっすりですな、とちらりと覗くと服はしまい終わっており、本棚も綺麗に並べられていた。終わって気が抜けたんだな、と当たりをつけて靴を脱がせておく。ローブを脱がして首元のボタンを外し、ベルトを引き抜き靴下を脱がす。カゴに入れて洗濯魔法で洗濯して風魔法で乾燥させる。綺麗に畳んで服をしまい、本を一冊取り出し読み始める振りをする。

さっきからずっと目線に気がついていた。一人じゃなくて複数の。まぁ余所者だからかな、と思っていたが、時間が経つにつれ増えてきてる。もしかして、あのお茶に何かもったのかな?それなら先輩が寝るのも頷ける。ここに来るまでにぐっすり寝てたから当分寝なくても問題ないと村につくまでに言っていたからな。

私もベッドに寄りかかり寝たフリをするとガサゴソと家に入ってくる音が聞こえた。やっぱりか、と思いながらしばらく薄目でそのままにしていると先輩に近づく人影が。

先輩に何しやがる!と本をフルスイング。顔面にクリーンヒットした人物を見るためライトをつけると、今朝の村長へ案内したおじさんが。


「……何をしている」


「ヒィ、や、やっぱり!」


「何を、していると言ったんだ。答えろ」


すぐさま聖剣を作り出し喉元へ当てながら全方位に殺気を撒き散らす。お前ら、あれだけ友好的なシノダ先輩に手を出そうとしたな、と。

ガタガタと震えて声にならない様に他を睨みつける。知らない顔だが、ステータスを見て名前を把握する。


「……お前ら全員、覚えたからな」


「「「ヒィ!」」」


バタバタと慌てて飛び出していく野郎共に被害はなんだ、と部屋を見て回る。特に何もされてなかったので、玄関と窓辺にブービートラップをしかけて念の為ベッド周りに防御魔法を駆使して防壁を作り、シノダ先輩の隣に横になる。

初日から何かあるとかついてないな、なんて頭の片隅に寄せて、あのおじさんが言った「やっぱり」の意味を考えながら眠りについた。

やっぱりってなんだ、毒が効かないことを想定してたのか、何故。明日、吊るしあげることにしようと微睡みに落ちた。






翌日、集落が消えているとは思わなかった。











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