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Song.75 再スタート

バンド再始動です。

よろしくお願いします!


 とある少年の話を聞いた。


 藤堂とうどう祐哉ゆうやは、何ら変わりない、いたって普通の子供だった。勉強よりも体を動かすことが好きで、日が暮れるまで大好きな二つ年上の兄や、同級生たちと共に外で駆けまわっていた。

 藤堂祐哉もそれが楽しかった。この時間が続けばいいと思っていた。


 だが、今から三年前。中学生になりたてのとき、転機が訪れる。


 初めての部活動。色々な部活の見学をして、どこに入ろうかと頭を悩ませながら家に帰った。困ったときは兄に聞けばいい、そう思い玄関に入った途端兄に言われた。「祐哉もバンドやらね?」と。

 兄が中学生になったときから、一緒に遊ぶということもなく、顔を会わせることも会話することもかなり減っていた中で言われたのだ。


 どういうことかと聞くも、言葉のままだと言われ首をかしげるしかなかったが、兄がギターを抱えて弾いている姿を見て、素直にかっこいいと思ってしまった。


 それに憧れて自分もやりたいと意思を兄に伝えたらすぐに母へと伝わり、安いベースを買ってもらった。


 ここで兄とおそろいのギターにしなかったのは、母がギターとベースの区別がつかなかったからだと、最近になって知ったそうだ。


 ベースでもいいやと、小遣いで教本を買っては練習をし、わからなければ先にギターを学んだ兄に聞く。


 音楽という共通の話題ができたことですっかり冷めていた兄との関係も回復していった。


 いつかきっと、大きくなったら兄と共にバンドを組めるのかな、と期待を抱いていたとき、兄が突拍子もないことを言いだした。


「俺、高校は寮あるとこにするから。もう教えらんねぇ」


 この時すでに三月。高校進学するだろうとは思っていたが、まさか寮に入るなんて予想もしていなかった。詳しく話を聞いたら、かなり遠い場所の学校らしく、簡単に帰って来ることはできないほどの距離であった。


 てっきり一緒にバンドを組むとばかり思っていたからすごく落ち込んだ。学校でもずっと沈んでいて、授業に身も入らなくなった。


 休み時間も教室の片隅の机に伏せ、ずっと練習してきた曲をコッソリ持ってきたイヤホンから流す。せっかく練習したのに無駄になったことを嘆きながら。


 クラスメイト達も今までの明るい藤堂祐哉から一転、暗くなった様子から何かあったことは察したが、その理由を聞こうとする猛者はいない。傷をえぐられたくないから、藤堂祐哉もそれでよかった。


 もし聞かれでもしたら、ブラコンと言われてしまうかもしれないと適当な嘘をつく予定であったが、下手に嘘をつくことなく過ごせて安心した。


 兄と一緒にバンドできない。

 ベースだけではバンドにならない。

 だったらベースを練習していても仕方ないじゃないか。

 いっそのこと辞めてしまおうか。

 でもそうしたら兄が教えてくれたことが無駄になる。それは嫌だ。


 そんな考えをぐるぐる繰り返しては落ち込んでいた最中、一人の少年が現れる。


 中学生にしてはかなり高い身長に、他の人よりも随分色が明るい髪と瞳。誰もが一度は振り返ってしまうほどの整った顔をした少年は、一人にさせておくように言う周りの制止を振り切って藤堂祐哉の横に立った。


「ねねねね、もしかしてさ、楽器やってない?」


 イヤホンで耳を塞ぎ、さらには音楽を流していたにも関わらず、その声ははっきりと聞こえていた。それゆえ、何事かと顔を上げた藤堂祐哉だったが、見知らぬ顔の少年に眉をしかめる。


「やってるよね! 俺見たもん! やってなくてもいいや! とりあえずちょっと来て!」

「え? え?」


 誰だったかと考えているにも関わらず、少年は藤堂祐哉の手を引き無理やりに立たせて走り出したのだ。


 そして向かった先は、音楽室。

 この中学には吹奏楽部はない。音楽室を使っているのは合唱部のみだ。強豪校でもないため、合唱部の活動は控えめでこの日は活動していない日であった。

 ならば余計に音楽室に行かねばならないのか。

 目の前の人が誰なのかわからないにも関わらず、手を振り払うこともしなかったのは運命的なものを感じていたからかもしれない。


「俺たちと一緒にやろう! バンド!」


 ボロボロな音楽室の扉の先には、ピカピカのドラムセットと、真っ黒なアンプが複数。そして顔の似た二人の男女。

 それを見ただけで、藤堂祐哉の中にある音楽は、やっと流れ始めた。


 ここで集まったメンバーは、藤堂祐哉を連れ出したギター担当の小早川こばやかわイリヤ。

 そしてドラム担当、久瀬くぜ祥吾しょうごと双子の姉でありギター担当の久瀬くぜ悠希ゆうき

 足りていなかったベース担当、そしてここから学び始めた若い作曲者として、藤堂祐哉は加わった。


 全員それぞれ技術はあったが、同世代でバンドを組めるほどの場所も仲間も見つからずにいた。ベースが加わることで、バンドとして成り立つ。それ故メンバー探しに躍起になっていたらしい。


 欠けていたものが埋まった四人は、みるみるうちに才能を開花させて全国バンドコンテストジュニア部門で結成二年目、中学三年生にして《《準優勝》》を飾ることになる。


 彼らは皆、自信があった。それこそ全国で、いや世界でも誇れるほどだと。

 それなのに、日本のジュニア部門という狭い世界の中で二番という成績。


 それが気にくわなくて、乗り込んできたのは羽宮はねみや高校。

 高校生だけが出られる全国バンドフェスティバルで優勝した俺たちより、自分たちの方が優れていることを証明するために、真正面から殴り込みにきたというのだ。


 兄への憧れから始めた音楽。ゆくゆく一番になりたいと思うその気持ちはよくわかる。

 なんて言ったって、俺も親父への憧れから音楽の道が始まっているから。


 だから俺は殴り込みに来た藤堂祐哉たちを責めることも馬鹿にすることもできなかった。もちろん、他に手段はあっただろうし、別の学校であっても対バンやら大会やらで一緒になることもできただろう。それでもわざわざ同じ学校にそろいもそろって入学してきたなんて、感心するばかりだ。俺以外の奴らはみんな呆れていたけれど。


 まあ、こんな過去があって起きた今回の出来事に関しては、俺にとっても藤堂祐哉にとっても、バンドをやる上で大事な事に気付かせてくれた大きなイベントだったと思う。


 この出来事の発端は……ああそうだ、入学式の日だ。

 バンフェス直後で疲れが残っている中で始まった新学期初日に怒涛の嵐を起こした藤堂祐哉たち。

 俺たちと彼らに何があったのか、十分に聞いてほしい。

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