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Song.74 音楽と共に

『さて。みなさん。今回優勝したWalker。彼らの曲、もう一度聞きたくないですか?』


 なんとも胡散臭い司会の振り方だ。

 それでも客席はノリに合わせて「聞きた―い」と叫んでいるだけ、ありがたい。

 司会の隣でニコニコするだけだったゲストたちも同じように叫んでいた。


『そうですよね。そう思いますよね。こちらも毎年恒例になっておりますが、再び披露してもらいましょう! Walkerです、どうぞ!』


 ササッとステージからほかの参加者たちがおり、客席最前列でステージを見上げている。

 これが野音をしめる最後のステージ。

 俺たちはまた、どんちゃん騒ぎをするために、スポットライトと歓声を浴びてそこに立った。



 ☆


 バンフェスから一週間。

 いつのまにか撮られた写真を先生にもらった。

 印刷しましょうかって聞かれたけど、まずはデータでもらって、そこから何枚か印刷してもらうことにした。


 スマートフォンにデータを入れ、暇なときにそれを見る。

 ステージ前の円陣から、ステージに向かう後姿。

 そして唄って弾いて叩いている様子に、結果を聞いたときの姿。中には俺が泣いている場面もある。


 それと、Mapと一緒にベースを弾いてる俺。それを舞台袖から覗いているみんな。

 見ればバンフェスの全てを思い出させるような写真ばかりだ。


「おーい、キョウちゃーん。練習、始めるよー」


 横へさっさと指を滑らせてたら、大輝がマイクを通して俺を呼ぶ。

 みんな集まって、セッティングも終わったみたいだ。


「あいよ。んじゃ、ちょいと一発かましていくか」


 ちらっと物理室の扉についた小さなガラス窓から、俺たちの様子をうかがう人の姿が見えた。

 バンフェス優勝後、俺たちに興味を持った人は多い。散々俺と瑞樹が軽音楽部を作ろうと走っているのを見て馬鹿にしてきた人たちの目が変わっている。


 もちろん俺たちを拒む人もいるけど、多くの人は俺たちの曲を好きだと声を上げてくれている。


「かますってどれやんのー? どれでも歌えるけど!」


 大輝も覗いてくる人に気づいている。

 注目を浴びていたい性格からか、その目で大輝がひるむこともない。むしろやる気がみなぎっている。それがみんなに伝わり、バンド全体が活気づく。


「俺もどれでもいいぞ」


 ドンドンとバスドラムを叩いた鋼太郎。

 もう初心者なんてもんじゃないし、俺らの支柱だ。

 それに加えて、みんなに和菓子の差し入れを持ってくる。おかげでちょっと体重増えた。それとかなり勉強の面でも世話になってるから、赤点をとらなくなった。

 バンド以外でも世話になってる鋼太郎は、学校のドラムセットでの練習じゃ物足りなくなったらしく、最近練習スタジオにも通っているらしい。あと、ツインペダルの練習しまくってるとか。

 これからどんどん激しい曲が増えそうだ。


「時間もないんだし、メドレー形式でいいんじゃない? 今までやってきた曲の古い順で」


 音楽が嫌いだって言う悠真はもういない。兄貴や家族との関係はまだこじらせているらしいけど、バンフェス以降連絡は頻繁にとっているとかなんとか。

 兄貴からのダルがらみに嫌な顔をしてるけど、積極的に練習に参加して、新しい曲を一緒にどんどん作っている。

 俺がベースを作って、悠真が手を加えて。そうしてできた曲たちはどれもこれも聴いても弾いても楽しいものばかり。

 悠真がいなきゃ、バンフェスで優勝なんて無理だった。


「メドレー!? 体力もつかなぁ……」


 俺より体力あるだろうに、瑞樹がどうしようと焦っている。

 NoKからWalkerまで、俺が作った曲は全部網羅。独自にアレンジを加えて、いつもの控えめな瑞樹からは想像つかない姿を見せる。

 そのギャップに惹かれて、告白されたとかって言う話を聞くぐらいだ。まあ、結局どれも断っているみたいだけど。


「瑞樹なら何とかなんだろ。爆音で行け」

「わかったよ、キョウちゃん!」


 笑顔で変わらず『キョウちゃん』呼びなのは、もう諦めた。



「んじゃ、そんな感じで。盗み聞きしている奴らの腰を抜かせてやるよ」


 俺がそう言えば、みんな賛同してくれた。


 ただ音楽が好きだから。それだけの気持ちを軸にし、機械音声AiSを使った作曲家NoKから始まり、リアルでのバンドを組んでやってきた音楽。


 作ってきた曲を、親父が聞いたらどんな反応されるだろうか、なんて考えても答えはない。

 だったら考えていても仕方ない。


 ベースを肩にかけて、やるか、と息を吐く。


「恭弥の曲、俺も好きだぞ」

「え?」


 ふとアンプの近くで、親父の声が聞こえた気がした。

 もちろん今はもうこの世にいないのだから、そこにいるはずもなく。気のせいだと思って、改めてみんなを見るよう内側を向く。


「頑張れよ」


 また、親父の声がした。

 でも今度はそっちに向くこともしない。


「ああ、俺は頑張るさ。あんたがやってた音楽を――……」


 小さな声でつぶやけば、親父の笑い声が聞こえた気がした。

 その直後にドラムのカウントが始まる。

 俺は大好きなベースを唸らせた。



 真っ白のバンドスコア  

    Fin

これにて一度閉幕です!

ここまで読んで頂いたことに、感謝いたします。

続編もあるので、いずれ公開できたら…!

感想や評価はいつまでも待っています!

ありがとうございました!

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