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Song.41 After Care


 ほら、すげえ褒めるじゃんって笑い始める大輝。悠真への俺の心配なんて必要なかったみたいだ。

 悠真は兄貴とのわだかまりがあるけど、悠真が一方的に嫌っているだけであって、その誤解が解ければ心配するような関係ではなさそうだ。あと、ずっと変わらず有り余った元気を見せている大輝は何の心配もない。


「ん? 何のお話ですか?」


 あまりにもうるさいからか、瑞樹がひょこひょことやってきた。兄貴とも礼儀正しく挨拶しているし、常時笑顔だ。

 瑞樹はライブ中にミスしていなかった。ただ、ミスをカバーできなかったからと、落ち込んではいないようだ。それに疲れた顔も一切見せない。入学早々俺のクラスにしょっちゅう来れるから、見た目と対照的に肝が据わってるとは思ってたけど、ラ瑞樹のタフネス精神を見習うべきか。

 長く一緒にいるからわかるけど、こんな顔をしてるなら、心配はないだろう。園島とグルになっていたことは腹が立ったから文句を言おう。って、園島を思い出したら、何だかむしゃくしゃしてきた。


「ふぁっ!? いふぁいよ。ひょうちゃんっ」


 瑞樹の頬をつねれば、何事というような顔で痛がる。


「随分、手の早いんだね、君は」

「キョウちゃん! みっちゃんをいじめるなよーソーマ兄ちゃんが引いてるぞ」

「うるせぇ」


 腹が立ったからなんて言わないままつねって、急に離す。


「僕、キョウちゃんになんかした……?」

「わかってんだろ、ああん?」

「ひぃ……ご、ごめんなさいっー!」


 大輝の後ろへと瑞樹は隠れた。グルでやってたことに腹立てたことを悟ったのだろう。

 これでスッキリしたわけじゃないから、「ふんっ」とそっぽを向いて、俺はその場から離れる。


 まだイライラするけど、瑞樹には後でもっとごたごた言うからいいや。

 他に気を配らないとならないのは、鋼太郎だけ。どこにいるのかと、フラフラ歩いて、鋼太郎を探す。


「野崎! 聞いてくれ」

「あ?」


 舞台上から明るい顔で手招きをしてくる鋼太郎がいる。様子を知りたかったし、ちょうどいい。一体何だと近寄れば、二本のスティックを見せつけてきた。


「これ、もらった!」

「お、おう……」


 鋼太郎が普段使っているドラムスティックとは、違うメーカーで、太さも違うもの。それをもらったというのだから、あげた人物は一人しか思い当たらない。


「プロの叩き方を後ろから見れるなんて、絶対できないやつだよな。すげぇ経験させてもらったわ」


 スティックを見ながら、鋼太郎は目を輝かせている。滅多に経験することができない、プロの演奏を生で後ろから見れたからと興奮しているみたいだ。

 どうやらプロとの違いを見せつけられてへこんでいたのは俺だけだったらしい。それはそれで俺がへこむ。


「なあ、野崎。俺、もっと練習すっからさ。まだまだお前みたいにうまいわけじゃねえし、足をひっぱるかもしれないけど、それでも園島さんみたいに……いや、越えられるくらいうまくなるから」

「っ……!」


 Mapのようになるではなく、Mapを越えられるように。そういう意味でもある鋼太郎の言葉が胸に刺さる。


 ずっと親父みたいになりたかった。親父みたいにステージに立ちたかった。大歓声を受けて、会場を沸かせるバンドになりたかった。でも、その目標だと二番煎じ。新鮮味もなければ飽きられる。ステージに立てたとしても、親の七光りだとかって言われる。


 俺に足りてないのは、Mapを越える勢いや意欲。

 みたいになりたいんじゃなくて、それを越える。そしてさらなる上へ。


 今回のライブで足りてないものがよくわかった。まだまだやれることは多い。あれもこれも、全部やっていかないとな。


「野崎? 大丈夫か? 何か考え事か?」

「あ、わりぃ。でも、大丈夫だ。色々わかったしな」


 考えふけっていたから、鋼太郎に顔を覗かれた。ちゃんと答えれば、鋼太郎が驚いたような顔をしている。


「反省会してから練習すっぞ」

「なんだ、ずいぶんやる気あるな?」

「まあな。今の俺ならできるぞ、何でも」

「はっ、いつも通りの生意気な顔してんな」

「まあな。でもやるだろ? このバンドで」

「たりめぇだ。俺も乗ってやるよ」


 どや顔をすれば、鋼太郎も意気込んだ。何やかんや言っても、鋼太郎はやってくれる。諦めないし、妥協しない。一緒にバンドをやり始めてから、ぐんぐん技術は上がってる。これからが楽しみで仕方ない。


ぐうううう。


 安心したからか、俺の腹が響くほどの音を上げた。


「まずは腹ごしらえだな。どら焼きあるけど食うか?」

「かたやのどら焼きか! 食う! さすが鋼太郎ママ。準備が違うな」

「誰がママだ、誰が」


 ベースをそのままに、のんきにステージの上に座ってどら焼きをほおばる。

 疲れがある体に程よい甘みがしみわたっていく。


「はい、お茶」

「至れり尽くせり過ぎて、ママ最高」

「言い方っ」

「ははっ」


 二度目のステージ。

 俺たちの課題はまだまだあるってわかった。

 バンドに、音楽に制限はない。俺たちにはできることが、やれることがわんさかある。

 一人だったらへこたれていたかもしれないけど、一人じゃないからできる。

 大会の結果はまだ出ていないけど、いつステージに立ててもいいように準備を怠らない。練習を怠らない。


 このメンバーなら、なんだか大丈夫な気がする。

 そんな確信が生まれた。

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