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Song.1-2

 


 大好きなMapのように、広いステージで音楽をやって人を笑顔にさせたい。

 そんな夢を叶えるためにどうしたらいいかを調べている際に、とある大会を見つけたのだ。



 それは高校の軽音楽部だけが出場する大会「バンドフェスティバル」、通称「バンフェス」。年に一回開催されるそれは、野球でいうところの甲子園のようなものだ。



 主催は有名ミュージシャンが数多く所属する大手事務所。その大会で優勝したバンドのほとんどが、今現在プロとしてデビューしている。

 プロになるという夢の近道でもあるこの大会。出ないという手はないだろう。



 出場条件は一つ。

 高校の軽音楽部内で活動しているバントであること。



 高校生になったらこの大会で優勝してやる。そのためにはまずは楽器の練習が必要だった。


 小学生になって、周りの同級生がゲームの話題で盛り上がり、スポーツを習い始めた中、俺は音楽だけにのめりこんだ。ギターやベース、ドラムにピアノ、様々な楽器を練習し、音楽のあれこれを学んだ。中学生のときには、楽器の練習だけではなく、自ら曲を作るようにもなっていた。



 そして地元の県立羽宮はねみや高校へ入学。真っ先に軽音楽部に入ろうと部活動一覧から探した。しかし、この学校に軽音楽部はなかったのだ。



「まさか今時、軽音部がねえとか信じられねえよな。ふざけてるだろ、バカだろ。時代遅れかよ」



 電車通学なんて時間の無駄だし、練習時間を確保するためにもよく調べもせずに近場の学校を受験した。その前に部活を調べておけばいいものを調べなかったことは、今でも後悔している。入学してから軽音楽部がないことを知ったときは目の前が真っ暗になった。高校三年間が無駄になるとしか考えられなかった。



 それでもどうにかできないかと、教師に訴えた。そうして与えられた条件は二つ。


 部員が五人以上いること、そして顧問がいること。


 その条件を満たせば、部活として設立を認めると言う。部活になれば、大会に出られる。それに部活ならば、練習場所に困らなくて済む。



 軽音楽部設立のために、一年のときは部員を集めようと声をかけまくった。

 でも、どいつもこいつも本気が感じられなかった。やってもいいと言う人もいたにも関わらず、声をかけた俺が断るというのを続けた結果、俺は周囲に「頭がおかしい人」というレッテルを貼られた。おかげで今はかなり浮いた存在になっているし、話しかける前に避けられる。



 そんな過去を振り返ったのは、今日もこれから部員を探さなければならないからだ。


 俺の学年にはめぼしい人が見つからなかったが、新入生ならいい人がいるかもしれない。先輩に勧誘されるより、同学年に勧誘される方が話しやすいだろうし、「頭がおかしい人」の俺がやるよりいい結果を期待できる。



「まあまあ、そんなにかっかしないでよ。僕たち二人いるんだから、あと三人と顧問だけでしょ」


「まぁ、そうなんだけどさあ……。それでも見つからねえ日がもう二週間だぞ、二週間! 大会の応募締め切りが十月だから、六か月とかしかない。今から練習しなきゃやってらんねえよ」



 残された月を指折り数える。楽器初心者だったら、練習に時間が必要だ。簡単な曲なら、二か月あれば形になるだろうか。でも俺が作った曲で大会に出たいから、早くに部員を集めて、練習しないと。残された期間は長くない。余裕がない。



「はいはい、そうだね。じゃあ僕は軽音部に入ってくれそうな人を探してくるね」



 いつも愚痴ばっかり言う俺に慣れたのか、瑞樹は適当にあしらう。


 ふぅと息を吐いてから瑞樹は立ち上がり、リュックを座っていた席に置いて身軽になった。そしてそのまま廊下の方へと足を進める。



「瑞樹。条件、わかってるだろうな?」



 教室を出て行こうとする瑞樹の足を止めた。

 すぐに瑞樹はクルリと振り返り、口角を上げて白い八重歯を見せながら答えた。



「もちろん! "AiS《アイズ》"で有名な制作者の"NoK《ノック》"を知らない人。それで性別は男、部活には入ってなくて、僕たちと一緒に本気でプロを目指せる人、でしょ?」


「……わかってんじゃん。よし、行ってこい」


「もちろんわかってるよ。部員の勧誘は任せてよ。キョウちゃんは曲、作ってて!」



 瑞樹がヒラヒラと手をふるので、軽く手を振って返した。


 瑞樹が去ったことを確認してから、外したイヤホンをまた付ける。流す曲はさっきとは違う。自分で打ち込んだ歌詞のない曲だ。


 思い入れのある未完成の曲。手元に用意したノートへ、思い浮かんだワードを書きこむ。

 曲を巻き戻しては流すのを繰り返し、ペンを走らせた。



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