コイバナ?コイバナ
「私より岡崎さんだって」
突然にすぐ隣から、私の名前が耳に飛び込んできた。
「え?」席へと戻る足を止めて、その方向を見る。
教室で会話していた三人が私の事を話題にしていたようだ。
吉田さんと田代さん、それに鈴木さんだ。
吉田さんは今どきの高校生という感じで、明るく社交的だ。その愛嬌で皆からの人気を集めている。
それに比べて、田代さんはいかにもな落ち着いている美人さんというタイプ。私と同じ高校一年生とはとても思えない程、大人びた雰囲気を漂わせている。
そして私の名前を口にした鈴木さん。彼女はクラスの委員長さんで、明るく責任感のある真面目なタイプだ。
そんな鈴木さんが私を話題にしているという事は、たぶん陰口ではないだろう。
こうしてみるとクラスの中でも中心的な三人が私の事を話していたのが、不思議に思える。
「岡崎って田口君の事が好きなの?」
私の疑問の答えは吉田さんの質問でわかった。そんな事よりも急な話でびっくりする。
以前田口君に話しかけた事はあった。その理由は私の能力にある。
私には人の感情から生まれたものがモヤのような形で見える。いわゆる霊能力と言われるものに近いのかもしれないが、まだ幽霊を見た事はない。ただモヤが見えるだけで対処の仕方もわからないのだ。
そんな中そのモヤを消し去ったのが、田口君だった。彼には私にはできない対処の仕方がわかっており、それを実行できる人のようだった。
私はその事で田口君に話しかけたが、田口には相手にしてもらえなかった。彼に話しかけたのはその時だけだけど、それからも田口君の行動が気になってはいた。まさかそれがこんな誤解を生むとは。
「え?違うよ」私はしっかりと否定をした。でも信じてくれるかな?そんな心配をする私だったけど。
「違うって」「良かったね。スズ」吉田さんと田代さんはそう言い、スズこと鈴木さんに話しかける。
二人の態度は最初私に疑問を、そして驚きをもたらした。
それは鈴木さんが田口君を好きだと示しているようだ。
「え?鈴木さんって。え?え?そうなの?」
「そうなの」私の疑問には吉田さんが答えた。
それから吉田さんと田代さんと三人で恋愛話で盛り上がった。鈴木さんは話に入らず、ただ話が終わるのを待っているかのようにみえた。
しかし本当に鈴木さんは田口君の事が好きなのだろうか?
もしかしたら、と考える。私と同じで田口君の能力の事を知っている、とか。それに見える力もあるのかもしれない。今まで誰にも相談が出来なかったので、仲間が増えればとても嬉しい。しかしなんて聞こうか?
「鈴木さんも見える人なの?」そう質問できればいいのだが、さすがにそれは恥ずかしい。もし間違っていたら、と考えると直接な質問はやめておくべきだろう。
そんな事を考えていると、鈴木さんと目が合ってしまった。どうしよう。
「鈴木さんは田口君の何が気になっているの?」
これで通じるだろうか?私の仲間が増えるのだろうか?私は少し希望を持って、返答を待った。
「そ」「ん」「な」「ん」「じゃ」「あ」「り」「ま」「せ」「ん」
彼女は強くそう答え、私は残念に思った。
今の反応は明らかに能力の事ではなかった。普通に恋愛話として捉えている様だ。
鈴木さんにちゃんと打ち明けるのはやめておこう。
しかし田口君は素っ気無いし、見える事を相談できる仲間はできそうにないか。
田口君がもう少し愛想がよければいいのにな。鈴木さんが本当に田口君の事を好きだったとしても、どうなんだろう。
そんな事を考えていたせいか、つい本音がこぼれてしまった。
「でも田口君にはもったいないよね」
「そうだよね」私の失言に吉田さんが同意する。どうやら先ほどもそんな事を話していたらしい。
私たちはまた鈴木さんを置き去りに勝手な恋愛話を続けていった。
そんな折、鈴木さんがずっと一点を見つめているのに気づく。視点を追うとそこには田口君。その田口君もある一点を見つめていた。
そこには例のモヤがあった。濃度は濃いのだが、色は薄い。以前田口君が消したであろうモヤは黒かった。たぶんこのモヤはまだ消す程のものではなく、様子を見ているのだろう。
私は鈴木さんに視点を戻す。彼女はまだ田口君を見ている。これはやっぱりそういう事なのだろうか。
私が鈴木さんを見ている間に、吉田さんと田代さんの二人も私の視点を追っていたのだろう。ニヤニヤしながら鈴木さんを見ている。それからしばらくの間、三人で鈴木さんを眺めていた。
鈴木さんと目が合う。そして彼女は自身の行動に気付いたのだろう。慌てた様子をみせる。そこを見逃す二人ではなかった。こうして私たち三人は鈴木さんの恋の成就について会議を開始したのであった。