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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

レインボーボンズ短編集

デッドガルドの日常

作者: TAK

 デッドガルド……、世界塔ブルドラシル最下部のガルドで『死の世界』『地獄』と揶揄される黒の世界。

 黒の世界だけあって禍々しさに満ち溢れている。

 デッドガルドのメインヘイムである『カルマヘイム』では、心無い者の魂が『虫の河』に放り込まれるのだ。

 河にいる虫は皆、地上で踏み潰された(あり)等をはじめとする死せる虫達の魂が微小の黒いEL結晶と融合して出来た虫型アヤカシだ。

 虫型アヤカシは死者の魂を喰らいつくし、ブラックエレメント(BE)の結晶が出来、大きさは魂の業に比例する。

 そして、その結晶がデッドガルドの貴重なエレメンタル(EL)資源となる。BE結晶は、アヤクリの製造等に使用される事が多く、怨霊や死者の魄とBE結晶が融合してアヤカシが自然発生する事も多い。

 アヤカシの大半がデッドガルドより発生する為、地上ではデッドガルドを忌み嫌う人々が多い。

 しかし、デッドガルドはブルドラシルの魂の輪廻(りんね)の役割を担うガルドの一つでもある為、デッドガルドを破壊するとブルドラシルが崩壊してしまう。



 カルマヘイムの主要施設、『業の館』で漆黒の女性騎士と、黒装束の妖艶な悪魔らしき女性が向かい合っていた。


「シャリア、どうやらミドルガルドが私を呼んでいるようだ。お前は私に代わってデッドガルドを守れ。」


 女性騎士は悪魔な女性シャリアに語りかけた。


「わかったわ、『エンプレス』。皆でデッドガルドを守るわ。それではあなたに真の業を……。」


 シャリアはエンプレスに留守を皆で守ると誓った。


「ああ……、お前達にも真の業をな……。」


 エンプレスは漆黒の扉を召喚し、開いた扉の中に入り、ミドルガルドに旅立った。


(さて……、『戦女帝エンプレスヴァルキリー』が留守の間……、この『悪魔女王(クイーンサキュバス)シャリア』、何をしようかしら……。)


 シャリアが物思いに(ふけ)っている中、数体の骸骨型のカムクリ『ムクロイド』がやって来た。

 ムクロイドは闇属性で、左胸の肋骨の中のELコアが紫色に光っており、巨大アヤカシ『ドクロイド』と比べて人と同じサイズで、禍々しさも和らいでいる。


「あなた達、担当のヘイムの視察頼んだわよ。何かあったらわたしに報告なさい。」

「承知しました、マスター。」


 シャリアはムクロイド達に各ヘイムの視察を指示した。

 ムクロイド達は各ヘイムに視察に向かった。



 一方、ミドルガルドに出たエンプレスは戦場で家族の元に戻れない等の様々な無念を抱いて戦死した兵士達の魂と直面した。


「無念を抱ける(つわもの)共よ……、お前達を業の世界へ誘おう!『業槍(ごうそう)カルマボルグ』よ、死者共の魂魄を収めよ!」


 エンプレスは漆黒の槍『カルマボルグ』を構え、唱えると、戦死した兵士達の魂魄がカルマボルグに吸い込まれていった。


(さて……、無念の死を遂げた兵士共の魂魄を集めた事だし……。むっ……、誰か来たようだな……。)


 エンプレスは何者かの気配を感じ、漆黒の扉に入ってデッドガルドに戻ると、扉は消滅した。

 間もなく、白銀の甲冑に身を包んだ女性騎士が上空から現れた。彼女の丸みを帯びた胸甲の左胸には虹の紋章が施され、白銀の兜に羽根の飾り、白銀のハイヒールに紫紺の瞳をしている。

 そして飛行中の彼女の両肩・両腰からは七色の飛沫(しぶき)が噴き出している。

 彼女が着地すると同時に七色の飛沫は止まった。

 彼女の雰囲気はエンプレスとは対を為すかのように穏やかだ。


(この黒いエレメント……、まさか……、エンプレス……!?)


 白い女性騎士はエンプレスの気配を感じた。

 悔い無く戦い抜いて果てた兵士達の魂が彼女の元にやって来た。


「そう……、あなた達は……、悔い無く生き抜いたのですね……。(つわもの)達よ……、この『戦女王(クイーンヴァルキリー)』と共に『虹の園』に参りましょう……。『虹槍(こうそう)レインボルグ』よ、戦士達の魂を収めよ!」


 戦女王は白銀の槍『レインボルグ』を構え、唱えると、レインボルグが七色に光り出し、兵士達の魂を吸い込んだ。


(ふふっ……、今日も大きな収穫です……。さて……、わたくしもそろそろ……。)


 戦女王は両肩・両腰から七色の飛沫を発生させて上空へ飛んで行った。



 デッドガルドに戻ったエンプレスは『モータヘイム』に寄っていた。

 モータヘイムでは、多くのモータロイドが生前の嘆きを繰り返しながら徘徊していた。

 モータロイド達はエンプレスを見ても意に介さなかった。

 彼女が結構なBEを帯びている為、標的と認識しなかったのだ。

 エンプレスはその先にある『屍人形(しにんぎょう)の館』に入った。


「『屍女王(モータルクイーン)モータリア』、私だ、エンプレスだ!お前にお土産を持って参った!」


 エンプレスが館の主モータリアを呼ぶと、藤色のワンレンにて黒装束の妖しげな女性が現れた。


「これはエンプレス様……。して……、お土産とは……?」


 モータリアはエンプレスのお土産が何なのか気になった。

 エンプレスはカルマボルグから回収した兵士達の魂魄を取り出した。


「ミドルガルドで戦死した(つわもの)共の魂魄だ。モータロイド(屍人形)の素材に使うと良い。」

「これは痛み入ります……。」


 モータリアはエンプレスから兵士達の魂魄を受け取った。


「それではエンプレス様、ご機嫌よう……。」

「私こそご機嫌よう。」


 エンプレスは屍人形の館を後にした。


(さて……、この死者の魂魄でまた新しい眷属を創るわよ。)


 モータリアは黒いEL結晶を取り出した。


(しかばね)共よ、目覚めなさい!生前の嘆きと共に!」


 モータリアが死者達に語りかけると黒いEL結晶が光り出し、死者の魂を取り込み、結晶はそれぞれの魄に吸収された。

 暫くして死者達が目覚め始めた。モータロイド誕生の瞬間だった。


(ふふっ……、うまくいったわね……。)


 モータリアはモータロイド達の誕生に喜んだ。

 そして、モータロイド達は彼女の眷属となった。



 カルマヘイムの業の館で留守番をしていたシャリアはムクロイド達からの報告を聞いていた。


「そう……、報告有難う……。下がっていいわよ。」

「はい、マスター。」


 任務を終えたムクロイド達は解散した。


(他のガルドに放たれたアヤカシにアヤクリもなしで、虫の河の虫型アヤカシの他のガルドへの流出もなし……。これからもそうあって欲しいものだわ……。もし、『ラグナゲドン』が起きたらブルドラシル全体がただじゃ済まないわ……。そうならないようにするのがわたしの務め……。出来れば相棒のエンプレスと共に出来たらいいのだけど……。)


 シャリアはラグナゲドンが起きる事を案じていた。

 ラグナゲドンとは、ブルドラシル全体で発生する同時多発戦争だ。

 BE濃度が著しく高まる為、起きてしまうと復興にかなりの期間を要すと言われている。

 国境なき騎士団もラグナゲドンが起こらぬよう日々努めているのだ。


「戻って来たぞ、シャリア!」


 エンプレスが業の館に戻って来た。


「ふふっ……、お帰りなさい……。」


 シャリアは戻って来たエンプレスを労った。

 こうして、今日もデッドガルドの日常が始まるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  企画から来ました。  何かしらすごい背景の話であることはわかりました。 [気になる点]  おそらく広大な背景がある話だと思われますが、短編での起承転結が読み取れませんでした。  理解力が…
[良い点] 元ネタは完全に北欧神話だと思いますが、北欧神話をベースに独特の世界観が構築されていて、特に設定もよく練っている感じでしたし、ネーミングセンスも好みでした。 デッドガルドやカルマヘイムとい…
[良い点] 練られたストーリーだと思います。 ファンタジーの専門用語が分かるかただと乗り込めると感じました。 読ませて頂きありがとうございます!
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