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青装束のボーガン

ようやく、夕方に予約投稿できましたー!

いえーい、ふーっ!!(夜明け前のテンション)



「ボーガンっ?!」


 サクラが初めて驚いた声を上げた。

 異世界で幾多の戦いを経てきたはずではあるが、彼の声は予想外だと告げていた。


 神界を震撼させた彼を驚かせるに至ったのは、ニースにとっては大昔から見るありふれた武器だった。

 それにしても、彼はクロスボウをボーガンと呼んだ。

 世界中で、他所から持ち込まれたものの名前が変化することは古来からよくあることだ。

 短いし、使いやすそうだ。

 武器の名前を略したり、言いかえる事を嫌う先輩ヴァルキリーたちもいたが、ニースはその武器の存在や本質を乏しめなければ、別に呼びやすい呼称をすればいいと考えている。そも、詩でもケニングという技法があるし、要は大事にする気持ちを失わなければいいのだ。


 それより、何故彼がたかだかありふれた武器一つで驚いたのか。

 その答えは、サクラ自身の口からすぐに明かされた。


「神話武装でボーガンってことは……!」

「何?」


 聞き慣れない日本語が聞こえてきたことに、ニースは思わず聞き返した。

 すると、サクラはニースへ見向きもせずに語り始めた。


「俺の師匠の一人が言っていた。異世界で、自分の知っている神話やお伽噺に出てくる武器が実在した時、現地でもそれは似たような効果を持っている場合があって、大概はやはり神様の領域にある武器だ、と。それらの総称を、神話武装と言うらしい。少なくとも俺はそう覚えればいいって」


 どうやら、ニースへ向けて説明してくれたようだが、青装束の人物はボーガンを構えたまま、身を少し退いていた。


「……アンタ、誰に向けて説明してるの?」


 ニースの存在を感知できない相手からすれば、今のサクラは、唐突に求められてもいない解説を始めた、怪しい人物にしか見えないだろう。

 その辺りはサクラもわかっていたようで、青装束の言葉に苦笑いをこぼしていた。


「あはは……いや、まぁちょっと気が動転して」

「気が動転したくらいで、漫画みたいな解説を始める? まさか、安藤、第四の壁を越えられる力でも持ってるの? この世界、もしかして作りもの?」

「いや、それはわからないけど、とりあえず第四の壁とか言われても、俺もまだ見たことないな」


 何を言っているんだ、こいつらは。

 呆気にとられるニースの前で、サクラはさらに続ける。


「この世界がつくりものだとしても、まぁ驚きはしないよ」

「冗談のつもりだったのに、怖い事言うのやめてよ……」

「安心しなよ。師匠たちが言うには、世界で一番異世界ものが多いのは日本なんだと。つまり、俺たちが行った異世界っていうのは、どこかの誰かが作った――」

「はいやめて。それ以上言ったら撃つから」


 本気の殺意と共に構え直されたボーガンを向けられ、サクラは「やり過ぎたかな」と零していた。


 それにしても、この青装束、よくしゃべる。それに口調が非常にフランクだ。

 サクラはある程度、初対面の相手に配慮した喋り方をしている。

 その一方で、青装束は言動こそ乱暴だが、どこか砕けた雰囲気をにじませている。そう言う性格なのかもしれないが、殺意と敵意を向けた相手へ、ここまで馴れ馴れしく会話している者もまぁ珍しい。言葉の端々から、サクラと言う存在への浅くはない意識を感じる。


 数時間前、感じたあの雰囲気に近い。

 ニースは更なる違和感を覚えたが、それを吟味している間にも、サクラと青装束のやり取りは続いている。


「ごめんごめん。それより、そのボーガン……名のある魔法使いからもらった類だろ?」

「何?」

「一件、普通の木製ボーガンだけど、見た目を偽装しているだろう? 魔法だな。けど、中身は伝説クラスの性能だと思う」


 確かに、あのボーガンからは不思議な力を感じる。ニースにとって、そんな武器は珍しくなく、実力者らしき青装束が持っていたところでおかしくないため、無視していた。

 まさか、サクラにそこまで言わせる武器だったとは、予想していなかった。


 青装束は体を微かに揺らし、動揺を露わにしていた。息を呑んだのがわかる。気配も大きく揺らいでいた。攻撃の意志に至っては霧散していた。


 まさか、サクラは精神攻撃を仕掛けていたのだろうか。

 いや、違う、あれは普通の質疑応答や、事情を知らない私への親切心からの説明をしていただけだ。

 途中で一度意地悪じみたやり取りをしていたのは、恐らく、フェンリルを討伐対象にし、仲間だと明かしたサクラに対してボーガンを向けたことへの牽制だったのだろう。

 いずれにしても、相手の敵意と戦意を挫いたことは賞賛に値する。


 本格的に戦わずに勝利する。

 それは古今東西、究極の勝利の仕方であり、ヴァルキリーたちにとっては、得られる英雄の魂が少ないため、ありがたくない結末の一つである。


 青装束はボーガンを斜め下へ向けた。


「何で、わかったの……?」

「俺の師匠の一人が、隠蔽系の見破り方とか教えてくれたんだ。んで、そのボーガン……多分だけど、英雄が使った奴だな。けど、神話武装だから、地球の神話か伝承に出てくるはずだから……」


 そこで、サクラの意識が自分に向いたことを、ニースは感じた。

 数百年、ヴァルキリーとして生きてきたニースは、ある程度なら、人間界の伝承に関しても知識を持っている。中には、職場となった地域で知ったものもあれば、ヴァルハラへ運んだ魂から聞いた話もある。


 ニースは、青装束のボーガンへ集中する。

 認識阻害の魔法だ。見破った者への対抗措置など、何重にもかけられ、普通の魔法使いなどがこれを見破ろうとすれば、意識を刈り取られること間違いなしだ。

 だが、ニースにはその辺りなど全く問題なく、認識阻害も対抗措置も、全く苦も無く全てどうにかすることができた。

 そして、ニースが見たボーガンの真の姿は、武器でありながら一つの芸術品のようでもあった。

 鉄でできた(ゆみ)(どこ)に、乙女や馬の彫刻が施され、銀と少量の金で飾られている。また、弦には強力な魔力の籠った紐と動物の腱が使用されており、感じられていた魔力の多くはこれに由来するようだ。


 そして、似たような特徴を持つボーガンの伝承を、ニースは知っていた。

 手短にその伝承と武器名、その概要を伝えると、サクラは軽く目を見開いたが、ニースへ振り返りはしなかった。


「……ま、いいか」

「何が?」


 サクラの言葉に、青装束はさらに警戒心を強めていた。


「いや、アンタの武器の名前を暴いても仕方ないなと思って」

「わからないだけじゃないの?」

「地球だと、英雄殺しのための武器……かな。貴方の持っている武器がそうだとは限らないけどさ」


 青装束は一瞬、ボーガンをサクラへ向けようとしていたが、続けられた言葉にもう一度腕を下げ、ついに俯いて沈黙した。

 やがて、マントの中にボーガンを仕舞うと、サクラへ背を向けた。


「……帰る」

「え?」

「一応は、アンタの言葉を信用してあげる」

「えと、どれに関して?」

「気配のことに決まっているでしょ」


 先ほどまでの会話で何を感じたのかは知らないが、気配に関するやりとりは最初の少しだけで、そんなあっさりと信用してやると言われるような説明を、サクラはしていない。

 もしかしたら、サクラの口撃に、今回は戦わない方がいいと思ったのかもしれない。


「けど、本当に大丈夫なの? これ、相当ヤバい魔獣……うぅん、魔王とか、破壊神とかが気配を抑えているような感じなんだけど」


 こいつ、中々いい洞察力の持ち主だな、とニースは青装束の評価を上方修正した。

 その推察はほぼ合っている。

 何せ、ニースの敬愛する主神オーディンを食い殺すほどの力を持った、大神の子にして巨大なる狼の放つ気配なのだから。


「あぁ、大丈夫だ。と言うか、これのおかげで、助かる子がいるんだ」

「助かる?」

「うん、命も体も。何も知らないまま、安心して生きていて欲しいからね」


 サクラはそう言ってはにかんだ。

 その優しい表情に、ニースはまた、胸のあたりが苦しくなるような感じがして、顔をしかめた。


 青装束は振りかえってしばらくサクラを見ていたが、やがて踵を返すと、今度こそ早歩きに公園を出て行き、姿を消した。

 すると、感じられていた青装束の気配が消えた。


「……これにて、一件落着かな?」

「だといいがな」


 最初の刺客かと危惧していたが、違ったようだし、争う事もなく終わった。

 口ぶりから、また現れる可能性もあるが、こちら側から攻撃をしかけたり、刺激するような事をしなければ、敵対することはないだろう。

 どうやら、相手は人の世に仇為す者を討伐するようなので、普段通りに過ごしていれば、問題ない。


 ニースはひとまずの危機は去ったと安堵した。


全然関係のない話で大変恐縮ですが……先日から作業用BGMに某Vの大神さんがママさんやったカラオケ配信動画を何度か拝聴させてもらっているのですが、最初に画面を見た時は右側から奥に向けて、大神さんたちが斜めに並んでいるように見えていました。


変わった配置してるーと思いながら作業をしていたのですが、今話を完成させる間近でふと画面を見た時、どうやら三人とも普通に並んでいるようだということに気が付いたのでした。


あれ、こう、斜めに並んでるように見えていたの、私だけかな……錯覚ってすごいですね。

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