真夜中の気配
すみません、一時間以上遅刻したので手動投稿です。
今回は短めです。
夜、ニースは覚えない、微かな違和感を覚え、目を覚ました。
自分が包まっている浮かぶ寝袋を操って向きを変え、卓上のデジタル時計を確認してみると、午前二時五分。安藤家の面々も寝しずまっている、丑三つ時であった。
サクラも起きている気配がある。
「感じたか?」
「あぁ」
尋ねると、サクラは答えながら、枕元に置いてあった服を取り、布団の中で着替え始めた。
一分もしないうちに出てきた外出用の服装になったサクラは、机の横に置いてある小さな箱から運動靴を取り出し、開いた窓の枠に腰掛けながら履いた。
その顔は、すでに戦士のそれへと変わっている。
「フェンリルの気配を感じ取れていないのか?」
「感じ取れていなくても、自然と身動きが取れなくなるはずだ。強い力を持っているようだ」
ニースが予想を述べながら、気配の位置を探る。
「ふむ、丁度人気のない公園で待ち構えているな」
「丁度いいね」
「あぁ。だが、頭の回る相手のようだ」
窓の外に出たサクラについていき、ニースは閉じた窓に魔法で鍵をかけた。
「行ってきます」
サクラの掠れるような小声。
ニースは彼と共に、夜の街へと飛び出した。
音もなく、高速で、屋根から屋根へ飛び移るサクラの身体能力は、人間のそれを遥かに超えている。その移動速度は様々な規制と障害がある地上とは比べ物にならない。
忍者という日本の間者のようだ、とニースは思いながら、目的地である公園が近づいてくると、いつでも自分の槍を取り出せるように準備をしておいた。
「油断するな。フェンリルの気配を感じながら行動できるような輩だ」
「わかってるけど、敵ってまだ決まってはいないだろう」
「だといいがな」
目的地の公園近くのビルの屋上に着地したニースは、そっと公園の様子を伺う。
いた。
公園の中央に、暗闇に溶け込むような濃青の衣を身に纏った、小柄な影が静かに佇んでいる。
「ふむ、どうやら人払いの術の類を使っているようだな……」
「誰かに見られないなら、それに越したことはないよ」
「そうだな。ところで、話が通じそうな相手に思えるか?」
「話してみるまでわからないさ」
間近で、これほど濃密な殺気を感じながらも、サクラはまだそんな事を言っている。
ニースはやれやれと首を振ると、彼と共に床を蹴り、中空へ飛び出した。
件の人物がニースたちに気が付いた。
ニースもサクラも、敵意や殺気、武器は出していない。
相手は攻撃してこなかった。それどころか、殺気を揺らがせてすらいた。予想外の事が起きて、外面はどうにか取り繕えているが、内心では動揺を隠せないでいる、そんな様子だ。
ここで、ニースは相手の評価を少しだけ下方修正した。フェンリルの気配の中、自分たちが気づくような強い気配を出す力、誘い出してくる胆力は中々のものではあるが、殺気の揺らぎで動揺を相手に悟られるのでは、まだまだ、と。
ニースは羽衣の力を使い、一度緩急をつけて着地した。
その隣に、サクラがやはり音もなく着地する。
青装束の人物は、サクラが身を起こす間も、微動だにせず待っていた。
気配の揺らぎは収まっていたが、殺気は若干ながら薄まっていた。
何がこの人物の精神をそこまで揺らがせたのかはわからない。もしかしたら、サクラがビルの上から飛び降りてきたことに驚いたのかもしれないし、武器も持たずにやってきたことに衝撃を覚えたのかもしれない。
上手く話しを持っていけば、争わずに済むか?
ガラにもなく、そんな期待を抱きながら相手を観察していて、ニースは青装束の人物が、自分を見えていないことに気が付いた。
微かな気配の動き、意識の向けられ方など、本当に微々たるものだが、ニースがそう確信できる要素が、この十秒ほどの短時間でいくつも確認できた。
好都合だ。
ニースは黙って、相手の出方を伺うことにした。