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ヴァルキリーと恋する少女

 サクラの勤務中、ニースは彼の近くにいながら、店内にいる人間観察や、考え事をして時間を潰しつつ、周囲も警戒している。

 彼から離れられないという制約はないが、神界の一件以来、もし万が一にも、目を離している隙に何かまたトンデモない事をしでかすのではないかと、心配しているのだ。

 それに、巨人たちを倒した猛者である以上、これから何か事件が起こるとしたら、彼に関わることだろう、と踏んでいる。


 仮にも神々の最終戦争を未然に防いだのであるからして、他の勢力や、よからぬ者たちから、道場破りや武者修行のノリでちょっかいをかけられる可能性は非常に高い。

 力と知恵ある者はかかってこない。来るのは、見る目のない雑魚か情弱な力自慢の者、中途半端に力ある者、あるいは全てを知った上で挑戦してくる物好きだろう。


 神界でも、そう言った事件が少なくなかった。サクラも知っている有名な話の一つに、トールへ挑んだ巨人の猛者がある。トールを翻弄するも、最終的には敗れ去るのだが、迷惑な話である。

 もう昔の話故にニースも人伝や書物でしか知らない出来事だが、似たような事がサクラに起きないという保証はない。

 むしろこの半月ほどが平和だったことから、そう言う手合いが情報収集をしていて、そろそろ仕掛けてくるだろうと踏んでいる。


 だから、サクラには念のため何度か忠告をしておいた。

 真面目な性格の被守護者は、ニースの言葉をしかと受け止めており、普段ののんびりした様子の時でさえ、異常がないか警戒している。それは、ほぼ無意識で行われており、彼の戦士としての勘や知覚範囲に引っかかるものがなければ、反応はしない。

 彼から放たれていた殺気の理由の一つに、脅威への警戒心があった。半月、雑魚が寄ってこなかったのは、この殺気によるものが多かっただろう。

 つまり、雑魚もこれからやってくる可能性が高くなった。


 サクラは放っておいても大丈夫だろう。サクラ自身も、もしもがなければ多分大丈夫だ、と言ったくらいだ。

 だが、彼は周囲が巻き込まれることを非常に嫌う。誰かが傷つき、平穏を奪われることを憎んですらいる。

 それは、最初に彼と出会った時、幼子を庇っていた事や、主神たちの行いを聞いて激怒した事からも伺えた。


 そして、サクラは、もし何かあった時は、自分の家族や友人、周囲の無関係な人たちを助けて欲しいと頼んできた。それは、ニースを戦士として信頼している証だった。

 守護者であると同時に戦乙女であるニースは、これを快く承諾し、こうして距離を離さずに行動しているのだ。


 ラグナロクを未然に終わらせた男が、一戦乙女である自分を頼ってきてくれた、という小さなプライドもなきにしもあらずだが。


 同時に、先にもあった理由として、ちょっかいをかけてきた相手がサクラではなく、彼の家族や周囲を巻き込んだ場合、激怒した彼がどんな暴走をするのかわからないため、それを防ぐためにも、いち早く異変を察知しようと、ニースは心がけているのだった。


 なお、安藤家はフェンリルがいるため、どれだけ馬鹿で情弱であろうと、近づいては来れない。

 フェンリルは、自身が放つ殺気を操ることのできる猛者だ。安藤家や無害な者は感じ取れない、強烈な気配が、安藤家を中心に数百メートルほど展開されている。おかげで、その範囲内には、邪まな者は入って来れず、非常に治安がよくなっている。

 さらに、フェンリルは安藤家の面々と常に接しているため、その“匂いと気配”が一人も漏れなくついている。それはすなわち、フェンリルの身内であり守護している者であるという証であり、フェンリルの存在を知らない者でも、悪しき存在はその加護がついている者に近づこうとすら思わなくなる。

 フェンリルを子犬だと思って可愛がっている安藤家の面々、特に妹が夕方から夜にかけて一人でフェンリルを散歩に連れ出しても平気な理由の一つがこれである。

 余程、それこそ完全武装した雷神トールや無口な主神の息子並の力がなければ、近づこうとする気すら起きないだろう。


 だから、サクラは安藤家を安心して離れ、こうしてアルバイトや学校へ行くことができているのだ。

 自分の身は自分で守れる。

 だから、もし巻き込まれた誰かへどうしても手が伸ばせない時には、ニースが守って欲しい、と。


 プライド云々は置いておくとしても、善なる精神を持つ最高の戦士から背後を任されたに等しい願いだ。

 守護者冥利に尽きる。

 色々とサクラへ対する文句のあったニースが持つ、数少ない彼へ抱いている好意だ。


 今のところ、怪しい行動をしている者はいないが、このファミレスにもいつ曲者が現れるかわからない。

 最近、ニースは警戒を強め始めていた。


 サクラはと言うと、基本的にはキッチンの方を担当しているのだが、時折フロアにも出ている。

 今日はフロアに入っており、美琴や他の店員たちと共に仕事に励んでいる。

 どこにでも見られる、人間の営み。

 そこで生きているサクラは、この国で暮らす普通の若者そのもので、神々が苦戦する巨人やその軍団を倒した戦士には見えない。


 店に訪れている客の中には、サクラ目当てで来ているらしい者も少数、確認できている。彼や彼女たちは、目の前で給仕している青年が、人間を超越した存在になってしまっているとは、夢にも思わないだろう。


 それは、私だけが知る秘密だ。

 誰も知らない方がいい秘密であり、知る者がいれば、それはほぼ敵だ。


 サクラの勤務時間が終わるまで、店の端々までニースは目を光らせていたが、今日も敵らしき存在は現れなかった。




 一緒に美琴もシフト上がりとなったため、着替え順を先に譲ったサクラへニースは近づき、今日の店の様子を手短に伝える。

 それを聞いて、サクラは「そうか」と短く答え、ホッと一息ついていた。


 やがて着替えが終わった美琴と入れ替わるように、サクラはカーテンの向こうへ入って行った。

 その後ろ姿を、美琴がちらと見ているのを、ニースは見た。


 近所の県立高校に制服に身を包んだ美琴は、店を出ずに椅子に座ってスマホを弄り始めた。

 彼女がシフトに入っている回数は少なく、夜に差し掛かる時はサクラと出退勤の時間が被っている。

 これは、彼女の安全を考慮して、信頼できるサクラに彼女の帰宅中の警護を店長が任せた結果だと聞いている。

 店長は人を見る目がある。確かにこの男なら、仕事仲間の少女に危害を加えることはない。そして、丁度よい男避けになる。

 実に理に適っていると、守護霊として、ヴァルキリーとして、話しを聞いたとき、ニースは少しだけ気分が良かった。


 美琴自身も嫌がっている節はなく、最近などはむしろ喜んでいる様子すらあり、ついに今日、完全に喜んでいることがわかった。


 一分ほどで支度を終えたサクラは、待っていた美琴と共に店を出ると、彼女の隣で自転車を押しながら帰路へと着く。

 自転車は車道側で、自身も車道側を歩く。歩く速度も美琴に合わせている。

 サクラも美琴も会話はほとんどしないが、雰囲気は悪くない。


 傍から見れば、少し歳の離れた恋人同士に見えるかもしれない。

 サクラは、美琴に迷惑がかかるから、あまりそう言う目で見られたくはないと前に話していた。

 対して美琴は気にした様子もなく、友達にはちゃんと説明してある、と答えていたのも知っている。

 そして、今の状況を好ましく思っていることも、ニースは知っている。


「安藤さん」


 ふと、美琴がサクラを呼んだ。

 帰り道、彼女から積極的に声をかけるのは、珍しいことだった。


「んー? 何?」

「いつもありがとうございます。こうして一緒に帰っていただいて」

「気にしなくていいよ。どうしたの突然」

「その、やはりご迷惑なんじゃないかと思って」


 ちらっと、美琴はサクラを見上げる。不安と恐れの入り混じった目だ。

 だが、その心配は無用だとニースは心の中でつぶやいた。

 案の定、サクラはニースの期待を裏切らない答えを口にした。


「迷惑だなんて思ってないよ。それより、俺と一緒に帰って、変な噂とかになったりしてない? 銀さんの方こそ、迷惑になってない?」

「そんなことないですよっ」


 美琴は少しだけ大きな声を出し、恥ずかしそうに顔をサクラから背けた。


「前にも言いましたけど、友達にはちゃんとバイト先の先輩で、悪い人じゃないって説明しています。先生も、安藤さんなら大丈夫だって言ってもらえていますし」

「あれ、先生、俺の事、知ってるの?」

「はい。以前、安藤さんの担任をしていたそうで」

「あぁ、そっか。合点がいった」


 あの先生まだいるんだな、と嬉しそうに話すサクラを、美琴は顔は背けたまま、目だけで見上げていた。


 あれ、嘘だな。全部ではないが、どれか嘘が混じっている。

 ニースは思ったが、口出ししないことにした。生命の危機に直結しないばかりか、嘘の中身がバレたとしても、サクラなら苦笑して済ませるだろうと予感したからだ。

 碌でもない嘘をつくような娘でもなさそうだし、可愛らしいものだ。嘘の内容も、相手を見て選んでいる。強かさはあるようだ。だが、邪念はない。問題ないとニースは結論付けた。


「でも、銀さんは、嫌じゃない?」

「嫌じゃないですよ。もしそうだったら店長に言ってます」

「そっか」


 美琴の少し怒ったような様子を気にした風もなく、サクラは安堵の笑みを浮かべていた。

 これは、まだまだ先は長そうだな、とニースは若干不機嫌になっている情緒不安定な恋する少女を見やった。


 恋は人を盲目にするという。

 普段なら何も感じず、思わないことでも、一喜一憂する。

 ニースは応援する気はなかったが、美琴の状態は理解していた。


「安藤さんだから、私、大丈夫なんです」

「それは光栄だね」


 精一杯の感謝の言葉さえも、サクラはそのまま受け取って、少女の恋には気づかない。ふりではなく、本当に気づいていない。

 やはり、先は長いな。

 ニースは守護対象を、若干呆れの目で見ながら、銀家に着くまで範囲を普段より広げて警戒していたのだった。


次回から投稿時間を夕方にしようかなと考えております。


そう言えば、仮面ライダーセイバーを見たんですが、王道展開で面白いですし、来たっ、主題歌(EDだけど)に仮面ライダーって歌詞が入ってる奴、十数年ぶりにきちゃー! って一人ではしゃいでいました。メロディも歌詞もすこなんだー。あと、覚えやすい感じがしてそこも好きです。そして曲名も仮面ライダーセイバーになっているのに気が付いてささやかな喜びを抱いてしまった今日この頃です。(次回予告で流れたテーマソングが違ってたので、あれ、これOPじゃないだーって初めて知りました。あ、EDもそう言えば響鬼以来ですね、もう長いことEDなかったですから嬉しいです。ユーチューブさんで聴いたOPの方も嫌いじゃないです。OP歌詞も物語に合っていて、さらに”仮面ライダー”をイメージさせるところが何か所もあって……歌詞も聞き取りやすくてすごくいいのですっ。というかこっちも好きっ!)

後、プロローグとエピローグを語ってくれる、レ・ロマネスクTOBIさん、キャラ濃いですけど、こういう演出もいいなぁと思ってます。(書いててウォズを思い出しました)


ところで、キングエクスプレスザビューンがかっこいいんですがどうしましょう。

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