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正義の使者

その強い決意に、ニースは――。

 どこまでも身勝手で、傲慢で、優しい戦士の言葉に、ニースは思う。

 この男は、どうしてそんな考えができるのだろうか、と。


 ラグナロクを止められたから、怪物たちを倒したから、異世界を冒険したから、そんな考えができるようになったのだろうか。

 だとすれば、どれほど傲慢なのだろうか。

 自分一人で終わらないから、フェンリルの力を借りて、周囲を守った。

 向けられる刃は全て自分へ。

 そう思っているのだろうが、もしも敵がサクラと同じように最高の戦士であるのなら。


 フェンリルの気配を辿り、周囲から攻撃していく者は絶対にいる。

 最強の狼の加護があっても、中身は人だ。

 加護を無視すれば、後は単純な結末が待っている。たった一太刀、いや、拳の一つで簡単に命を狩れる戦士の前には、為す術もないだろう。


 それがわからないのだろうか。

 ニースが物悲しさを覚えた時だった。


 土を踏む靴音が、公園の入り口の方角から聞こえてきた。

 誰か来たのだろうか。

 しかし、先ほどまでこちらに近づいて来る人の気配はなかった。


 振り返ると、街灯に照らされながら、サクラたちの方へ真っ直ぐ歩いてくる小柄な影があった。


 険しい顔をした、一人の少女だ。

 黒い詰襟の衣服に身を包み、右手には竹刀を掴んでいる。


 ニースは、その服装に見覚えがあった。

 確か、市立中学校の制服だ。男子が詰襟の黒い衣服で、女子は白を基準とした青い襟と袖のセーラーの着用が義務付けられている。

 なら、あの少女に見えるのは少年、なのだろうか。

 肩幅や重心からでは、良く伺えなかった。

 ただ、その足運びは、間違いなく戦士のものだった。


「ん」


 サクラと恋歌も、近づいて来る少年に気が付いたようだ。


 少年はニースたちから十メートルほどの距離を置いて立ち止まった。

 影が差す顔は、あどけなさを残しており、愛らしさがある。

 しかし、瞳は爛々と輝いており、そこには強い怒りが宿っていた。


「貴方ですか……神様たちを困らせた人は?」


 まだ声変わりのしていない、中性的な声音で、少年はサクラへ質問を投げた。

 応答によっては、攻撃すると言わんばかりだ。


 ニースが振り返ると、サクラは困ったような顔で唸っていた。


「うーん、困らせたっていうか、ロキだけが困ったことになったような」

「ロキ?」

「うん。ところで、君は?」


 予想はついているだろうに、サクラは人の好さそうな態度を崩さない。

 少年は虚を突かれたような表情になったが、一瞬だけだった。


赤羽千夜(せんや)です。貴方は、安藤作楽さんですよね」

「うん。前にどこかで会ったかな?」

「安藤、わかってて言ってる?」

「初対面です」


 流石に恋歌が突っ込んだが、千夜は律儀に答えていた。


「貴方の事を、ある神様から聞きました。昨日の晩まで、街を覆った強い気配を出していたのは、貴方だと」

「あー、間違ってはいないけど、それ、誰から聞いたの?」


 聞いたの、の時点で、千夜の姿がニースの視界から掻き消えた。

 強い破裂したような音に振り返れば、いつの間にかサクラに接近していた千夜のシナイが地面に振り降ろされており、サクラは半身になって避けた後だった。


「やっぱり、お前が魔王なんだな!」

「え、魔王?」


 激昂した千夜に、サクラはきょとんとした表情で首を傾げた。


「とぼけるな!」


 千夜の振るった竹刀を、サクラはまた後ろに引いて避ける。恋歌に当たらない様、彼女とは別の方角に逃げていた。


「お前は僕が止める!」

「え、ちょっと待って」

「問答無用!!」


 襲い掛かってくる千夜の攻撃を、サクラは全て避けている。ニースと恋歌から離れ、公園の中央、大きく開けた場所まで誘う形だ。


「俺、魔王になった覚えはないよ。本当に誰からそんな話を聞いたんだい?」

「はぁっ!」


 宣言通り答えない千夜が渾身の一撃を浴びせてくるのを、サクラはやはり余裕の態度で躱した。

 そも、体の動かし方はニースでも見失う程だが、竹刀の振るわれる速度は簡単に目で追いかけられているため、サクラが避けられないはずがないのだ。


「ちょっと君、待ちなさい!」


 見かねた様子の恋歌が声をかけると、千夜が動きを止めた。

 おい、そこで止まるなよ、もしサクラがその気なら一撃入れられているぞ、とニースは思ったが、口には出さない。どうせ聞こえない。


「ソイツが魔王って一体全体誰から聞いたの?」

「お姉さん、コイツは危険な奴です。恋人さんかもしれませんが、離れていてください!」

「「え、いや恋人じゃないけど」」


 サクラと恋歌の声が綺麗に重なった。


「じゃあ、もしかしてナンパされていたんですかっ?」

「してないよ」

「お前には聞いてないっ!」


 姿がぶれる勢いで放たれた千夜の中段回し蹴りを、体をくの字にして避けるサクラ。追撃の後ろ回し蹴りも、スウェーバックで回避していた。

 と、千夜の動きが目で追えるようになったことに気が付き、ニースは違和感を覚えたが、今は頭の片隅に置いておくことにした。


「ソイツ、硬派気取ってるから、そう言うことはしないわよ」

「別に俺は硬派でも軟派でもないんだけど」

「人が庇ってるんだからアンタは黙ってなさい!」


 いらない事を言ったサクラにも、恋歌のツッコミが入った。

 何とも間抜けな光景に、千夜も少し動揺を見せていた。殺気と戦意もかなり薄れている。


「あの、お姉さんはこの人のお友達なんですか?」

「そう。それと、ソイツも私も、君と同じような経験をした人間よ」

「何ですって?」


 千夜が完全に動きを止めた。

 警戒はしているようだが、サクラならあそこから好きなように料理できるだろう。

 あの少年、強いようだが、戦いの経験値が少ないのかもしれない。


「赤羽君、だっけ。君、異世界へ行ったことがあるでしょ」

「っ!」

「それと、これが私の異世界へ行った証拠ね」


 そう言って、恋歌はいつの間にか手にした、矢を装填していないボーガンを掲げて見せた。

 千夜の目が見開かれる。


「そのクロスボウは、一体……!」


 どうやら、一目でただのボーガンではないと見抜いたようだ。

 恋歌は微笑んで、肩を竦めてみせた。


「それと、ソイツは魔王じゃない。神界に行って、ラグナロクを止めたのは本当みたいだけど」

「はぁっ?! ラグナロクを止めた?!」

「赤羽君は北欧神話って知ってる?」

「はい……え、ちょっと待ってください、それじゃあもしかして……」


 千夜がぎこちな振り返るその先には、静かに待っていたサクラが苦笑いをこぼしていた。


「つかぬ事を聞きますけど、もしかして、安藤さんは世界樹を救ったりしましたか?」

「ニーズヘッグとかを倒したっていうことが世界樹を救うことになるなら、そうかもね」


 サクラが答えると、千夜の愛らしい顔が真っ青になった。



お待たせいたしました。

新キャラ登場です。


次回、ヴァルキリーの予言

17時に掲載すると予言しまs(神威絶招(レギン○イヴ)グラム○ンバー

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