クルシャの過去2
ベルゼが私にボロボロの鎧を渡して、修理をしてみろと言う。
「できるかな····」
「やってみな」
「·····」
私は目の前の鎧を見つめ、どこから手をつけるか考える。
「(鎧の損傷が激しい····こんなのどうしたら·····!!)」
考えていると鎧から不思議な音が聞こえる。
私が手を動かすとその音が高くなる、鎧の破損部位を調べると、音が柔らかく、暖かい音に変化する。
「(もしかして、この音···アナタが出してるの?)」
頭の中でそう問い掛けると、柔らかな音が連続で鳴る。
肯定····という事だろうか?私は、もしかすると····と思い、再び鎧に問い掛ける。
「(私にどこをどう治せば良いか、教えてくれる?)」
すると鎧から再び、柔らかな音が連続で鳴る。
「(!!)」
すると目の前に光の玉のような物が現れた、その光の玉は鎧の破損部位に近くと、その形を一枚の紙のような物に変え、そこに修理の工程等が詳細に描かれていく。
「(この通りにしたら、治せるのかな?)」
私は記されている通りに手を動かし、鎧を修理する。
気付くと鎧は完璧に修復され、新品同様の状態になっていた。
「···本当に··出来ちゃった···」
ベルゼの方を見てみると、呆然としていた。
「(教えてくれてありがと、でもこの音や、光は他人に見られたらマズそうだけど、これって他人に認識されてるの?)」
そう頭の中で呟くと、低い音が連続で鳴る。
否定····って事か?。
「おい、クルシャちゃん·····」
「は、はい?」
ベルゼが私に話し掛ける。
「うちで働く気は無いか?」
「え?」
ー10年後ー
10年後····私はあの日ベルゼに雇われ、ベルゼの鍛治屋ギルドで働き始めた、親はそれを喜び、街の知り合い達もその事を喜んでいた。
当時のも夢の一つの鍛治屋になれたのだから、喜んでいた。
「·····」
でも少し時が経ったある日に私は思い出す、私が本当になりたかったモノ、したかった事を。
「(私が····本当にしたかった事は、冒険者になってこの広い世界を旅する事だったじゃないか····それなのに私はこんな薄暗い工房で装備の修理ばかり····)」
私はその日、決意する。
❬鬼族❭の里を出て行き、別な環境へ身を移して冒険者になる事を。
ー翌日ー
「おいクルシャ、どこに行くんだ?そろそろ仕事に行く時間じゃないか?」
親に声を掛けられる。
「大丈夫、少し散歩するだけだから」
こうして私は生まれ故郷を出て、どこか別な環境を求めて旅に出るのであった。
「さて、どこに向かおうかな」
私は地図を広げ、行き先を考える。
「❬ミラト❭とか、行ったら楽しそうだな!」
私は地図をしまい、多種族混合の国❬ミラト❭へ向かった。
1日近く馬車に揺られていると、遠くに❬ミラト❭の街が見えて来た。
「····やっと、私の夢が叶うんだな····」
ー1年後ー
私は冒険者にはなれなかった。
理由は、冒険者登録試験当日に集まっていた冒険者志願者の一人に絡まれ、揉め事になり···結果、私が相手にケガを負わせてしまったからだ。
その後、私は国の牢獄に投獄され約半年を牢の中で過ごした。
本来であれば一年は牢で過ごすのだが、この街の薬師が高額の金を払い、私の牢獄生活の期間を縮めてくれたらしい。
それから半年の時が経ち、私は牢獄から解放される。
私は牢獄から出てから、すぐに冒険者ギルドへ向かった······しかし、冒険者ギルドにいる門番に止められた。
理由を訪ねると「お前は以前、冒険者登録試験で事件を起こした者だ、お前のような危険な者を冒険者ギルドに入れるワケにはいかない、これはギルド長の命令だ」だそうだ。
だが「お前が、我々が信用できる者と共にここへ来た時だけは、ここを通そう」と言っていた。
だが私の下には、そう見える人物すら来なかった。
それどころか、私を殺人鬼呼ばわりしに来る輩ばかりが私の下に来る。
そんな日が続いていく内に、私の口や性格は悪くなっていた。
それから少しの時間が流れた。
私はもう冒険者の夢を捨て、この街で鍛治屋を始めた。
しかし私は装備の修理は得意だったが、装備を作る事がほとんど出来なかった。
さらに、この街での私の信用は無いに等しい。
そのせいで店の売上もほとんど無い状態が続いた。
しかし·····❬その瞬間❭は突然訪れる。
「店主、ここは鍛治屋で間違い無いだろうか?」
一人の騎士のような人物が私の下へ来た。
どうせまた私の悪口を言いに来た奴だ。
「はぁ?、見りゃわかんだろ」
「すまないな、鍛治屋に詳しくなくてな」
しかし、その人物からはそういう雰囲気が一切無かった。
私はその人物を少しだけ信じてみた。
「別に良いけどよー、アンタの防具ボロボロじゃねーか」
「む?そうか?」
「着けてる防具、一旦全部外しやがれ!」
「こ、ここでか!?」
「恥ずかしかったら、そこの部屋にでも入ってろ!」
「わ、分かった」
私はその人物のボロボロになった装備を修理する。
その間も、その人物は大人しくしていた。
「(そうか·····こいつは私の噂を知らないのか····)」
修理が終わり、その人物と少し会話をしている時
···近くを通りかかった奴が私の悪口を、その人物に聞こえるようにはっきりとした口調で言って行った。
確かにその悪口はその人物の耳に届いたはずだ、しかし···。
その人物はその事をまるで聞かなかったかのように会話を続けた。
この時、僅かに····私の心に光が差して来た。
その後、この人物と共に世界を救う大冒険へ出る事になるとは、その時の私はまだ知らなかった。
これで、クルシャの過去は終わりです