白
そこでは転生者とそのパーティーが❬光の神❭と会話していた。
『何用ですか?転生者よ』
「この先にある❬聖水の滝❭に俺達を入れてくれないか?」
『見た所···アナタ方の中に酷い傷を負っている者はいないようですが?』
「そうなんだけど···俺達、長旅で疲れてるんだ···ダメか?」
『えぇ、ダメです。ここに入る権利のある者は、通常では治ることの無い病や傷を負っている者だけです』
すると、転生者のパーティーメンバーの一人の女が前に出て❬光の神❭に話し掛ける。
「私達はこれまでに、沢山の国や村を救って来たわ!···なのに何で?···」
『···だから何だと言うのです、その程度の事で何が出来るのです?』
すると、転生者が大声で叫ぶ。
「俺達はこれまで、沢山の人々を救い導いて来た!悪を討ち、弱き者を助けた!その途中で大切な人も沢山失った!!それでも諦めずに、世界を救うために今、魔王を倒す旅に出た!たとえお前が神だとしても、これを否定することは絶対に許さない!」
転生者がこれまでの、辛い出来事や偉業を神に語る。
『····そんなに言うのであれば、❬魔界❭の主である❬魔王ミティス❭にでも挑めば良いのですよ···それで世界を救えると思うならですがね』
「···分かった···そいつを倒せば良いのか」
『自分で考えなさい』
そう言われると転生者一行は、どこかへ走り去ってしまった。
『そこで見ている人間、こっちへ来なさい』
「あ、あぁ」
私達は❬光の神❭に呼ばれ、その場へ行く。
『アナタ方はどこかに傷があるのですか?』
「あぁ、私の顔に治らない傷が出来てな···」
『ふむ···ではそちらの仲間の方は?』
「あぁ、実は私も昔から治らない傷があってな」
『良いでしょう、アナタ達には立ち入りを許可しましょう』
「!···感謝する」
「ありがとよ」
ここで私は、魔王から言われていた特殊な魔法の事を❬光の神❭に言う。
『ほぅ···あの❬魔王ミティス❭が···』
「それで、試練も受けに来たんだ」
『試練を与えるのは構いません···ですが、生きて帰って来れるかは分かりませんよ?』
「···一応、覚悟はしてきたつもりだ」
「私もだ」
❬光の神❭が何故か少し笑う。
『フフ···いいでしょうでは早速、試練を与えましよう····』
「試練の内容を聞いても良いか?」
『内容は、あまり話せませんが❬脱出❭ができれば達成です』
「❬脱出❭····?」
『では始めます!』
目の前が白い光に、包まれる。
「!?」
「!!」
気がつくと、目の前には真っ白な世界があった。
辺りを確認するも、クルシャの姿は無い。
「!?···まさか、この世界から脱出するのか!?」
私は一旦落ち着き、辺りをを歩く。
周りには、どこにでもありそうな街並みがあった。
だが、その街には誰も居なかった。
それどころか、生き物すら居なかった。
「❬脱出❭の手がかりが無さすぎる····」
絶望するにはまだ早いので、私はひたすらに走り続けた。
「何も手がかりが無い、どうすれば」
この白い世界に響く音は私が歩く音だけ。
この世界は不思議なことにお腹が空くことも無いし、疲れも無ければ眠気も来ない。
「不思議だ」
私はまたひたすらに走る、何か手がかりになる物を求めて。
「···今、何時間くらい経っただろうか···いや、分かるはずもないか···」
ずっと私の走る音が響く。
何も無い。
かなり遠くまで走った。
何も無い。
新しい街を見つけた。
何も無い。
高い山がある。
何も無い。
山の頂上まで来た。
何も無い。
下を見下ろす。
ただ白いだけ。
違うルートで下山する。
何も無い。
洞窟を見つけた。
何も無い。
洞窟の最深部へ来た。
何も無い。
地上への抜け穴があった。
何も無い。
地上へ出た。
何も無い。
湖があった。
何も無い。
潜ってみた。
何も無い。
向こう岸へ行った。
何も無い。
大森林があった。
何も無い。
一際大きな木を見つけた。
何も無い。
一番上まで登った。
何も無い。
大森林を抜けた。
何も無い。
国の防壁が見えた。
何も無い。
国の中へ入った。
何も無い。
街を散策する。
何も無い。
「············································」
城へ入った。
何も無い。
全ての部屋を見て回った。
何も無い。
国を出た。
何も無い。
村があった。
何も無い。
私は、感情を忘れた。