拾いたがり
「ちょっとそこの貴方。御代はいいから、ちょっと話聞いて行きません?」
いきなり占い師?に声をかけられた。
仕事帰りにたまたま通りかかった、繁華街の電柱の下。
少し行った所にある、とんこつラーメンの屋台で腹を膨らませようと思ってたんだけどな。
ま、急いでないし、いいか。
僕は占い師の目の前のいすに座った。
「ハア、何です、いったい。」
「貴方、あんまり物を拾わないほうがいいですよ。」
ぎく。
「拾うのはいいですけどね…貴方、ちょっと、うーん、よくない、かな?」
ちょっと心当たりがあるので、占い師の物言いが気になる。
「良くないって言うのは、ええと、勝手にもらうのが良くないってことですかね。」
そう、僕は、道に落ちてるタオルとか、器とか、しょっちゅう拾っては持って帰っちゃったりするんだよ。
財布とかさ、高そうなものは警察に届けるんだけど、タオルとか服とか、そういうのって拾って届けたところで誰も帰ってくるって思ってないというかさ。
僕の思い込みかもしれないけど、どうせ捨てられちゃうだろうし、もったいないというか。
僕が使えそうなもんなら、使えばいいって思うというか。
まあ、いいわけだね、うん、僕ね、けちだしタダでモノが手に入るなら、意地汚いことも平気でするの、あはは。
「何で、拾っちゃうんだと思う?」
「え、もったいない、から?」
「もったいないって、本当に、思う?」
「使えるもんだったら、拾って使いたいって言うか…。」
「拾ったもの、本当に、使ってる…?」
使って・・・。
拾ったタオルは、どこ行ったかな?
拾った器は、キッチンの棚の中に入れっぱなしだ。
拾ったTシャツは洗ってクローゼットの中か。
拾ったボールペンは会社に持ってったらどこかにいってしまったな。
拾った傘はコンビニに置き忘れてしまったんだった。
拾ったまな板はうちの植木の下敷きになってるはず。
拾ったボールは遊んでてどっかに飛んでったんだよ。
「使ってるというか、手元に残ってるのは、まな板だけかな?いやしかし…。」
「君ね、運び屋になってるの、気付いたほうがいいよ。」
「運び屋?」
「落し物に憑いて、運んでもらいたがってるものがいるんだよ。自分じゃ動けないやつがいるのさ。」
「え、ちょっと待ってくれよ!!僕いっぱい憑いてんの?祓ってくれよ!!!」
マジか!!僕霊感ゼロなのに!!
「違うよ!!逆!!運んでもらって、そのお礼に憑いてたやつがお礼を置いてってんのさ。徳とかそういうやつ。貴方ね、めっちゃそういうの、持ってる。で、こぼれ落ちそうに、なってる。その、落ちたやつをもらおうとして、足元にレベルの低いやつらがうろちょろしてる。」
「ぼ、僕はこれから先どうしたら?足元のやつはどうしたら?!」
震え上がる僕に、占い師が虫眼鏡を差し出した。
「これでのぞいてみてごらんよ。」
僕は、怖くてたまらないけど、虫眼鏡を覗き込む…。
足元には、弱気そうなおじさんと、小さな…天狗?あと蝶と、猫…?
「悪いやつらじゃないよ、ちょっとミスして、徳がなくなっちゃって、上がれなくなってるだけ。だから奪おうとせずに、こぼれたのをもらおうってしてるのさ。」
「あげることはできないの?」
「あげたら、この人はくれる人なんだって思われて、ますますこういうのが寄ってくるようになるよ。」
詰んだじゃん!!!
「もう、拾うのをやめるといいよ。徐々に足元の人は、減っていくから。」
「うん…僕もう拾うの、やめるわ…ありがとう、いいこと聞いた。」
虫眼鏡を返そうと、差し出すと手の平を向けられた。
「いえいえ、どういたしまして。…その虫眼鏡は差し上げますよ。」
「いいの?もらっちゃうよ?」
僕は、占い師の目の前のいすから立ち上がって、最後にもう一度お礼を言おうと。
「…うそだろ。」
俺の目の前に、占い師は、いなかった。
しかし。
俺の手には、虫眼鏡が。
…捨てられないじゃないか!!!
よろよろしながら、歩き始めた僕の耳に。
「拾い物は、それで最後に、してね。」
これはあんたが押し付けただけじゃないか!!!
もう、絶対に!!
物は拾わないと、心に誓った。