第7話 心地よい朝の出勤時間は唐突に終わりを告げ
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「やっぱりバーサンとこの焼き鳥は最高だね」
朝飯代わりに買った行きつけの焼き鳥屋台のバーサンから買った焼き鳥をハグハグと噛みながら通勤ルートを歩いていく。
たまに買うバーサンの焼き鳥は2本で100リーンと破格の安さだ。
肉は小さめだが、タレがまた絶品なのだ。
「ん?」
下町を歩いている際も朝から人通りが多いなと思ってはいたのだが、下町を出て中央区中央通りに近づくにつれ、人が多いどころではなく、人がごった返し始めた。
「なんだ?朝から祭りでもあったか?」
「アンタ知らねえのか!? 帰って来たんだよ!遠征先から!」
俺のぼやきに隣にいたオヤジが興奮しながらしゃべりかけてくる。
「帰って来たって、誰が?」
「おいおい、なにすっとぼけたこと言ってんだよ。姫騎士クレイリア様だよ! 第一王女クレイリア・デュラン・ガーレン姫殿下様がお戻りになったんだよ!」
俺の肩をバンバンと叩いてオヤジさんは人込みをかき分けて中央通りの方へ走っていった。
「“姫騎士”クレイリア・デュラン・ガーレン第一王女殿下ね・・・」
確か王国最強とも歌われる剣の使い手で、「剣聖」とも「剣聖姫」とも呼ばれる騎士だな。あまりに剣の実力がありすぎたため、王が王国の騎士団とは別に王宮を守護する名目でクレイリアが所属できる『王宮騎士団』という専用の騎士団を立ち上げたのた。その『王宮騎士団』の団長に就いたのが、“姫騎士”クレイリア・デュラン・ガーレン第一王女殿下であった。国王はクレイリアが危険な戦場へ出ないよう騎士団の名を『王宮騎士団』と名付けた。その仕事は王城の周りに限定されてたはずなのだが、クレイリア王女本人が「民のために剣を振るいたい」と『王宮騎士団』のメンバーとともに王国各地で被害を出す魔獣の退治に乗り出した。第一王女殿下でありながら戦場へ立つことを望んだというから、まさに実力と人望を併せ持つこの国人気ナンバーワンの王族であろう。
そのクレイリア王女が戻ってくるという事は、辺境にある魔の森での魔物討伐隊の活動が一定の効果を上げたという事だろうな。
「いやあ、働き者だねぇ」
俺は首をプルプルと左右に振る。人のために働くとか、俺には無理だね。シンドイや。
見れば中央通りは規制され、通りの左右に人が集まっている。
まるでパレードが行われるような規制ぶりだな。ディ〇ニーランド? いやいや、あれだ、スケートの羽生君の凱旋パレードみたいな感じかな。
そして中央通りを鎧が汚れた騎士たちが馬に乗ったまま通りを進んでいく。
まさしく戦って帰ってきました、みたいな感じだが、北の魔の森なら途中で野営したり街に休んだ時に鎧洗ったり新しいのにしたらいいのに、と余計な事を考えてしまう俺は多分ひねくれものなんだろうな。
興味がないので、沿道に集まった多くの国民の後ろを人を避けるように歩いて王城へ向かう。だが、あまりの人の多さになかなか進まない。
「まいった・・・こりゃ遅刻しそうな・・・!」
不意に殺気を感じる。
見ればちょうど俺の近くに姫騎士クレイリア王女が来ていた。彼女を囲むように沿道にまぎれた4人の暗殺者。この殺気、間違いない!
「チッ!」
俺は持っていた焼き鳥の串を素早く投げつける。
串は人込みを避けて見事暗殺者の首に刺さる。
「グッ」
「ガッ」
「なんだ?」
後方に陣取っていた暗殺者2名が声を上げたため、馬にまたがったまま進んでいたクレイリア王女が後ろを振り向いた。
その隙に前方にいた暗殺者2名が宙に舞う。
「シャアア!」
「殺った!」
「なっ・・・!」
素早く前を向きなおし、腰の大剣を引き抜こうとする姫騎士クレイリア王女。
だが、そのタイミングは間に合わないかのように見えた。
だが、それよりも早く俺は右手の人差し指と中指を唇に当て、フッと魔力を込めると、素早く魔法を展開した。
「シッ!」
寸分たがわず宙に舞った暗殺者の短剣を握り締めていた手を<風の針>が貫く。
「ぐあっ」
「ぎぃっ」
振り上げた短剣を落とし、空中でバランスを崩した暗殺者2名に薙ぐ様に大剣の腹を打ちつけるクレイリア王女。
「捕らえよっ!」
「はっ!」
沿道の警備に出ていた騎士たちが走り寄って倒れている暗殺者たちを拘束していく。
やれやれ、こんなところで姫騎士様が暗殺されたりしたら大騒ぎで出勤時間に間に合わなくなって遅刻しちゃうからね。スローライフを満喫する俺に出世は不要だけど、勤務態度が悪くてクビになったりすれば、さすがにスローライフどころではなくなるからね。
・・・働かなくても何とかなるけど、やはり定職にはついていたい小市民感覚がぬぐえないんだよねぇ。
さて、王城に向かおうとしたその時、当の姫騎士クレイリア王女がこちらを見ていることに気づいた。
「いっ・・・!?」
俺が手を出したところは見られていないはず。
焼き鳥の串を高速で投げつけた事はもとより、<風の針>の魔法を使ったこともバレていないはず。何せこの世界は魔法に関してエクストラスキルである<無詠唱>とスキル<詠唱短縮>があり、俺はどちらも持っていたりする。
だが、<無詠唱>は完全にイメージだけで魔法をコントロールするため、精密な効果を求めたり、命中精度を瞬時に出したりすることは難しい。そのため俺はよく<詠唱短縮>を用いる。これは自分の動作を決めて、その動作を行って魔力を込めることにより、詠唱の代わりとするもので、ワンアクションで魔法が起動できるため、かなり使い勝手がいい。
ちなみに俺は女神アシュロハスターとのスキル能力決めに置いて、この<詠唱短縮>の動作を『唇に指を当ててキスする』というすさまじくカッコつけたアクションに決めた俺を殴りたいと思っている。
・・・当時の俺はどうしてこんなアホなアクションに決めてしまったのか。45にもなって何でキザったらしくキッスの仕草をしなければならないのか。正直恥ずかしくて仕方ないが、スキルとして決めてしまった以上変えられないから、いかんともしがたい。
そんなわけで、俺が<風の針>の魔法を放った事はまずばれないはずだ。俺はそそくさと王城へ向かった。
「よっしゃ、ギリギリセーフ!」
王城近くも人でごった返していたが、何とか始業前に間に合った。
そしてデスクに座ろうとした時、上司が入ってきた。
「サーレン!こんな時間にやってきてお前どういうつもりだ!?」
「・・・え? 俺は遅刻してませんよ?」
「今日は姫騎士クレイリア王女殿下が朝から凱旋パレードをなさるから、通常より3時間前に集合するよう申し伝えてあっただろう!」
「え~~~!? 聞いてませんけど?」
「メモが回覧しておいただろう!」
あまりの上司の剣幕に自分のデスクを見る。
書類でごちゃついたデスクの右隅に積まれた資料の上にメモが置いてあった。
「・・・メモあったっす・・・」
「あったっすじゃねぇ!さっさとあてがわれた持ち場に行って仕事しろ!」
「はいい~~~!」
俺は上司に怒鳴られ詰め所を慌てて飛び出た。あてがわれた場所ってどこ?
「すいません、担当場所ってどこっすかね?」
「サーレン!!」
顔を真っ赤にした上司に怒鳴られる。やれやれ、今日は朝から厄日だな。
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