第6話 異世界転生
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「ふんふんふ~ん」
俺は上機嫌で一路王城へと目指して歩みを進めていた。
所謂出勤途上である。
通常であれば憂鬱でしかないサラリーマン勤務である王城勤めにルンルン気分で出勤なぞあり得る話ではないのだが、今の俺はご機嫌だった。
(いや~それにしても儲かったな!)
先日、『灰色の魔術師』での活動で討伐したロックドラゴンやメタルバジリスクなどの大物魔獣のオークションが終わり、相当な額の買い取り額が振り込まれたのである。
そう、俺はこの王都ではしがないDランク冒険者として登録しているが、それよりも前に隣のターコイズ王国で「グレイ」の名で冒険者登録を済ませていた。手っ取り早く金が欲しかったから、速攻で金になりそうな魔獣を狩りに行って買取に出したら、なぜかその日のうちにSランクに昇格になっていた。
なんか面倒臭そうなので断ろうと思ったのだが、逆に冒険者ギルドの三つの支部で暴れたことを不問にするとかなんとかで押し付けられた。
その後、俺がSランクにふさわしいかどうか確かめる、とかで何人も挑んできたっけ?
確かめるっていうから、ちゃんと相手をしないといけないのかと律儀にすべての相手を半殺しにしたら、勝手に喧嘩を売りに来ている奴ばかりだったらしく、少し自重するようギルドマスターに怒られたっけ。
でもちゃんと正式に三人の人間が俺の実力を試すとか言って、王都中央の冒険者ギルド本部から送られてきたな。
一応三人とも半殺しで済ませた。なにせ「頼むから殺すなよ?殺すと面倒なことになるから、絶対に命だけは取るなよ?」とギルドマスターが念入りに忠告してきたからな。
思わず「「押すなよ、押すなよ」と言って押す奴ですか?」って聞いたら、ガチキレ気味に「んなわけあるかッッッ!!」って再び怒られたっけ。
ついつい口元が緩んでしまうが、俺のスローライフを守るためには表立って散財して贅沢するわけにもいかない。今日は長屋に帰ったら『グレイ』としてのSランクプレートに隠微記載のある、ギルド預金残高の項目を見てニヤニヤしながら安い酒を飲もう。
そう思いながら王城を目指す。
(こういう浮ついた時は自分の人生を振り返りながらのんびり出社するに限るな!)
王城勤めだから出社と言うよりは出城?かもしれないが。
俺は異世界転生することになった自分の人生を思い出す。
俺の名は小林孝政。
日本に住む、どこにでもいる一般人だった。
四十五歳になった時、自分が何者でもないことに気づいた。
多くの事を成しえた偉人達。一代で世界企業をぶっ立てた人物もいれば、多くの有名企業の社長を渡り歩く経営立て直しの請負人みたいな人物。テレビの向こうで、どこか別の世界の出来事のように感じていた。そんな偉人達でなくとも、例えば出世競争に勝ち抜いた同僚達。給料を貯めていい車を買って自慢していた友人。嫁さんを貰って子供が生まれていた友人。
見返したとき、自分には何もなかった。何も残っていなかった。
その日、一人で会社から帰った俺は六畳一間のボロアパートの部屋で絶望した。
今から考えれば、決して俺に何もなかったわけではない・・・と思う。生きることはそれだけで大変な事なのだとこの異世界に来て強く思うようになった。
俺は生きている!それだけで胸を張ってもいいのだ。
たとえ、いい暮らしが出来なくても、奥さんや彼女が出来なくても、出世できなくても、給料が上がらなくても、俺に何もないなんて絶望する事は無い。生きている、それだけで奇跡的なことなんだ。今ならわかる気がする。
だが、俺は当時、絶望した時どうしたか覚えがない。
気づけば、俺は真っ白な空間でとても美しい女性の前にいた。
「貴方はそれほどまでに何かを成しえたかったのですか? 自分に何もないと思い込んで絶望の淵で自らの鼓動を止めてしまうほどに・・・」
とても悲しそうな表情でその美しい女性が俺に問いかけた。
俺はどうやら絶望の淵でショック死でもしてしまったのだろうか。あまりにも残念な最後だな。幸いなのは俺自身が天涯孤独で迷惑をかける両親や兄弟姉妹がいなかったことだろうな。
「もし・・・貴方に世界を変えられるほど大きな力があれば・・・世界最強の力があれば・・・貴方は何を成しえたいのですか?」
少しだけ微笑みながら俺を見つめる美人。
「貴方は英雄になりたいですか? それとも自らの魔導を追求する大賢者? それとも邪悪な存在を亡ぼす聖なる使い?」
真剣な表情になり美人は俺をまっすぐ見つめた。
しばらくして俺は答えた。
「俺は・・・何者にもなりたくない。何事もなしたくない」
「えっ・・・!?」
美人が驚いた表情で俺を見る。
「俺は前世?で絶望して死んでしまったようだが・・・、今から考えればそれは本当に悪い人生だったのかとも思う」
「・・・?」
美人が首を傾げるので説明を続ける。
「別に何かを成しえなければいけないわけじゃない。誰しも人生が平穏であればいいと思う事だって悪いわけじゃないはずだ。ならば、俺は最強の力を貰ったら、いろんな争いごとやもめごとを避けて、自分が生きていくだけの生活ができるように、田舎やどこかの町でのんびりスローライフを満喫する!英雄などこっちから願い下げだ!」
俺の絶叫を聞いた美人が笑い出す。
「あっははははっ!あれほど思い詰めて命を失ったのに、最強の力を得たらスローライフって・・・あっはははは!」
お腹を抱えて美人が爆笑している姿は中々にシュールだな。
「は~~~、笑った笑った。貴方に最強の力を与えたら、その反動で転生した世界で滅茶苦茶するんじゃないかと思って心配したんだけど・・・」
涙を指で拭きながら美人が復活する。
「その感じなら大丈夫そうね。ならこれから異世界へ転生させてあげるから、十分にスローライフを満喫してちょうだい」
美人は嬉しそうに説明した。
「・・・もしかして、女神様か何か?」
「いや、今までどう思ってたんですか?何かも何も女神ですけど?」
「なんとなく残念な感じの美人だなーと」
「では異世界転生は無かったことに」
「待って待って待って」
そう言って俺は女神さまの足に縋りつく。
「この女神アシュロハスターを残念なだと・・・不敬にもほどがありますよ?」
「阿修羅バスター?」
「この話は無かったことに」
「待って待って待って」
そう言って俺は再び女神さまの足に縋りつく。
その後女神アシュロハスターにめっちゃご機嫌を取って所謂チートなるスキルの選択と譲渡を徹底的に話し合ったのである。
「・・・はーはーっ、ようやく決まりましたね!」
「うむ!完璧だ!やはり君は最高の女神だ!アーシュ!」
「やだ、最高だなんて・・・当然のことよ」
そう言いながらも頬を赤らめるアーシュ。
長い間の話し合いで、すっかり女神アシュロハスターの名前もアーシュ呼びが定着した。
「それにしても、能力決めるのに3か月もかけるって初めてだわ」
「そんなに経ってた!」
死んでるせいか、お腹も空かないし、眠くもならなかったからな。
「悪いなアーシュ。忙しい立場だろうに」
「んーん、気にしないで。貴方を導くのが私の今の仕事なのだから」
そう言って輝くような笑みを俺に向けてくれる。
・・・いい女だ。転生した先でアーシュほどの美人に出会うことが出来るのだろうか・・・?
無理な気がしてきたな。
「さあ、最後の項目。貴方の『名前』よ」
「名前か・・・」
名前はどんなのにしようか? やっぱかっこいい名前がいいよな。
そんなことを考えていると、
「貴方の名は『サーレン・マグデリア』。女神アシュロハスターの名においてその名に祝福を与える」
そういうとアーシュの手のひらが光り出し、俺の全身を包むように輝きだす。
しばらくして光が収まった。
「おめでとう、貴方はこれからサーレンよ」
そう言って正面から俺をハグしてくれるアーシュ。
「嬉しいよ。アーシュからの祝福、最高に幸せだよ」
見ればアーシュは泣いていた。なぜか俺も自然と涙があふれだす。
「さよなら、サーレン。いい“人生”を」
涙を流しながら俺を見つめるアーシュの両手が光に包まれ、輝きだし光があふれだす。
「ああ。アーシュ・・・またな」
光に包まれながら俺は涙を拭いて精一杯の笑顔を作り、手を振った。
そして俺の意識は光の中に飲まれていった・・・。
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