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第36話 何事も経験は大事


「それでは各々買い物に行ってもらおうか」


サーレンはユーリ達3人にお使いを頼んだ。


「一緒に行ってはダメなんですか?」


「そうだね、今回は3人とも別々に言ってもらおうか」


にっこりと笑うサーレンに何か意図があるのだろうとユーリはそれ以上問うことはしなかった。


「買い物なんて面倒ね~」

「そう、買い物なんて楽しそうだよ?」


ヤリスとヨナはそれぞれ別の反応をする。


「このお金でこの先自分が食べる食料3日分と火おこしできる道具、小物が入れられるバッグを買って来るといい」


そう言ってサーレンは3人に銀貨5枚をそれぞれ渡した。


「何買って来てもかまわないが、自分が食べたり使う物だから、自分で責任とるようにね」


「はい!」


サーレンの説明に元気よく返事をしたのはユーリだけだった。

ヤリスとヨナはすでに銀貨を握りしめてギルドを出て行こうとしていた。


「あ・・・しょうがないなぁ」


ぼやくようにユーリが頭をかくと、「行ってきます!」と元気よくサーレンに挨拶して2人に続いて冒険者ギルドを出て行った。


「・・・さてさて、どうなりますやら・・・、ま、ロクな事にはならんだろうけどねぇ」


サーレンはユーリと同じように頭をボリボリとかくと、ギルドに併設された酒場のテーブルに座り、エールを注文するのだった。






「うーん、どんな保存食がイイのかなぁ・・・? 3日分・・・」


露店を覗きながら、ユーリが独り言を呟くと、店の親父が顔を上げた。


「なんだボウズ。旅の食料か?」


「ええ、3日分お師匠様に買ってくるようにって・・・」


「そうかい、お使いかい。ヘタなモンつかまされてヘタこいちまうと、お師匠様にどやしつけられるぜ?」


「ええ!? ヘタなモン・・・ってなんですか?」


びっくりした顔で問いかけるユーリに溜息を吐く店の親父。


「おいおい・・・お前さん底抜けのお人よしかよ。あくどい店の親父なんぞに騙されると、ロクな食料買えないぜ? それどころか、カビたパンや傷んだ干し肉とかを売りつけられちまうよ」


「そ、そんなこともあるんですね・・・」


「そうさ、ちゃんとパンや干し肉は包みを開かせてもらって中を確認してから買うもんだぜ? 触らせない店で買うなんて論外だね。騙してますって言ってるようなもんさ」


「はあ~~~、そうなんですね。勉強になります」


「食料3日分か。お師匠さんとやらと2人分か?」


「いえ、自分で食べるだけの分を買って来いって・・・」


「ははあ、そりゃお師匠さんとやらのお前さんへの課題ってやつだな」


「課題・・・ですか?」


店主が指を立てて説明するが、ユーリは首を傾げる。


「そう、お前さんは世間知らずのようだからな。きっと話を聞かずに適当に買って失敗するだろうと思っているのさ。そして、失敗した買い物の内容からお前さんの対応を見て、説教しようと待ち構えてるだろうぜ?」


「そ、そんな・・・」


急にショボくれてしまったユーリを見て店主が笑う。


「だがお前さんは運がいい。この露店の中でも正直者で通ってる俺の店の前でぶつぶつ呟いたんだからな」


「運がいい・・・ですか?」


「そうさ。俺様がお前さんの3日分の食料を見繕ってやろう。予算はどのくらいなんだ?」


「ええと・・・銀貨5枚何ですが、火おこしの道具や荷物を入れるバッグも買わないといけなくて・・・」


自信なさそうなユーリの表情を見て店主はこの少年が言うお師匠様がなんやかんや甘いと推測した。


「保存食3日分ってなぁ。まあピンキリだが、銀貨1枚もありゃ普通に買える。ちょっといいモン選んでも銀貨2枚でお釣りがくらぁ」


「そ、そうなんですか?」


「ああ、それに火おこしの道具も普通のモンなら銀貨1枚で買えるだろう。ちょっといいモンに手を出そうとすると、銀貨2~3枚はすぐいっちまうから、気を付けるこった」


「そんなに違うんですね!」


「まあ、銀貨3枚も出せば、確かに火がつきやすい道具になるが、その分お師匠様の課題からすると食料を切り詰める必要が出ちまうし、何より一番金をかけた方がいいのは、袋さ」


「えっ・・・? 袋ですか?」


ユーリは店主の言葉に首を傾げる。


「なんで袋が大事なんだろう?って顔してるな」


「・・・はい」


ニヤリと笑いながら指を突きつけられたユーリは苦笑しながら肯定する。


「袋ってなぁ、お前さんが買ったものを全て入れて持っていく物だろう?」


「はい」


「お前さんは冒険者なんだろ?」


「はい」


「つまり、荷物を持ったまんま魔物や盗賊と戦ったり、天気の悪い日も歩き続けたり、野宿したりするわけだ」


「・・・ああ!」


ユーリがポンッと手を打った。


「わかったようだな」


「はいっ! しっかりとちゃんと丈夫な袋を選ばないといけないんですね!」


「その通りさ。振り回して簡単に破れたり、雨風に晒されてすぐ傷んだりする袋なんざ使い物にならないだろ?」


「全く持ってその通りですね!」


ユーリはテンション高く店主の話に頷いた。


「こいつは3日分の保存食だ。少し質のいいパンと干し肉、チーズもつけてある。通常なら銀貨2枚はするところだが、お前さんはちゃんと俺の話を聞いたからな・・・銀貨1枚と銅貨5枚に負けてやる」


「あ、ありがとうございます!」


「この露店エリアの向こうにドビーの雑貨屋って看板出してる店がある。そこで露天商のバダックって店主に銀貨1枚の火おこし道具と銀貨3枚の肩掛けカバンを合わせて銀貨3枚と銅貨5枚に負けてもらえって言われて来たって言え」


「・・・いいんですか?」


「いいさ。優秀な冒険者になってまたたくさん買い物に来てくれよ」


「ありがとうおじさん!」


手を振って走って行くユーリを見ながら露店の店主はつぶやいた。


「俺もおじさんって言われる年になっちまったか・・・」


だが、誰がどう見ても店主は年のいったおじさんだった。






ドビーの雑貨屋で露店の店主のアドバイス通り火おこし道具と肩掛けカバンを手に入れたユーリは冒険者ギルドへの帰り道、露店で店主と何かを言い合っているサーレンを見つけた。


「だから、いい加減にしてくれよ魔術師さんよぉ! そんなに肉を持ってかれちまったらコッチは商売あがったりだぜ!」


「いえいえ、そんなことはないでしょう? そこの塊肉とコッチの肉と、そこの干し肉で合わせて銀貨1枚と銅貨5枚ってところでしょう?」


「バカ言うなよ!? 銀貨4枚はいるっての!!」


「そりゃ少し取りすぎでは? じゃあこっちの塊肉でガマンしますよ」


「ガマンって何だよ!? それだってそれだけで銀貨3枚だって―の!!」


「いやいや、今は北の街道が盛況で物の流通は滞りなく、しかも費用も安くなってるじゃありませんか。銀貨2枚ってトコでは?」


「・・・まいったよ、魔術師のセンセにゃかなわねーなぁ。いいよ、それで」


「どうもどうも」


銀貨を2枚渡すニコニコ顔のサーレンを苦虫でも噛み潰したかのような顔の店主がしぶしぶ金を受け取って大きな塊肉を包んでいく。


「わあ、サーレン師匠すごいですね! 銀貨2枚でそんな大きな肉が買えたんですか?」


「やあユーリ君。それは違いますよ?」


「違うんですか?」


「ええ、あの塊肉だけではなく、この小さいほうの肉と、そこの干し肉も合わせて銀貨2枚にしてもらいましたから」


「ええっ!?」


「おいっ!? あんまり大きな声で話すなよっ! オレの店が潰れちまうだろうがっ!!」


鬼の形相をした店主が大きな塊肉と小ぶりな肉、そして干し肉をそれぞれ包んだ包みをサーレンの目の前に突き出した。


「どうもどうも」


「けっ! 魔術師のセンセはもう二度とお断りだぜっ!」


「まあまあ、珍しい魔物の肉が手に入ったらコチラにも卸しに来ますよ」


「期待しねぇで待ってるよ」


シッシと手を振り、店主は背を向けた。


サーレンは背負っていた古ぼけた大きめのリュックに買った肉を詰めて背負いなおす。


「・・・サーレンさん。そんな袋をお持ちでしたか?」


「いや、君たちをギルドで見送ってから、エールを1杯引っ掛けた後、君たちと同じ条件で買い物をしに来たんだよ」


「・・・じゃあ、その古そうですが、かなりしっかりしたリュックも、どこかの露店で購入されたのですか?」


サーレンが背負っている古ぼけたリュックを指さしてユーリは問いかけた。


「ええ、そうですよ銅貨2枚でしたね」


「安っ! そんなに安いんですか?」


よく見れば、かなりしっかりとしたリュックではあるが、古ぼけている上に穴が開いている部分もあった。


「これは、まあ何というか中古品なんだよ」


「中古品?」


「そう、まあ例えばダンジョンで亡くなった冒険者の剣や道具類、衣服やかばんなどをポーターが拾い集めてきて、古道具屋で売ってるんだよ」


「・・・えーと、お亡くなりになったどなたかの持ち物・・・ですか?」


「まあ、そうだね。古くても修理すれば使えますからねぇ。こうして修理用に他のバッグも合わせて銅貨2枚にしてもらったけどね」


「・・・値切りの達人なんですね、師匠は」


「値切るのも大事だけど、よい品物を見つけるのも大事だよ」


「はいっ!」


師弟は仲良く並んで冒険者ギルドに帰るのだった。


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