第4話 色町での評価
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「やめてください! 放して!」
色街の最奥を目指す俺の前方から女性の悲痛な叫び声が聞こえる。
また厄介ごとのようだ。
普段の俺ならば当然の如くその場の空気になるところだが、ここ色街ではそういうわけにはいかないことが多い。各店の嬢たちにモテるためには、ある程度男気も必要なのだ・・・何せ先立つものが乏しいからな。
ちなみに、それぞれの店に所属する嬢たちをナンパしたりするのはマナー違反だ。そしてさらに力づくでなどと乱暴狼藉を働こうものならば、その店の用心棒や雇われの警備員が制圧にかかることが多い。安心して嬢が働けないと店の信用にかかわるからだ。
だが、逆に言えば自分の店の嬢でなければ助けない店も多いという事だ。その力が店の力と言ってもいいのだから、むやみに力の行使をするのはリスクが伴う。まして自分の店の嬢でなければ助ける義理もない。
だから、質の悪いチンピラは店に所属する前の、働き口を探しにやってくる素人の女性を見極めて声を掛ける。さらに質の悪い輩になると、質の悪い店と結託して店に連れ込み、色街で決められた労働基準規約よりもずっと安い金額で働く違法契約を結ばせたりもする。
身売り、という言葉は嫌いだが、どうも助けを求めている少女は、自分を身売りに来て、お店に入る前のタイミングで捕まったようだった。
「放して! 放してください!」
「そう連れない態度をするなよなー。今から身売りするなら、その前に俺たちが礼儀とテクを教えてやるからよー」
「そーそー、いい思いさせてやるぜぇ?」
見れば男二人で一人の少女に言い寄っていた。筋肉隆々の大男が少女の右腕をつかんでいる。もう一人の小柄な男が囃し立てるように煽っていた。
周りの店の窓からは呼び込みのための嬢が睨んでいる。同じ女性同士なのだ、何とかしたいとは思っているようだが、直接出ていくわけにもいかない。店の番頭や呼び込み担当の男性になんとかならないか声を掛けている嬢もいるようだが、今すぐ動けないようだ。ならば仕方がない。
「ようおっさん達。その可憐な少女からそのキタねェ手を離しな!」
俺は朗々と声を張り上げ、右手の人差し指をビシッと突きつけた。
筋肉隆々の男と小柄な男が振り向き、こちらを見て一瞬ポカーンとする。
「ギャーッハッハッハ!!」
そして唐突に笑い出す。少女は俺を見たまま驚いていた。
「笑わせてくれるぜ! おっさんってお前の方がおっさんじゃねーか!」
「しかもうだつの上がらねーひ弱なおっさんがなんか言ってるぜ!」
だが、俺は馬鹿笑いしだした男達にビビることなく、右拳を左手で包み、バキボキと指を鳴らすと一歩踏み出す。
「今なら見逃してやる。その子を離してとっとと失せな!」
再びビシッを人差し指を突きつける。
「野郎!ふざけやがって!」
「テメエ!死ぬ覚悟は出来てんだろうな!」
男達がいきり立ってこちらに向かい直る。
こういう単純な輩は煽ってやればすぐに目的をこちらに切り替えてくれる。ちらりと目をやれば手を離された少女が棒立ちになっている。
賢くここで自分から男達と距離を取ってくればいいのだが、震えて動けないようだ。
だが、この色街ではこう言った騒ぎもある程度は日常茶飯事。近くの店の番頭さんがすっと少女の後ろに来たかと思うと、少女の手を引いて男達から離れていく。
「サーちゃん!そんなヤツらたたんじゃえ!」
「その二人に勝ったらご褒美で今日はタダで相手してあげるよー!」
「ヒューヒュー!」
周りの店の窓から嬢たちが囃し立てる。
なんと勝ったらタダか。実に魅力的ではある。勝つことが出来れば、の話ではあるが。
「ふざけやがって!死ね!」
筋肉隆々の大男が大ぶりのパンチを繰り出す。
俺はそれをじっくりと見て、
「ぶげらぱっ!」
もろに右ストレートを左頬で受けてぶっ飛ぶ。
もんどりうって通りに大の字で横たわる俺。
「あ~、やっぱ今日もサーちゃんはサーちゃんだったよ~」
「一応毎回期待はしてみるんだけどね~」
周りの店の窓から顔を出している嬢たちからは乾いた笑いや溜息が漏れる。
颯爽とかっこよく少女を救うべく現れた俺はあっさりと伸されるという結果になった。
「テメー、雑魚がかっこつけやがって!」
「おかげで女が逃げちまったぜ!」
まあ、逃がすための時間稼ぎが目的だから問題ないんだが。ヤベ、こいつら腹いせに俺に追撃を加えるつもりか。
寝転がる俺にストンピングするかの如く蹴りの嵐を放つ男達。
真上から踏まれると地面に接した体では圧力が逃がせないのでダメージ軽減できない。
そのため、ゴロゴロと転がって蹴りの勢いを逃がす。
・・・まあ、周りから見れば蹴られて無様に逃げ回っているように見えるだろう。
「コラ――――ッ!貴様らなにをやっとるか!」
ピィ――――!! と笛を吹きながらこの色街の治安維持を担当する警備士がやってくる。
どうやら俺が煽り始めた時にどこかの店の番頭さんが呼びに行ってくれた警備士が到着したようだ。
「チッ!覚えてやがれ!」
捨て台詞を吐いて男達が走って逃げる。
そこでようやく俺は立ち上がって服についた泥やほこりを払う・・・のだが、あまりきれいにはならんな。服には蹴られたときの足跡がいくつもくっきりと残っているし。
「よう、ダンナ。今日も大活躍だったな」
そう言って俺に水が入ったコップを差し出してくれたのは中堅どころの御店「竜宮亭」の親父さんだった。
「助けてくれた子はウチの店に働きに来る予定の子だったんだよ。本当に助かったよ」
「そうか、娘さんにケガが無くて何よりだ」
貰った水を一息で飲むと俺はコップを親父さんに返した。
「それにしても、お前さんそれほど弱いのによくもまああんな連中に啖呵が切れるもんだね?」
「まあ俺一人ならとてもじゃないが無理だけど、この色街はみんなで助け合って生きている街だからね。きっと時間を稼げば何とかなるって思っているよ。それにこれから頑張って働くお嬢さんに何かしようなんて、俺たち色街通いの男達からすれば絶対に許せることじゃないからな」
ボコられて絶妙に鼻血を出しながらもかっこいいことを言う俺。
カッコつけてるわけじゃないが、思っていることは本心だ。
まあ鼻血はサービスだけどな。だいたい鼻血が出る程度でパンチを受けておくとやられた感が強まってグッドだ。
「おや、またトラブルに首を突っ込んだのかい?」
「好きで突っ込んでるわけじゃないんだけどね・・・」
「好きで突っ込んだんだろう? 所属前の嬢を助けるために」
俺のボヤキににやりと笑ってオババがツッコむ。
情報速すぎないか? ボコられた後そのままここに来たんだぞ。
ここは色街の最奥。この街で最も格式高い店『水晶の薔薇亭』である。
そこのオーナーで番頭も務めているのがこのオババだ。
・・・名前は知らんな。二十年以上も前から顔見知りだが、ずっとオババだったしな。
「おいおい、この格式高い『水晶の薔薇亭』にそんなみずぼらしい客が来ることがあるのかい?」
見れば入口横の待合場に身なりの整った金髪ロングのいけ好かない男が座っていた。
見るからにどっかの貴族のバカ息子だな。
「君みたいな貧乏人は色街入口の激安店がお似合いだよ。君みたいなのがいるだけで貧乏くさい。さあ出てった出てった」
そう言うとシッシと俺を追い払うように手を振る。
事実だが、お前がこの店の経営者じゃないだろうに。
「フフフ、お前なんかと違って、この俺はそのうちこの店のナンバーワン嬢であるカトリーヌ嬢にお相手してもらうのが夢なんだよ! 一度に三百万リーンはなかなか出せないが、いつかきっと!」
俺への呼称を君からお前に変えて急に立ち上がって拳を振り上げる男。
「カトリーヌ嬢が三百万リーンって・・・またお値段上がってんじゃない・・・」
俺の呟きにオババがクックと笑う。
「しょうがないさね。貴族のお偉いさんどもが我を我をと予約を取りに来とる。それでも半年以上予約が埋まっているよ」
は~~~、すごいねカトリーヌ嬢の人気は。
まあ、初めてこの店に連れてきた時から人気が出るとは思っていたが。
「あら~~~、サーさん来てくれたのぉ」
階段をパタパタという足音を響かせ降りてきたのは、今話題に上がっていたこの店ナンバーワンのカトリーヌ嬢その人だった。
このお店で十七のころから働き今年で十二年。確か二十九歳になったんだったかな。
ブラウンがかった黒に近いストレートの美しい髪。大きな目は吸い込まれそうなほどきれいな濃い藍色を湛え、その顔立ちは非常に美しい。その上華奢な体に出るとこはバッチリ出たプロポーションと全身非の打ち所がない。
さらにカトリーヌ嬢は接客でも非常に評判が高く、圧倒的な顧客満足度が高いとリピーターが続出する名実ともに色街の人気ナンバーワン嬢なのである。
その美しさは年々と磨きがかかり、一部では『色街の聖女』などとも呼ばれる超美人嬢であった。
「おおっ!カトリーヌ嬢これはお美しい!私めはナロク男爵家長子ドーデモ・フォン・ナロクと申します!いつかきっと貴女様を身請けして・・・」
先ほどの貴族らしき男が名乗りを上げるのを完全スルーして俺に抱き着いてくるカトリーヌ嬢。
「もー、こんなに早く来てくれてうれしー!」
ガッチリ抱きつかれた後、少し体を離して俺をじろじろと見る。
「なーに? こんなに汚しちゃって」
そう言って俺の着ている服をパンパンと叩いてくれるカトリーヌ嬢。
「また、女の子を助けてきたの? 私の時みたいに」
そっと両手を俺の肩に置き、その唇を耳元に近づけて囁くように問いかける。
俺は年甲斐もなく思わずドキリとしてしまい、顔が赤くなる。
「うふふっ!サーさんカワイイ!」
そう言って抱き着いたままほっぺにキスをしてくれるカトリーヌ嬢。
「さ、行きましょ!」
そう言って俺の手を引っ張るカトリーヌ嬢の横にすっとオババがやってくる。
「遊戯料」
そう言って手を出すオババに俺はなけなしの十五万リーンが入った子袋を渡す。
「毎度」
「というか・・・俺だけカトリーヌ嬢が新人見習いだった初料金のままでいいのかね・・・?」
「いいんじゃないかい? 他ならぬカトリーヌ本人がいいって言っているんだからね」
ぼそりと呟くように言えば、オババも呟くように返してくれる。
ま、三百万と言われちゃ、カトリーヌ嬢に会いに来ることもままならないしな。ここはありがたく恩恵を拝受することにしよう。
「早く早く!」
急かすように俺の手を引っ張るカトリーヌ嬢。一緒に階段を上がりながら後ろで、
「バ、バカな・・・あの貧乏人が三百万のカトリーヌ嬢と・・・!?」
などと信じられんという声が聞こえてきたが、まあ俺には関係ないな。
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