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第34話 教育とテンプレ


サーレン一行は野営の訓練を兼ねて森の中を数日かけて王都の隣の領地まで旅をしていた。

その間に3頭の森の狼(フォレストウルフ)を狩ることに成功していた。


「ふう、これで1人1頭・・・冒険者登録はなんとかEランクスタートでいけますねぇ」


御者台に座りながらのんびりと馬車を進めるサーレン。

森の中とはいえ、ある程度道があるところを選んでサーレンは進んでいた。

馬車が通れなくなるほどの獣道だと困るのはもちろんの事、野営になれていない3人の負担を考えての事である。


「あら、私たちがEランクからのスタートなんて、当然の事じゃない!」


なぜか賢者ヤリスがドヤ顔で話しかけてくる。

確か今時間は勇者ユーリが休憩、聖女ヨナが待機、ヤリスが馬車の後方で索敵を担当しているはずだったが。


「ヤリス、馬車の後方の監視は大丈夫なのか?」


「私には<索敵(サーチ)>の魔法があるのよ? 見ていなくったって異変があればすぐわかるわ」


さらにドヤ顔を向けて来るヤリス。<索敵(サーチ)>の魔法が使えること自体は大したものなのだが、明らかにヤリスは油断している。自分自身で<索敵(サーチ)>の魔法の範囲を正確につかめているとは思えないし、<索敵(サーチ)>の魔法に反応があった時にどうすべきかを考えて、そのための準備をしているとも思えない。


サーレンは3人の中でも特に考え方が甘い賢者ヤリスの教育をどうすべきか頭を悩ませていた。


「・・・はあ、こんなことなら、さっさと自分で魔王を倒して田舎に引きこもった方がよかったかねぇ」


「え? なんか言った?」


「いいや、なにも」


ヤリスの問いにサーレンは顔を向けることもなく投げやりに回答した。






「さて、やっと着いたな。ここが王都の隣にあるフツーノ伯爵が治める領地だ」


森から出て半日ほど。昼過ぎにフツーノ伯爵が治める町へとやってきた一行。


「この街で冒険者ギルドに登録してギルドカードを発行してもらう事にしようか」


「ボクたちも冒険者として働くんですね!」


勇者ユーリが嬉しそうにグーを握る。彼は常に前向きでやる気に満ちている。

サーレンは少しほっこりとしながら笑みを浮かべて頷いた。


「君たちは魔王を討伐する前はもちろん、討伐後も人生は続いていくんだ。国に雇われるならともかく、旅を続けるなら冒険者ギルドに登録してギルドカードを作っておく方がいい」


「なぜでしょうか・・・?」


聖女ヨナが小首を傾げる。

教会で育ったヨナにはあまりピンとこない話だったようだ。


「旅先で魔物を狩った場合、ギルドメンバーなら冒険者ギルドでその素材を換金したり、討伐部位の提出で報奨金がもらえたりするからね。つまりはお金になるってことさ」


「世知辛いわねぇ。私たちは魔王を討伐に行くのよ? 必要なお金は全て王国が払ってくれればいいのに」


賢者ヤリスがぼやく。


「そりゃ、それだけ支援してくれるならありがたいがね。実際、君たちはまだまだ実力も遠く魔王には及ばないわけでだしね。そんな連中に国費を最初から大量に投入するなんてなかなか難しいさ」


「ブ~~~」


「ヤリスちゃん仕方ないよ・・・」


ブーたれるヤリスをヨナが慰めた。


「その代わり、魔王を打倒したとすれば褒章は思いのままなんじゃないかな?」


「やっぱりそうよね! そう思うよね!」


急に前のめりになるヤリス。


「まあ、ギルドカードはあるに越したことはないよ。なぜなら・・・」


「身分証を出してくれ」


いつのまにか順番がサーレンたちになっていたらしい。

町に入る列に並んでいたサーレンたちに町の衛兵が声をかけて来た。


「これが私のギルドカードです。この子たちの登録は街に入ってからとなります」


サーレンのよどみない説明に衛兵が頷く。


「それじゃ子供3人だが、一応規定何でな。銀貨3枚を頼む」


「高っ! たかが町に入るのに1人銀貨1枚も取られるの!? 王都に来るまでにそんなの一度も払ってないわよ!?」


サーレンと衛兵のやり取りにヤリスが驚きの声を上げる。


「たかが・・・?」


ヤリスの物言いに衛兵が剣呑な視線を向ける。


「すみませんねぇ、物知らぬ子供の戯言ですよ」


「ちょっと! 誰が物知らぬ子供よ!」


「よせよ、ヤリス」


激昂するヤリスをユーリが窘めた。

ヤリスには理解することができないのだろう。

町が身分の怪しいものを入れることにどれほどリスクがあるのかを。

時に難民が、身分証を取れない盗賊が、あるいは姿を変えた魔物が、あらゆる災厄が街に入り込むかもしれない、その危険を排除するために町の衛兵がその門に立つのだ。

仮の身分証を返せは費用の半分は帰って来る。基本的にはどこも似たような対応のはずだが、王宮騎士団と一緒に王都まで来たヤリス達には費用の請求などなかったのだろう。

あっても支払えないだろうが。


「この子たちは田舎町から王都まで王国の騎士団に連れられてきたようですのでね。軍と一緒だったので一般常識を知らないんですよ」


「ああ・・・そうなのか。引率のアンタも大変だな」


「恐縮です」


不満タラタラのヤリスをユーリが抑えている間にサーレンは銀貨3枚を衛兵に渡す。


「確かに。コイツが仮身分証だ。今日の日付が刻印してあるからな。2週間以内に身分証を作って詰め所に持って来てくれ。銅貨5枚を返すから」


「了解です。ご丁寧にどうも」


手を振る衛兵に挨拶を返すと、サーレンは街中に馬車を進めた。






「ほう・・・ここがフツーノ伯爵領最大の町である、タダーノ町ねぇ」


サーレンは大通りをゆっくりと馬車を進めながらきょろきょろと周りに視線を動かす。


(S級冒険者である灰色の魔術師(グレーウィザード)の姿で働くときは高速飛翔呪文でぶっ飛んでいくから、こんな王都に近い街には来たことないんだよなぁ)


「思った以上に普通の町だな・・・」


何の特徴もない、いたって普通の街並みにサーレンはヒヨコに調べさせておいた事前情報とのすり合わせを脳内で始めた。


「まず、どこに行かれるのですか?」


「いい質問だね、ユーリ。どこだと思う?」


「そうですね・・・先ほどの話から身分証の作成が必須の様ですから、やはり冒険者ギルドでしょうか・・・」


「そうですね」

「当たり前でしょ」


ユーリの回答にヨナとヤリスが同調する。ヤリスはちゃんと考えていたか怪しいものではあるが。


「そうだね、それで基本的には正解だが、宿の確保を一番にしないといけない時もあるから、状況に応じで判断すること」


「宿・・・ですか?」


「そう、宿。だって。宿を確保しないと街中で野宿なんて羽目になったり、バカ高い値段の宿しか空いていない、なんてことにもなりかねないよ?」


「あっ、そうですね!」


ユーリが右拳で左手のひらをポンッと打つと納得したかのように大きく頷いた。


「今回は身分証の剣があること、ギルドに提出する魔物の素材を血抜きしただけで解体せずにそのまま持ち込んでいること、時間が昼過ぎで宿が込み合う夕方までにまだ時間があることなど、いくつかの条件が宿の確保よりギルドを先にすべきと示している」


「なるほど! 狩った狼も早く引き渡さなきゃいけないですしね!」

「確かに、まだお昼過ぎですし、夕方までに時間があります・・・」


ユーリとヨナは納得したようだった。

ヤリスはそっぽを向いたままだったが。






冒険者ギルドに到着したサーレン一行。

サーレンは冒険者ギルドの入り口前にいた小間使いの少年に銅貨を渡すと馬車の移動の指示をして何やら札のような物を受け取った。

少年は嬉しそうに御者台に飛び乗ると、ギルドの建屋の裏側へと馬車を回した。


「さて、行きましょうか」


「・・・馬車大丈夫なの?」


珍しく心配したような表情でヤリスが訪ねる。


「大丈夫ですよ。彼はこのギルドに雇われている従業員ですよ。腰のベルトにバッチがついていたでしょう?」


「・・・気づきませんでした」


ユーリがうなだれる。


「それなら、今度から注意して観察してみるといいですよ。ギルドの雇った従業員ならあくどい事はしません。ギルドのメンツにかかわりますからね」


「ふーん」


サーレンの説明に納得したのかヤリスが気のない返事をしながら頷く。



カランカラン。



冒険者ギルドの扉を押し開け、サーレンたちはギルド内へと入っていく。


「あそこが依頼を張り出す掲示板です。登録が終わったら見てみましょう」


サーレンが左手の壁を指さす。


そこには所狭しと依頼内容が書かれた張り紙があった。


「ふふん、私たちは魔王討伐が目的よ! チマチマと冒険者の依頼なんて受けているヒマはないわ!」


依頼書の張り紙位置を説明しただけなのに、ヤリスが余計な事を大声で口走る。


「はあっ!? おっさんとおこちゃま軍団が魔王を倒すってよ!」

「こりゃいいや! 魔王ってのはもしかしたらヒヨコこくれーのサイズのヤツか?」

「そりゃおこちゃまやおっさんたちにゃ丁度いいや!」


ギルドの右手側にある酒場のテーブルで昼間っから飲んだくれていたひげもじゃの大男3人組がはやし立てた。


「・・・テンプレなぞいらないと思っていたのですが、まさか自軍からテンプレを引き寄せるような発言が飛び出すとは・・・」


天を仰ぎながら大きくため息を吐くサーレン。

それでも自分が冒険者ギルドに登録に着た時よりはまだマシだと思いなおすように正面のカウンターに目を向けるのだった。


今後とも「おっさん魔術師」応援よろしくお願いします!


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